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リアクション
音楽フロア 〜試聴コーナー〜
音楽フロアの試聴コーナーではパラミタだけでなく、地球から輸入されたCDも数多く並んでいた。エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はクラッシックや宗教音楽系のCDを買いに百貨店へ来た。心はいつもプリースト、らしい。そのためホーリーローブを着用しており休日の店内では少し目立っている。クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はその私服を見ると『制服と変わらないじゃん』とあきれてみせた。
「それで、なぜ皆付いて来るんだ……」
「楽しいの1人占めはずるいぞー。
ところで、百貨店って、ナニ? ショッピングモールと、どこが違うのん?」
「俺も地球でもあまり百貨店とか行った事無いんだよな。というか、普通の店で自分が買い物ってのも地球ではあまり無いが……」
メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)とエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)も同行している。エースの実家では下々のものが業者から直接買い付けることも多く、地球で自由に買い物する機会は珍しいようだ。内心わくわくしていたが、お付きのものが多くなってしまい予定がくるってしまう。
「エースのお買い物のガードですよ。荷物持ちがいてもいいでしょう。クマラやメシエさんの面倒も見ないといけないし」
「どんな所か、興味があって付いてきた。買い物の用はないんだけれどね」
エオリアは執事らしく振舞おうとしていたが、内心地球の百貨店というものに興味があったようだ。後学のために各フロアが掲載されているパンフレットに手を伸ばした。エースが興味を持ちそうなフロアは……植物フロアだろうか? クマラならイベント会場が好きそうだ。
「美味しそうな匂いの漂ってくるフロアにも惹かれるけど、今日はCD買いにきたエースのオツキアイだもんね」
「普段音楽は生演奏で聴くことが多いんだけれど……。育てている花達に音楽を聞かせると育成が良いという話を聞いたから」
「帰る前には、お菓子買ってくれるよね?」
「無駄遣いはしないぞ」
クマラは『エースはカードでばんばん買い物できるじゃん』と唇を尖らせるが、まあいいや! と自分もCDを探しにとっとことーと走っていく。その後ろをエオリアが追いかける。
「近頃遺跡の調査とかガラクタの片付けとか医療対応とか、調べ物ばかりしているからねぇ」
メシエは『世界中の物が何でも揃っているお店』と噂を聞いて……いや、実際はそこまでものがそろっているか分らないが……地球のものも見てみようと思ったのだろう。今日はのんびりと人間観察をするようだ。『のんびりするのに、人間観察なんだ……』と後ほどクマラにコメントをもらったらしい。
「ああ、美術フロアにも良さそうな物が色々と。CDを買ったら美術の方も見ていかないか?」
「はいはい。そう言うと思った」
「メシエさんが興味のある美術品とかに呼ばれて、行方不明にならないよう留意しますよ」
「いや、君達がどこかに行ってしまうのではないのかね」
エースは賛美歌コーナーをうろつきながら吸血鬼のメシアになげやりに返事をしていた。
「さすが日本クォリティ、世界中のものが何でもあるっ」
「賛美歌系の音楽とか探そうかな。作曲家には拘らないから。
この安さで有名フィルの音楽が聴けるのはいいものだ」
「ねえ、エース。おいらバリ島の民俗音楽とか大好き。お祭りの音楽だもんね。マハーバーラタの影絵の音楽もあった!」
自分の気に入った音楽を聴かそうと試聴機のもとにエースを連れて行こうとするが、どうやら先客がいたようだ。如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)と冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が自前のイヤホンで一緒に試聴をしている。千百合はエースを見ると軽く会釈をしたが日奈々は気付かない。エースは彼女が緊張しているのかと思いピンクのバラを差し出した……日奈々はそのバラの香りで存在に気づき、にこりと笑って受け取った。彼女は両目の視力を失っており、音楽に集中していたせいでエースに気づくのが遅れてしまったようだった。
「レディーファースト……ごゆっくりどうぞ」
優雅に微笑むと、愚図るクマラに甘いものを買ってやるからと言って別のフロアに向かっていった。
「千百合ちゃんと、一緒なら……どこに行っても……楽しい、ですぅ〜」
「デートの間はずっと日奈々の手を握っていてあげる」
若草色のワンピースに白いカーディガンを羽織り、耳のようなトンガリのついたニット帽をかぶった日奈々。丸襟のジャケットにフリル多めのブラウス、それにジャンパースカートを合わせた千百合。2人は試聴コーナーで落ち着いた雰囲気の曲を探して静かな時間を楽しんでいた。日奈々が両耳で聞くと周囲の様子が分からず不安になってしまうため、千百合がイヤホンを差し替えてやっている。
