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ネコミミ師匠とお弟子さん(第1回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第1回/全3回)

リアクション


(2)ジャタの森にすむ肉球拳法使い @ゴビニャー

「ねえ、あなたがゴビニャー?」
「にゃ?」
 並木が走り去って行ったあと、ゴビニャーはお腹をポリポリとかいていた。同じく弟子入り希望の黒乃 音子(くろの・ねこ)は肉球拳法をマスターし、自身の部隊で使用する白兵戦闘用格闘技として教えを広めようと考えたようだ。音子はカンフー服の上下を着ている小さなトラ猫を見て、この獣人がゴビニャーだと判断した。
「お嬢さん……私に何のごようですかにゃ」
「シャンバラ教導団の黒乃 音子です。ボクにも肉球拳法を教えて欲しいんです!」
 音子はお土産のワカサギをゴビニャーにプレゼントした。先ほど川で釣ってきたものらしく、キラキラした鱗が活きの良さを証明していた。魚が好きなゴビニャーはワカサギを見ると、ぴーん! とひげを伸ばして嬉しそうに受け取った。
「お魚大好きですにゃ、いただきますにゃ〜」
「お疲れでしたら肉球マッサージもどうぞ!」
「あ、これはこれは。お気遣いなくですにゃ。お茶でも淹れますのでお上がり下さいにゃー」
 ゴビニャーがワカサギのお礼にお茶の1杯でもごちそうせねばと家に入ろうとすると、もしもしという声がした。
「お待ちになって! そのお話、わたくしたちも混ぜていただけないかしら?」
 振り向けばジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)が豪華ねこじゃらしセットを持ってスタンバイしていた。ゴビニャーはニコニコしながら挨拶をしている。
「はじめまして、大江戸ゴビニャーと申しますにゃ。肉球拳法に興味を持っていただけて嬉しいですにゃ」
「ジュリエット・デスリンクですわ! 弟子は取らない? でも、ねこじゃらしはお1人では使えませんわよね?」
「ジュスティーヌ・デスリンクと申します……珍しくお姉様が人? に頭を下げて謙虚に学ぼうとしていますわね。よいことですわ」
「アンドレ・マッセナじゃん! もふもふでキュートなくせに、精悍な身のこなし?とのギャップがたまらないじゃん!」
 ジュリエットたちは自己紹介をすますと猫じゃらしを1本引き抜くと、ひらひらと優雅な動きで揺らし始めた。
「ふふ、この誘惑に耐え切れますかしら。お気に召したのならそのまま弟子入りを申し出ますわ」
 ゴビニャーはきょとん、としている。が、ジュリエット弟子入り希望を聞くとくすりと笑った。
「にゃんにゃん。お嬢さん、とってもキュートだにゃ。だけど私は獣人であって猫ではないですにゃ」
「なんですってー!?」
「できればこの際、お姉様のねじまがった根性を叩き直していただけるとありがたいのですけれど」
 あら、ついうっかり! 口元を押さえたジュスティーヌの頭はジュリエットにはたかれてしまった。音子もくすくすとショートコントのようなやり取りを見て笑っている。
「ボク、肉球拳をマスターしてニャオリ族の部隊の朝の体操にしたいと思います!」
「それ、もふもふでかわいいじゃん!」
「ゆ、百合園生多数の掲げるねこじゃらしの間を飛びついて回るゴビニャー先生ご自身のお姿が……どんな修行にも耐えてみせますのに!」
 がくりと膝をついたジュリエットの姿を見て不憫になったジュスティーヌはゴビニャーに弟子入りを認めるように頼もうと思ったのだが、アンドレがゴビニャーの喉をゴロゴロさせているのを見て『ま、また出直そうかな』と思った。
「女の子がたくさんいると華やかですにゃ。でも、事情があって弟子はとれないですにゃ。肉球拳法を教えるのは問題にゃいので、基本でよければこちらにどうぞにゃ」
「はぁぁ、ネコミミってステキです」
 ピコピコと動くネコミミをうっとりした目で見ながら、音子は嬉しそうに敬礼した。
「……ダメでしたら通い弟子になりますけれど」
「いくらなんでも押しかけ弟子はやりすぎですわ」
 ジュリエットはあきらめきれない様子だったが、拳法を教えてもらうことはできそうなので一応納得したようだった。


