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ネコミミ師匠とお弟子さん(第1回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第1回/全3回)

リアクション


(4)おなかペコペコだにゃんっ @ゴビニャー

 サクラコから逃げまわっていたゴビニャーはお腹がすいてしまった。今、家に帰っても弟子入り希望者がうろうろしているかもしれない。それならキャンプ場で魚を釣ったほうがよさそうだ。キャンプ場に行くと和原 樹(なぎはら・いつき)フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)セーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)が仲良くキャンプをしていた。神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)榊 花梨(さかき・かりん)はバーベキューを楽しんでいる。2組は近い場所で料理を作ることにしたようだ。
「なんとなく皆で一緒に遊びたくてキャンプに来たけど、ここって格闘技の修行場所としても有名だったんだな」
「修行の人もいるみたいですから、怪我しないように……皆さん張り切りますねえ」
 樹はフォルクスにそう話しかけると、大鍋にたっぷりの野菜と魚を入れたスープを作ろうとしていた。しかし、釣り初心者のためか魚はそれほどたくさん釣れなかったようだ。それを聞くと、自分たちも釣ろうと思っていたからとレイスがはりきった。翡翠は樹たちと共に調理に専念するらしい。バーベキューの野菜を洗って、無駄のない動きで串に刺している。フォルクスが火術で起こした火をもらい、バーベキューに使う火力も問題なかった。
「魚、釣れるでしょうか?まあ、釣れなかったら、しょうがないですねえ」
「まあ、運しだいだろう。釣れないと飯、悲惨だな」
「家族でキャンプ、楽しいの」
「我と樹とショコラッテの3人、キャンプで親子水入らずの休日を演出するのも悪くはないか。料理ができるまで……セーフェルはショコラッテの飼い犬ということにしておこう。散歩に行ってくるといい」
 レイスと花梨が川に行くと聞いて、フォルクスはショコラッテとセーフェルも遊びに行ったらどうかと提案した。ショコラッテは満足そうにちょろちょろと皆の周りを歩いていたが、フォルクスの発言を聞くとはてな? と首をかしげた。
「セーフェルが、犬……」
「え、私……ショコラッテの犬なんですか?」
 セーフェルは子供相手にどうしたものかと目を泳がせている。ショコラッテは、ちょっと似合うかもと上目づかいでセーフェルを見上げた。そうだ、さっき樹兄さんにいいものをもらった。
「ええと……ここはボケるところですか。わん、とか言った方がいいのでしょうか」
「……わんわん、これ」
「……マスター! あなた、また私の本体をショコラッテに預けましたね!?」
 とりだしたのはセーフェルの本体の禁忌の書、しかし彼の本体は杖の形をしている。投げるのにはちょうど良さそうだし、犬とはそういう風に遊ぶものらしい。ぽーんと杖を空に放った。
「……取ってこーい」
「取って来いじゃないですよ、湖に落ちたらどうするんですかぁぁぁ!!」


「葵ちゃん。頑張ってお魚さんを釣ってきてくださいね〜」
「ん? キャンプ? サバイバルならイングリットにお任せにゃ〜☆」
「いってきまーす!」
 キャンプを楽しみに来た秋月 葵(あきづき・あおい)エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)は協力してテントを張って、釣りにチャレンジしようと湖に向かった。下準備で忙しいエレンディアは食事の準備に取り掛かった……葵が何の心配もせず遊べるのは、彼女の優しさのおかげなのだ。春の日差しのような頬笑みをたたえて彼女たちを見守っていた。
「ねぇ、グリちゃん。針にえさ付けてくれない〜?」
 初めての釣り、やり方は分からないのでいろいろ教えてもらっている。1人では難しくても、パートナーと一緒ならいろんなことが楽しくなるのだ。
「葵〜、沢山釣らないと食べた気がしないから頑張って釣るにゃー」
 前日にぎゅうぎゅうに詰めたお菓子を食べながらも、イングリットは葵の餌を付けてやった。
「おやつは必要だもんにゃ〜」
「中々釣れないもんだね〜」
 ぽかぽかとした陽気の中で、ちょうちょを追い掛けているイングリット。ぴくっと釣竿が反応し、眠気が吹っ飛んだ葵は慌てて彼女を呼び寄せる。
「やった〜釣れたよ! わーい」
「ふにゃ!」
 名前は分からないが、初めて釣った魚だ! バケツの中で泳ぐ姿を見て、葵は目をキラキラとさせた。彼女が嬉しそうなので、イングリットも満足げにしている。
「んーと、魚さん針から外して〜」
 たくさんは釣れなかったが、料理に必要な分は準備できた。きゃっきゃと手を取り合って喜んだあと、早くこの魚を見せてあげたくてエレンディアの元に駆けてゆく。
「ねえねえ釣れたよ〜!」
「あらあら、すごいですね」
 エレンディアは彼女が釣ってきた魚を見て、それが1番美味しく食べられる方法を考えた。お菓子を食べて眠ってしまったイングリットを見ると、料理はもう少し後でもいいかしら? と思い始めた。せっかくキャンプ場に来たのだから……。
「葵ちゃん、一緒にボートに乗りませんか?」
「今?」
「今、です」
 イングリットが目を覚ますまでの束の間、彼女たちはボートから見るキャンプ場の景色を楽しんだ。


