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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

リアクション


4.assault03‐決戦‐

「少数では危険だ。ある程度まとまった人数で行動したほうがよいであろう」
 そう言う悠久ノ カナタ(とわの・かなた)の働きかけで、今晩生徒たちは比較的大人数でゲイルスリッターの捜査を行っていた。
 カナタは口にしなかったが、今回彼女がこう働きかけた理由は、単に人数が少ないと襲撃犯に太刀打ちできないと思ったからではない。その背景には緋桜 ケイ(ひおう・けい)の考えがあった。ケイの考えはこうだ。
 被害者は不意打ちを受けて、抵抗する間もなく倒されてしまったという話だ。
こういった場合一番に疑うべきなのは内部の犯行である。顔見知りの生徒、あるいは教師などなら油断している相手を一撃で倒すことも可能だろう。そして襲撃者は一人になったものを襲うはず。
 従って、少なくとも三人以上で行動するのが望ましいというわけだ。
 しかし、もし襲撃者が単純に隠密行動に長けた相当な実力者であった場合、無警戒のままでは致命的な痛手を受けかねない。そこでカナタは、ケイの側で外部からの攻撃にも警戒している。
「堂々と襲撃するのではなく、暗殺者のように一人ずつ襲っていることを考えると、慎重な単独犯による犯行の可能性が高い。確かにこうして学校の垣根を越え、共同で事件に当たる必要があるな。君もそう思うだろ?」
 最後尾の高月 芳樹(たかつき・よしき)が、前を歩くエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)に言う。エースはこれに答えた。
「うん、協力するのは俺も賛成だよ。けど、相手の闇討ちという方法がどうも卑怯で気に入らないんだよな。クイーン・ヴァンガードだけを狙っていることから、もしや隊員の実力不足を危惧する者が発破をかけているのでは……なんてことも考えたんだけど、それなら堂々と名乗りを上げた方が効果がありそうなものだし」
「考え過ぎじゃないか? 闇討ちをするのは単純に成功率を上げるのと正体がバレないようにするためだと思うぜ」
「やはりそうかね……」
 捜査メンバーが慎重に進んでいると、前方で火の手が上がる。これにいち早く気がついたのは、隠れ身を使用しつつ生徒たちを先導していたアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)だった。
「あれは、ファイアストーム? 芳樹に知らせないと!」
 アメリアは速やかにパートナーの芳樹と連絡をとる。
「どうやら何かあったらしい。みんな、急いで現場に急行するぞ!」
 芳樹のかけ声で、一行は走り出した。

