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リアクション
chapter.8 敵中突破
しばしの間口を開けていたヨサークだったが、そんなことをしている場合ではないと我に返る。各ルート生存者とヨサーク本陣が入り乱れて戦っているエリアに戻ると、そこは彼の予想以上に激しい戦いが繰り広げられていた。雷雲ルートから回り込んできた156センチやモノゴス、銀髪悪魔や北海道仮面、中央の谷から突入してきた反抗期、ピンク歌手、ビバリーヒルズ、象山などが本陣で暴れまわっていた。
「俺の畑を荒らすんじゃねえ……っ!」
手当たり次第鉈で襲おうとするヨサークだが、そこに156センチとピンク歌手が同時に襲いかかる。混戦の中不意を突かれたヨサークは一瞬回避が遅れる……が、彼女らの武器はヨサークには届かなかった。自らの飛空艇を盾代わりにして、彼女らの攻撃を防いだのは姫宮 和希(ひめみや・かずき)だった。和希はこんな時のために、隠れ身で気配を隠しいつでもヨサークを守れるように準備をしていたのだった。もちろん身を守るだけならずっと身を隠し続ける必要はないのだが、彼の女嫌いを知る和希は余計な刺激を与えぬよう、視界から外れるためその身を隠していたのである。
「おめえは、こないだ島でやたら張り切ってた男女……! 何俺の前に立ってやがんだこらあ!」
背後で怒鳴るヨサークに、和希は笑って答えた。
「カカシってのは、こういう場所に立ってこそ意味があるんじゃねえのか? なあそうだろ、ヨサーク!」
農民に良い思いをさせたい。自由で楽しい空に戻したい。和希は、ヨサークのそんな思いを知り、確かな感動を覚えていた。この心の振動をヨサークに伝えたい。俺にも同じような思いがある、そう伝えたい。しかし、自分の性別は彼が嫌っている女だ。女だが、そこに悲観や困惑といった感情はなかった。あるのは、彼のカカシになろうという真っ直ぐな心だけだった。
和希はヨサークに背を向けたまま威勢良く告げる。
「おいヨサーク、必ず生き残って、俺に農業指南してもらうからな! それまでくたばんなよ!」
「……女が命令すんじゃねえ。おめえに言われなくても、たくましく生きる気満々だっつうんだよ!」
和希は自分で話しかけておきながらも、ちょっとした驚きを感じていた。それは、部分的とは言え、和希の言葉をヨサークが初めて肯定したからだった。些細なことかもしれない。が、和希には大きな力となった。ふたりの攻撃を必死で防ぐ和希。
「何突っ立ってんだよ、たくましく生きるんだったら、早くユーフォリア取ってこいよ!」
いつまでも自分の背中にいるな、とでも言わんばかりに和希はヨサークに先に行くことを促す。
「……俺は生き残るが、おめえに農業は教えねえからな」
そう言い残し、混戦地帯を抜けようとするヨサーク。しかし、そんな彼にこっそり銃口を向けていた敵がいた。それは、ヨサークを心から嫌っている反抗期だった。反抗期はヨサークの死角からアサルトカービンを構えると、ヨサークを撃ち抜くべく弾丸を放った。ところが、その弾丸はヨサークに当たる前に不自然な重力を受けて、ぽとりと落ちた。
「大将戦がこれから始まろうとしてるんです、邪魔はさせませんよ」
それは、橘 恭司(たちばな・きょうじ)が放った奈落の鉄鎖だった。彼は、一度関わったからにはその人物の行く末を見届けたいと思っていた。故に、その邪魔をしようとする者は容赦なく迎撃の対象となった。恭司は弾道を見極めると、狙撃手の方を向いた。
「……!」
見つかった反抗期は、しくじった、といた様子でその場から離脱しようとする。が、またしても恭司の奈落の鉄鎖がその動きを阻む。
「言ったはずです。邪魔はさせない、と」
