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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【後編】

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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【後編】

リアクション

 第1章 MK5対策室、という名のエリザベートとのお茶会のこと

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 イルミンスール魔法学校校長室では、「MK5対策室」と毛筆で書かれた紙が、入り口に貼られていた。
 「あれはなんなんですかぁ?」
 「今回は日本の伝統的なスタイルで行こうと思ってな」
 元刑事のレン・オズワルド(れん・おずわるど)が、エリザベートの問いに答える。
 レンは、集まった学生達を見渡し、注意喚起を行った。
 「いいかお前たち、鏖殺寺院の暗殺者集団『MK5(魔女を 殺す 五人衆)』の目的はアーデルハイトだけとは限らない。俺たち全員が狙われている可能性がある! これは定義付けの問題だが「魔女」とは必ずしも女性だけを指すとは限らない。魔法の使用を疑われた男性もまた『男性の魔女』として扱われていた。これは歴史的事実として中世末期に行われた魔女狩りの犠牲者の中に男性も含まれていたことから確認されている! 以上のことから、生物学上「男」で自分は狙われる心配はないと安心し切っていた男子生徒諸君!『祭り』の参加権が得られた以上、全力でMK5を迎え撃つが良い! 以上だ」
 レンは、こういった諸注意は無駄であるとは知りつつも、今回も異常なヤル気を見せている学生達が行くところまで行って、何かを学べればよいと考えていた。
 骨は拾ってやるつもりである。

