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女空賊に憧れる少女を救出せよ!

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女空賊に憧れる少女を救出せよ!

リアクション

 『シャーウッドの森空賊団』の船が戦端を開いた数瞬後、商船を装った船ともう1隻の飛行船も戦線に合流する。さらに、情報を聞きつけて蜜楽酒家の周囲で待機していた冒険者たちも、続々と空中戦に参加する。
 今や、タシガン空峡は飛空艇同士の空戦場と化していた。

「あなたたちの好きにはさせないっ!」
 大空に飛び出したアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が、『スズちゃん』と名付けたサンタのトナカイをまるで手足のように挙動させ、空賊と互角、いやそれ以上に立ち回る。
「コイツ……素人じゃねぇ! 見かけは変だが、腕は相当のモンだ!」
 ドッグファイトを開始した空賊に戦慄が走る。アリアの駆る愛機は加速、減速、旋回の際に生まれる動作のもたつきがほとんどなく、空賊もうかつに攻撃を仕掛けられないでいた。
(フリューネさんとの鍛錬で身につけた動きを思い出して……!)
 牽制に放たれたボウガンの矢を難なく避け、お返しとばかりに雷の一撃を生み出す。牽制のつもりの一撃だが、防御は基本的に考えられていない飛空艇には、それでも十分な一撃となって跳ね返ってくる。
「く、くそっ! 俺は一旦船に戻る!」
 挙動のおかしくなった飛空艇を懸命に操って、空賊の一人が船へ戻っていく。
「チクショウ! よくもやりやがったな!」
 敵討ちとばかりに別の空賊が飛空艇を操り、強引に近接戦へと持ち込む。アリアの視界に、カットラスを振りかざす空賊の姿が映る。
(目を逸らさないで……敵が攻撃をした、その隙を突く!)
 湧き上がる恐怖心を抑え込み、アリアが敵の攻撃を避ける。怒りの一撃を避けられ、背中を向けた空賊に、もはや抵抗する術はなかった。
「雷の閃きよ!」
 生み出された雷を、空賊の予想進路へ向けて放てば、その通りに飛んでいった空賊と彼の駆る飛空艇を雷が撃ち抜き、爆発と煙が生じる。
「ち、ちっくしょおぉぉぉ!」
 制御不能となった飛空艇から、最後の抵抗とばかりに空賊がボウガンを放つが、それすらもアリアには予想済みであった。
(最後まで油断は禁物、ね)
 既に十分な距離を取っていたアリアは、突入をかけようとする仲間を援護するべく、次の戦場へと愛機を走らせていった。

「それじゃ作戦確認。私はスキルフル稼働で遠近問わず敵を一人ずつ集中狙い、キューは術や奈落の鉄鎖でフォローをお願いね」
「うむ、心得た」
 飛空艇を駆るリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の指示に、キュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)が理解したとばかりに頷く。
「フィス姉さんも基本はスナイパーライフルでなるべく反撃されないよう攻撃、接近されたらスプレーショットで時間を稼いで。出来るだけ援護に向かうから。……姉さん?」
「……え? ああゴメンゴメン、ちょっとね」
 思いに耽っていたシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が、取り繕いながらリカインから作戦を聞き直す。
「うん、分かった。旧クイーンヴァンガードの力ってやつを見せ付けてあげちゃうから。……もっとも、こういうのは今の時代の技術だけどね」
 シルフィスティにとっては、今自分が乗っている飛空艇も、手にした銃も『過去の自分にはないもの』だった。
「無理しないでね。……そしてアストラ、あんたは的。骨くらいは拾うから安心して撃墜されなさい」
「おーい、リカインさーん。俺だけ明らかに色々と違うんですけど!? おまけに的になれだと!? ふざけんな、だいたい縛り付けられてちゃ迎え撃つことも出来ねーだろうが!」
 リカインの飛空艇に曳航されていた大凧にくくりつけられていたアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が、抗議の声を上げる。
「それじゃ、後に続く人たちのためにも1人でも多く削いでおくわよ」
 その言葉を完全に無視して、リカインがキュー、シルフィスティと作戦を確認し合って頷く。
「こら、無視していくんじゃねえこのバカ女! くっそ、ぜってえ落ちてなんかやらねえからな、終わったら覚えておけよ!」
 復讐を誓ったアストライトだが、その後、襲いかかってきた空賊に繋がれていた紐を切られ、為す術もなく気流に流されていった。的になったわけでもなく、リカインにとっては機動力の枷となっていたアストライトを切り離したことでむしろ身軽になったので、彼の戦術的価値は無意味といって差し支えないだろう。
「すまない、アストライト。リカを疎かにするわけにもいかなかったのだ……」
 アストライトが流されていった方向へ黙祷を捧げながら、キューがリカインの援護をするべく飛空艇を操作し、攻撃飛び交う戦場へと向かっていくのであった。

