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ネコミミ師匠とお弟子さん(第2回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第2回/全3回)

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第6章 パラ実の先輩たち


 案内されたパラ実歓迎会場には和希、竜司、皐月、七日たちも集合しており、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が遊牧民風に広げた絨毯の上でティータイムを開いていた。なぜか会場入り口には看板代わりの『さくらんぼ』が……きっと、彼女の趣味なのだろう。器材や食器は大人数をもてなせるように用意をしており、地元学生らしく遊牧民と交渉して食肉用の家畜も購入済みだった。今回は先輩からのお言葉の後に食事会の流れだそうだ。羽高 魅世瑠(はだか・みせる)は並木を見つけると、幻滅させないように注意をしつつパラ実の案内をしてやった。
「羽高先輩、おはようございます!!」
「うーっす、おはよう。転校手続なら済ませといたぜ」
 実際はその辺の分校に、

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笹塚並木って転入生が来るんでよろしく


神楽崎分校生徒会長
羽高魅世瑠
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 という雑極まりないメモを張っておいただけなのだが……。
「ええっ、そんなことまでしてくださったんですか!? ありがとうございます! 職員室が見当たらないのですが、先生はどちらですか?」
「校長たちに挨拶か? 地上でのお前さんの活躍はそれなりに響いてるから別に構わねぇみたいだぜ」
「職員室はしばらく前に事故があって、いま建替資金の調達中だ。そのうち建つんじゃねぇの?」
「朝のホームルームもないな。完全無学年無学級制度だからよ。地上の単位制高校に近いかな」
「あっ、そうか。働きながら通える配慮ですね!」
「そうそう、そういうことよ」
 フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)は、まあそういうことだから気にするな。と大きく口をあけて笑った。
「拳法家が『雨が降ってきたから屋根のある所で立ち合おう』たぁ言わねぇだろ? 修業にゃ丁度いいから気にしてる奴は少ねぇよ。常在戦場、ってとこだ。……だから建替も進まねぇけどな」
 先輩が言うのならそうなのだろう! パラ実には個性的な先輩がたくさんいるなあ。曲者揃いといった感じだなあ。
「今なあ、街頭献血並にすべての方面で人材不足なんだよ。おまえ、何が得意ってのはあるか? あと、出身はどこだ」
「出身は東京です! えーと、特技特技……数学は得意なほうで、映画鑑賞が趣味です」
 弁天屋 菊(べんてんや・きく)は足りない人員を補おうとスカウトも兼ねてきているようだ。【青森番長】のため青森出身なら番長の座をかけて戦うのもやぶさかではなかったのだが、東京出身か。
「歌や料理はどうだ」
「歌ですか。音楽を聞くのは好きですが歌うのは人並み程度です。料理はカレーや肉じゃがみたいな凝ってない奴なら」
 む。うまくはないかも知れんが誘えば演歌もあるかもしれんな。料理はその程度できれば【弁当屋】や【荒野の孤児院・料理担当】はできそうだ。料理は愛情以前に燃料だからな。食を通して身体能力を高めるのもいいだろう。
「だらっしゃー」
「どおおわあああ!!!!」
「……あたし、葛葉明。よろしくね。」
 葛葉 明(くずのは・めい)は中性的な外見の並木を見て、ついにパラ実にも男の娘が来たのかと気になっていた。そのため【おっぱいハンター】として揉んで確かめることにしたようだ。後ろから近づいて一気にアタックをかけると、限りなく薄っぺらいがそれらしい柔らかさは感じたのでよしとする。そのあとは握手、握手。
「なんなんですか、もう!」
「ふぅ、女の子だったのね。ついにパラ実にも男の娘が来たのかと思って焦ったわ。あっちの銀髪の新入生もいい乳してそうね」
「先輩……ヨダレでてます」
 ひたいの汗とヨダレをぬぐい、やりきった顔をしている明。次のターゲットには七日を選んだらしい。両手をわきわきとさせてそろーりと背後に忍び寄る。背中の見える服ってセクシーよね。
「同じ乳は2度揉まない主義よ、パラ実女同士仲良くしましょ」
「胸か……。ビーチバレーはどうだ? 砂地でバランスを取るのは修業にもなるし、飛んだり跳ねたりはいい修行になるだろ。これからの季節にもちょうどいいしな。修行の一環で選手にならないか?」
「授業はねえけど、部活はやってもいいんじゃねえの。自主自律、実学重視の校風だからやる気のねぇ奴を縛り付けるような無駄なことはしねぇんだよ。勉強したきゃやる気のある奴に混じるこった」
 明はいろいろな意味でそれはいい提案だとうなずく。ハンターの血が騒ぐのだろう。魅世瑠は授業がないことをさりげなく正当化しつつ、菊のスカウトを支援している。
「分りました、弁天屋先輩。羽高先輩。やったことはありませんが、ビーチバレー部に入部します!」
「あとバイオエタノールの精製設備関係、ここが一番人手が不足してる。言い訳はいいから、一緒に知恵を絞ってくれ!」
「は、はい!!」


