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君が私で×私が君で

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君が私で×私が君で
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リアクション

「えっ……なにこれ? なんか背が高いですよ!? 手とかおっきいし……」
 フリードリヒ・デア・グレーセ(ふりーどりひ・であぐれーせ)は、遠くなった地面と自分の手を見つめて戸惑っていた。顔を上げると、その先にはティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)の姿がある。
「えーなんで僕の前に僕がいるんですかー!」
 立っているのは鏡の前でもなんでもなく。改めて身体を見回してフリードリヒになってしまったことに気付くと、彼は混乱して泣き出した。
「うわーん大地さんースヴェンーびややー」
 昨日大地を訪ねて果実狩りに参加し、一晩泊まった後だった。だが大地はとある事情で今日は不在で、スヴェンも一緒には来ていない。
「だー! 俺様のそのカッコイイ姿でビービー泣いてんじゃねぇ!!」
 ティエリーティアは乱暴な口調で言うと、はっとしたように覇気を治める。
「……っと、いかんいかん。ティエリーティア、これは取引だ。俺はお前のカッコで恥ずかしい真似はしねぇ、だからお前もビシッと俺らしくカッコつけて振る舞え!」
 フリードリヒはきょとんとすると、目に涙を溜めつつも少しだけ元気を取り戻した。
「び、びしっとかっこよく……ですか……頑張る……ぜ?」
 とはいえまだ不安そうで、ティエリーティアは手を伸ばして『自分』の頭をくしゃっと撫でる。
「いいかー? 守らなかったら一時間撫でくりまわしの刑だからな?」
 悪戯っぽい笑顔に、しかし多少の本気も感じ取ってフリードリヒは気合を入れた。
「う、わ、わかりましたー……あれ? ……えと……」
「んじゃ、ちょっと今から俺は……じゃない僕は、ファーシーさんにーごあいさつにーいってきますねー♪」
 慣れない口調にまた混乱し始める彼に背を向け、ティエリーティアはさっさと歩き出す。
「僕そんな喋り方してませんーー!!」
 わざとらしい妙な丁寧語に抗議するも、楽しそうなその足は止まりそうにない。
「ぼ……俺も行きます〜だぜ!」
 さっきよりもちょっと堂々とした言い方で、フリードリヒは慌ててついていく。
「あ、ごめんなさ……悪い、な?」
 上手く歩けずに生徒にぶつかり、慌てて謝る。その姿に似合わぬたどたどしさに、相手は首を傾げながら通り過ぎた。
 やっぱりどこか頼りない……かな?

 小型飛空挺に乗り、マリオン・クーラーズ(まりおん・くーらーず)は大樹の天辺に行って果実を採取していた。薬を作るには資料が必要になるはずで、その為の果実はいくらあっても困ることはないだろう。
 慣れない身体で、片手で操縦しつつ片手で収穫という状態なわけで、飛空挺は安定せずにバランスを崩し気味だった。
 とはいえ、普段とは全然違った、そして今まで知らなかった彼女の目線を体験しているこの時間を、『彼』は心から楽しんでいた。
「おっとっと」
 大きく揺れる度に均衡を取り、大きく揺れる度に胸も揺れる。
「すごいなコレ。胸ってこんな感じなんだ」
 わざと飛空挺を揺らしてみる。
「おおっ!」
 そんなことをされているとは露知らず、大野木 市井(おおのぎ・いちい)は地上で果実の箱詰めを行っていた。実が痛まないように紙に包み、丁寧に並べていく。1箱を一杯にしたところで、立ち上がって周囲を見回す。市井の目線から見る森の様子は眩しくて、こんな状況なのに曇りのない気持ちでいられる。
「市井さんの目線って高いんですね、なんか新鮮……」
 そこにマリオンが戻ってきて、採取した果実を飛空挺から直接渡してくる。
「ごくろうさまです」
 久々に心から労いの言葉をかけると、マリオンは悪気の無い様子で感心したように言った。
「しかし重いなあコレ」
「なんで真顔で人の胸揉みますか!」
 その瞬間、市井は高周波ブレードの柄で思いっきり突っ込みを入れていた。女神のようだった気分は吹っ飛んでいる。
「ぶっ!」
「あっ! いけない! 今は私の身体……!」
 しまったと思うと同時に、思っていた以上の威力にびっくりする。飛空挺が今度こそ完全にバランスを崩し、市井の方に倒れてきた。
「わわっ!」
「きゃっ!」
 飛空挺を急いで受け止めるものの後ろに傾ぎ、マリオンと果実と飛空挺と市井は、だんご状になって地面に倒れた。
「いたた……あら?」
 仰向けになって転んだ上、かなりの重量が落ちてきた筈なのに――。
 あまりダメージの無い身体に、またまた驚く。
「…………」
 纏った鎧をそっと触り、市井はそっと目を閉じた。
「危機に晒された民を救う、それが騎士の義務……でしたよね」