「見てください、今ここで行われているのは、巷で話題になっている空賊の日常です。華やかと思われている空賊の世界は、実際は血を血で洗う弱肉強食の世界なのです。襲撃と略奪、いつ自分が命を奪い、また奪われるやも知れぬ世界なのです」
 ニュースキャスターのような凛とした声を発して、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が現場の様子を実況していく。カメラを回すのはアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)が、操縦はミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)が担当し、飛空艇はゆっくりとした動きで戦場となっている空域から離れた場所を旋回する。
「この放送を聞いて、少しでも空賊狩りに対する偏見が収まってくれるといいのですが」
 ミラベルがカメラを回しながら、空賊狩りが少女の間に羨望の的として映ってしまっている現状を憂う。
「空賊狩りをする事の難しさや怖さを分かってもらえば、こんな事が二度と起きない様になるでしょうか……」
 フリューネのような生き方は格好良いと思いつつも、それを真似していらぬ犠牲が増えるようになれば、それは本人のみならずフリューネにも迷惑がかかることになりかねない。そういった影響を危惧した優希たちは、空賊に対して悪いイメージを抱かれることを勘案した上で、あえて厳しい見方で現場を実況しているのであった。
「何をするにしたって、正しい情報は必要だ。それを知った上でなお事を為そうとするのなら、そこまでは言えた義理もないがな」
 アレクセイの言うように、間違った情報で犠牲になってしまうのは防がなければならない。しかし、正しい情報を得て、それでもなお空賊狩りをするという選択をするのであれば、それはもはや自己責任のレベルである。自分の命を自分で守りながら、自分が空賊狩りとして何を為せるかを考えて行動するのであれば、他からアレコレ言われる筋合いはないのである。それは空賊も同じことで、要するに空賊も空賊狩りも根底では同じ血が流れているのである。
「アレク、フリューネさんは来ていますか?」
「いや、今のところはまだ……待て、この気配は……」
 優希に一時的に操縦を委ね、アレクセイが持ち込んだカメラを気配のした方へ向ける。
「……来たぞ、ペガサス女が」

「もう戦闘が始まってるわね……」
 あちこちで繰り広げられているドッグファイト、巻き起こる爆風と硝煙を目の当たりにして、フリューネが思案する。一旦戦端が開かれてしまえば、どちらか一方が戦力を喪失するまで戦いは止まない。それはフリューネをもってしても、そうそう止められるものではない。
「……兎にも角にも、囚われた学生の安全を確保するのが第一ね。シュヴァルツ団は、任せておいても大丈夫よね」
 空賊との戦いを繰り広げている面々の中には、フリューネが見かけたことのある、同じ戦場で共にしたことのある者も含まれていた。彼らならそうそう落とされる心配はないだろう、そう踏んだフリューネは目的を果たすべく、エネフをヴィルベルヴィント号へ向けて大空を翔けていく。

