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リアクション
第二章 嵐に立ち向かう者たち
現在、蒼空学園の校舎はほとんどが吹雪による雪に埋もれ、使用可能な出入口は一つしかない。
未だ続く猛吹雪の影響で、ガタガタと揺れる扉。
校舎内で心配そうに校庭の様子を伺う生徒達の間を、明るい声とイイ匂いが横切っていく。
クイーン・ヴァンガードの制服に身を包んだエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)とディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)が生徒達に甘酒や粕汁を配っている。
校庭を見て、ため息をつくエクス。
「ボクも雪遊びしたいけど…それどころじゃないみたいだね 」
浮かない顔のエクスにディミーアが答える。
「私情でクィーン・ヴァンガードを使うカンナ様にも困ったものね……。でも今は凶司の方が正論だわ。これ以上、悪評が広まらないようにしないと」
「ぼ、ボクはキョウジの玩具じゃないのに……」
「私だってそうよ。だけど凶司も大変よね。広報部としてクイーン・ヴァンガードと生徒側の緩衝役をやりつつ、迅速に事件の解決をしなきゃいけないなんて」
そこにやってくる肩を怒らせた【ケンリュウガー】の衣装を着た武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)とそのパートナーのリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)、重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー) がやってくる。
「クイーン・ヴァンガードども!」
振り返るエクスとディミーア。
「情けない! 何故、貴様らは校長の私兵状態なんだ?警察組織でもないし、もはやただの暴挙の集団としか言えんな!!」
「安っぽい正義は見ていて醜悪……本当の正義のヒーローの邪魔だから消えて」
「暗黒卿リリィに同感です。あなたたちは悪です。私たちの勝率は0%でしょうが、確率なんて必要ありません」
エクスが慌てて反論する。
「待って、待って! ボクらはただ……」
武神がエクスの言葉を遮るかのように、高周波ブレードを振るい、地面に線を引く。
「その線を越えたら攻撃する!卑怯にも、今度は生徒をモノで買収しようとする悪党め」
ピリピリとした不穏な空気を壊すように現れたのは、妖艶な色気を振りまくセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)である。
「はーい! クィーン・ヴァンガードのネフィリム三姉妹でーす。ちょっと、エクス、ディミーア、Webサイトの宣伝ちゃんとしてるの?」
「セラフ姉さん!!ダメ、その線を越えちゃ……!!」
セラフが武神のつけた足元の線を超えると同時に、攻撃態勢に入る武神達。
「ストップ!!そこまでにしなよ」
数名のクイーン・ヴァンガードを引き連れた水上 光(みなかみ・ひかる)が両者の間に割って入る。
「確かに強制排除の命令が出てるのは事実だ、でもボクはそれをするつもりはないよ。それに、ボクらの邪魔をするよりも、この状況を何とかするのが先決なんじゃないかな?」
言葉に詰まる武神達を見て、にこりと笑う水上。
水上に首根っこを掴まれて空中ダッシュしているパートナーのモニカ・レントン(もにか・れんとん)も言う。
「私は愛を伝えるべくいくのです、邪魔しないでくださいまし」
水上とモニカは皆に頭を下げて、校舎から校庭へと出て行く。
二人を見送った武神達が、照れたように笑い合ったその時、
――ドオォォォーーンッ!!
突如校庭の雪に隠れていたゴーレムが、水上を襲う。
不意打ちを喰らって、吹き飛ばされる水上とモニカ。
その様子をパラミタ虎に騎乗したシーラ・カンス(しーら・かんす) がパイルバンカー片手に見ている。
クイーン・ヴァンガード達は慌てて剣を抜くが、落とし穴やワイヤートラップが発動する。
校庭からユラリと陽炎のように現れる志位 大地(しい・だいち) 。
「何だ!キミは!?」
「いえね……」
志位が、静かに眼鏡を外し、クイーン・ヴァンガードの目の前で篭手型HCを装着する。
「それ、篭手型HC!?何で持っているんだ!?」
「私は、ただ単にあなた方が気に食わないだけですよ」
トリッキーな動きで星輝銃を放つ志位。
集団戦闘に長けたクイーン・ヴァンガードは、難なく避けるも、ゴーレムとトラップにより苦戦する。
また、志位の星輝銃も猛吹雪のため、標準がずれてしまい、命中しない。
暴れていたゴーレムが、一瞬の光により、粉々になる。
「あれぇ? 今の轟雷閃!? 誰ぇ!?」
シーラが光を放った方向を見ると、コタツに入ったアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が高周波ブレードをコタツの中にしまっていた。
「クイーン・ヴァンガードが本校の生徒、しかも女生徒に対して力で事件を解決なんて、評判ガタ落ちしてしまいます」
「事件解決後、双方の評判が落ちないように手を回しておきたいので、一足お先に私、ブリッツさんのところに行きますね?」
コタツに入ったまま、静かに両者の間を通過していくアリア。
志位がアリアに声をかける。
「女王候補宣言であれだけの醜態を晒して、先日の寝所でもまた醜態を晒して、よほどのマゾ集団なのですね?」
「みんなの笑顔のために、私は負けない!がモットーなもので」
同じ頃、蒼空学園の校長室、湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)が気難しい顔で、目の前の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)と影野 陽太(かげの・ようた)の麻雀勝負を見守っている。
「リーチです!」
大物手を張った影野が渾身のリーチをかけるも、御神楽環菜は手をスッと出し、
「リーチ棒は要らないわ、ロンよ」
「そ、そんな……」
湯上が影野に話しかける。
「これで影野さんの負けた総額は、一般市民の平均年収を突破しましたが……」
影野、頭を振り、
「いや、まだです!まだもう一度勝負できます!」
「何を賭けるの?もうお金はないんでしょう?」
「僕の……人生を、賭けます!!負けたら、環菜様の奴隷になります!!だから、クイーン・ヴァンガード本隊の出兵を賭けてもう一度、勝負して下さい!!」
環菜は口の端をスッと上げ、頷く。
ため息をつく湯上の携帯電話が鳴る。
「失礼」
少し離れた場所で電話に出る湯上。
「僕だ……なんだセラフか、何!? 生徒達がっ!?」
環菜が湯上をチラリと見て皮肉めいた笑いをする。
「広報部も大変だな……」
湯上が携帯電話を切り、環菜に話しかける。
「環菜様、夕方4時まではクイーン・ヴァンガードは生徒達に協力、それまでに解決できなければ強制排除、という案をもう一度再考して頂けませんか?」
「くどいわ。私、寒いのって本当に嫌なの。ということは、みんなも嫌でしょう? だから要請したのよ、アレを潰して、原因を排除しなさいって」
「ですが、女王候補のクイーン・ヴァンガードを私兵いえ、秘密警察のように扱うなど……いくら環菜様でも……」
「あなた……何か考えているようだけれど、少し踏み込みすぎよ? 私が気がつかないと思って?」
環菜の言葉に湯上は苦虫を噛み潰したような顔になる。
そして、影野の配牌は未だかつて無いほどの極寒状態であった。