「14センチ違うだけでこんなに世界って違うんですね〜……だぜ」
「うーん……まだ5点ですねー。2時間撫でくりまわしの刑ですよー♪」
「増えてるじゃないですか〜! じゃなくて……ないか?」
 その時、廊下の角からファーシーと環菜の姿が現れた。2人共、何やら楽しそうに話をしている。化学教師バリーに頼まれ、備品を取りにいく所だった。どうやら、数が足りなくなったらしい。
「あっ、ファーシーさんだー! おひさしぶっ……」
 ティエリーティアは、駆け寄りかけたフリードリヒを突き飛ばした。そしてファーシーの身体にぎゅーっと抱きつく。
「ファーシーさんお久しぶり♪」
「わっ、どうしたの?」
 ちょっとだけ驚くものの、ファーシーはそれを嬉しそうに受け入れた。こちらからも腕を回してみる。それから、気が付いたように顔を上げた。
「あっ、ティエルさん、今日ね、大変なことになってるのよ! みんなが入れ替わっちゃって……あれ?」
 抱きつかれた感じがいつもと違う。直接的というか遠慮が無いというか、ぶしつけというか。何だか撫でられているというか。
「思ったよりも硬いもんなんだなー。まあメカだし、こんなもんか?」
「えっ、えっ?」
 状況がつかめずにあたふたとする。
「フリッツ、ひどいですー! 僕が挨拶しようと思ったのにー!」
「入れ替わっている……みたいですわね」
 口に手を当てて言う環菜を振り返り、改めて2人を見比べ――
「きゃあ!」
 ファーシーはティエリーティアをひっぺがした。
「ファーシーさん、ひどいですー! 僕、傷ついちゃいますー」
「だ、だって! また何か悪戯する気だったでしょ!」
 わざとらしく言うティエリーティアから離れ、環菜の陰に隠れる。銅板時代に色々といじられたことや、ホレグスリを飲まされかけたことはまだきっちりと覚えている。
「いやいや、濡れ衣だぜ? 俺はこうして抱き上げてやろうと……ん?」
「ちょっ……! やめてよ!」
 近付いてお姫さまだっこをしようとして、ティエリーティアは思い切りがにまたになってふんばった。
「お、重い……」
「し、失礼ね!」
 一応言っておくが、別にふざけているわけではない。車椅子じゃ不便そうだから抱き上げて校内を案内したいなー、という考えからである。しかし。
「フリッツ、やめてくださいー! 恥ずかしいです〜」
 泣きそうな声を出すフリードリヒ。
「あっ、こんな所にいたのね!」
 そこで、ファーシーの正面から見知った少女達が歩いてきた。橘 舞(たちばな・まい)ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)金 仙姫(きむ・そに)だ。3人の中央を歩く舞はにこっと微笑んでファーシーに言った。
「お久しぶりです、ファーシーさん。一緒にお茶しながらおしゃべりしませんか? …………やっぱ私にはキツいわ。無理」
「え……舞さん?」
 再び目を白黒させる(銀だけど)ファーシーに、ブリジットはビシッと指を突きつけた。
「謎は全て解けた。犯人は、そなたじゃー」
「……?」
 きょとんと見返され、しばし見つめ合う形になったブリジットは指を下ろして敗北宣言をする。
「……よくこんな羞恥プレーができるな。わらわには無理じゃ……」
「ちょっと、羞恥プレーとか言ってんじゃないわよ! てか、仙姫、私そんな喋り方しないし」
 抗議する舞の言葉で、ファーシーは状況を理解した。
「あ! みんなも入れ替わっちゃったのね!」
「私が仙姫で、仙姫がブリジットで、ブリジットが私になってます。分かりにくいかもしれませんけど……でも、私って、普段あんな喋り方してるのかなぁ……私って周囲からはあんな風に見えてるんですかね?」
「ちょっと違うけど……似てるかも」
「私も、わらわ……とか言った方がいいのかなって……思ったんですけど……でも、何かこれって、時代劇の人みたいじゃないですか?」
「? 時代劇って、何?」

