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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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囚われのリフル


「うまくいったね、おねーちゃん!」
「よくやったわ、ロザ。ほら、さっさと起きなさい」
「う……ん……」
 薄暗いどこか。頬を強く打たれて気がついたリフルの目に映ったのは、メニエス・レイン(めにえす・れいん)ロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)の姿だった。
「おはよう。お目覚めの気分はどうかしら? あはは、一回言ってみたかったのよね、このセリフ」
 メニエスが愉快そうに笑う。
「あなたは……痛っ」
 リフルは体を起こそうとして苦痛に顔をゆがめる。彼女は全身をロープで縛られていた。
「さて、それじゃあ早速質問に答えてもらおうかしら。リフル・シルヴェリア、あなたはゲイルスリッター?」
 メニエスがリフルに顔を近づけて尋ねる。
「……」
「あら、お得意のだんまりね。でも、優しいお友達は助けに来てくれないわよ。もう一度聞くわ。あなたがゲイルスリッターなんでしょ?」
「……分からない」
「しら切ってるんじゃねぇよこのクズがあ!」
 ロザリアスがリフルの喉元に刃物を突きつける。血がつう、とリフルの皮膚を伝った。
「あはは、その白いお肌、真っ赤に染めてあげようか?」
「ぐっ……」
 ロザリアスは興奮した表情で更に刃物を食い込ませる。
「待ちなさいロザ。もっとスマートな方法があるわ」
「どうするの? おねーちゃん」
 メニエスに言われて、ロザリアスは刃物をしまう。
「ふふ、こうするのよ!」
 メニエスは、ありったけの力でリフルに『その身を蝕む妄想』を放った。
「う……あ……っ!」
「ほらほら、どんな幻覚が見える? あんまり我慢するとおかしくなっちゃうわよ!」
「あああああああっ!」
 リフルの精神が冒されていく。耳をつんざかんばかりの悲鳴が響き渡った。
「強情な子ね。本当に死ぬわよ」
 メニエスは術に最後の一押しをかける。とうとうリフルが限界に達した。その刹那、メニエスとロザリアスの体が吹き飛ぶ。
「……はあっ……はあっ……」
「あたた……もう、いきなりびっくりするじゃないの。でも……ようやくその気になってくれたみたいね。そうこなくっちゃ」
 メニエスが戦闘態勢に入る。
「ロザ、思いっきり遊んでいいわよ」
「ほんと? やったあ! すぐに壊れちゃ嫌だよ? リフルちゃん」
 

リフル、消ゆ


 遺跡調査の翌日。生徒たちは手分けして町中リフルを探していた。昨晩から寝ていない者もいる。やがて日が傾き初め、散り散りになった生徒たちに暗い表情が浮かび始めた頃、荒巻 さけは見慣れた影を発見した。
「あれは……リフルさん? リフルさんですの!?」
 さけは大慌てでリフルに駆け寄る。
「一体何がありましたの! 服も体もボロボロではありませんか!」
「へい……き……」
 リフルはさけの腕に倒れ込んで意識を失う。さけは彼女を医師のところへ運ぼうとするが、リフルより更に小さなさけでは無理があった。
「このままではリフルさんが」
 さけの眼に涙がにじむ。
 と、不意にリフルの体が軽々宙に浮いた。
「よう、手伝うぜ」
「あなたは……!」
 さけが顔を上げる。そこにはリフルを担いだラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が立っていた。