彼は近くを走り抜けていくヨサークに、聞こえるか聞こえないかくらいの声で、「しっかりと、結末を見せてくださいね」と告げた。その言葉も、彼への狙撃を阻んだこともヨサークは気付いていないかもしれない。が、別にそれでいいと恭司は思った。俺はただ、戦いの終着点を見たいだけだ、と。
ヨサークはそのまま和希と恭司のフォローを受け、谷の中央へ向かい正面突破を試みる。が、やはり2ルートを制されたことは影響が大きかったようで、その生存者たちの分厚いバリケードを突破するのは相当な手間となっていた。
「次から次に来やがって……年貢の取立てか、あぁ!?」
苛立ちを抑えきれないといった様子のヨサークの元へ、山本 夜麻(やまもと・やま)が箒に乗ってふらっと現れる。その手には何やらみかんが握られていた。
「キャプテン、キャプテン、温めておきました〜、なんちゃってー」
夜麻はそう言うと、みかんをにこにことヨサークに渡そうとする。が、その手をピタ、と止めて少し考えた後、「一口貰っちゃお」と小さく自分の分をちぎってからヨサークへとプレゼントした。
「うまそうなみかんじゃねえか、なんだおめえ、農家か?」
「え? ううん、違うけど、なんかみかん食べたら体力ちょっと回復しそうだなって思って。そんな気しない?」
みかんを頬張りながら質問してきたヨサークに、夜麻はふわふわした感じで答えた。どうやら彼なりの補助の仕方らしかった。
「あ、これもやった方いいかな。えーと、ちょっと待っててねキャプテン」
夜麻はごそごそと懐から何かを取り出す。それはSPルージュだった。が、ヨサークの目には完全に女性用化粧品として映った。
「塗ってあげるよキャプテン、ほら顔出して」
もちろんヨサークは軽く拒み、夜麻にそれをしまわせる。夜麻は小声で「額に塗ったら面白そうだったけどなー」と囁いたが、ヨサークにその声は聞こえなかった。ヨサークがみかんを食べ終えたタイミングを見計らい、夜麻が尋ねた。
「ねえねえ、アグリいないの? アグリ」
それはヨサークのパートナーの名だった。夜麻は、アグリにとてつもない魅力を感じていたのだった。そんな夜麻に応えるように、ヨサークの背後からすっとアグリ・ハーヴェスター(あぐり・はーう゛ぇすたー)が現れた。変形可能な機晶姫とは言え、空を飛べるわけではないので今はちゃんと飛空艇に乗っている。それを見て、夜麻は目を輝かせた。
「アグリだアグリ! ねえ聞いたよ聞いたよ! こないだ味方のピンチに颯爽と駆けつけたんでしょ? かっこいい、かっこいいよアグリ!」
夜麻のテンションが一気に上がった。アグリは「元気な子だ」といった様子でそんな夜麻を見ていた。
「おい、わりいがそろそろ行かなきゃなんねえ。こんなとこで時間食ってたら、あのクソメスに先行かれちまうからな」
急ぎ飛空艇を発進させ、アグリと共に敵の包囲網を抜けようと走り出す。そんなヨサークに、夜麻が言葉をかけた。
「あ、キャプテンキャプテン!」
夜麻の声に、ヨサークが振り向く。
「自由に楽しく馬鹿やれる空とか、いいよね。そういうの大好き。どうせなら、キャプテンがユーフォリア手に入れちゃってよ。そしたらまた船に乗せてね。自由に馬鹿し合える空とか言われたらさ、飛んでみたいじゃん」
ヨサークは笑顔を覗かせると、夜麻の励ましに短く返事をした。
「乗船賃をもらっちまったから、乗せねえわけにはいかねえだろ。みかん、うまかったぞ」
去っていくヨサークの背中を見つめ、夜麻はそこに確かなロマンを感じ取っていた。すると、彼が去った後でパートナーのヤマ・ダータロン(やま・だーたろん)が夜麻に近付いてきた。
「あれ、ヤマ。キャプテンと話さなくてよかったの?」
ヤマは、眉を寄せて腕を組みながら小さくなったヨサークを見遣り、ぽつりと漏らした。
「……自由に楽しく馬鹿。好きだぜ、そういうのはよ」
「じゃあそれ言ってあげればよかったのに」
「だが、それとこれとは話が別だ」
「これって?」
