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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)
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第2章 藤野家へ 



 天 黒龍(てぃえん・へいろん)は藤野家の婆やのために、土産を用意しておいた。
「韓流スター、『サン・イ・サク』…代表作は『夢の恋人』『君の瞳』などの甘い恋愛系ストーリーの主役を得意とする、か。確かに甘ったるい顔つきをしている。あとは、コメディもドラマもいける5人組、『ライト・ザ・サン』にダンスユニット『ムサシ・アンド・コジロウ』…よし、用意も出来た。高 漸麗(がお・じえんり)がどうしても真珠に話がしたい、と言うし、これだけあれば、大丈夫であろう。あとは藤野家へはせ参じるだけだな」
「ごめんね、黒龍くん」
 漸麗は謝るが
「気にするな。おまえの言う『真珠の心の空虚さ』、私もいささか、気になる」

エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)は、学校へ姿を見せない真珠と、その真珠を気遣って授業が終わると同時に学園を飛び出して帰宅する赫夜のことを心配して、藤野家を訪れたのだ。
「藤野さん」
 その日も急いで帰宅した赫夜を追いかけて、二人は藤野家の前までたどり着く。
「エヴァルト殿、ミュリエルさん」
「真珠さんのお見舞いに来たんです。真珠さんが、噂になっているような人だなんて、そんな事はありませんよね!?」
 ミュリエルは小さな背を一生懸命伸ばして、告げる。
「ミュリエル、いきなりは失礼だぞ。藤野さん、俺たちは友として協力は惜しまない、そう伝えたかったんだ。直接、妹さんに会えるならいいんだが、無理なら、ミュリエルが伝えたいことがあると言ってるから、ドア越しからでも伝えさせてくれないだろうか」
「ありがとう…」
「赫夜様、なにごとですかな。騒がしいようですが」
 勝手口を開けて、ひょい、とかくしゃくとした老人が姿を現す。
「爺や…あ、こちら、学園の私のお友達、エヴァルト・マルトリッツ殿と、ミュリエル・クロンティリスさんだ。真珠のことを心配して、見舞いに来て下さったのだ」
「ほほう、これはこれは…ありがたい。某(それがし)は、この藤野家に仕える吉備津 彦助(きびつひこすけ)と申します。そのような方々が赫夜様、真珠様について下さっているということ、有り難く思いますぞ。さて、真珠様のお具合はいかにせよ、このようなところで立ち話もなんですから…」
「爺やさん、俺と腕で勝負をしてください」
 エヴァルトがいきなり、爺やに勝負を挑む。
「お兄ちゃん!?」
「エヴァルト殿!?」
 驚くミュリエルに赫夜。
「爺やさん、真珠さんがどうして外に出てこられないか、俺たちが力になれることがないか、腕で勝負して話をしていただけないか…ただ、俺自身の剣の腕は良い方でないので受けていただけるか、爺やさんのお心次第、ですが」
「無謀よ、お兄ちゃん…でも、お兄ちゃんなりに考えていることがあるのですね…いいですわ。強くはないって自分でも言っていても、友達のために、全力を出すつもりなんですね…。私、そんなお兄ちゃんが大好きです…!!」
ミュリエルはエヴァルトを心底、応援するつもりでいた。
「なに、なにが起こっているんですの?」
 同じく爺やに話を聞こうと和菓子を差し入れにきた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)は、爺やに教えを請うために桜餅を持参してやってきた菅野 葉月(すがの・はづき)と一緒になった。
「おやおや、赫夜様も真珠様も、お友達が多くていらっしゃる」
「爺や様、私たちとも腕で勝負をして、お話しを聞かせて下さい」
 優希が手を挙げる。
「なるほど…」
 ニヤリ、と爺やが笑みを浮かべた。

☆   ☆   ☆

------時間は少しさかのぼる。
「ふふふ~ん」
 鈴木 周(すずき・しゅう)は鼻歌交じりに、藤野家に向かっていた。
 手には菜の花がわんさか抱え込まれている。ここに来る途中、見かけた菜の花畑で摘んできたのだ。もちろん、そこは私有地ではない。
「菜の花の明るい感じって良いよなあ~。黄色が可愛いぜ。それに菜の花は春の木の芽時に食べると精神的にも明るくなるっていうからな! って、どこのおばあちゃんの知恵袋やねーん!」
 セルフツッコミをしながら、周は真珠のためにそれを摘んできたのだ。
「真珠ちゃんが学校に来ないのは、俺にとって大損失だ…なぜなら、俺が会える美少女がひとり減っている! って、いやいや、俺はそんなつもりはない。紳士、ジェントルマンだ。でもやっぱり会えないのは寂しい! 会えないならデートに誘えばいいじゃない、ってことで家まで行って真珠ちゃんをデートに誘うぜ。感激のあまり抱きつくかも。でもそれ以上は我慢だ。収まれ、俺のスケベ魂! そろそろ、藤野さんちが近づいて来たな、よし、ちょっと背筋をしゃんとして、ジェントル、ジェントルって、なんだ、あの人混み」
 勝手口で赫夜他、生徒たちと対峙している老人が見えた。
「あれが爺やさんってやつか? おい、みんなぁ、どうしたんだ?」
「おやおや、また一人増えましたの。その花束は真珠様へのお見舞いの品ですかな?」
 爺やは周の姿を認めると、事情を飲み込んだ周がにやっと笑う。
「なんだ、みんな真珠ちゃんのお見舞いにきたのか~。で、爺やさん、とバトルしようっての? 真珠ちゃんにデートで笑顔を与えに来た、鈴木 周といいます! 爺やさん、通してくれねぇか?」
「俺たちが先だ、周」
 エヴァルトが言うと、他の面々もうんうんとうなずく。
 そこに樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が現れた。
 月夜は、ガーベラ、薔薇、かすみ草などをふんだんに使った花束を真珠のお見舞いに持ってきていた。
「…今度会えるって言ったのに」
 側で月夜が刀真にじ~っと抗議の視線を送る。
(ずっと接触できないんだもん…でも、このお花で真珠が癒されたらいいなあ)
 婆やへのお土産を携えた閃崎 静麻(せんざき・しずま)と、爺やに挑みに来たレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)も加わった。
「爺やの件は、レイナに任せたぜ」
「ええ、任せておいて下さい…ともかく、手練の方と試合形式とは言え戦うのは何処かで心躍る私がいます…あの爺やさん、飄々とはなさっていますが、とても強い芯を持っていらっしゃいます…私には判ります」

「詳しい事を教えて下さい、今のままではあの二人を疑うしかないんです」
 刀真もそう、爺やに告げる。
 さらに、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)
「今回は話を聞くために、本気の本気で執事さんを倒させてもらいます」
 と意気込んで、割り込んでくる。
 ウィングは剣の道に真摯なのだった。