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リアクション
幕間劇:黒服パラミタ宅急便
「風天さんとデート、してないなぁ……」
リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)は恋人の九条 風天(くじょう・ふうてん)を思い、深いため息をついた。蒼学だったころとは違い、互いの学校が変わってからは前ほど気楽に会うことができなくなってしまった。
かさり、紙の落ちる音が……。リースが郵便受けの中をのぞくと蒼学時代の友達が始めた運送会社の広告が入っていた。
「えーと何々?」
どうやら、その運送会社はなんでも配達してくれる『運び屋』のようなものらしい。もしかしたら人間も、送ってもらえないだろうか。どうしても風天さんに会いたい!
「今日はお得意様であるリース・アルフィンからの依頼だ」
蒼学敷地周辺にあるというサーバー室、プロジェクトリーダーの橘 恭司(たちばな・きょうじ)の招集により武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)、久世 沙幸(くぜ・さゆき)、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が指令を待っていた。今回の依頼主は転校したとはいえ親しい学友、恭司から送られてきたリースのメールを見るとメンバーは視線を合わせてこくりと頷いた。
〜〜〜
パラミタ宅急便さま
みなさん、お久しぶりです。
風天さんを午後3時ぴったりに空京百貨店・からくり時計の前まで配達してください。
その際、意識を失ってたり、傷ついたりしていなければ、他は何をやってもOKです。
必ず連れてきてください、お願いします!
リース・アルフィン
〜〜〜
「見ての通り今回の依頼は【九条 風天】の梱包、及び3時ジャストにからくり時計前にいるリースに配達だ」
「ふむふむ。最近リースが風天とあまり会えないってさびしがってるのね。風天も休日に会いに行ってあげればいいのに……気の利かない彼氏よね」
「リースのささやかな願い。正義のヒーローとして確かに受け取った。みんなに連絡だ!」
沙幸はリースに同情し、彼女の願いを何とかかなえてあげたいと小さなこぶしを握り締めた。牙竜は滝のような涙を流しながら携帯で樹月 刀真(きづき・とうま)、閃崎 静麻(せんざき・しずま)、アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)に連絡をしている。
「ここは蒼空学園サーバー室の仲間同士で協力して、九条とリースを会わせてやろうじゃないか!」
正悟は後でからかう肴にしよう、と思っているのは内緒にしつつ面白そうな依頼に胸を高鳴らせた。ぶっちゃけ自分も気になる相手はいるものの……彼女いないからなぁ……。まあでも、今回は9割真面目に九条さんのために張り切るか。
「そういえば、風天はこの間オープンした空京百貨店に行くっていってたっけ。このタイミングを利用しない手はないよねっ」
パチン☆ と手を合わせて提案する沙幸に、他のメンバーも『それは使える!』と顔を明るくした。それぞれが自分の得意な分野で九条を罠に……はめるんじゃなくて、リースのもとに届けてやるのだっ。
「この際、九条の人権とかは無視しよう」
「正直羨ましすぎ……ごほんごほん」
「エレベータガールの1日体験か〜♪」
集中力の切れてきたメンバーをまとめるため、恭司はメンバーに空京百貨店のエレベーターから音楽フロアにかけての見取り図を送信した。
「……荷物に傷が付く事は俺達配達部隊の名折れ。荷物に傷を付けないようにする。各自、留意せよ」
「「「 アイアイサー!!! 」」」
こうして黒服軍団パラミタ宅急便の、一大プロジェクトが静かに、しかし確実に動き出していた。
「へっくしゅん!」
オープニングキャンペーン開催中の百貨店に遊びにきた風天はぶるりと肩を震わせる。これは、風邪なのか殺気なのか。ためしに殺気看破を使ってみるが……なぜだろう、候補が多すぎて特定できない。今日は調子が悪いのだろうか。
「デパートでは必ずエレベーターに乗るだろうし、それに……制服も着てみたいしね♪」
エレベーターガールの制服に身を包んだ沙幸はターゲットが歩いてくるのを見つけると明るく声をかける。風天は沙幸がエレベーターガールのかっこうをしているのを見て、驚きはするものの格別おかしいとは思わなかった。エレベーターガールの一日体験は今回のキャンペーンの1つだったからだ。
「当店は安全のため武器の持込を禁止させていただいております。まずは、サービスセンターにお預けになってからご来店ください」
「そうですか、最近物騒ですからね」
にっこりと、今回はビジネスライクな口調でお願いする沙幸。テロが起こっているからそんなものかと、風天は素直にサービスセンターに獲物を預けにいった。
「久世さん、お仕事お疲れ様です」
「ありがとうございます。それでは、上にまいりま〜す」
沙幸は風天がエレベーターに乗り込むと、宅配便メンバーにこっそりと携帯メールを送信する。
〜〜〜
ターゲット来店♪
みんな、準備はいい?