首を傾げる夜麻。するとヤマは溜まっていたものを吐き出すかのように、一気にまくし立てた。
「女嫌いだろ? あのおっさん、女嫌いなはずだろ? その割に、女寄ってき過ぎじゃねーか!? いいのか、それでいいのか? 女好きな俺になんで寄ってこねえで、女嫌いなヤツのとこには女が集まんだよおおお!」
どうやら彼はバレンタイン間近ということもあり、気が立っているようだった。夜麻はそんなパートナーを、「ロマンだよ、ロマンのせいさ」と慰めていた。
正面から襲ってきた中央の谷生存者の中を突っ切っていくヨサーク。その前に、ひとつの影が立ちはだかった。それはフリューネ側の生徒ではなく、ヨサーク側の仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)であった。
「なんだおめえ? 急いでんだ、どいてくれ。もし女だったらどけ、それか死ね」
ドラゴニュートである伐折羅の性別を一瞬で判断出来なかったので、ヨサークはとりあえず両方のパターンで言葉を告げた。
「拙者は男でござる、安心なされよ。そしてその物言い、お主がヨサーク殿で間違いないようでござるな。拙者の名は仙國伐折羅。どうしてもお主に話したいことがあって、ここへ参ったでござる。どうか拙者の話を少しで良いから、聞いてはくれないでござろうか」
男だと知るとヨサークの表情が若干和らいだが、状況が状況である。のんびり話を聞いている余裕は今の彼になかった。
「わりいな、話ならユーフォリアを手に入れた後でいくらでも聞いてやる」
そのまま伐折羅の横をすり抜けようとするヨサークだったが、その足を伐折羅の言葉が止めた。
「拙者は、ピーマンが嫌いでござる」
「……」
こうもはっきりと野菜嫌いを宣言されては、ヨサークも黙って立ち去るわけにはいかない。伐折羅は、ヨサークが足を止めるのを分かっていたかのように次の言葉を彼に投げた。
「嫌いでござるが、つくってくれた者のことを考えれば、間違っても残すことは出来ぬ」
「そりゃ立派な姿勢だ」
「ヨサーク殿、拙者はしかしピーマンの話をしに来たわけではござらぬ」
伐折羅はそのまま言葉を続けた。
「今お主が言った通り、『姿勢』の話をしに来たのでござる。お主は女嫌いと聞いた。そして、今お主がやろうとしていることも知っているでござる。貧しい農民の助けようとしているのでござろう?」
「……何が言いてえ」
そして、伐折羅が核心に触れた。
「お主が今まさに助けようとしている農民の中にも、当然女はいるはず。その時、お主はどうするのでござるか?」
「……」
ヨサークは少しの間口をつぐんだが、やがて伐折羅の目をしっかりと見つめて言葉を出した。
「女は嫌いだ。だが農民は好きだ。いいか? あくまで俺の基準はこれだ。俺は俺の基準に従って、目の前のヤツに対応するだけだ」
つまり彼が言いたいのは、実際に目の前に現れたそいつを見て、女と農民どちらの要素が強いかで判断するということらしい。伐折羅はその答えを聞くと、完全には納得しない様子ではあるものの、ヨサークのことを少しは理解したようでもあった。
「拙者がピーマンをつくった農家の者を考えているように、とは言わぬが、相手が女であっても、その周りの者のことを考えてやることが出来れば、お主ももっと粋な男になるでござろうよ」
伐折羅がその思いのたけの全てをヨサークに伝えようとしている隣では、彼の契約者、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)がそのやり取りを見ながら周りへの警戒を強めていた。ヨサークを悪戯に引き止めているような伐折羅たちだったが、あくまで彼らはヨサークの邪魔をしようとしていたのではなかった。むしろ、彼らはヨサークという男に何か惹かれるものを感じ、彼の行く末を見届けたいと思っていた。その証拠に、風次郎は殺気看破でヨサークを邪魔しようとする者の乱入に備えていた。が、結果として伐折羅がヨサークの足を止めてしまっていることもまた事実である。風次郎はそんな伐折羅に話しかけた。
