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女空賊に憧れる少女を救出せよ!

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女空賊に憧れる少女を救出せよ!

リアクション

「おうおう、俺たちの船に勝手に入ってきたのはお前たちかぁ!? 俺たちを誰だと思ってんだぁ!?」
 船内の捜索に当たっていたミレーヌ・ハーバート(みれーぬ・はーばーと)の前に、空戦を生き残った空賊の一人がボウガンを構え、矢を放つ。咄嗟に物陰に隠れたミレーヌの直ぐ傍に、ボウガンの矢が突き刺さる。
「……この先に、シズルがいると見ていいのかしらね」
「だろうね。俺たちが探していないのは向こうに見える部屋だけだからね」
「じゃあさっさとぶっ飛ばして行くしかないな。そろそろ飛行船自体がヤバそうな気がするぞ」
 飛行船の損傷具合を気にかけていたアーサー・カーディフ(あーさー・かーでぃふ)が呟いて、ミレーヌとアルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)に力の加護を施す。
「それじゃ行くわよ……いち、にの、さんっ!」
 身体を駆け巡る力を頼もしく感じながら、ミレーヌが物陰から飛び出し、空賊へ間合いを詰める。
「へっ! のこのこ出てきやがって、どこにも逃げ場はねぇぜ!」
 正面から向かってくるミレーヌへ、醜悪な笑みを浮かべた空賊がボウガンを構えた矢先、ミレーヌの身体が少しだけ端に寄る。
「それは君も同じことじゃないかな?」
 既に銃を構えていたアルフレッドの放った弾丸は、空賊の持つボウガンを粉々に打ち砕く。
「ちくしょう! こんなものがなくったって!」
 ボウガンと片腕を損傷しながら、もう片方の手にカットラスを持ち、必死の形相で空賊が襲い掛かる。
「残念だけど、あたしにだって譲れない道ってのがあるのよ!」
 振り下ろされた一撃を避けて、ミレーヌの振り抜いた剣がカットラスを吹き飛ばす。もう片方の腕も損傷した空賊は勢いのままに吹き飛ばされ、扉に頭を打ちつけて気絶する。
「ちょうど扉を開ける手間が省けたわね。行くわよ!」
 戦闘が終わったのを確認して、剣をしまったミレーヌが駆け出し、アルフレッド、アーサーが背後に続く。扉まであと少しといったところで、中から複数の人影が現れる。その内の一人は、先程倒した空賊と同じ姿形をしていた。
「まだ空賊が!?」
 慌てて剣を抜きかけたミレーヌの前で、吹き抜けた風が空賊の姿を見せていたアシャンテ・グルームエッジの姿を露にする。他に集まっていたクルード・フォルスマイヤー、レン・オズワルド、リアトリス・ウィリアムズに守られる形で、やや疲れた表情のシズルが姿を現す。
「よかった、無事だったのね! ホント、心配したんだから!」
「ごめんなさい……」
 先にシズルの元へ辿り着いた者たちに、今回のことを十分反省させられたようで、シズルは大人しく自らの非を認めて一行に頭を下げる。
「言いたいことはあるだろうけど、今はここから逃げなくちゃだね。いつ船が沈んでもおかしくないよ」
 リアトリスの言葉に一行が頷いたその時、大きな振動が船を揺るがした。