「あたしが聞いたことのある曲の中で、日奈々が好きそうな曲のCDを探して選んだんだけど、どうかな?」
「これは、素敵な曲ですぅ〜」
千百合が選んだのはバラード調のラブソングだった。切ない歌詞に入ると、にぎっている日奈々の手がわずかに震える。それを感じ取ると千百合は彼女を安心させたくて胸の鼓動を感じさせた。テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)はそんな2人をいいなぁ〜という目で見ている。ヨメ宣言をしている皆川 陽(みなかわ・よう)のつれないこと、つれないこと。それでも1人でのこのこほっつき歩かせて女の子に一目ぼれでもされたらかなわない。まったくもう。
「平和でモノにあふれた日本の生活……はあ、なつかしい」
陽はパーカーにふくらはぎ丈ズボン、スニーカーというごく普通の中学生の服装をしている。流行の服というよりは、お母さんが買ってくれたようなちょっとモッサリしたものだ。
「なあなあ、僕たちも視聴しよーぜー!」
「どーせどーせ、日本人体型だもん……最初から短ければいいんだ」
「え、なに?」
「なんでもない……」
千百合をうらやましがったテディはそう提案した。テディは性格上勝手に陽の服をあさってきてしまうのだが、コンパスの差なのか背は陽のほうが高いはずなのにつんつるてんになってしまう。テディは現代シャンバラ人から見たら古風な衣服にひざ下丈の陽のズボンを合わせている。陽がはくとひざ下にはならないはずなのだが、気にしないほうがいいだろう。
「音楽に興味あるんだろうなぁ……えーっと、あっちでは何が人気なんだろ」
陽はぶんぶんと手をふる友達の様子を疲れたサラリーマンのような目で見守りながら、自身も地球のCDをチェックしていた。
「よーうー! 後でからくり時計も見ようなっ。絶対だ、約束だ、契約だ!!」
「あー。いいよー」
からくり時計かー。珍しいものなんだろうな、そういやさっき女の子が『すごいらしい』って言ってたような。そんなにすごいなら見物したいなぁ。
テディはフロアに飽きたのかいい席が取りたいのか、ぐいぐいと陽を引っ張ってからくり時計の前に連れて行こうとしている。陽は『せっかくのオープンイベントなんだから、もっとゆっくり見ればいいのに』などとぼんやり考えていた。
「透乃ちゃんと……これってデートですよね? でも、同じ服なのは嬉しいのですが……露出が多くて体型がはっきりでるので恥ずかしいです……」
霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は赤いチューブトップに同色のブーツ型安全靴。それに青いミニスカートをあわせ、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)とペアルックで来店していた。陽子はもじもじとしているが、透乃と手をつないでぽわわんと表情を和ませている。彼女たちはまず楽器コーナーに足を踏み入れた。
「陽子ちゃんはやっぱりピアノに興味があるみたいだね」
「時々学園の音楽室で弾かせてもらっていますが、やっぱり家に1台欲しいですね」
透乃ちゃんのお財布事情なら、安い電子ピアノなら……。でも、せっかく百貨店に来たのだから高いものを弾かせてもらえないかな? 陽子は鍵盤に指を置くとクラシックの重厚な曲を演奏し始める。透乃も何か演奏したくなり、鉄琴がないかと店員に質問してみた。
「え? 演奏できたのですか……知らなかったです」
陽子と透乃の音楽の趣味はずれているようだが、彼女の演奏がどんなものか気になったのでぜひ聞かせてもらうことにする。鉄筋は試聴コーナーに近い場所にあるらしく、透乃はばちをにぎると深夜アニメの主題歌を演奏してみる。
「何、百貨店なのに、アニメやゲームのサントラ入荷が遅れているだと!?」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)はカウンターに両手をたたきつけ、憤怒の形相で店員をにらみつけた。彼はアニソン好きらしく、社会の誤解による偏見と闘うことを厭わないらしい。
「アニメとかゲームだって、とても良いのがあるんだぞ! ニュース番組でもよく流れるし!」
ちっ、まあまた来るからその時までに仕入れておけ!
仕方なくエヴァルトはクラシックのコーナーに行く。吟遊詩人にクラスチェンジした時を考え楽器も見てみようかと思案した……エレキかなー、アコギかなー。ロボないか、ロボ。そんな彼の耳に聞いたことのある音楽が流れた。
「こ、この旋律は!!」
軽快なメロディに彼の眼はかっと見開かれ、透乃が演奏しているのを見つけるとその辺にあったタンバリンをつかんだ。
「パラミタのオタク野郎たぁ俺の事ッ!」
……あ。別に服装までそっち方面じゃないからなッ! セルフフォローをすると自分も演奏に混ざるべく、透乃のもとに全力ダッシュしていった。
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