「そろそろいいだろう、伐折羅。あとはヨサークにその生き様を見せてもらうだけだ」
「む……少しと言いながら伝えたいことが多すぎて、時間をとらせてしまったでござる。ただ勘違いしないでいただきたいのは、拙者たちはお主を邪魔立てするつもりはなく、真っ当な道を進んでほしいと思ってるだけなのだということでござるよ。初対面で厚かましいことを色々と済まなかったでござるな」
ヨサークは風次郎と伐折羅の言葉を聞くと、口元を緩ませて一言告げた。
「言われなくても、開いた目塞がらねえくらい生きてやるっつうんだ!」
ふたりに背中を向け、去ろうとするヨサーク。遠くなっていく彼の飛空艇を見て、風次郎は何かに気付いた。否、「何か」ではない。これは、明らかな殺気だ。
「ヨサークッ! 早く行けっ!」
そのドス黒いオーラを殺気看破でいち早く察知した風次郎は、ヨサークを谷中央へと急かす。が、そんな彼の叫びも空しく、ヨサークの行く手は殺気の主に阻まれた。それは、雷雲の谷からの生存者、銀髪悪魔だった。彼女はパートナーをヨサークに倒され、自身も屈辱を浴びせられ、その怒りをぶちまけることを今か今かと待ち焦がれていたのだ。
「やっとその汚い血のシャワーが見れそうね」
銀髪悪魔が箒でゆっくりとヨサークに近付く。その時だった。ヨサークを守るように、ひとりの生徒が悪魔とヨサークの間に立ち塞がった。
「お、おめえは……」
それは、彼と共に男同士でしか出来ないことをやり、また彼が普通に怒った数少ない生徒、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)だった。
「ヨサークさん、聞いてください」
大和は、いつになく真面目な顔つきと声で正面を向いたまま後ろのヨサークに話しかける。一瞬でも隙を見せたらやられる、銀髪悪魔を番長と仰ぐ彼は、それを充分理解していたのだ。もっともそれは銀髪悪魔も同じで、彼女もまた大和のことを心のどこかで「ヤバい」と察していた。つまりそれは、互いの力量がほぼ互角であったことを示している。大和は緊張を走らせながら、言葉を続けた。
「俺、この戦いが終わったら結婚するんです」
「……そうか」
ヨサークは、女と結ばれようとしている大和に憤怒もしなければ侮蔑することもなかった。それは大和が今まで共にふざけ合い、笑い、時に怒り、そんな楽しい時を過ごした男だったからか、あるいは死を覚悟したその背中を見たからか。それは分からない。大和はそんなヨサークの返事を少し意外に思ったが、その思いを吐露することは止めなかった。
「ヨサークさんの女性嫌いは分かっています。だけどもし、もしも女性と結ばれようとする俺をそれでも団員として認めてくれるなら……俺たちの結婚式に来て、どうか祝ってはくれませんか?」
それに、と大和は言葉を足した。
「今だけは、貴方という畑を守る、貴方のカカシですから」
「おめえ、まさか……」
ヨサークの頭を、嫌な予感が走る。そしてそれは的中した。大和はヨサークに遺言を伝えたとでもいうように、悪魔に向かって無謀な突進を仕掛けたのだった。銀髪悪魔はその単純な直線攻撃を見切ると、大和に魔法で一撃を与えた。箒が焦げ、運転が不安定になる大和。しかしそれでも彼は、あくまでヨサークと悪魔の間に割って入り、そのポジションを譲ろうとはしない。
「……しつこいのね」
銀髪悪魔が呆れたようにぼやくが、大和はそれを無視するかのように、ヨサークへと振り向いた。
「さあ、ここは俺が受け持ちますから、貴方は谷の中央へ……」
既にその息は荒く、今にも撃墜されそうである。
「そうだ、貴方に言い忘れていたことがありました」