「シズルさーんいませんかー? いないなら燃やしますよー?」
 言うが早いか、部屋に人影がないことを確認したマリオン・クーラーズ(まりおん・くーらーず)が、言葉通りに火術を放って部屋を火の海と化す。
「……オレが言うのもなんだけどさ、マリオン、すげえ危険人物みたいだぜ」
「え、ええっ!? そ、そんなつもりはないんですが……」
 大野木 市井(おおのぎ・いちい)にツッコミを受けて、狼狽えるマリオン。確かに、目的とする人物がいないからといって放火するのは、危険人物と称されても文句は言えない。
「とにかく行くぞ。こっちでいいんだよな?」
「あ、はい。そっちで合ってますです、多分」
 マリオンの誘導に従って、市井が虱潰しに部屋を漁っていく。やがて辿り着いたのはシズルのいる部屋……ではなく、ほとんど機能を停止した動力炉のある機関室であった。
「……で、どうしてここに着くんだよ!?」
「あっ、あれ? おかしいですねえ……」
 首を傾げるマリオンに溜息をついた市井が、部屋の端に倒れ伏す人影を見つける。
「おい、誰かいるぞ」
「こんなところで寝ていたら、海に沈んで永遠の眠りについちゃいますね。運んだ方がいいと思いますよ」
「……誰が運ぶんだ!?」
「そりゃあもちろん」
 びしっ、と指を指され、再び溜息をつきながら市井が、意識を失った風森・巽を背負い上げる。
「ついでにこの動力炉、完全に止めちまえばいいんじゃね?」
「あ、いいんですか? いいんでしたらやっちゃいますよ? 後でどやされても知りませんよ?」
 念を押すマリオンに市井が頷いて、そして返事を受けたマリオンの呼び出した雷撃が、動力炉にトドメを刺したのであった。
 
「早く! 船に避難して! 一緒に沈みたいなら止めないけど!」
 浮力を失いつつあるヴィルベルヴィント号の甲板で、伏見 明子(ふしみ・めいこ)が声を張り上げて、冒険者の避難誘導を行っていた。各地で行われていた戦闘は収束に向かいつつあるが、生じた混乱と熱気の中では、船が今現在どのような状況下にあるのかが伝わりにくくなっていた。
「明子、そろそろ私たちも避難しないと」
 主の帰りを待つ鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)を始めとする者たちを心配させぬようにと、明子の護衛を務めていた九條 静佳(くじょう・しずか)が船の様子を伺いながら明子に進言する。
「分かってるけど……でも、クイーン・ヴァンガードがいち早く逃げたって知れたら、ただでさえ評判悪いのにもっと悪くなっちゃうじゃない!」
 明子が懸念するように、女王候補ミルザム・ツァンダを護衛する任を背負ったクイーン・ヴァンガードは、これといってめぼしい成果を上げていないと判断されているようで、最近はその存在意義すら問われるようになっていた。……もっともこれはクイーン・ヴァンガードに限らず、体制側が常に抱える問題なのである。何時の時代も、人間は自らを代表する者たちに過剰な期待を抱いては失望するのである。それでも、何も思われないよりはよっぽどマシなのかも知れないが。無視されるという評価が、人間にとってはもっとも堪える評価であるのかもしれない。
「とにかく草の根! こういうところから少しずつ印象を回復させていくのよ!」
 意気込む明子を、最近無茶が過ぎるようになってきたなあと思いつつ、結局自分も合わせていることに静佳が溜息をついた時、船内から複数の人影に護衛されたシズルが現れた。
「まったく、家族や友達も心配するだろうに、何でこんな無茶をしたんだ? 単なる憧れだけで空賊を目指すことが、どれほど周りを危険に巻き込むか、分かってるのか?」
 途中でシズル護衛組に合流する形となった高村 朗(たかむら・あきら)が、かつてフリューネと交流した際に聞いた彼女の、何故様々なリスクを抱えながらも空賊をやっているのかという理由を思い出した上で、シズルに問いかけていた。
「…………」
 頭の中で色々な考えがごっちゃになっているのか、次の言葉を紡げないシズルを見遣って、朗が口を開く。
「ま、俺も冒険家目指して色々やってるんだけど、空賊関連では結構痛い目見てるしなあ。……でも、俺は今、ここにいる。何があっても、夢を諦めるつもりはない。……だから、俺も無理に空賊になるのを止めろなんて言わない。結局、自分のやりたいことは自分で決めるしかないんだと思う。……もちろん、人の話は聞いてからにするべきだけどな」
 言い終えた朗の言葉を、聞き漏らすまいと真剣に耳を傾けていたシズルの視界に、大きく羽ばたくペガサスと翼を持った人影が映り込む。
「彼女も来ていることだし、後で話でも聞いてみるといいさ」
 朗の言葉に、シズルは表情を崩さぬまま、頷いた。

「……まったく、あの格好だけはどうにかならないのかっ……!」
 操縦室の方へと向かっていくフリューネを見送って、明子が溜息をつく。果たして面と向かってそう言われた時に、当の本人はどう答えるだろう――。