 そんな中、エリザベートとそるじゃ子たちはコタツに入り、セバスチャンがお茶を入れていた。
 ロンドン出身のプライベート・ディテクティブ、シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)は、エリザベートに提案する。
 「エリザベート、アーデルハイト様を狙う刺客の襲来を学校のイベントとして通達を出しましょう。MK5対策室も設置されたことですし、一種の避難訓練と考えればいいんですよ。その方が生徒達も落ち着いて行動できるでしょう。この機会に、愉快犯や模倣犯も多数現れると思います。鬼ごっこの鬼は、本命の刺客だけでなくその者達も含めてしまいましょう」
 「鬼ごっこ、ですかぁ?」
 「そうです。全校放送で、刺客や愉快犯、模倣犯の捕獲を呼びかけて、捕まえたら校長室に連行するというのが勝利条件です。私のパートナーの六花に、鬼の動向を連絡してもらい、実況中継するのです」
 シャーロットのパートナーの機晶姫、霧雪 六花(きりゆき・りっか)が、20センチの身長を生かし、追跡するという作戦である。
 「シャル、ワタシはそのマヌケ5とやらを補足・追跡して状況を連絡すればいいのね」
 「マヌケ5じゃありませんよ。MK5です」
 「だからMANUKE5のANUとEがぬけているからMK5なのでしょう、違うのですか?」
 シャーロットの指摘に、六花はあくまで沈着冷静に答える。
 同じくシャーロットのパートナーの英霊呂布 奉先(りょふ・ほうせん)が、大量のロープを用意して不敵に笑う。
 その姿は、黒いスーツをラフに着こなす10代後半の女性であり、武勇を誇る武将の面影を感じさせる事はない。
 「捕獲した鬼は、俺が縛って校長室の窓から吊るす予定だ。それにしても、魔法学校というのは面白いな」
 「おまえら、のんきすぎるんじゃないのか? 相手は鏖殺寺院なんだぞ」
 「そう言いつつも、そるじゃ子もコタツ入ってるじゃないか」
 出雲 竜牙(いずも・りょうが)が陽気に言う。
 竜牙は、エリザベートの護衛を申し出て、豆炭コタツを用意していたのだ。
 「せっかくだから大勢入れるようにするのですぅ」
 と、エリザベートが魔法で巨大化させている。
 こうして、校長室に和やか空間が形成されていた。
 「なんかの間違いで校長が設定改変されたらイヤだからね。俺は今の校長が気に入ってんの」
 「竜牙、なかなかいいこと言うのですぅ」
 ふふんと胸を張るエリザベートに、竜牙が唐突に言う。
 「ところで、校長は、好きな人とか、いるんスか?」
 「恋バナですかぁ? みんなそういう話好きですよねぇ」
 「おお、スルーですか。じゃあ、ミカン剥いてあげるッスよ。……なーんちゃって、俺が食べちゃったりして」
 「ああっ、何するんですかぁ!」
 「忍法ミカン隠れの術ッス。ところで、校長、ウィニングみたいのが忍者だと思ってないですか? ああいうのは『NINJA』って言うんスよ。忍者とは似て非なるもんです。本物はスゴいんですよ? 寄生生物でバイオハザードに見舞われた都市『TOKYO』に単身乗り込んで、その元凶を仕留めた事だってあるんですから」
 竜牙のパートナーの白い毛玉のような姿のドラゴニュート出雲 たま(いずも・たま)は、「がんばって校長せんせを守るのです。だから、もふもふしてほしいのです」などと言って、エリザベートに甘えていたが、竜牙の言葉にこくこくうなずく。
 「あんな忍者ニセモノなのです。ご主人の方が、きっとずっと強いのです」
 「まあ全部ウソなんだけど」
 「……うにゅっ」
 エリザベートにもふもふされて、たまがかわいく鳴き声を上げる。
 とても平和な時間が流れていた。
 鈴原 沙希(すずはら・さき)も、エリザベートの護衛として、いっしょにたまをもふもふしつつ、お茶とお菓子をすすめていた。
 「前回はアーデルハイトさんに恨みをもった人が刺客でしたけれど、敵の名前はMK5、たしか魔法少女に心奪われた五人衆とかなんとか。エリザベートさんも危険かもしれないですね」
 沙希のパートナーの機晶姫トリア・アートルム(とりあ・あーとるむ)は、いろいろ間違えているパートナーにツッコミを入れる。
 「沙希様。『魔女を殺す五人衆』です。それに、エリザベート様は魔法少女ではありませんよ」
 「そうでしたっけ? エリザベートさんかわいいから、どっちでもいいです」
 「……私がきちんと護衛しなくては。私がおかしくなるのは構いませんが沙希様にもしもの事があってはいけません」
 浮世離れしている沙希の発言に、優しいお姉さん的存在であり、よくできたメイドさんのようなトリアは、こっそり決意するのだった。
 「たまさんもかわいいです」
 トリアの決意には気づかずに、沙希は、たまをもふもふする。
 平和な、平和な、時間が流れる。
 エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)は、エリザベートの護衛を建前に、一緒にコタツに入り、そるじゃ子に話しかける。
 「『MK5』とか言っていたが、1人は捕まり、1人はこっちに向かって来ている。……残り3人はどうしたのだろうか。今日中……このシナリオ中に来るような雰囲気ではなさそうだが」
 「さあ、あたいもウィニングにしか会ったことないし、残りがどんな奴らなのか知らないよ」
 そるじゃ子は、ハードボイルドに返答する。
 コタツに入ってくつろいでいる状況なのではあるが。
 エリオットのパートナーの剣の花嫁クローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)は、感じていた疑問を口にする。
 「そういえばエリザベートちゃんはアーデルハイトさんが死んでも全然動じなかったみたいだけど、もしかして彼女が復活してくるって知ってたのかしら?」
 「当然ですぅ。パートナーなんだから、超ババ様が不死身って知っていて当たり前ですぅ。……って、クローディア、何、またバズーカ用意してるんですかぁ!」
 「え? だって、エリザベートちゃんが狙われる可能性が低いとは言っても、万一のことがあるかもしれないでしょう? 光条兵器のバズーカはいつでも撃てるようにしておかなくちゃ」
 ほのぼのした口調で物騒なことをさらっと発言するクローディアに、エリザベートがツッコミを入れる。
 「また、校長室をぶっ飛ばす気ですかぁ! 前回はいろんなものが粉砕されちゃったんですよぉ!」
 「そうだったかしら?」
 きょとんとするクローディアに、エリオットはこめかみを押さえ、話題を変える。
 「それにしても鏖殺寺院も大変だな。あんな輩を暗殺者として雇っているとは。さすがにこればかりは同情したくなる」
 エリオットのパートナーのドン・キホーテの英霊アロンソ・キハーナ(あろんそ・きはーな)は、騎士らしく「エリザベート姫」の護衛をしていたが、エリザベートが不安にならないようにと、雑談に加わる。
 「このイルミンスール、鏖殺寺院などの不逞な輩が狙ってきてはいるが、これだけの戦力があれば彼奴らなどひとたまりもなかろう。まあ我輩は『魔法使い』というのは実はあまり好かんのだが……それにしても、あれが『暗殺者』なのか? あれでは単なる道化としか思えんが……」
 しかし、生真面目な性格が災いして、場を和ますような発言をすることは難しい。
 「まあ、鏖殺寺院の内情はよくわからないけど、見た目はイッてるが、ウィニングがあたいよりずっと強くて、しかも、容赦がない奴であることは確かだよ」
 そるじゃ子が、ミカンを食べながら、ハードボイルドに言う。
 トリアがお茶を入れなおし、沙希は、たまをもふもふする。
 とても、とても、平和な時間が、校長室を支配する。
 (まるで、嵐の前の静けさだな)
 エリオットは、そんなことを思っていた。