「あなたが大江戸さんですな。先ほど笹塚さんから肉球拳法の存在を知って見学に参ったのですが、随分お忙しそうだ」
「歳をとったトラ猫は貫禄があって可愛いどすなぁ〜」
 女の子たちを連れて肉球拳法の指南をしようとしていたゴビニャーの前に、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)を連れて現れた。
「ぜひ一度もふもふしてみたいわね……」
「ゴビニャー師匠の肉球はどんなプニ具合なんだろうなぁ……」
 肉球好きの久世 沙幸(くぜ・さゆき)アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)も猫の獣人がいると聞いて遊びに来ている。4人は並木の話が聞こえて、この森に肉球拳法というよくわからん脱力系の名前の流派があると聞き興味を持ったようだ。
「今日は女の子のお客さんが多いにゃん」
 玲は、もしよかったら少し話していかないかと提案した。執事の彼女はいつでも茶道具一式を持ち歩いており、イルマは女性が好みそうなお菓子も手品のようにとりだした。ゴビニャーはその提案を楽しそうだと思った。
「ワタシ、コタツ持ってるわ!」
「ニャンデストー」
 肉球ハンターのアルメリアと沙幸はゴビニャー対策にコタツを持ってきたのだった。アルメリアは猫に効くものが猫の獣人にも聞くのかを徹底調査し、その肌触りを確かめようとしている。森の中のため電源はなかったのだが机には違いないのでコタツの上に茶道具を広げることにした。
「冬はコタツが1番にゃー」
「ゴビニャーちゃんは、猫とどう違うの?」
「にゃー。獣人にゃので、森では全身猫でいることが多いですにゃ。でも、勿論全身人間に近くなることもできるのですにゃ」
 ゴビニャーは『猫っぽい性格の人』くらいに考えてほしいと言った。全身猫になっても人間の言葉が喋れ2足歩行も可能、全身人間になっても耳としっぽは残ってしまうらしい。
「パラミタに生息するイエネコのプニ具合が1プニだとすると、
鍛え上げられたゴビニャー師匠は0.8プニぐらいかな?」
 肉球ソムリエールの2つ名を持つ沙幸はアルメリアが気をひいている間に、ゴビニャーの前足にある肉球をぷにぷにと触っていた。様子はパラミタ学習帳に丁寧に記録している。
「はう〜っ、これは素晴らしいピンク色の肉球だよっ! 弾力性がたまらないねっ」
「お、お嬢さん。嫁入り前の娘さんがそんなに近付いちゃ……きゃー!」
「ワタシももふもふする〜!」
 沙幸はゴビニャーをぬいぐるみのようにぎゅーっと抱きしめた。もふもふされているゴビニャーは照れて真っ赤になっている。アルメリアも反対側からもふもふすると、ゴビニャーは短い手足をばたばたさせて混乱していた。猫の姿だと分かりづらいが、どうやらゴビニャーは男性のようだった。
「にゃう、並木君といい地球人の皆さんは〜……」
「両親の説得すらする覚悟がない子が修行に耐えられるのかな? ゴビニャー師匠の口からまずは両親に許可を貰ってくるように伝えた方がいいと思うな」
 ゴビニャーは沙幸のもっともな呟きを聞くと、耳をぺこーっとさせてううむと唸った。
「あうう、実は並木君のご両親が出した条件は『名のある格闘家に弟子入りする』ことだったらしいのにゃ。でも、事情があって私は弟子をとることができないにゃ……せめて、並木君がシャンバラ人だったらにゃぁ。他の道場のスカウトはあったらしいのに、全部断っていると聞いたにゃ」
「並木さんの希望学校が決まっていなければ教導団も。まあ、そんなことになら無いで決まってしまいそうですな」
「お姉さんは教導団の学生さんなのかにゃ?」
「ええ。中国拳法とかコマンドサンボで鍛えるなら良いと思います。
中華料理が好きならなおよし。お茶は烏龍茶中心でしょうが私がいれても良いですな」
「猫にはミルクもあげちゃうよ〜!」
 ゴビニャーはイルマがティーカップに入れた牛乳をごくごくと飲んでいる。口の周りに付いた牛乳を赤い舌でぺろりとなめた。
「はうー、美味しいにゃー」
「ゴビニャーさんはどんなものが好きどすか? 格闘家だから結構粗食でいらっしゃるん?」
「アジのフライが好物だにゃー」
 はうー。そう言いながらゴビニャーの口元についーっとよだれの筋ができた。


