リアクション
3-05 鉱山占拠される、ハーフオークの里へ
旧オークスバレーでは、砦を守っていたソフソ・ゾルバルゲラや、民を守っていたシャンバラン、プリモ温泉を守っていた宇喜多らの他に、幾人かの者が別の重要な仕事に就いており、残されていた。無論、この者らも旧オークスバレー襲撃の被害をじかに被ることになったわけだが……
その一つには、鉱山が挙げられる。
第1章においても触れたように、ここには、戦部配下の機晶姫アンジェラ・クリューガー(あんじぇら・くりゅーがー)が配置され、現場監督にあたっていた。更に、かつて鉱山に入った沙鈴配下秦 良玉(しん・りょうぎょく)の鉱山守備隊が駐屯していた。
そしてここで第四師団において初登場となるのが、葦原明倫館である。
第四師団は、新しくできた葦原明倫館に、この事業への協力要請を呼びかけたところ、一部から反応があった。
やってきたのは、ユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)だ。
ワシントン出身。東部の名家と知られていたが、最近没落気味……この事業でまだ機晶石採掘ができ、その利権に絡むことができれば、我が家の再興のまたとない一歩となりそうね。と、考え巡らす。
もっとも、無論それだけでなく、彼女はこの地方の情勢にも興味を持って、ここへ来ている。
今、この旧オークスバレーより北、教導団は三日月湖を拠点に、黒羊郷と対立している。その黒羊郷も、昨年に同じく南部地域に勢力を持った撲殺寺院を駆逐している(その撲殺寺院が、今、ユーナの訪れている鉱山をかつては支配していた)。地球でも、そうだけど、宗教戦争は大変だと、彼女は思う。そう思う彼女もまたW.A.S.P(※ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)とのことで、様々考えさせられる生き方をしてきた、のだろうか。
この戦いについても、そういった見地からも考えてみる必要もあるのかも知れない。
宗教戦争、侵略戦争……一つ見方を変えれば、様々な様相が見えてくる。
また、この土地で迫害を受けていたハーフオーク。彼らについては、過去、教導団が峡谷に入ると共に交流が始まり、最初にコンタクトを持った朝霧らの交渉のおかげで、友好的で、彼らを虐げず共存できる道が開かれつつある。峡谷の戦いが集結してからは、主に農耕を営んでいるが……
ユーナは、ハーフオークの話も耳にし、彼らが採掘技術に優れているなら協力を要請できないか、と思ったが、それは決してもともとのことではなく、撲殺寺院によって強制的に従事させられていたからである。本来は人里離れた丘陵地帯で、農耕を中心に生活してきたのだ。教導団は彼らの力を借り、峡谷を耕し豊かにできればとそれをこの旧オークスバレーで進めている。
ともかく、ユーナは、ハーフオークにコンタクトを取るべく、その仲介となる筈の教導団の窓口をあたってみることにしていた。
朝霧が騎凛に随行した後、オークスバレーに残り、その後のハーフオークとの間の連絡なども受け持っているのは、夜霧 朔(よぎり・さく)だ。
というわけで、ユーナは、パートナーのシンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)に鉱山の方は任せ、ひとまずハーフオーク課の夜霧のところへ向かった。そんな折であった……
シンシアは、ユーナが興味を持った第四師団の話には、「ふーん」。
適当に聞き流しつつ、旨いもの食えないかな、と、それだった。
「誰が敵で味方か?
そんなこまけーことはどーでもいーんだよ!」
俺がその場で判断するわ。
上手い飯を作るやつは当然味方。
こちらの食事を邪魔するやつは当然敵。まぁ、ざっとそんな感じでね。
邪魔するやつは、殴り倒すのみ。
「これってパラ実的?」とか言ってたら……
ひゃっはぁぁ!
「この鉱山は、パラ実が占領したぁぁ。奴隷のように、こき使ってやるぜぁぁ。おい、手始めに、早く鉱山を掘れ!
機晶いしが出てきたら、俺に渡せぁぁ」
「な、何に使うんだよ、パラ実ふぜいが」
「うるせー。こまけぇこたぁいいんだよ!」
「うっ。これが本場のパラ実か。シャンバラの見聞を広めるユーナにも、見せたかった」
旧オークスバレーを襲ったパラ実勢その支配は、当然、鉱山にまで及んだ。
「ここの指揮官はこいつか? おい、捕まえたぞ」
「く、何するのよぉ!」
アンジェラが囚われとなった。
「くっへっへへぇぇ。おっぱいのでけぇ機晶ひめだぁな。教導団の本営を預かるいくさべって野郎はどうやら、おっぱいの大きいのがいいらしいな。このネタは使えそうだぜ。とりあえずおまえの機晶いしを寄越せや、そのおっぱいがそうか!」
「触らないでよ!」
アンジェラは、鉱山を調べたところ、現状では、機晶石の欠けらくらいしか出てくる鉱脈しか見つかっていない。かつての、重要な機晶石は、撲殺寺院が持ち去っている。(となればそれは今も、撲殺寺院によってどこかに隠されたままなのか、すでに黒羊軍の手に渡っているのか、不明であるが。また、鉱山には謎が多く、もしかすればまだ新たな鉱脈が見つかるのかも知れなかった。そういったことについても、実際に採掘にあたっていた撲殺寺院がその知識と技術を最も有しているには違いないだろう。)
現時点で採算が取れないようであれば、当初戦部が考えていたように機械の導入はせず、教導団内部でアルバイトを募って手掘りで採鉱し、収入とする。そういう計画を考えていたが、アンジェラは思った。
「このパラ実ども、後で絶対にただ働きにさせてやるわ(これで計画も上手くいきそうね)。このオーク以下め……」
*
鉱山を一旦出たユーナは、夜霧朔に会い、ハーフオークのこれまでのことを聞いていた。
何故か、朝霧に巫女装束と着せられている夜霧。ユーナは、葦原明倫館の仲間? と思って意気投合した部分もあった。
「へぇ。色々あったのね」
実際にハーフオークとも、会ってみる。
がここにもやはり、パラ実の侵攻が……。畑を踏み荒らし、どかどかとやって来るパラ実ども。
「ちょっと?! なんてひどいことを」
「おっ。機晶ひめか。おらおら、とりあえずおまえの機晶いしを寄越せや、そのおっぱいがそうか!」
ちゅどーん。
機晶キャノンがパラ実を打ち抜く。ひゃっはぁぁぁ??! 六連ミサイルポッド×2=十二連が襲い来るパラ実に降り注ぐ。
「きゃー」「いやー」
「おい。てめぇら、何してる!」
「又吉将軍!」
「ちっ。舐めんじゃねぇ!」
機晶姫用レールガンが又吉に狙いを定める。木刀で打ち返す又吉。六連ミサイルポッド×2!