「外傷がいくつかあるけど、命に別状はないわ。彼女最近色々あったんでしょう? きっと疲れもたまっていたのよ。私はちょっと薬を取ってくるから、あなたたちがついていてあげて」
 ここは蒼空学園。リフルは学園専属の医師の元に運ばれ、今はベッドで休んでいる。
「よかったですの……」
 命に別状はないという女医の言葉を聞いて、さけがほっと胸をなで下ろす。
「ふう、びっくりしたぜ。いや、ゲイルスリッターだと疑われてる生徒がいるっつーからよ、ちょいと人に会うついでに話してみようと蒼学に向かってたんだ。そしたら当の本人がぶっ倒れてるんだもんな」
「助かりましたの」
「なあにいいってことよ。どうせ力になりたいと思ってたからな。それより、そこのお二人さんも突っ立ってないで入ってきたらどうだい?」
 ラルクが後ろを振り返る。部屋の入り口には月島 玲也(つきしま・れいや)ヒナ・アネラ(ひな・あねら)が中を覗くようにして立っていた。
「……すみません。しばらく前からいたのですが、少し入りにくくて」
 ヒナがそう言い、二人が中に入ってくる。
「別に謝るこたあねえさ。怖がられるのには慣れてるしな。あんたらもリフルの知り合いなんだろ? って、こう言う俺は今日初めて会ったんだけどな」
「リフル……!」
 玲也はリフルに駆け寄った。
「まぁ、いつもはどんな事件が起こっても関わろうとしませんのに。随分とリフルさんがお気に入りなんですねぇ」
「……」
 ヒナがからかうと、玲也は困惑したような表情をした。
「冗談ですよ。それにしても、無事でよかったですわね」
 玲也の手には、ペットであるフェネックのシンお気に入りのおやつやぬいぐるみが握られている。リフルが尋問されていると知って心配になった玲也は、彼女を励ますため、リフルと一緒にシンにおやつをあげて遊ぶつもりだったのだ。
 今回はたまたま遺跡調査なども重なってその実現こそ叶わなかったものの、玲也が勇気を振り絞って自分から誰かに会いに行くなど、これまででは考えられないことだった。
「あ、シン、ダメだよ」
 シンが玲也の肩からベッドに飛び降り、リフルの顔を舐める。すると、リフルが顔を動かした。
「う……」
「リフルさん!」
「お、気がついたか」
「リフル」
 リフルがゆっくりと目を開ける。
「私は……」
 さけたちがリフルに事の次第を説明した。
「そう……ありがとう」
「さて、リフル。こんなときに悪いんだが、取り急ぎ聞きたいことがあるんだ。大事なことなんでな」
 ラルクが時計を見ながら切り出す。
「お前は……夜の記憶があるか?」
 本当は、リフルに会ったら「お前はゲイルスリッターか」と尋ねるつもりだった。だが、状況を考えてこう質問を変える。
「……」
「……ないんだな」
「…………ない」
 リフルは肯定した。
 皆が息をのむ。
「そうか。ということはだ」
 ラルクが言いかけたとき、リフルが苦しそうに胸を押さえた。
「くっ……」
「どうしたの? どこか痛む?」
 玲也が心配そうにリフルの顔を覗き込む。シンのおやつとぬいぐるみが床に落ちた。
「来る……」
「え?」
「逃げて……」
「何言ってるの、リフル」
「私から逃げて!」
 リフルが玲也を突き飛ばす。
「うわっ」
「玲也!」
 ヒナが玲也を受け止め、驚いた顔でリフルを見る。
「リフルさん、一体どうしてしまったというんで――な、何!?」
 『変化』はもう始まっていた。
「う……ううう……」
 リフルの皮膚に黒い紋様が浮かぶ。そして、彼女の体を紫色の炎が包み込んでいった。
「まずい! 逃げるぞ!」
 ラルクが三人を連れて外に出る。直後、背後に閃光が走り、ガラスが割れる激しい物音がした。
「今のは一体?」
 九条 風天が校舎内で起こった異変に気がつく。リフル発見の知らせを聞いて、多くの生徒が学園に向かっていたのだ。風天が校舎に急ぐと、ちょうど中からラルクたち四人が慌てて出てくるところだった。
「何があったのでしょう。……あれは!」
 風天は四人のすぐ後ろに迫る何かを認める。それは――
 ゲイルスリッターだった。
 ゲイルスリッターが玲也に向かって巨大な鎌を振り下ろす。
「危ないっ」
 間一髪、懐に潜り込んだ風天がゲイルスリッターの攻撃を受け止める。
「く……なんて重い攻撃なんだ……今のうちに安全なところへ非難してください!」
「すまん、すぐ援護に行く!」
 ゲイルスリッターを食い止めようとする風天。しかし、ゲイルスリッターは風天の相手はせず、エンブレムをつけた玲也たちを追いかける。
「しまった!」
「任せろ」
 今度は天 黒龍と紫煙 葛葉がゲイルスリッターの前に出る。
 当初、二人にはゲイルスリッターと対峙した際に実行しようと考えていたことがあった。それは黒龍が敢えてゲイルスリッターの攻撃を受けて大鎌を押さえ、葛葉が黒龍の傷口からゲイルスリッターの髪に血液を飛ばすというものだ。髪に血痕が残ればゲイルスリッターとリフルが同一人物か分かる。
 葛葉は黒龍にそんなことをさせたくはなかったが、黒龍の覚悟を見て、自分は黒龍を死なせないよう全力を尽くそうと決めたのだ。
 だが、この作戦ももう必要ない。
「な……」
 黒龍は、仮面をしていないゲイルスリッターの顔を見て絶句する。瞳は紅く、眼鏡をかけていない。そして頬には黒い紋様が浮かんでいる。しかし、それは間違いなくリフルの顔だった。覚悟はしていたことだが、いざ目の当たりにするとショックを隠せない。
「リフル、一体なんだってこんなことを!」
 黒龍は必死にリフルの攻撃をかわす。
「リフルくんは操られているのだ!」
 そこにアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が駆けつけた。
「操られてるだって?」
「そうだ。予想はしていたが、ケイ君やソア君を始め、生徒たちの話を詳しく聞いて確信した。リフル君は自分の意思で戦っているのではない。何者かによって無理矢理戦わされているのだ。そして、洗脳の媒介となっているのは恐らくあの鎌だろう」
 アルツールは、リフルの振り回す巨大な鎌を指さす。
「なら、あの鎌を壊せばいいのか」
「いや、確かに襲撃をやめさせることはできるかもしれんが、それはもしかするとリフル君への精神的負担を考えると危険だ」
「じゃあどうすれば……!」
 解決策が浮かばないまま、黒龍たちは追い詰められていく。その様子を見て、あの玲也が声を張り上げた。
「やめてよリフル! どうしてこんなことするの……リフルは僕と話してくれて、シンのことだってかわいがってくれたじゃないか! こんなのリフルじゃないよ!」
 玲也の声に、リフルの動きが一瞬不自然になる。
「む?」
 アルツールはそれを見逃さなかった。
「そうですわ! 目をお覚ましになってください、リフルさん!」
 さけもリフルに呼びかける。
「やめろ……!」
 今度はリフルが動きを止め、苦しそうな声を上げた。
「そうか、やはり仮面は洗脳をより強力にするための道具。それがない今、洗脳は完全ではないんだ。いいぞ、このままいけばリフルくんの潜在意識を引き出すことができるかもしれん!」
 アルツールの言葉で、皆がリフルに呼びかける。
 教室での一方的な会話。みんなで食べた昼ご飯。放課後の勉強会。一緒に行った遺跡。
「やめろ……! やめろと言っている!」
 リフルの叫びが夜空に木霊する。
「く……やはりこの状態では無理があるか……今日のところは退いてやる」
「リフル君!」
「リフル!」
「リフルさん!」
 数え切れない声を背に、リフルは暗闇へと消えていった。

