天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

リアクション公開中!

魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

リアクション

 コードを辿った先は、元事務所――のような部屋だった。室内は縦横無尽に走ったコードで埋め尽くされているが、棚や机、紙の残り滓などからそれと分かる。コードは中央に向かって集まり、その中心に――居た。
 ぐるぐる巻きにされた壊れた少女型機晶姫に抱かれ、機晶石はそこにあった。大きさは、人間の心臓の2倍くらいだろうか。
「あ〜、やっと着きましたぁ〜」
 後ろから、少女ののんびりとした声が掛かる。神代 明日香(かみしろ・あすか)と夕菜だった。だが彼女達は、石に話しかけることなく戻ろうとした。
「あれ、話していかないのですか?」
 サイアスが当然の疑問を口にすると、明日香は、自分達はルミーナが通るための道をマッピングするために来たのだと言った。ただ最初に開けた穴が塞がれているので、戻ったらもう一度開けないといけないらしいが。
「誰……?」
 2人が去っていくと、機晶石が警戒心たっぷりの声を出した。
「……彼女じゃない……鏖殺寺院……?」
「……? 違いますよ。私達はただの契約者と剣の花嫁です。それより機晶石さん、こんな大きな体でなく、この土偶にでも入って一緒に外に出ませんか? カタールに誓って貴方を守ります」
 ザカコがどこからともなく土偶を取り出すと、機晶石の声が怒りのものに変わった。
「土偶……やっぱり……鏖殺寺院ね……わたしを閉じ込めようなんて……」
 瞬間、地面が盛り上がって人の形を作った。正真正銘のゴーレムだ。
「危ない!」
 サイアスがザカコを庇って前に出た。攻撃をもろに食らったが、瞬時に光条兵器を取り出してゴーレムに一発入れる。そこをカタールが襲い、ゴーレムが崩れる。ザカコは、クエスティーナが自分を守るようにとサイアスにこっそり言っていたのを知っていた。
「サイアスさん……クエスさんの指示なら何でもやれるんですか」
「クエスの命令は何でもきく訳じゃないですよ。何をきくかは私が決める事だからね」
 自身にヒールをかけるサイアス。そこに、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)フェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)、そしてアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)御陰 繭螺(みかげ・まゆら)が到着した。
「どうした? 大丈夫……」
 緊迫した状況に気付いたイーオンが駆け寄ろうとした時。
 機晶石が、彼の眼前に新たなゴーレムを呼び出した。その数、2体。
「…………!」
 至近距離すぎて攻撃が出来ない。慌てて飛び退り、火術を放とうとするイーオン。
 だが、その時にはフェリークスがドラゴンアーツを発動してゴーレムを素手で殴り、土に戻していた。
「さ、さすが、ゴーレムクラッシャーの本領発揮だな……」

 その頃。
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は中心部までの通路を怒涛の勢いで走っていた。彼は何もかもをほっぽって、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が波動を感知した方向をひたすら目指している。入れそうな部屋は調べるつもりだったのだが、殆どががらんとしていた為に覗いたのは最初だけだった。
「よし! この道で間違いないようだな。コードが集まっている! 切断しなかったのは正解だったな!」
「めんどくさかっただけじゃんー」
 ロートラウトの突っ込みに、エヴァルトは反論する。
「いや、それは違うぞ! 構ってられなかったのもあるが、あとで持って帰れるなら傷つけたらまずいという考えでだな!」
「うわ、動機が不純だよー」
「ロボマニアとしては当然だ!」
 ちなみに、ロートラウトがコードに手を出さなかったのは、自分自身と同じ規格なのか自信がなかったからだ。不純な動機からでは決してない。

「ねえ、その子、なんで攻撃してくるの?」
「彼女は、私達を鏖殺寺院だと勘違いしているようです。過去に何かあったのかもしれませんね」
「ザカコが土偶に入れとか言うからじゃありませんか」
 繭螺の疑問に対して、極めて真面目に返答して突っ込みを受けたりしていると、そこに、エヴァルト――ではなく景山 悪徒(かげやま・あくと)タカイワ ジロウ(たかいわ・じろう)がやってきた。
「やっと着いたな。機晶石……ずっと会いたかった」
 悪徒は、面々を見回しながら堂々と中央を闊歩していく。あーあ、と全員が思っている所に、案の定ゴーレム出現。体格に似合わない素早い動きで、悪徒を捕らえた。両手でがっちりと掴むと、体格に似合った怪力で圧迫していく。
 めきめきと、なんだか嫌な軋みを感じて悪徒は慌てた。
「ぐ、ぐわっ、ちょっと待ってくれ機晶石。俺はまだ何も……せめて、言うべき台詞だけは言わせてくれ! お、俺は仲間だ!」
「なかま……? ……そうね……同じ……波動がする……」
 ゴーレムの圧迫が止まる。どうやら、機晶石は小型 大首領様(こがた・だいしゅりょうさま)の波動に反応したらしい。目を疑う一同の前で、悪徒は語りだす。
「初めましてだな……俺は景山悪徒という。機晶姫……貴様の名は?」
「わたしは……ファーシー……」
「「「「「「「…………!」」」」」」」
 一番おいしい所を何気にかっさらわれて、これまた驚く7人。
「俺は、お前が何処へ向かい何を目指しているのか? そんなのは興味ない。だがその力には興味がある。どうだ我々と手を組まないか? お前の侵攻を邪魔する者達がこの先必ず現れる……今の俺達のように内部に侵入してくる者もまだまだ出るだろう。我等はそういった輩の露払いしてやろうというのだ」
「あなたは……何を成したいの……?」
「俺は悪の秘密結社【ダイアーク】パラミタ支部長。またの名をファントムアクト。目的はもちろん、世界征服だ……ぐわっ!」
 ゴーレムが再び力を込めた。話し方の割に、言葉の意味を把握するのは早いようだ。骨の折れる音がする。これ以上はまずいと判断したフェリークスが、またゴーレムクラッシャーと化す。
 そこでやっと、エヴァルト達が到着した。