「なんで一般人がパラ実なんかに……。それもセーラー服を着ているだと……!?」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は菊たちと話している転校生を見て衝撃を受けたようだ。サングラスの奥の瞳はカッと見開かれ、軍服風に改造したつなぎ姿は多少威圧感があるかもしれないが、こまけぇこたぁいいんだよ!! 一般人がパラ実でセーラー服を着る事が、どんなに危険な事なのか、彼女は分っているのだろうか?
「転校初日でパラ実について良く知らないようだから、1つ忠告してやるよ。波羅蜜多セーラー服はパラ実本来の女子用制服だが今では着用している者は少ない。それが何故だか分るか?」
「えと、人気がないから。ですか?」
「自由な校風だから私服だよ。制服着ても悪いことはねぇけどな」
 武尊の質問に対し、フローレンスが軽くフォローを入れてやる。ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)も並木に何かアドバイスがしたいなーと順番待ちをしているようだ。
「並の実力ではケンカに巻き込まれて制服をダメにしてしまうからだ。セーラー服をそのまま着ている奴もいるがそういう奴は四天王クラスの強者だ。
 つまり、君がそのままセーラー服を着続ければ四天王クラスの強者と誤解され、騒ぎに巻き込まれる可能性がある。」
「それに入学年齢不問だから、制服とかあると敷居が高くなっちまうだろ? 野試合してりゃすぐ痛んじまうし、私服の方が合理的なんだよ」
 なるほど、だから新生徒会長の和希は学ランを着ていたのか。ここの制服は選ばれた人間が身にまとうことができる特別な意味をもった物なのだな。はっ、じゃあ姫宮先輩は四天王クラスに強いのか。うわー。
「まあ、そういうことだから明日からは気をつけるように。今日は家に着くまで送ってやるよ」
「ありがとうございます、国頭先輩。明日からは私服で登校します」
 武尊はうむ、と重々しく頷く。流石オレ、何てイイ人なんだろ。ナガンの次ぐらいにイイヒトだぜ。
「学生証もねぇぞ。ま、自分が何様かくらいは人様に頼らずに証明できるようになれってこったろ」
「もひかんの人がおおいけど、みんなすきでやってることだから。すきでやってることに口ははさまないのがパラ実流だよー。ラズの知ってるあいさつおしえてあげるねー」
「あ、メモ取ります! 待ってください!」

 しばらく、ラズのパラ実挨拶講座があった。

「せ、先輩。これであっていますか?」
「うん、大丈夫だよー」

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◆パラ実の挨拶メモ

・おはようございます
・ご機嫌いかがですか
・またお会いしましょう
・ジャッキーはトムのお母さんに恋しています
・しかしトムのお母さんは年上が好みでした
・ぶっ殺してやる
・お弁当、温めますか?