「これは……よく見ると、植物の所々が変色していますね。病気の類ではなく、枯れてしまっているようです」
 ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)は、大樹まで赴いてその周辺の調査をしていた。果実をもう1度食べれば元に戻るのではないか、とも思うのだが、再び無警戒に食べるのも危険だ、と判断したのだ。
 また、最初の状況を確認することは何らかの解決策にも繋がるかもしれない。大樹の正体が分かれば、薬を作ろうとしている皆に情報提供をして、より早期にこの馬鹿な状態を解除する一助になるだろう。
「ううん、せっかく子供好きな女の子を口説くのにちょうどいい身体と思ったのに、原因を探すだけなんて、もったいないなあ」
 大樹の近くで土の状態を調べていた本郷 翔(ほんごう・かける)が近付いてくる。
「私はソールの身体なんてイヤですよ。再封印しようっていう相手にいつまでも入っているなんて」
 自分の身体でナンパなどさせてたまるか馬鹿天使、と思いながらソールは言う。
「まあ、俺も、空を飛べなくなるのは、ちょっと嫌だけどね。そんなに元に戻りたいなら、キュアポイズンとかかけてみる?」
「誰に、ですか?」
「いや、俺に」
「…………」
 半眼になるソールに、翔は口を尖らせる。
「なんだよー。効果の有無から、普通に解除できる毒かどうかもわかるだろうし、俺が元に戻れば翔だって元に戻れるだろ? 多分。この面白い状況が終わっちゃうのは残念だけどさ」
 ソールはその意味を少し考えてから立ち上がり、頷いた。
「わかりました。では……」
 自らを前にキュアポイズンというのも変な気分だったが、これで解除されれば万事解決である。
「…………」
「…………」
「……何か、変わった?」
「何も起こりませんね……」
「やっぱ、ダメかあー。まあ、だろうとは思ったけどね。じゃあ、情報も集めたことだし、空から大樹の形を確認して図書館に行こうか」
「土壌はどうだったのですか?」
 翔は土を入れたビニールを掲げてみせる。
「土は普通よりも固めで、少し灰色っぽいね。植物が育ち難いのかな?」
「大樹の周囲、約5メートルには草が殆ど生えていませんし、その可能性はありますね。大樹がいきなり実をつけたことにも関連はあるのかもしれません」
 そう言って、ソールは翼を広げた。この機会に、翼で空を飛んでみようと思ったのだ。どんな酷い状況でもポジティブに考えることで、心に余裕を持たせて状況改善が少しでもできるように努力したいものだ。元に戻らなかったら、死活問題である。
 小型飛空挺に乗った翔が追いついてくる。
「上から見ると、ブロッコリーに似てる……のかなあ。幹や枝が太いよな」
「果実の外見は洋梨そっくりですが、やはり全くの別物ですね。樹の形状も違いますし、第一、洋梨は収穫してすぐに食べられるものでもありませんから」
 ソールは実を2つ確保すると、そのまま蒼空学園へ戻っていった。