沙幸
〜〜〜
「あらゆる手段を用いても依頼を成功させよう」
「了解。エレベーターから降りた時が勝負だ、ぬかるなよ」
沙幸のメールを確認するとケンリュウガー、恭司、静麻はさりげなく清掃用の札をかけ退路を限定させる。『九条の実力的に一発では捕まらないだろうから2重3重に罠を張り巡らせる』とのこと。しかし百貨店の一般客を巻き込むのは本意ではないため、エレベーターから出たところで階段に誘い込み挟み撃ちにすることにした。
「目的は九条のお届けなので殺傷性のある罠は仕掛けない。パラミタにも人にも優しいリサイクルトラップを目指すか」
静麻は革手袋をはめなおすと息を殺して九条が出てくるのを待った。
チン♪
エレベーターから九条が出ると素早く沙幸は閉鎖ボタンを押して退路を1つ閉じる。1歩踏み出せば静麻のトラップが作動し恭司が用意したしびれ粉が彼の自由を奪うだろう。
「!?」
殺気看破により前方から殺意を感じた風天はトラップには気づかないが歩みを止める。
「ちっ、気づいたか。実力行使で連れて行け」
恭司が命じるとケンリュウガーが風天に向かって突撃していく。
「出番だ、重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)!! あれっ、ライザー!?」
「はい、ご愁傷さまでした」
「ごふっ」
ケンリュウガーは相棒の名を呼ぶがリュウライザーはこれなかった。エレベーターでは重量制限に引っ掛かり、階段では子供に捕まって間に合わなかったのだ。エレベーターでも階段でも、身長2メートル越え、体重600キロ以上ではそう簡単には移動できない。風天は持参していた催涙スプレーをケンリュウガーにかけた後、手刀をかまして静かにさせた。
「風天、こっちこっち階段の踊り場に隠れて下さい!」
「助かります!」
刀真は風天を手招きすると暗がりに誘い込み、油断した所をブラックコートで気配を殺して押し倒した! 背後から縛ってしまうことにするが、なぜだろう。相手は男なのに背徳的な気持ちが抑えられない……変な趣味に目覚めそうだ。そんな刀真を漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はほっぺをぷくーっとふくらましてジト目でにらんでいる。
「……恋人同士なんだから普通に事情を話せばいいのに」
まったく、せっかく一緒に来ているのにほかの女の子の手伝いだけじゃなくっても。むう。
「ゴメン、とりあえず捕まって下さい」
「んんっ……んっ、〜〜〜っ!!」
「……風天は男、風天は男! って変な声出さないで下さいよ〜」
縛ったあとはどうぞご自由に、とアルメリアに引き渡した。刀真と月夜はその場を後にする。なんでそんなお節介を……とまだむくれていた。
「次もまた来ますから……」
刀真はなんのフロアがあるかをちらりと確認してみた。その時見えたものは屋上のイベント会場に食品・ペット・書籍・スポーツフロアである。この百貨店は目玉になるフロアと、そこと相性のよさそうなフロアをペアで組み合わせていることが多いようだ。
「えーと、書籍のフロアはありますね。これは月夜が喜ぶでしょう。あ、ペットも……猫が買いたいと言い始めていましたね」
ただでさえ本に食費を使い込まれているのに、これ以上出費の元を増やされる訳にもいかないんだけどなあ。でも、楽しみにしていてくれていたのに今回は自分に付き合ってもらったし。
「月夜、次も来ますから機嫌をなおして下さい」
「……あっちで一緒にペアリング作ってくれるなら、今回は赦してあげる」
苦笑しながら了承すると、月夜はうれしそうに彼の袖をひっぱっていった。
「これ、どうする?」
すっかりのびてる牙竜を担ぎながら、静麻は恭司に指示を仰いだ。リュウライザーはいつものことだと特に心配もせず、今夜のおかずを買いにいってしまった。
「頑丈な段ボールにつめとけ。可能ならセイニィ・アルギエバ宅に配送だ」
「ワタシは風天ちゃんが梱包される前に着替えさせればいいのよね。どんな服を着せようかしら」
「ネコミミチアに一票!」
「はいはい」
アルメリアはしびれ薬でぐったりしている風天を見下ろしながら、腕を組んで着せるものを考えていた。正悟の要望通り1回はネコミミチア姿の写真をとったものの、リースとのデートでこの格好はないだろう。せっかくだしスーツでも着せておくか。
アルメリアはそう決めると風天に細いストライプの入ったシャツを着せ、三つ揃いのダークグレーのスーツを選び赤チェックのネクタイを締めた。シルバーのネクタイピンを付け、髪を奇麗にしばってやるとどうにかそれっぽく落ち着いた。
