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【十二の星の華】夢の中の悲劇のヒロイン~小谷愛美~

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【十二の星の華】夢の中の悲劇のヒロイン~小谷愛美~

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 翌日。
 約束の浜辺に、人魚姫、愛美と王子、ソルファインの姿があった。
「王子様っ!」
 嬉しそうに跳ねる愛美に、ソルファインは近付いていくと、羽織っていた豪華そうなマントを取り外す。
 現れたのは、海パン1丁な王子の姿だ。
「僕は、普段、こんな格好で過ごしているんです。それでも姫、あなたは僕を運命の人だというのですか?」
 訊ねるソルファインに、驚いていた愛美は、ゆっくりと頷く。
「もちろん。海に入るには最適の姿じゃない! 一緒に泳ぐことが出来るわ」
 百年の恋も冷めてしまうだろうかという姿の王子に、幻滅することなく、愛美は応える。
「そう言ってくれるなら……。けれど、僕には、既に隣国の姫君との縁談の話もあります。それに、人魚姫を妻にするというなら民たちからの風当たりも……すぐにあなたを迎えに来るということはできません」
「約束してくれるだけで構わないわ。それだけでも嬉しいの。でも、もちろん、本当に迎えに来てくれるまで、毎日、逢いに来て」
 ソルファインの言葉に納得しながら、愛美は言う。

 こうして、王子と人魚姫の毎日の逢瀬が始まった。

 ある日の逢瀬にファイリアと刹那が同行していた。
「王子様と結ばれたら、あとはどうするか決めているですか?」
 王子との話を終えた愛美に、2人は近付いて話を持ちかける。
「末永く幸せに暮らすの」
「お話の枠の中だけで、幸せか不幸か決めちゃうのもかわいそうだと思うのです。人魚姫さんと王子様が結ばれなくても、次の幸せを探せるように出来るなら不幸にはならないと思いますですっ。愛美ちゃんも、好きな人に振られたからといって、あきらめたり死んだりしようとか思ったりしないですよね?」
 応える愛美に、ファイリアは言葉を続ける。
「もちろん。それに王子様はあれから毎日、逢いに来てくれるのよ? 振られるわけないじゃない」
 彼女の言葉に頷きながら、愛美は言う。
「私は、上手く望みの姿に変われなくて、ずーっとお兄ちゃんお姉ちゃんになってくれる人が見つからなかった、ダメアリスだったっスよ。でも、お姉ちゃんはそんな私でも気にせず妹にしてくれる、って言ってくれたっス。私、そんなお姉ちゃんの妹になれて本当に良かったと思うっス!」
 今ひとつファイリアの話を理解していないように思える愛美に、刹那が代わって言葉を紡ぎ始める。
「だから、悪い事が不幸な訳じゃないと思うっス。悪いことでも幸せにつなげられること、あると思うっス! 幸せを追い求めるだけじゃなくて、幸せにつながる終わり方もあるんだってことも考えてもらいたいっス、愛美さん!」
 刹那の言葉にも愛美は頷いて、ゆっくりと口を開いた。
「何だかそんなに言われると、考えなきゃって思いになるね。2人の言葉、忘れないようにしておくわ。でも……王子様に振られることはないんだから!」
 ファイリアと刹那の言葉に、やや心を動かされた愛美。
 またね、と告げて、その日は海の中へと帰っていった。



 ハッピーエンドにするには、人魚姫を王子が受け入れるだけでなく、隣国の姫との縁談話に区切りをつけたり、民たちに人魚姫が妻となることを認めさせねばならない。
「民への根回しはお任せを」
 王国の特殊部隊に属する密偵として、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は告げる。
 民たちへ流す情報に先駆けて、『人魚』に対する友好的な印象を与えていこうと思っているのだ。
 サングラスにブラックコートと典型的な悪役スタイルのエヴァルトは町へと繰り出して、早速、情報を広げていく。
 港で働く民には、海の上で時化に遭っても人魚が助けてくれるかもしれない。
 魚屋で働く民には、美味しい魚の取れる場所を教えてくれるかもしれない。
 一般の民――主に男性には、美しい人魚の姉妹と知り合いになれるかもしれない。……などなど。
 それと同時に、人魚の噂を聞き、彼女らを悪事に利用しようとする者がいるという話を聞くと、その者のもとへと赴き、考えを改めさせた。
 次第に、民たちも人魚姫が王子の下へと嫁いでくるのを楽しみにし始める。

 そうしてくると、王子を良く思わないものも出てくるわけで、ある日の朝、ソルファイン王子は石像と化していた。
 幾人かの側近、メイドたちも石像にされてしまっていたのである。
 代わりに、ゲー・オルコット(げー・おるこっと)が王子を演じ始めた。

「王子、今日も人魚姫のところに行くんですかー?」
 ゲー・オルコット王子の側近を演じる藤波 竜乃(ふじなみ・たつの)が訊ねる。
「そんなことあるわけないだろう。魚と人間が結婚できると本気で思っているのか?」
 笑う王子は、人魚を完全に魚扱いしているようだ。
「それより、隣国の姫との縁談はどうなっている?」
「縁談を受けるにしろー、断るにしろー、見合いはしろと大臣たちが言ってましたー」
 ゲー・オルコットの言葉に、竜乃が応える。
「見合いか。そんな生ぬるいことはせずに、すぐさま、婚姻関係を結んで、領土を増やすでもいいんだがな」
 隣国の姫もゲー・オルコットにとっては、領土拡大の道具に過ぎないのだ。

 この日以来、浜辺へ王子が姿を見せることはなく、人魚姫、愛美は待ちぼうけの日々を過ごす。