 気絶した悪徒を、エヴァルトが、持ってきたゴムを使いながらコードを利用して拘束する。その上から、セルウィーがヒールをかける。
「俺はイーオン・アルカナム。俺達は、おまえが操っている女性からSOSを聞いてここまで来た。鏖殺寺院や悪の秘密結社とは断じて関係無い。確か『うけとって……』と言っていたな」
「……ほんとうに……?」
「何か渡したい物があるなら任せろ! ああ、神にも悪魔にもなれる力に翻弄されて大変だったんだろうなぁ……」
「ちょ、またややこしくなるから変なこと言っちゃダメだよー!」
「む、すまん、つい興奮して……」
 繭螺の言葉にエヴァルトが素直に従ったところで、10人は改めて自己紹介した。そして、イーオンが代表して訊く。
「たすけて、とはどういう意味だ? それとうけとってというのは、どう関係しているのだ? おまえは俺達が助ける。望みは叶えられる事なら叶えよう。だから、ルミーナ――操っている女性を解放してもらえないだろうか」
「……それは……もう少し待って……」
「何故!」
 イーオンが語調を強くすると、ファーシーは若干哀しそうな色を含めて、話す。
「わたしは、いえ、この身体は、魔物化しつつある……もう、わたしがコントロール可能なのはこの事務所だけなの……わたしの願いと力を受けて、身体は動いている。だけど、その意思はもう……」
「独立している……ということか……」
 アシャンテが言うと、ファーシーは肯定した。
「そう……わたしの波動を、別の場所にある装置が増幅させているの……わたしから発している波動は自然なものだし……わたしが壊れないと、止まらない……意思を共有させることは……でも、止めることだけは……」
「壊れるって、どうして? だって、まだ元気に見えるよ! 石にも、罅なんてどこにも……」
 ロートラウトが言う。
「……わたしは……1回、壊れたの……この少女型が、元の身体……何故か魔物として復活できたけど、狂ってしまうまで時間が無い……少女型の首に、半分に割れた銅板が掛かっているでしょう……?」
「………………?」
 ぱっと見、そんなものは何処にもない。サイアスを除いた9人は、少女型の機体の間近まで迫った。コードを慎重にどかして背中側も確認したが、やはり無い。
「無いっすよ……?」
 ジロウが言うと、ファーシーはしばしの沈黙の後、焦った声を出した。
「さ、探して! さがしてーーーーーーーー!」
 それはなんだかすごく普通の、少女の声だった。

『さ、探して! さがしてーーーーーーーー!』
 心の底からのファーシーの叫びは、生徒全員の携帯電話、そしてルミーナにも届いた。しかもやけに大音量である。護衛隊は何のことやらさっぱり分からずに目を白黒させ、巨大機晶姫の中の風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)とラスは、思わずのけぞった。で、頭を壁にぶつけた。
「探してるっつーの……ったく、本当にあるのか? 電波の発生装置なんて……」
「無かったら、もうほんとすみませんとしか言いようがないですが……」
 電波発生装置は狭い所にあるだろうという考えの元、2人はあえて天井裏とか腸のような所とかに入っていた。しかし、邪魔くさいコードや骨や人工皮膚セットや金属の欠片はあれども、肝心なものは未だ見つかっていなかった。優斗が電波測定器を持っていたので簡単な仕事だと思ったのだが、見事に、測定器は使い物にならなかった。
 優斗のポケットから着信音が鳴る。当然まだ圏外なので、相手は諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)だ。
『優斗殿。新たな情報が入りました。電波発生装置ですが、確実に存在しているそうです。機晶石本人が言ったそうなので間違いありません』
 孔明は、サイアスからの電話を受けたクエスティーナの報告でそれを知った。現在、孔明と環菜、クエスティーナとヘルは一緒にいる。
「機晶石が? 会えたんですか?」
「それで、あの叫びって……何があったんだ?」
 疑問というよりは呆れたように、ラスが言う。
「えっと、じゃあ場所はどこになります? 聞いたんですよね?」
『場所、ですか?』
「そうです」
『……掛けなおします』
「…………………………………………………………」
 ――3分後。
「くびれのあたりだそうです」
 電話を切った優斗の言葉を理解するのに数秒使い――
「くびれなんてねーだろがっ!」
 とりあえず、ラスは言った。