上記は全て『ヒャッハー』で伝わる
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「ひゃっはーはこの辺のあいさつだよー。シャンバラならだいたいどこでもつうじるよー」
「ヒャッハー」
「ヒャッハー! でもえらい人のまえではつかっちゃいけないんだって。なんでかなー」
 並木は、ラズ先輩って癒し系なんだなーと納得することにした。ぽわわん。
 そのやりとりを見ていた夢野 久(ゆめの・ひさし)は並木が普通の高校からパラ実に転入してきたという経緯に親近感をもっていたようで、自分も助言をしてみようと優梨子が用意したつまみを持っていく。
「よお、いいか」
 どうぞと場所を作り、ラズと並木とで三角形になって座る。
「……俺も地元にいた頃から勉強はさっぱりだったが、だからって流石に全く学が無くて良いとは思ってねえ。アレだ、覚えてた方が便利な範囲までは学んどきたい」
「まぁ色々あるがパーッとやらないかァ?」
 ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は材料を乗せた皿を器用に人差指の上でまわしながら、空いている手で真面目なノリになりがちな久の方をぽんぽんっと叩いた。火術で着火しギリギリ食べられそうなものを放り込んでいる。
 あ、あれが噂のナガン先輩……。パラ実では『いい人』で有名らしいが、女性だったのか。筋骨隆々で林檎をにぎりつぶすような人だとばかり……。
「ありがとな。……つー訳で、週何回か青空教室には通ってるんだ。まあ、鍋でもつつこうぜ」
 権力に弱い宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)はナガンの鍋の準備を優梨子に命じられ、内心、なんでこんな奴のためにとご機嫌斜めの様子だ。
「主賓の並木ってのは、あれか? あんま悪そうなヤツじゃねぇけど、色気もねぇな……」
 服の上から揉まれているのを見たが、ありゃ、A〜Bってところじゃねえか? まぁ、いろいろ顔をつないどくのは処世の潤滑油だけど、正直面倒くせ……。と、うちのボスはマジで危ないからな。
「それより家を探さねぇと。寄宿舎とか無ぇからよ。どっかに手の足りない農家でもありゃいいんだが」
「今はヴァイシャリーの学生寮にお邪魔しています。皆さんはどの辺に住んでいるんですか?」
「ん? 下宿代は農家の手伝いでもして自分で稼ぐんだよ。実社会と繋がってるのがパラ実だ。体力づくりにもなるしな」
 魅世瑠も鍋を食べようと箸と食器を持ってどしんと胡坐をかいて座った。蕪之進はヴァイシャリーというワードにぴくりと反応する。
 ……え? ヴァイシャリーって結構いいところじゃない? なになに、百合園に誘われたりもしてたらしいって? じゃあ結構良いとこのお嬢サマなの?
「へっへっへ、嬢ちゃん、俺ぁこの辺で商売してたりするから、気が向いたら何か買いにでも来てくれや」
 揉み手をしながら悪い顔で営業に励む蕪之進。こ、これは丸めこんでぼったくる気マンマンですぜぇ!?
「……ボッタクリの定食屋や自称小麦粉を売ってるヤツらに注意しとけ」
 久は並木にポソリと助言すると、蕪之進に優梨子のほうを向けと指で伝えた。いやな予感がしながら振り向くと優梨子が口パクで『ミョウナ・コトヲ・スルナ』と笑顔でくぎを刺される。
「……良心的な取引を心がけますので」
 蕪之進がプルプルと震えながら、目を血走らせて付け加えたのは言うまでもないだろう。
「……確かにこの辺りに品の悪いお店は多いですわね。でも、どんな街にでもこういったお店はあるのではなくて?」
 アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)は露出度の高い妖艶な格好で、足を崩して座っている。ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)もその言葉に、そうだな。と静かに同意した。ハーレックは見た目は大人びているがまだ14歳、今年で入学2年目だ。新しい後輩ができて、ひょっとしたら先輩らしいところも見せたいのかもしれない。
「治安が悪いですから。でも、笹塚も早く慣れるといいですね」
「キマクは裏表のない街というだけのことですわ。それに、社会経験が多いほうが実社会に出てから役立つ人材が育つというものですわよ」
 ハーレックは先ほどまで敷地内のパトロールをしていたようだ。舐めた態度の新入りや偉そうな先輩が居ないかを見ていたらしい。
「パラ実は、いつでも戦える恰好じゃないと危ないんですね」
「……極端でなければ、私は誰が何をしようと異存はありませんが」
「カツアゲもあまり柄の良い風習ではありませんけれど、敗者に奮起を促すという一面がありますわ。毎度毎度お金を取られていたら、嫌でも強くなろうという気になるでしょう?」
 アルダトは幼い外見に似合わない妖艶な微笑みを浮かべて、うっとりと歌うように語りかけている。
「アルダト先輩、大人っぽいですね〜」
「くす。『御人良雄』という、ドージェ様に並ぶ伝説の方がいるのですけれど、この方もカツアゲされる側から一念発起して伝説に昇りつめたそうですわ」
「おや、招待していないお客さんのようです」
 優梨子は会場周辺にしかけていたトラッパーのナラカの蜘蛛糸の異変に気づき、にやぁと薄笑いを浮かべると糸を引っ張った。肉にくいこむ確かな感触と、その弾力がふっとなくなる瞬間が指に伝わるとゾクゾクする。何人か入り込んだようなのでハーレックと共に並木が気づかないうちに始末しておいた。

 鍋が煮えるまで武尊と久はあの辺はカツアゲ野郎達の縄張りだから近づくな、あっちの青空教室は小学生レベルの授業内容だ。などと盛り上がっているようだ。
「ドージェさまはみんなの心のなかにいるんだよー。うそだとおもったらその辺のパラ実生にきいてみるといいよー」
 ラズはニコニコと周囲に尋ねると、『ヒャッハー!!』の歓声があたりから湧き上がってきた。並木も楽しくなって『ヒャッハー!』と騒いでいる。
「す、すっぱ!!!」
「ハハッどうだまずいだろう、だがパラ実じゃこれが一般的だぜ!」
 これ、完全に賞味期限が切れている!!
 目を白黒させながらも無理やりごくりと飲み込んだ。ナガンの鍋はこぽこぽと発酵したような音を立てており、爬虫類らしき動物の足が片方でているのがポイントだった。
「師匠からおむすびもらったので、これもどうぞ……っ」
「この味に耐えられなかったら大人しく帰った方が身のためだぜ、所詮雑魚だな!」
 そう言われたら食うしかないじゃないかっ。
 覚悟をきめて鍋をかきこむ。
「た、食べます!! おかわりください!!!」
「ようこそパラ実へ」