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謎の古代遺跡と封印されしもの(第2回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第2回/全3回)

リアクション


・「上」を目指す者達

 第二層の入口近くで、夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)はサンドゴーレムと対峙していた。ゴーレムの初撃はパートナーのデュランダル・ウォルボルフ(でゅらんだる・うぉるぼるふ)が受け止めている。
「出来れば戦いたくはなかったのですが……仕方ありませんね」
 大鎌を構え、ゴーレムへと向かっていく。デュランダルは後方からのサポートだ。こちらは光学迷彩でまだ姿を消したままであった。
 彩蓮がゴーレムの膝下を刈り取るのと同じタイミングで、別の影がゴーレムの頭部を貫いていた。
「私もお手伝いいたします!」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)だ。ゴーレムと一人戦おうとする彩蓮を発見し、応援に駆けつけたのだ。
「ありがとうございます。助かります」
 二人がそれぞれ武器を構えたままゴーレムを注視する。頭部を失い、足を切られたものの、まだ腕を動かす事は出来るようだ。
「まだ、動きますか」
 セリナはゴーレムの右腕、彩蓮は左腕をそれぞれ切り落とす。それからゴーレムに向き直り、二人で胴体を薙いだ。
 ゴーレムはゆっくりと崩れ、ただの砂の塊となった。
「倒した……みたいですね」
 入口の前にいるゴーレムはこの一体だけのようだった。
「ええ。でも、このフロア全体でこの一体だけとは限りません――あれは?」
 彩蓮は通路の奥から迫る砂サソリに姿を視界に捉えた。
「できれば殺したりしたくはありませんが、そうも言ってられませんね」
 背後の簡易テントを振り返り、セリナが言う。
「私は他の方のためにもここを死守します」
「お願いします。私は、この先の敵を倒しに行きます。では、この場はお願いします」
 セリナが入口を、彩蓮がフロアになだれ込んだモンスターの殲滅を行う事になった。

     ***

「後ろは来た道、前にはモンスターですか……」
 途中までマッピング班として行動してたファレナ・アルツバーン(ふぁれな・あるつばーん)はパートナーのシオン・ニューゲート(しおん・にゅーげーと)と合流した後、第二層に戻っていた。前からは大量の砂サソリがなだれ込んできている。その奥にはサンドゴーレムの姿も見える。
「道か未知か。選ぶならさて、どうする?」
 困った風でもなく、むしろ楽しげなくらいにシオンはファレナに問いかける。
「そんなの当然――」
 シオンを一瞥し、答える。
「「後者でしょ!」」
 二人の声が重なる。同時に、既に砂サソリの群れに向かって動き出していた。
「ここを突破するには、こうしましょうか」
 ファレナは氷術を放ち、敵の動きを止める。砂サソリには大した戦闘力はないため、一度凍らせてしまえば適当に薙ぎ払うだけで蹴散らしていけた。一直線に敵が出現したらしき方向へと前進していく。
「この先が例の場所だけど……まずいですね」
 通路に立ちはだかるのは二体のサンドゴーレム。それまでの砂サソリとは異なり、二人で相手するには些か厳しい相手であった。
 その時、後ろからこちらに来る物音を彼女は聞いた。

「ティータイムが終わって探索を再開しましょう、というところでしたのに」
 砂サソリを実力行使で倒しながらその通路にやってきたのは、神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)である。右腕にはパートナーの装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)が取り付けられている。彼女の傍らではもう一人のパートナー、神楽月 マタタビ(かぐらづき・またたび)が不機嫌そうに木刀を振り回している。
「さっきの大きな物音はなんでしょう? こっちですかね」
 この先が最上階に通じているかもしないという事にはまだ気づいてはいないようだ。
 その横を鬼のような形相で勢いよく通り過ぎて行く者がいた。ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)である。襲いくる砂サソリをものともせず、それらを交わしながらファレナ達のいる通路へと入っていく。
「オラァ! サソリ共、ナガンの邪魔をするなァ!」
 何かへの怒りをぶちまけるかのように、ナガンただひたすら駆け抜けていく。
(敵がうじゃうじゃと沸いてきてるぜ。こっちには何かあるに違いないぜ!)
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)もまた、この場所までやってきた。
(誰かがこの辺りの敵を倒してくれたのはラッキーなんだぜ。ん、あれはなんだ?)
 ミューレリアの前に見えたのは、立ち尽くしているファレナとシオンの影と、奥の二体の大きな影。
(ありゃあ避けて通るのは難しそうだぜ……)
 光学迷彩は解かずにゴーレムの近くまで寄っていく。