大和は襲い来る悪魔の魔法をどうにか自身の魔法で防ぐと、それがヨサークのところまで漏れぬよう必死で抑えながら彼に告げた。
「実は俺も……あの散々悪さをした島村組の一員だったんです。俺たちはただ、貴方とフリューネをくっつけたかった……そうすれば貴方の見る風景も違ったものになると信じて……!」
「……」
黙ったままその言葉を聞くヨサーク。
「ですが、俺はヨサーク空賊団であることもまた事実です。複雑な気持ちですよ。島村組としての俺と、空賊団としての俺……ただ、これだけは言わせてください」
大和の手から、血が流れ出す。止めている魔法が、限界を超えようとしているのだ。
「どうか、ヨサークさん……女は敵だと決め付けず、色々な女性と会って、たくさん悩んでください……その中にはきっと、貴方が信じられるような女性も……それが、俺の望み……!」
ばちん、と魔力が弾け、大和は悪魔の魔法をその体に受けた。
「馬鹿野郎、おめえは何があってもヨサーク空賊団の団員だ! 勝手に複雑な気持ちになってんじゃねえ!」
それを聞いた大和は、息も絶え絶えに悪魔の箒をがしっと掴んだ。
「……離しなさい」
しかし大和はぎゅっとその箒を掴み、離さない。
「早く! 中央へ!」
「……耕されんじゃねえぞ」
ヨサークはあえて彼の方は見ず、そのまま飛空艇を走らせた。
◇
ヨサークとフリューネはそれぞれ様々な襲撃を受け、もはや戦場は混沌としていた。が、それでもフリューネとヨサークは谷の中央で雌雄を決すべく、その距離を確実に縮めていた。飛空艇を飛ばすヨサークだったが、その時戦場に大きな声が響き渡った。それは、数人分の声。
「ちょっと待ってくださいっ!」
その凛とした声は、場の喧噪を沈めるには充分だった。生徒たちの視線が一手に声の発信源へと注がれる。そこにいたのは3人の男子生徒で、彼らは顔を見合わせるとそれぞれの向かう場所へと素早く移動した。フリューネのところに誰かが行ったのと同じように、ヨサークのところにもそのうちひとりがやってくる。それは、先ほどまで中央の谷でヨサーク部隊と戦っていたルイ・フリード(るい・ふりーど)だった。ルイは真面目な顔つきで、ヨサークに説得を試みる。
「貴方たちが求めているユーフォリア、あれは、権力の象徴なんかではありません! あれは、フリューネさんにとって大切なものなんです! だから出来れば、このまま手をひいてはくれませんか?」
「……それは聞けねえな。大切なもんなんて、人によって、立場によって違うんだ。あのクソメスが何を大切にしてるかなんて知らねえが、俺には俺の大切なもんがある」
ヨサークがこう返すことは、想像出来ていた。ルイはそれでもどうにかこの戦いを止めさせようと、頭を懸命に働かせる。そして彼は思い至った。ヨサークとフリューネ双方を脅かす、あの存在に。
「ならせめて、せめてあの十二星華にだけは渡さぬよう、一時的でいいから手を組んではくれませんか? ユーフォリアは、その後でどっちが手にするか話し合いで決めてもらえればいい。とにかくあの者たちに渡すことだけは避けなければいけません! あの者たちの手に渡った場合、とても嫌な予感しかしないのです!」
ルイは身振り手振りを交え、どうにか休戦と協力を呼びかける。その一方で、同じようにフリューネ側で説得をしていたリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は自身の超感覚でこの場の誰よりも早くおぞましい気配に感づいた。途端に、彼を急激な悪寒が襲う。それは、身を突き刺すような、刃にも似た鋭く不吉な気配。リュースはバッと上を向いた。満月を背に、黒い影が向かってくるのが見える。確認せずともその体の震えが告げていた。
――十二星華だ、と。
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