 そんなほのぼの時空の隣で、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は、周囲にはっきり聞こえる大きな声で、嘆いて見せていた。
 「設定崩壊ビーム。なんと恐ろしい……このままでは幼女の校長が『御神楽 環菜(みかぐら・かんな)校長などお呼びもつかない様な』オトナのキャリアウーマンに! 火術使いとしてリンネ君とキャラが被り気味で影の薄くてモテないジャック君が、BUとボイス付でNPC登録されたモテモテクールな氷術使いになってしまう! ざんすかが、庇護欲を掻き立て男を惑わせるセクシーで儚げな大人の妖女に! 朝飯ちりめんじゃ子が、眉が太くて「俺の背後に立つな……」とか言いそうな年齢不詳の中年男性になってしまう! 恐ろしい、なんと恐ろしい……。皆、決してビームに当たらないようにしないといかんぞ、いやホントに」
 コタツに入ってるエリザベート達をチラチラ見つつ、煽るアルツールに、場が騒然となる。
 「環菜よりオトナなキャリアウーマンですぅ……!!」
 「俺が、BUとボイス付でNPC登録!? キャラクエで女の子と絆値ガンガン上がっちゃったりするのか!?」
 「周りの奴に言うこと聞かせやすくなったら便利ざんす!」
 「誰が朝飯ちりめんじゃ子だ! このトンデモドイツ人!!」
 「失敬だぞ、朝飯ちりめんじゃ子。エリオット君はトンデモドイツ人ではないぞ」
 「いや、明らかに卿(けい)のことだろう!?」
 いきなり巻き込まれて、エリオットがアルツールに反射的に突っ込む。

 一方、アルツールのパートナーの魔女エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)は、部屋の隅で「早く来ないかのう……」とずっとそわそわしていたアーデルハイトに、深刻そうな顔で話しかける。
 「アーデルハイト先輩……私、先輩がそんなに悩んでいたなんて知らなかった。5000年ぶりに会ったザナドゥの使者から「『相変わらず』プッ、麗しいププッ、プスー」とか言われてた時も、平気な顔をしていたって聞いてたから……。5000年間、ずっと辛い思いをしてきたのね。大丈夫、廃人になってもわざと死ねば、元の体型に戻る代りに普通に復活できるはずよ。巨乳になった姿は、私がちゃんと写真として残しておきます。公然猥褻で逮捕されるよう、警察を呼ぶ準備もしました。だから……行って! そして、先輩の夢をかなえてきて!」
 「くっ……。5000年間でこんなに屈辱的なこともそうそうなかったぞ……!」
 途中ですごい勢いで笑顔になっていったエヴァに、アーデルハイトが真っ赤になって震える。