「うわっ?!」かろうじて打ち払う又吉。打ち返したミサイルがパラ実を襲う。
「く、強い。このままじゃ兵が全滅しちまう。おい、ハーフオークどもを狙え!」
「あなた、それでも日本男児?!」
ユーナも、刀を抜いて打ちかかった。
「今回は負けるわけにはいかねぇからな。パラ実ヒラニプラ分校設立がかかってんだ!」
手段を選ばぬパラ実勢の攻勢に、こうなっては、退くよりなかった。
こうして、夜霧とユーナは、ハーフオークと共に、彼らの里へ逃れていくことになるのだが。
旧オークスバレーは様々な波紋を呼ぶことになる。
もう一人、この男のことを語らねばなるまい。
3-06 南臣の逆襲
「なっ。オークスバレー攻めた中に、南部諸勢力のやつらがっ?! ……く、く」
南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)だ。
「俺様の構想を崩しやがって!」
さて、ここでは少し、湖賊や南部勢力らについて振り返っておくことになる。
12下旬に黒羊郷で行われた復活祭。このときに、教祖は南部勢力の諸侯らに同盟を強制。従わない意向や親教導団の意向を示す連中を武力で亡き者にしようとしたが、これを湖賊頭に付き従っていた樹月刀真が阻止した。という事件があった。結局、南部勢力の諸侯らはこぞってその場を逃れ、一旦、湖賊らと三日月湖まで戻っている。
尚、この帰りの船で、南臣は(これは独自の行動となろうか)南部勢力諸侯に、「みなみおみ120万石」への血判を押させていたのを皆様は覚えているだろうか。
湖賊や首脳らが、三日月湖に戻ったのは、ちょうど年明け前後と推定される。
帰りの船には、黒羊郷で(それまでの道程で)南部勢力の一国の一団であったサーカス団に接していた
青も、乗り込んでいた。(教導団員は他に、南臣と
橘カオル(たちばな・かおる)がいたわけだが、カオルについては教導団の任務とは関係ないところから巻き込まれることになったのであり、南臣についてはどこかまでかわからないのだが独自の判断で動いていることになる。ともあれ……)ノイエ・シュテルンメンバーでもある青により、南部勢力のことは、彼が本営に戻ったときに伝えていることになるだろう。
なので、その時点から、南部勢力と教導団との接触も始まることになろう。
だが、それもすぐに事が進むことではなく、黒羊郷での一件もあり、各国の諸侯らには、どうすべきかと各々に悩むことになった筈で、ああいう事態になった以上、もはや黒羊郷は我らを許すまじ、こうなれば湖賊などの反黒羊郷の勢力同士結ぶなりして、対抗するしかない、という者ら、一方、黒羊郷に勝てるまい、今からでも恭順の意を示すべき、という者らがいた筈。後者のような者の中には、そのまますぐに、自国へ戻っていった者も少なくなかった。
(この時点で、船上で南臣が押し付けた血判のことを、あのときにも「所詮空手形」「こんな若造」と思っていた彼ら南部の首脳らは、南臣のことなぞ血判ごとほぼ頭から抜け落ちていた。また、ヒラニプラの最南、ほとんど空域にも近い辺りの辺境の国々である彼らは、湖賊らのように教導団の存在性を認知・重要視はしていない。これが後にどういう波紋を呼ぶことになったか……)
残った者らは、その時点で、湖賊ひいては教導団に親和的と言えた。青らは、彼らと接触を持ち、会合を持つ方向に向かうことになる。
そんな中での、旧オークスバレー陥落の報であった。
まだ、情報は正確には伝わってこないが……。
しかしこれは、教導団にとって拠点が奪われたという圧倒的不利な状況であり、南部勢力の少なくとも一部が教導団に攻撃を仕掛けてしまったことは、ここにいる南部勢力の諸侯らにも何らかの影響を与えかねない。
ともあれ……そんな事情はそんな事情として、南臣は己の野望"みなみおみ120万石"りすたーと編として、南へと早馬を走らせた。
「早馬じゃ間に合わねぇ。船を出すんじゃん!」