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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

リアクション

「転校生のリフルさんは、よく図書室にいるらしいねぇ。まずはそこに行ってみよう」
 薔薇の学舎からやってきた清泉 北都(いずみ・ほくと)も、事件について調べているうちにリフルのことを知った生徒の一人だ。彼はパートナーのソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)と共に図書室を目指す。
「ここが蒼空学園の図書室か……あ、もしかしてあれがリフルさんかな? 誰かと話しているようだねぇ」
 リフルの前には二人の生徒が立っていた。
「初めまして、樹月 刀真(きづき・とうま)と言います。リフルさんお願いします、俺に古代シャンバラ史を教えてください。剣の花嫁とは何なのかを知るために色々と調べてみたのですが、俺一人では限界があります」
「刀真、この前のテスト危なかったの?」
 パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が刀真に尋ねる。
「月夜、テストは関係ありませんよ」
 剣の花嫁について調べているのは封印が解かれる以前の記憶を失っている月夜のためなのだが、刀真は照れくさいのでそのことを黙っていた。
「このとおりです、どうかお願いします」
 刀真がリフルに恭しく頭を下げる。
「……」
 リフルはじっと刀真のことを見つめていたが、やがて一つ息をつくと、目を閉じてそっと言った。
「……放課後」
「え?」
「放課後ここに来て。他に聞きたいことがある人も一緒に」
「あ、ありがとうございます! さあ月夜行きましょう、他の人にも声をかけないと」
「分かった。せっかくだし、いい機会。放課後は私も参加しよう」
 二人は足早に図書室を後にする。用事が済んだところを見計らって北都がリフルに話しかけ――ようとして、ソーマに先を越された。
「そこの眼鏡が素敵な彼女!」
 ソーマはにっと笑いながらリフルに近づいていく。
「歴史もいいけど、俺はキミの全てを知りたい。身体と言う名の地図を隅々まで探索しt……げふっ!?」
「ごめんねぇ。僕のパートナーがいきなり失礼なこと言って」
「北都、いまのツッコミは効いたぜ……」
 北都はリフルの向かいに座って話し始める。
「キミ、古代シャンバラ史に興味あるんだってね。僕も契約したばかりでこの世界の事よく知らないから、シャンバラ史については少し調べてるんだぁ。キミはシャンバラ史のどんなところが好きなの?」
「色々分かるところ」
「な、なるほど……。そういえば一人でいることが多いみたいだけど、キミのパートナーは?」
「……」
「あ、別に無理して言わなくていいよぉ」
「そろそろ行く」
 リフルは開いていた本を閉じ、立ち上がった。
「あ、そう? 僕は清泉 北都。お見知りおきを〜」
「俺はソーマ。――ってもう行っちまったか。くー、リフルだっけ? あの憂いを含んだ眼差しがたまらないね。そうだ北都、いいことを教えてやろう。俺が見たところによれば、あのコの3サイズは上から74/53/75ってところだな!」

 三日目ともなれば、接触してくる生徒も多少減ってくる。リフルは昼食を終え、一人になれそうな屋上へと向かう。だがそこには先客がいた。
 屋上で昼食をとっていたのは月島 玲也(つきしま・れいや)。肩にはフェネックの『シン』を乗せている。リフルが玲也から少し離れたところに座ると、シンはリフルの肩に飛び乗り甘え始めた。自分の顔をリフルの頬にすりつける。
「シン……」
 リフルはシンをそっと撫でる。リフルの表情が大きく変わることはなかったが、いつもよりほんの少し優しい顔をしている気がした。
 そんな光景に玲也は驚きを見せる。シンは甘えん坊な反面人見知りをするので、自分以外に懐くのは非常に希なのだ。
 リフルはきっといい子に違いない。シンの態度を見てそう思った玲也は、長い沈黙のあと思い切ってリフルに話しかけた。
「…………動物……好き?」
「……かわいい」
「シンは大切な友達。ずっと、一緒」
「そう」
「シンが僕以外に懐くなんて滅多にない……何か動物、飼ってる……?」
 首を振るリフル。
 口数の少ない二人だから会話が弾むとはいかないが、心地よい時間が流れる。玲也のパートナーであるヒナ・アネラ(ひな・あねら)は、玲也のことを彼がシンを見るのと同じような気持ちで見ていた。
(普段は動物にしか話しかけない玲也が人間、しかも女の子と自分から話そうとするなんて、珍しいこともあったものですわ。私以外とは目も合わせませんのに……。まあいい傾向と言えるかもしれませんわね。……はっ、今気がつきましたが、玲也ったらまさかドラゴニュートであるわたくしのことも『動物』に入れているのではないでしょうね……)
 シンがふあ、とあくびをして気持ちよさそうに体を伸ばす。
「……よかったら、また遊んであげて。……きっとシンも喜ぶ……」
「うん……」
 青い空にゆっくりと雲が流れてゆく。今世間を騒がす襲撃事件が起きているというのが嘘のような、のどかな午後だった。