「ふむ、今日はよく釣れた……」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)アリス・ミゼル(ありす・みぜる)と共に、湖で魚をとって食べていた。
「釣れるの? これ……罠仕掛けた方が良くない?」
 少し離れた場所ではレイスと花梨が釣りをはじめていたが、花梨の目には少々頼りなく見えた。かといって彼女は泳ぎが苦手なので川に入ることはできない。
「これだけあると食いきれんし、そちら……お2人と猫の獣人さんもいかがか?」
 女性とあまり話したことのない輪廻は花梨が困っているのを見て助けてあげようとしたのだが、直接言うのは恥ずかしいのでゴビニャーをダシにした。
「いいのですかにゃ?」
「わーい、ありがと♪」
「猫さん可愛いですー、ほーら、お魚ですよー、お魚さんですよー」
 木の枝で即席の釣竿を作り魚を釣ろうとしたゴビニャーは遠慮しようかとも考えたが、本当にたくさんあるのを見て分けてもらうことにした。アリスはゴビニャーを魚で誘惑しようと頑張っている。花梨はゴビニャーを見ると、目をキラキラっとさせてがばっと飛びついた!
「にゃ、にゃにゃー!! ここでもにゃー!?」
「猫耳?猫ちゃん? うう、触りたいよう〜!!!」
「お前なあ、いくら猫好き、だからって、リンがいるだろう? 迷惑がられているぞ」
「ええ〜もっと触りたい〜りンちゃんは、別。あの子は、特別可愛い子だもん」
「あ、あの。私は獣人ですにゃ……」
「ふふふー、肉球ぷにぷにさせてくれたらボクの分も分けてあげますよー」
 花梨は買っている黒猫の名前を出されると唇を尖らせて反論した。
ゴビニャーはレイスのおかげでかろうじて人として扱ってもらうことができた。アリスはゴビニャーの肉球を堪能している……ぷにぷにぷにぷに。
「おお、翡翠が喜ぶな! あんたたちも一緒にどうだ?」
「いい考えだね、レイスちゃん♪」
 聞けばキャンプ場では魚を食べたい人がたくさんいるらしい。魚釣りが得意なゴビニャーは輪廻と一緒に他の人の分もとってあげると、一緒にキャンプ場まで行くことにした。花梨が肉球に触りたがるので、帰りは手をつないで歩いている。
「でっかい猫ー! もふもふー! にくきゅうー!!」
「あ、ずるいー!!」
「ひいいい……」
「……あ、ごめん。ついもふらーの血が騒いで。もふもふ」
 ゴビニャーを見た樹がダッシュで近づいてきたが、手をつないでいるため逃げることができない。その後はレイスやゴビニャーが釣った魚をフォルクスと翡翠に調理してもらい、美味しい魚のスープができた。ショコラッテによそってもらったスープを食べて、ゴビニャーは美味しい料理でおなかをいっぱいにした。
「2人とも、そんなに焦らなくても平気ですよ? まだ、沢山ありますから」
「お前、食べ過ぎ。俺の分もよこせ」
「ちょっと、それ、あたしも食べる。翡翠ちゃんは、食べないの?」
「はうー、美味しかったにゃん」
 花梨とレイスが肉の取り合いをしているのを、翡翠は穏やかな顔で見つめていた。どうやら彼は自分で食べるより、作った料理を人が食べているのを見るのがお好みらしい。