「勇、噂の彼女が来ましたよ」
「えっ、どこどこ!? ……う〜ん、いつ見てもフリューネさんは素敵だねえ」
 ラルフ・アンガー(らるふ・あんがー)の言葉を受けて、空賊という現場の厳しさを伝えようとカメラを回していた羽入 勇(はにゅう・いさみ)が、思わずフリューネに見惚れる。空賊は憧れの存在ではないと思いつつも、フリューネ個人に対する羨望というか憧れのようなものは、年頃の少女には等しく持ち合わせているものなのかもしれない。
「……ハッ! いけないいけない、こんなことをしている場合じゃないよ! ボクは現場の厳しさをきちんと皆に伝えなくちゃいけないんだ」
 気を取り直して、勇がカメラを戦場のあちこちへ向ける。空賊と冒険者とが携える剣と剣が交錯し、動力炉を損傷した飛空艇が空中で、あるいは気流に流されて浮遊岩に激突し、爆散する様子が、勇の構えたカメラを通して伝わってくる。
(勇、あなたは取材となると自分の危険には疎くなりますね)
 ラルフが心に思うように、勇は取材のこととなると感情だけで突っ走ってしまい、それは時に自分の身を顧みない行為に繋がっていた。本人は冷静に行動しようとしているのだが、なかなか意識が行動に反映されず、今もカメラを回すあまり、飛空艇の操縦も周囲の警戒も十分に行っていなかった。
(でも私がいる時は、後ろの事は気にしないで前に進んで下さい。降りかかる火の粉や悪い虫からあなたを守るのが、私の役目なのですから)
 微笑を浮かべてラルフが、危地に果敢に飛び込んでいく勇を守るべく飛空艇を操作する。その背後では、二人をここまで乗せてきた飛行船が、これまでの戦果、そしてフリューネがこの場に現れたことで戦況が冒険者側に有利に傾いていると判断して、ヴィルベルヴィント号に肉薄するべく進路を取っていた。
「キャーフリューネサーン! きっと来ると思ってたよ!」
 飛行船の操縦を司る部屋では、フリューネの恰好をした――いわゆる『フリューネ景気』に乗った――リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が、他の者が出払ったのをいいことに一人艦長ごっこの気分に浸りながら、ヴィルベルヴィント号へ迫ったフリューネを追うべく船を前進させる。
『パッピーガール、無闇に進んでは船を危険に晒すことになりますが』
 甲板から、重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)の通信が届く。
「うっさいわねポンコツ! あたしのフリューネさんへの思いを邪魔しないでよ!」
 直後、飛行船が激しい衝撃に揺らされる。
「ちょっと、弾幕薄いんじゃない!? 何やってんのよポンコツ、そんな重装備してんだからもっと働きなさいよね!」
 リリィに散々こき下ろされたリュウライザーが、ロボらしからぬ溜息をついて、両肩のミサイルポッドを展開させる。
「マスターの援護もしなくてはならないというのに……」
 案外苦労性なところを垣間見せて、リュウライザーが計12本のミサイルを大空を舞う空賊の飛空艇へ向けて放つ。
「へっ、こんなポンコツに俺たちの船が落とせるかよ!」
 ミサイルの追尾を、巧みな操船技術で無効化していく空賊たち。結局リリィにも、そして空賊にもポンコツと称されてしまったリュウライザーであった。
 だが、彼のしたことは決して無駄ではない。
「よそ見をしていていいのかな?」
「何っ!?」
 声が聞こえたのと、すれ違いざま武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)の繰り出した斬撃が空賊の飛空艇を切り裂くのはほぼ同時のこと。
「ぐあっ、こ、この野郎!」
 制御不能となった飛空艇を捨てて脱出を図る空賊。一機を落とした牙竜は『ケンリュウガー』の衣装に身を包み、リュウライザーの肩パーツを噴射させ、ブレード二刀流という出で立ちで空賊たちの編隊へ突っ込んでいく。
「ワケ分かんねえ恰好しやがって! 二刀流ったって、両方狙えばどっちか落とすだろ!」
 空賊がボウガンを連射し、牙竜の利き腕でない方のブレードを叩き落とす。
「やるな! だが一本でも受けてみろ、ケンリュウガーサーカス!!」
 牙竜がブーストを噴射させ、全方位からの突然の斬撃を浴びせていく。空賊はそれに三度耐えたが、四度目の斬撃で飛空艇を破壊され、悔しがりながら戦場から姿を消すこととなった。