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リアクション
終章 さよなら、フリューネ
蜜楽酒家。
地平線から昇る朝日を受けて、船着き場は黄金色に輝いていた。
フリューネは見送りにきた生徒達と握手を交わし、お菓子とかお花をもらったりしていた。お別れである。フリューネの後ろには、ローブを目深にかぶったユーフォリアがペガサスの背に乗っていた。彼女は眠りに就いているらしく、ペガサスの首にもたれかかっている。五千年の封印から解かれたのだ、まだ身体が本調子ではないのだろう。目覚めたあとも、ろくに喋る事も出来ず、ずっとぼんやりしていたのだ。これから、ロスヴァイセ家に戻り治療をするのだそうな。
「みんなには、本当に感謝してる……、ありがとう」
フリューネは仲間達の顔を見回して言った。ここにいない者がいるのが、心残りである。
「これで私を弟子って認める気になったでしょ、フリューネ?」
八ッ橋優子がそう言う横で、ツァンダーマスクを外した風森巽が、ちょっとだけ涙ぐんでいた。
「お師匠……、また、また会えますよね……?」
「ユーフォリアの様子次第だけど、また戻ってくるわ。だから、それまで各自修行に励んでおくように」
そして、フリューネと固く握手を交わした。優子は最後までむすっとした顔をしていた。
「……戻ってきたときの事なんだが」
ふと、閃崎静麻が口を開いた。
「どうせまた義賊を続ける気なんだろ? だったら、民間軍事会社を作らないか?」
フリューネが「どう言う事?」と尋ねると、彼は頷いて言葉を続けた。
「会社って言っても、形式は登録制、依頼の時以外は基本自由な形を取る感じだな。どう足掻いたってあんた一人で空賊は壊滅できないし、増える方を抑えなければ空賊は消えない。食うに困ってたり荒事以外で生きれない奴等も教育や訓練を受けさせて登録させれば空賊の数も減る。依頼の形式を作れば、俺やあんたが死んでもその志や行いを受け継ぐ奴等も出やすい。本当に護りたいなら自分が護れなくなった後の事まで考えないとな。更に民間軍事会社ならバックアップ要員も必要だし、そっちで貧困層を積極的に雇えば彼らの生活向上の手助けにもなる」
「そうか……、そう言う戦い方もあるのね……」
ポツリと呟いた彼女は、静麻に微笑みかけた。
「……で、手伝ってくれるのよね?」
静麻はポリポリと鼻先を掻きながら「まあな」と答えた。彼女が戻るまでに、拠点を作っておくのも悪くない。拠点を置くならどこがいいか。ツァンダかタシガンか、いや、戦艦島なんて面白そうだ。静麻はふっと微笑んだ。
「……約束は覚えているな。戻ってきた時は、まずは俺と勝負してくれ」
眼鏡を押し上げ、白砂司はフリューネと約束する。
フリューネには信頼を置いているし、法に縛られた自分には出来ない事をする彼女に憧れてもいる。ただ、空賊行為は認められない。それは彼にとってケジメのようなものだ。勝ち負けなんか、本当はどうでもいい。
「ええ……、それまでに空戦技術を上げておいてね。手加減はしないわよ」
「もちろんだ……、そのつもりでやってもらわねば困る」
一同が見送る中、フリューネが踵を返そうとすると、ふらりと人影がやっていた。
「フ、フリューネさん……」
何故だか頭から大量に出血した島村幸が、おずおずと声をかける。
幸は謝りに来たのだった。戦艦島で起こした騒動を、彼女は『島村組』組長として、謝罪するのだ。おもむろに地面に正座するとそのままの姿勢で跳躍した。「な、ナニーッ! 座ったままの姿勢! 膝だけであんな跳躍を!」と生徒達からどよめきが起こる中、幸は大地にヘッドバッドを叩き込んだ。ジャパニーズトラディショナルスタイル、土下座である。
「申し訳ありませんでしたーーーーーっっ!!」
若干、亀裂の走った船着き場の地面が、幸の反省の深さを現しているのかようだ。
「ま……、まあ、反省してるなら、私は何も言う事はないっていうか、謝るなら他のみんなにでしょう?」
フリューネがそう言うと、幸は他の生徒達を見つめ、ぴょんぴょん飛び跳ねて土下座を繰り返した。
過ごした時間は短いが、共に視線を越えた仲間達だ。フリューネとの間にも絆は結ばれたことだと思う。そして、なにより背中を預けて戦った生徒同士の間でも。フリューネと生徒達が感慨深そうにしていると、朝日を背に受けて、二つの影が飛んできた。影は船着き場に降り立つと、フリューネの元へやってきた。
「フリューネお嬢さま、お迎えに上がりました」
ロスヴァイセ家の人間らしい二人のヴァルキリーだ。
フリューネは二人に頷くと、仲間達の顔を再び見回して、そして、別れの言葉を口にした。
「また、いつかどこかで……」
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