 昼間のうちにこれまでクイーン・ヴァンガードが襲われた場所を具体的に聞き出していたセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は、近くに身を隠せそうな場所や裏通りが多いところに絞ってパートナーのミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)を歩かせている。囮捜査である。
 ミリィは大鎌を片手に、携帯電話でセシリアと会話する。
「……ねぇ、おねーちゃん。私怖いのとか駄目だって知ってるわよね? こんなとこで待ち合わせとか嫌がらせ!? 絶対そうでしょ!?」
『おぬしもクイーン・ヴァンガード。こんな事件があっては心配じゃろう。うむ、やはり早く解決せねば』
「そうだけど、他の人に頼めば良いじゃない!」
『ミリィの他に知らないのじゃ。私は入隊試験受けておらぬし』
「……それが一番腹立つんだけどね」
(ふっ、どんなもんよ。これがお喋りに夢中になって油断している振りをする作戦! ……本音が混じってないとは言わないけど)
「……ミリィのあれは本当に演技なのでしょうか。案外、将来女優になったら活躍できるかもしれませんね。それにしても、セシリア様がやけに楽しそうなのが不思議です……」
 屋根の上に立つセシリアの隣で、小型飛空艇に乗って待機するファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)が呟く。
「な、なにを言うのじゃ。そんなことはないぞ。私はただ――む、来たっ!」
 話の途中でセシリアが何かに気がつく。ディテクトエビルに反応があったのだ。セシリアはそのことを電話でミリィに知らせる。
『ミリィ、来おったぞ。左斜め前方じゃ。くれぐれも気をつけるのじゃぞ!』
「うん、分かった!」
 ミィリは何でもない振りをしつつ大鎌を握りしめて連絡の方向を警戒、いつでも攻撃を受け止められるようにする。
 ほどなくしてゲイルスリッターの姿がセシリアの視界に入る。セシリアは敵の気を引くのと同時に他の人に知らせる目的で、叫び声を上げながらファイアストームを上空に向かって放った。
「見つけたぞえ犯人!」
 ゲイルスリッターは一瞬セシリアに意識をとられる。その隙にミリィは一旦相手との距離をとった。入れ替わるようにしてファルチェが飛空艇で突っ込み、ゲイルスリッターに斬りつける。
「あなたがミリィの仕事仲間を襲っている方ですか。理由は知りませんが……覚悟して下さい!」
 ゲイルスリッターは鎌でファルチェの攻撃を受け流す。ファルチェは飛空艇から降り、ゲイルスリッターと切り結んで時間を稼ごうとした。が、あくまでミリィを狙う敵にファルチェと戦う気などなかった。
「速っ……!」
 ゲイルスリッターはファルチェをかわすと、ぐんぐんミリィに近づいていく。
「ええい、これでも食らえい!」
 セシリアが空飛ぶ箒の上から雷術を放つが、間に合わない。すでに悲しみの歌の使用体勢に入っているミリィに、敵の攻撃が避けられようはずもなかった。
 鋭い鎌がミリィに振り下ろされる!
「――ミィリ殿、囮役お疲れ様であります! 貴殿は十分に役割を果たされました。ここからは自分の身を守ることを第一に考えてほしいであります!」
「ありがとー。さすがにちょっとひやっとしたよ」
「ナイスじゃ、真紀!」
 ミリィを抱えて退避したのは比島 真紀(ひしま・まき)だった。
「さすがだね。とりあえずは成功といったところかな? ま、本番はこれからだけど」
 サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)も姿を現す。
 今回の囮捜査、実はセシリアたち三人だけで行っていたのではない。真紀とサイモンは囮捜査を敢行しようと考えていたセシリアたちに事前に接触、協力を申し出ていた。ローグである真紀は隠れ身を使ってミリィの周囲に待機しつつ警戒、サイモンはあらかじめミリィにパワーブレスをかけていた。
「さあ、これで五対一。いくら貴殿が強いとはいっても、そう簡単にはやられないでありますよ!」
 真紀がゲイルスリッターをビシッと指さす。すると、上空から高慢さ溢れる女の声が聞こえてきた。
「それはどうかしら?」
「な、なんでありますか貴殿は!」
「あたしはメニエス・レイン(めにえす・れいん)。鏖殺寺院のメンバーよ。クイーン・ヴァンガードなんて邪魔なもの、この機会に全て排除してやる!」
 メニエスが空飛ぶ箒の上から術を放とうとする。そのとき、今度は真紀の背後から力強い男の声が聞こえてきた。
「貴様の相手はこの俺だ!」
 声の主は五条 武(ごじょう・たける)だった。セシリアのファイアストームを見たアメリア・ストークスたちが今駆けつけたのだ。
「おい、貴様。俺はミルザム・ツァンダが気にくわない」
「はあ?」
 武はメニエスに向かって意外な話を始める。
「女王器『朱雀鉞(すざくえつ)』を手に入れた探索の際、俺は当時『シリウス』と名乗っていたミルザムに同行していた。俺たちは命がけで女王器を獲得したんだ。しかし、あいつは一時保管すると言っていた女王器を、断りもなく女王候補宣言のための道具にした。そんな自分勝手な女が女王になるなんてゴメンだぜ」
 武は近くのクイーン・ヴァンガードにも聞こえるようそう言う。自分の抱くミルザムに対する疑問を伝えるというのも、彼にとって今回の目的の一つだったのだ。
「こんなことをするなんて、貴様も女王に反感をもっているのかもしれない。だがな……やっていいことといけないことがある。貴様の行い、許すわけにはいかないぜ! 変身ッ! ゆくぞ!」
「ザコがよく分からない妄言を……あたしは自分にとって邪魔な者を消す。それだけよ」
【改造人間パラミアント】へと変身した武はドラゴンアーツと併せてブラインドナイブズを繰り出そうとする。しかし、メニエスはダークネスウィップを武のリターニングダガーに巻き付けた。
「こいつでそのおしゃべりな口を塞いでやるわ!」
 メニエスはその体勢のまま、その身を蝕む妄執を放つ。武は咄嗟に武器から手を離し、空中に身を躍らせた。道路にぽっかりと穴が空く。
「大丈夫かい! あいつ、口だけじゃない。かなりの実力をもってるみたいだ。一人だけじゃ危険すぎる、俺がサポートに回るよ」
 サイモンは武の元に駆け寄ると、傷をヒールで癒し、更にパワーブレスをかける。
「……すまない」
「ふん、ザコが束になったところで何も変わらないわ。何人でもかかってらっしゃい」
 メニエスは不適な笑みを浮かべた。