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リアクション
第八章 熊殺し
「うおおおおおお!!」
咆哮をあげ、真っ直ぐにヒグマに突進する巨体が視界をよぎる。
ルイ・フリード(るい・ふりーど)が勢いよくヒグマの間合いに飛び込む。ヒグマは立ち上がって彼の攻撃を迎え撃った。大柄なルイと比べてもまだ上背分も大きい。
「よいしょぉっと!」
ルイの拳がヒグマの胴体にめり込み、その後ろ足が押されるようにして地面をすべる。
ヒグマも負けじと爪を振り上げ、ルイの頭に叩きつける。皮膚を切り裂いて、つらりと血が流れた。が、堪えて再び打ち込む。
避けていては攻撃が出来ないと踏んで、捨て身で真っ向からの殴り合い。
相手にダメージを加えられるが、こちらのダメージも当然大きく、長くは持たない。
……が、おかけでヒグマの注意が、ルイに絞られた。
「もらった!」
隙を突いて、スプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)が低位置からヒグマのあご目掛けて綾刀を振り上げた。咄嗟に上半身をのけぞらせクリティカルをかわしたものの、スプリングロンドの刀はヒグマの鼻先を切り裂き、そこから血が吹き出す。
「グオォォォォォ……」
攻撃の手を緩めず、エミィーリア・シュトラウス(えみぃーりあ・しゅとらうす)がスプリングロンドの陰から炎術を狙いすまして、放つ。通常の攻撃としての効果は薄いが、今回の攻撃は相手の隙をついた一点集中。
「いくら魔法耐性が高くても、目を焼かれるのは……痛いでしょう?」
「お義母さん、かっこいい!」
ベアトリス・ウィリアムズ(べあとりす・うぃりあむず)の賞賛に、エミィーリアはにっこりとブイサインしてみせた。
「うっし、行くぜ!」
既に視界が戻ってきているらしいことを見取ると、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は腰を落としてヒグマとにらみ合った。これまでの戦いで消耗してきているとはいえ、その眼光は未だ鋭く獰猛さに磨きがかかっている。武者震いにラルクの胸が躍った。
互いに間合いをはかりながら、飛び掛る一瞬を今か今かと探りあう。
動いたのはほぼ同時だった。
正面から突進し、ぶつかる。後ろ足で立ち上がるヒグマと組み合う姿はさながら相撲をとっているようだ。
「く……」
「グルルルルル……」
組み合うことしばらく。ヒグマが脳天目掛けて素早く腕を振り下ろす。全体重を乗せた上からの圧力にラルクが態勢を崩した。
「おぉっと」
突き飛ばされるようにして倒れそうになる体を、バックステップで立て直す。
「しっしっし、やっぱそうこなくっちゃなぁ!」
押し負けたというのに心底嬉しそうだ。
「あの身長差がやっかいね」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はそう呟くと、つかず離れずの距離を保って隙が生まれる瞬間を伺った。ラルクがヒグマの目を引き付けているので、相手に気取られずに行動するのはそう難しいことではなさそうだ。
再び一頭と一人がぶつかりあう瞬間、
「はぁっ!!」
祥子はブラインドナイブスでヒグマの後ろ足をえぐった。
耳を裂く悲鳴と共に、立ち上がっていられなくなったヒグマが前足を落とす。四つ足で立つと高低差がなくなり、今度はラルクがヒグマの頭を抱え込むような形で組み合った。
その後方で、ゆらりと燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が立ち上がる。
「クマ肉を入手します」
「いいとこ持ってかれちゃたまらないわ」
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)も再び身構え、隙を伺う。
ヒグマが逃げないようにしっかり抱え込んだまま腹部に一発、もう一発と一撃一撃にドラゴンアーツをのせて叩き込む。重い音と、グフッと零れ落ちる息。後ろ足がやられてうまく立ち上がれず、前足で叩けない状況下の中。
「ガァアアアアッ!!」
キレたヒグマはラルクの首筋に牙を剥いた。
「ラルク!」
「おおっ?!」
腹に沈めようとしていた腕を盾代わりにすることでギリギリ回避する。首への攻撃はまぬがれたが、うっかりそのまま腕が食いちぎられそうだ。
ラルクは咄嗟に上半身をのけぞらせ、そのまま
「ぐっ……っらぁああっ!!」
そのまま、ヒグマの顔面に頭突きをぶちかました。
視覚と嗅覚を奪われて、クマは大きく唸りをあげた。めちゃくちゃに振り回す腕は、もはや対象に当たることはない。
「食らえやぁぁあ!!」
「うわぁああああ!!」
ダクダクと血をしたたらせながら、ルイの拳が正面から。透乃の、陽子を傷つけられた怒りがこもった拳が背後から。
挟むようにして、クマの脳天に重く打ち込まれた。
よろり、
脳が揺れ、ヒグマの意識が遠のきかけた一瞬をついて、右手からリカインが殴る、左からザイエンデが殴る、下から祥子が槍を突き上げる。そして、
「鍛え抜かれた拳の一撃くらいやがれぇ!!」
ラルクの疾風突きが正面から顔面へと打ち込まれた。
ゴキュシ、と骨の砕ける音。そして、パラミタヒグマの体が、大地に崩れた。
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