 食事中、ゴビニャーは並木が結構派手にその辺を走り回っていると知った。
「学校なぁ……はは、俺はイルミンに仲間が増えたら嬉しいとは思うが、そんなものは自分で決めることだ。魔法に興味がなければイルミンに来る意味もないしな。まぁ、武術部なんかもあるにはあるが。」
「イルミンスール武術部の話か……?」
 鬼崎 朔(きざき・さく)ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が話に参加してきた。朔は、ちょうど話題に上がっている武術部の部員なのだ。朔とスカサハはなぜか正悟が並木に渡したネコミミを付けている、どうやら道で拾ったらしい。決して奪ったわけではないのだ。本当だ。嘘じゃない。
「……この辺に伝説の肉球師匠がいるってきいてやってきました。……自分は強くなるためなら、どんな人の下にでも弟子入りする覚悟です」
「ま、まさかお嬢さんも……」
 輪廻は後ずさりするゴビニャーと、詰め寄る朔の様子に気づかないまま樹の作ったブイヨンがいい味を出しているスープを飲み、翡翠の作ったバーベキューに舌包みを打っている。
「なんなら学校めぐりでもするか? 何事も自分の足で歩いて目で見て決めるものだ。……丁度いいし俺も行ってみようか、まだ葦原も見ていないしな。」
 のんびりと喋る輪廻を押しのけて、スカサハとブラッドクロスはゴビニャーの両側に陣取った。
「スカサハも朔様やお姉さま達を護れるように、今よりももっと強くなりたいのであります! ですので、ゴビニャー様! スカサハも弟子にしてほしいのであります!!!」
「……全く朔ッチもスカキチも、あんな格好でなんで弟子入り出来るって考えんたんだろ。はあ……」
 朔は自身の悲願を達成するため、強さを求めてゴビニャーのもとを訪ねて来たらしい。強くなることにどん欲な彼女は、例え猫であっても手段は選ばない決意を持っている。
「しかたない。ここはボクも協力するか…。ねえ、ゴロニャーさん?」
「ゴビニャーですにゃ」
「さっきさ、地球人の子の弟子入りを許してたみたいだけど…どうして、うちの朔ッチとスカキチはダメなのかな?
 ……明確に断る理由が無いのなら、覚悟は出来てるんだよね?」
 ゴビニャーは苦笑してブラッドクロスを見つめた。
「お嬢さんに負ける程度の者でしたら、あなたのご主人が私に弟子入りする意味はにゃいでしょう。後、並木君の弟子入りを認めてはいませんにゃ」
「……ボク、容赦しないし、意外と執念深いから。……弟子入り受けといた方が身のためだよ。てめぇの皮で三味線作ってもいいんだぞ? あぁん?」
「またたびや鰹節やらをお土産に持ってきましたが、お気に召しますでしょうか……?」
 高圧的なブラッドクロスとは対照的に、朔は低姿勢で教えを求めた。
「弟子入りはお受けできませんにゃ。白い髪のお嬢さん、あなたは明確な理由があれば満足するのですにゃ?
 私が並木君を弟子をとれにゃい理由は、あの子が地球人だからですにゃ」
 ゴビニャーが言うには、並木を弟子にとるなら拒絶されずにパラミタに住むための契約が必要不可欠になる。しかし、格闘家の修行は想像を絶する以上に厳しいもの……。契約相手が死亡すると、対象となる相手は精神に大きなダメージを受けるという。パートナー契約する「素質」も格闘家としての「素質」も並木は十分にあるらしいのだが、その辺がひっかかって並木を弟子に取るのに戸惑いがあるそうだ。
「並木君を弟子に取らずにお嬢さんを弟子にとるのは、あまりにも可哀想にゃ。それこそ、変な相手とパートナー関係になってしまうやも」
「……せっかく、ゴビニャー様のためにスカサハ特製の鰹節を作ってきたのに」
「スカサハ、すまん……!!」
 スカサハはしょんぼりとあほ毛をたらし、目をうるうるさせた。しかし、もっている鰹節は失敗したのか異臭を放っている。朔はゴビニャーがそれを見る前に湖に向かって全力で投げた。