 白砂 司(しらすな・つかさ)は仕事が休みで研究も落ち着いていたため、
ザンスカールを離れてジャタの森に来ていた。相棒のサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が獣人格闘家のゴビニャーという人物のうわさを聞き、是非対決していたいと張り切っていたためである。
「しかし、そんな人物がジャタにいたのか」
「武道家はより強い武道家に挑むもの! 私より強いかどうか、確かめてみなくてはっ」
 リーチの長さが強さにも直結するであろうに、サクラコの話によるとゴビニャーという獣人は彼女よりも小柄だと聞いた。遠当て使いなのかもしれないが、その強さにはいささか懐疑的である。
「いました、きっとあの獣人です!」
 サクラコは嬉しそうに、2足歩行のトラ猫を見つけるとそっちに向かって走って行ってしまった。司は平時と同じ速度で向かってゆく、気晴らしなので好き勝手やらせるつもりであった。しかし彼が見たものは……。
「ゴビニャー殿! わしの名は水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)! 一戦交えに参ったぞいっ。引退したとはいえ、高名な方と聞いておる。しかも格闘家となれば挑まずにおられんのぉ!! ひょーっほっほ!」
「あ、ありがとですにゃー! うんしょ、よいしょ」
 2メートルを超す長身の老人がマグロと会話をしているところだった。いや、違う。マグロを支えているのが噂の獣人なのだろう。どうみても130センチ程度にしか見えないのだが……。司はメガネを念のため拭いてみたが何も変わらなかった。
「わ、私も勝負を申し込みます!!」
「待て、先客がいる」
 獲物をとられてはかなわないと割り込もうとしたサクラコだが、年長者の邪堂が先だろうと司に止められてしまった。マグロで少々なまぐさくなったゴビニャーだが、玲に来客用にお茶の追加を頼むと邪堂と試合をすることにした。
 向かい合ってお互い礼をすると、邪堂が大きく息を吸い上半身の筋肉が風船のように膨らんだ! バリバリと道着がやぶれ、目は光り、背後には湯気のようなオーラが見えるようであった。もう、人かどうか微妙な域まで達している。対してゴビニャーは腰を低く沈め、ふらふらとしている。
「いざ尋常に勝負じゃあッ!」
 先の先を使い牽制の遠当てを放ち、ゴビニャーの動きの速さを見極めようとした。
「猫人であらば動きも速かろう……むむっ!?」
「にゃーん!!」
 ゴビニャーは避けなかった。後の先を使い、遠当てを使って相殺したのであった。それではとフェイントの拳を混ぜるが、ゴビニャーはふらふらとした動きで交わしていた。千鳥足で、時々顔を洗うようなしぐさをしている。博識な邪堂はそういった格闘技の名前を聞いたことがある。
「肉球拳法とは……酔拳に近いようだな!!」
 ゴビニャーは猫特有の体の柔軟性を活かし、予測不能な動き……猫がすり寄るようにでスルスルと邪堂に近付いて行った。その中に一瞬の隙を見出した邪堂が鉄拳を繰り出すと、ゴビニャーはその腕を飛び箱のようにジャンプして伸ばした猫の爪を邪堂の喉に向けた。
「強い方だにゃん。その豪の拳、森の中でなければ痛い目を見たにゃ」
「ひょーっほっほ! これは珍しい技! ぜひ、お互いの技について語り合いたいものじゃのう」
 もし小さき方であろうとも、一戦交えた後は腹も空くじゃろうて。
そう言うと邪堂は機嫌良さそうに、土産のマグロをさばいて皆にふるまった。
「格闘家同士、まず拳で語らうってのも乙なもんですよねっ!」
 サクラコは待ちくたびれたとばかりにゴビニャーに2戦目を挑む。
「にゃ?」
「同じ猫獣人として、勝負を申し込みます!!」
「お、女の子は殴れないにゃー!」
 軽身功を使ってひょっひょっと逃げてゆくゴビニャーを見ると、サクラコも軽身功を使って追いかけてゆく。
「きゃー、見逃してにゃー!!」
「そんな手加減はむよ・・・・・・ヴッ!!!」
 ゴビニャーを追い掛けていたサクラコは目の前の木の枝に思いっきり顔をぶつけた。ぐぬぬぬ、次こそは勝負に持ち込んでやる!!!