「ごめんなさい、でもきっと九条さんにはそんな悪いことにはならないとおもいます。……多少悪ふざけは過ぎてるとは思うけど多めに見てあげてくださいね、あとで説教はしておきますので」
エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)は風天を頑丈な段ボールに詰める。ゼファー・ラジエル(ぜふぁー・らじえる)は段ボールの中に緩衝材を詰めている。ゼファーは普段頼られることがないので手伝えるのが楽しそうだ。正悟の変装用の服も準備してやり、サポートに努めている。
「ご主人様の言いつけ通りに怪我しないようにしっかり緩衝材つめておきますねぇ」
リースに事前に聞いたサイズの指輪を美術フロアで購入し、それを風天の手に握らせた。その間試作型 ポン太くん(しさくがた・ぽんたくん)は光学迷彩を使用して2人を見張っていた。
「風天ちゃん暴れないでよ〜っ」
「ふもふも〜!」
抵抗する風天に対して泣きまねをしたアルメリアを見るとポン太くんはトコトコと近づき、鳩尾に重い一発をプレゼントすると風天は静かになった。アルメリアはポン太に礼を言い、手元に残った衣装をどうしようかと迷っている。
「ネコミミとチアガールの衣装は……とりあえずケンリュウガーちゃんにでも着せてみようかしら」
「こいつはまあ、最悪放置しとけばいいか」
牙竜は適当につめられ、適当に放置された。
弥涼 総司(いすず・そうじ)は音楽フロアで自身の姿に不満を抱きつつ、ベースのチューニングを行っていた。ウケがいいと言われて女装するはめになったのだが……なんだ、これは! アズミラ・フォースター(あずみら・ふぉーすたー)はそんな彼の気持ちは全て却下し、自慢の歌声を音楽フロアに響かせる。季刊 エヌ(きかん・えぬ)、祭神 千房姫大神(さいじん・ちふさひめのおおかみ)もそれぞれの特徴あるバストがよりよく見える服をきて演奏していた。
〜〜〜♪
黒いスーツの男達が 気まぐれに踊るDance
百万光年離れても 彼等からは逃げられない
カレの気持ちを詰め込んで アナタの元へ届けるの
〜〜〜♪
間奏ではアズミラがバンドメンバーを紹介した。
「ドラム、乳神様」
アズミラがドラムを連打する。
「ベース、総子さん」
総子はベースをかき鳴らした。
「ギター、エヌ」
エヌもレフトハンド奏法で観客の声援にこたえる。
〜〜〜♪
ムカつく位にお似合のくせに
ちっとも進展しないアナタ達への最高のプレゼント
会心の一発を決めてあげるわ!
〜〜〜♪
「やってられるかーっ!」
不満が爆発した総司はぶちぎれてヅラを床にたたきつけると、厚化粧が汗でどろどろになった姿でマイクを奪い取った。
「続けて行くぜ〜っ! TAKUHAI!!」
〜〜〜♪
オレはパラミタ宅急便
さっきは九条を送ったぜ
つぎは田中を配送だ
明日から九条が学校にこねえ
それは彼女とピー(自主規制)
明日から田中が学校にこねえ
それはオレが送ったから
タクハイ タクハイせよ
タクハイ タクハイせよ
シーツを血に染めてやれ
タクハイ タクハイせよ
タクハイ タクハイせよ
パラミタ内海へ沈めてやれ
〜〜〜♪
どこからともなく観客が牙竜の入った段ボールを担ぎあげ総司のもとに放り投げる。総司は非常なるベース……という名の物理攻撃を段ボールにお見舞いした。段ボールの内側から赤インクが染みだしているようだが、中身はそこそこ丈夫だろうし問題ないだろう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「まいど、(株)特殊配送行ゆるネコパラミタです。リースさんお久しぶりです、今回はお望みの『者』をお届けにあがりました」
からくり時計のあるフロアに風天を配送すると、待っていたリースは小走りに近づいてびっくりしている。本当に届けてくれたんだ!
「お、おいくらですか?」
「代金は着払いで○○Gになります。」
正悟がからくり時計フロアを見回すと、ポン太くんが柱の陰から夕日をバックにサムズアップしていた。仕事中だからサムズアップしかえすことができないので、軽くウィンクでも飛ばしてみる。
「ありがとうございました。あっ、付属物はサービスです。どうぞ、お幸せにー」
3時までもう少し。
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