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【十二の星の華】夢の中の悲劇のヒロイン~小谷愛美~

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【十二の星の華】夢の中の悲劇のヒロイン~小谷愛美~

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第4章 やはり私は貴女を愛している

「娘が人間に嫁ぐとは、と嘆いている間に、気づけば娘は石像にされてしまっていました。それもこれも王子が娘を振ったからだと聞きましたよ!?」
 ゲー・オルコット王子のところに、怒鳴り込んできたのは人魚姫のパパ、もとい、海の王、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)だ。
「こちらの、海の王さまの言うとおりだ、王子。浜辺に見慣れぬ像があると聞いて確認しに行ったら、人魚の像があった」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)が見てきた像は人魚の形をしていた。。
 像は城の方を向いたまま、宝石の涙を流していた。流れた宝石の涙は手にしている竪琴に当たり、響いた音は、王子と逢瀬を楽しんでいた頃、人魚姫、愛美が奏でた竪琴の音に間違いなかったのだ。
「俺も城下の者たちに確認を取ってきました。石像と化してしまった彼女を助けるには、海の魔女を倒し、彼女を愛する者が真の姿を受け入れることだと……」
 影野 陽太(かげの・ようた)も王子に向かって、懸命に声を掛けた。
 海の魔女に関しては、既に倒され――いや、正気に戻され、石化していたソルファイン王子や側近たちの石化は解かれたようだ。
 後は王子が人魚姫の真の姿を受け入れるだけ。
「我が海の国と同盟を結ぶのはどうでしょうか? 海産物が豊富な海の国と同盟を結べば、人間の国にとっても利益がありますし、海の国にとってもいろいろ利益があるはずです……たぶん。その同盟の証に、王子とうちの娘が婚姻関係を結べばいいのです。そちらの王子は領土のことを気にして、隣国の姫との婚姻の話を進めたのでしょう?」
 続くウィングの言葉に、王子は小さく唸る。
「確かにその通りだったのだが……」
 応える王子は、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)に代わっていた。
 愛美を救うべく彼女の夢に干渉しているというのに、彼女が救われないよう話を進めているゲー・オルコットに対して、イーオンはパートナーのアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)と共に黙らせ、役を交代させたのだ。
「共に浜まで行こう。彼女に謝罪しないとな」
 イーオンは頷き、海の王、ウィングや側近である一輝、陽太と共に浜辺へと向かった。

「こうなったら、あたしが王子になればいいのね!」
 王子の側近として、人魚のいいところを吹き込んでいた朝野 未沙(あさの・みさ)であったが、当の王子は聞く耳を持たなかった。
 今、浜に向かっている王子であれば、話を聞いていたのであろうけれど。
 それに対して、業を煮やした未沙は王子の格好をして浜辺へとやって来る。
「不埒な行動するなよ?」
 石像と化してしまった人魚姫を守っているトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は彼女の来訪にやや警戒を見せる。
「しないよ! 多分」
 彼へと応えながら、未沙は愛美像へと向き合った。
「愛美さん大好きだよ♪」
 まずは一言。けれど反応は見られない。
「好きって気持ちに性別も種族も関係ないもん! 愛美さんを好きな気持ちに偽りは無いよ」
 一言一言丁寧に、未沙は愛美への気持ちを伝えていく。
「もし、愛美さんが人じゃなかったとしても、それが愛美さんを好きになれない理由にはならないもん」
 ふと、愛美像の瞳から宝石の涙がこぼれた。
「なぁ。人魚姫の物語は悲しい結末を迎えてしまったけれど、そのに辿り着くまでの思いや行動は確かに意味があったはずだ。結末の否定は行動の否定や想いの否定だぜ? 愛美は、好きな人のために頑張った女の子の思いを全部否定しちまうのか?」
 トライブも加わって、愛美像へと話しかける。
 それでもなかなか愛美像は戻りそうになり。
「もっと、語りかけてあげて!」
 海の方から聞こえてきたのは、海の魔女、マリエルの声だ。
 美羽に説得され、我を取り戻した彼女は他の人魚や人間たちの石化を解いた。
 けれど、愛美にかけた石化だけが解けないのだと告げ、美羽と共に急ぎ、この浜辺へとやって来たのだ。
「代わろう」
 未沙の後ろから現れたのは、側近たちを引き連れた王子、イーオンだ。
「どうぞ、イオ」
 愛美像を中心に、一定の範囲内に他の者たちを近づけないように、けん制を掛けながらアルゲオが告げる。
「ああ」
 イーオンは1つ頷いてから、愛美像に向き合った。
(石になってもなお思い続けるとは……)
 純粋な愛美の想いに応えてやりたい。
「聞け人魚姫。今こそ俺の目は覚めた。この手を取り俺の愛を受けるがいい」
 やや芝居がかってはいるものの、説得と演説の特技を持つイーオンの言葉には、重みがある。
「このままお前が石から戻らぬというのなら、俺も隣で石になろう。千年の風雪を受け、朽ち果てるまでその傍にいようではないか。 足りぬというのなら満たす、渇くというなら癒す、欲しいというならやろう……! だからこの手を取れ! 俺が、貴様を幸福にする!」
 真っ直ぐと、宝石の涙を零す愛美像の瞳を見つめながら、言い放つ。
「気恥ずかしい台詞だ……」
 観客に徹するフィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)はぽつりと呟いた。
 そんな彼女の頬は、やや紅潮している。
 イーオンと愛美像を取り囲んでいる側近たち、人魚たちは固唾を飲んで、見守っていた。
 愛美像の瞳から一層大きな宝石の粒が落ちたかと思うと、それは手にしていた竪琴に当たって、音を響かせる。
 それと共に、辺りが目映く光り出し――。

「王子様っ!」

 眩しさに目を細めた皆が瞳を開けると、愛美がイーオンへと抱きついていた。
 石化が解けたのだ。

 王子は人魚姫を城へと連れ帰った。
 海の王と話し合って、海の国とも同盟を結び、王子と人魚姫は末永く、幸せに暮らしたという。

 ハッピーエンドを迎えると共に、城と化していた女子寮は本来の姿を取り戻していた。