「他に誰かいれば突破口が開けそうですが……」
 ファレナが振り返ると、真っ直ぐに突っ込んでくる道化師姿があった。ナガンである。そのまま跳躍し、渾身のストレートパンチをゴーレムの一体に喰らわす。
「道塞いでんじゃねェぞコラァ!!」
 だが、サンドゴーレムの胴体に穴こそ開いたものの、それが致命的なダメージになってはいなかった。
 しかしその攻撃は一瞬の隙を生み出すことに成功していた。
「今のうちに実力行使です!」
 九十九は臆することなく、もう一体の方のゴーレムに飛び込んでいく。だが、敵の巨大な腕は見かけ以上に早く動いていた。攻撃体勢の九十九だが、真正面から行けば相手の方が勝る。
 だがその時、ゴーレムの腕が凍りついた。
「援護します!」
 ファレナが氷術を使い、ゴーレムの動きを阻む。それでもゴーレムはすぐに自らを構成する砂を組み替え、動けるようになる。
「倒すには回復の時間を与えないようにしなければいけませんか」
 ファレナは冷静に分析し、その事実に気づいた。
 少し前、彩蓮達がゴーレムを倒せたのは単純に手際が良かったからだ。ただ、それでも砂と魔力の供給がある限り、いつ復活してもおかしくはない。
「ならば僕も」
 シオンはバニッシュでゴーレムを攻撃する。それらはゴーレムに対して有効であるようだった。
 接近しているナガンと九十九達で直接の打撃を加え、後方からファレナ達が魔法で援護する。しかし、攻撃はそれだけではなかった。九十九と戦っているゴーレムの頭部が爆ぜたのだ。
(ここにもう一人いるんだぜ)
 身を隠していたミューレリアが隙を見てゴーレムに一撃を加えたのだ。さらにもう一人の姿があった。彩蓮だ。パートナーのデュランダルの姿は光学迷彩のために見えない。
「ゴーレムの弱点は、足です」
 前の戦いの時のように、大鎌でゴーレムの足元を薙ぐ。ナガンの側の敵だ。体勢を崩したゴーレムは、動きが鈍くなる。どうやら足場を回復するには時間がかかるらしい。
「今です!」
 合図とともに、後方組は魔法による攻撃を二体に与える。デュランダルのスプレーショットも同時にゴーレムに迫る。
 続いて、近接組がゴーレムへのとどめを刺しにかかる。
「ぶるぁぁぁぁ!!!」
 九十九のドリルが叫びを上げる。その一撃は、ゴーレムの巨体の中心に大穴を空けた。そしてもう一方では、
「さっきから調子ブッコいてんじゃねぇぞォ砂野郎ォ!!」
 ナガンが手に持っていた本――遺跡の守護所の魔力供給用であるダミーの魔道書をゴーレムに叩き込む。その魔力は暴発し、敵の体内で爆ぜた。ゴーレムは崩れ落ち、ただの砂の塊となった。
「ふう、終わりましたか。皆さん、ケガはありませんか?」
 彩蓮がその場の者を見据える。
「私達は大丈夫です」
 ファレナとシオンは後方という事もあり、ほぼ無傷であった。
「私はかすり傷程度です」
 九十九やマタタビはゴーレムと接近していたこともあり、軽症を追っていた。
「腕が痛ェよォ」
 渾身の一撃を放ったナガンはかなり腕を痛めているようだった。それだけでなく、先程の爆発の反動も受けているようだった。
「結構な深手ですね。では治療を」
 彩蓮は天使の救急箱を取り出し、ナガンから治療に当たる。
「軽症ならヒールでも大丈夫かな?」
 その間にシオンがヒールで九十九を回復する。
「ありがとうございます。楽になりました」
「おお、痛みが引いたぜ。ありがとよォ」
 ケガはある程度回復したようだった。ナガンは痛みが引いたと分かるや否や、すぐに先へと駆け出していった。
「こうしちゃいられねェ。まだやることがあんだよォ!!」
 止める隙を一切与えず、走り去ってしまった。
「あんなに急いでいるということは、やはりこの先に何かあるんでしょうか?」
 治療こそすれ、彩蓮は今のナガンの行動を見て、警戒を深めた。その姿もこの場においては異様ながら、行動自体もまったく読めない。
「実は、この先に怪しげな場所があるんです。上の階に行けそうなのが。さっきの物音といい、モンスターといい、上への道が開かれた気がします」
 ファレナが事情を説明する。
「なるほど、まだ上があるかもしれない……というわけですか。ここにきて遺跡が動いたということ、それにモンスター。上があるとしたら、そこには危険な何かが隠されてるかもしれませんね」
 と、彩蓮が懸念する。
「行ってみましょう。あなた方はどうします?」
 ファレナは九十九の方を見やる。
「ドリルを扱う者ならば、やっぱり目指すは頂上……です!」
 彼女もまた上を目指すようだった。
(何やらこの上にはとんでもないものがありそーだな。こうしちゃいられないぜ。さあ、トレジャーハントの始まりだぜ!)
 姿を隠してファレナ達の会話を聞いていたミューレリアは通路の奥へと歩き出していった。


 一行は上層階への存在が疑われていた場所に差し掛かった。そこには最初に調べたときにはなかった階段が出現していた。
「やはり上階はあったみたいですね」
 ある程度予測していたものの、実際に目の当たりにするとファレナは驚かずにはいられなかった。
「上りましょう」
 五人(六人?)は階段を上り上層――第一層へと足を踏み入れた。