 週明けの放課後、橘 カナ(たちばな・かな)は一人教室に残り、リフルの席に座っている。リフルは今日、学校に来なかった。
「転校初日、リフルはずっと窓の外を見てたよね。何を見てたのかなあ。福ちゃん、何か見える?」
 カナが操り人形の福ちゃんに話しかける。
『ソォネェ……何ニモ無イワネ』
「何かを見てたってわけじゃないのかな。あたしも考え事して、ぼうっと窓の外見てることあるもの」 
『リフルハ何ヲ考エテタノカシラネ』
「うーん、分からないな。あたしまだリフルのことをよく知らないもの」
『コンナコトナラ、勉強会ヤ遺跡調査ニ参加シトケバヨカッタッテ思ッテル?』
「あたし、勉強とかあんまり好きじゃないし」
『かなッテバ……アナタモ素直ジャナイワネ』
「そんなんじゃないってば…………リフル、帰ってくるかな」
『キット、ヒョッコリ帰ッテクルワヨ』
「そうだよね」
 風が吹く。リフルの机の中から一冊の本が落ちた。
「これは、リフルの本?」
『何カ挟マッテルワヨ』
 カナが本の中から取りだしたもの。それは、桔梗の押し花で作ったしおりだった。
                                 

                                                             続く

 

担当マスターより

▼担当マスター

飛弥新

▼マスターコメント

みなさん今日は、飛弥新です。

今回はなかなかに難産でした。同じようなシーンが続いたり、会話と地の文のバランスが読みづらかったりと、少々読みづらい部分があるかもしれません。
また、せっかくのアクションを生かし切れていないキャラクターもいるかと思います。
どれも私の能力不足です、すみません。

みなさんのアクション内容に関しましては、リフルを庇ってくれたり仲良くしてくれたりするアクションが予想より多かったです。それに比べて武ヶ原の人気のないこと(笑)まあ、彼はああ名付けた時点でそういうキャラになる運命だったのかもしれません。

隆とリニカの話とか、隆があそこまで強引なわけとかも設定として考えてはいるんですが、今回は書ききれずにお蔵入りになりました。書くことに日はくるんでしょうか。こなそうですね。

さて、次回の話です。まだ決定してはいないのですが、ちょっと派手にしてみよーかな、なんて考えています。ジャンルはバトルにする……かも?
うまく捌ききれるか少々不安なところではありますが、是非チャレンジしてみたくはありますね。また詳細が決まり次第お知らせすると思います。

それでは、またお会いできれば幸いです。

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