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「暗き森のラビリンス」生命を喰い荒らす蔓

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「暗き森のラビリンス」生命を喰い荒らす蔓

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第2章 突然のタイムリミットアナウンス

「ここが4階のフロアか・・・雑草だらけだな」
 青々とした草に覆われたフロア内を、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)が睨むように見回す。
「ピンポンパンポーン、お知らせします。フロア内にある鏡を消すとワープ装置が使えるようになります。鏡を消すにはあなた方にそっくりな毒草クリーチャーを倒さないといけません。もう1つ上の階も同様です。それと、どこから聞こえるとか、細かいことは気にしちゃいけませんよぉ♪」
「どこからアナウンスを・・・」
 当然、十天君・張天君の声がどこかともなく聞こえ、放送を楽しんでいる彼女に対してソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は眉を潜める。
「あぁそうそう、妖精さんの魔力を奪う質力を上げちゃいました〜♪タイムリミットまで、後3時間でから頑張ってくださいねぇ。さっさと5枚の鏡を消すメンバーを選んでください。早くしないとこの妖精は死んでしまうかもしれませんよ〜きゃはははっ!」
 言いたいことだけ伝えると、張天君は即アナウンスを切った。
「―・・・あっ、後3時間だと?ざけんなぁあっ、アウラさんの命をあいつらの好き勝手させてたまるかっつーの!」
 せせら笑う悪女に対して七枷 陣(ななかせ・じん)が怒鳴り散らす。
「だったらこんなもん、さっさと片付けちまおうぜ!お、鏡あったぜ」
 李 ナタ(り・なた)は幻槍モノケロスを手に鏡の傍へ行く。
「どこかな・・・こんな草の中にあったよ!僕とクリスはこれにしようか」
 見つけた場所へ行き、神和 綺人(かんなぎ・あやと)は鞘から妖刀村雨丸を抜く。
「そうですね。同士討ちを避けるためにも、その方がいいです」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は彼と同じ鏡のエリアへ向かう。
「もう見つけたのか、俺も早く見つけないと・・・。ん・・・これみたいだな、姿見サイズか」
 鏡に絡みついた蔓を椎名 真(しいな・まこと)が引き千切る。
「うぅ、草が邪魔すぎる・・・。あっ、私も鏡見つけたよ!」
 ブチブチと草を千切りながら探している霧雨 透乃(きりさめ・とうの)もようやく見つけた。
「大丈夫?陽子ちゃん」
「えぇ、今のところは薬を飲みやすくしてもらったのでなんとか・・・」
 2階の石版部屋で毒草のお茶をもらい、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の能力は少し回復しているものの、ウイルスの影響で顔色が良くない。
「無理だったら休んでいていいからね」
「ここまで来たんですから、私もせめて補助の役に立ちたいんです」
「―・・・うん分かった、補助お願いするね」
「はい、任せてください!」
 一方、一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)は眉を吊り上げ、背の高い草を手で退かしながらまだ鏡を探している。
「鏡なんてないじゃないないの!」
「もう15分も経ったよ、他の人たちはもう見つけたみたいね」
 彼女の傍にいるリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)が言う。
「焦らせないで!余計見つからないじゃないのっ。あっ、あったー!」
 やっと見つけた鏡のところへ月実が全速力で走る。
「見つけられたようですね。では、毒草クリーチャーと戦う方と戦わない方の区域を遮断させていただきます♪」
 再びアナウンスが流れ、月実たちと陣たちの区域が透明な壁で遮断される。
「何だこの壁は!」
「ご安心ください、戦闘を行わない方たちに被害がないように、あなた方がいる区域を壁で囲い、遮断させていただいたのですよぉ〜」
 慌てる陣に張天君がアナウンスを続ける。
「ただし・・・戦闘中の方々に補助などは一切出来ません。それと鏡があるエリアも、いったん分断させていただきますね」
 透明な壁で各エリアも分断させてしまう。
「まぁ、そんなことだろうとは思ったけどな」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)が姿を現さない声の主を睨む。
「ではっ、猛毒に苦しむ方々のショーをごゆっくりご覧ください」
「鏡から毒草クリーチャーが出てくるぞ」
 アナウンスが切られたとたん、ゆらりと鏡にグレンそっくりの化け物が現れ、中からぬっと現れる。
「自分たちと同じ能力を持った相手・・・。油断しないように気をつけないと!」
 透乃は同じ姿をした相手を睨み、ぎゅっと拳を握り締める。
「そんな弱った子を庇っていると・・・、自分が死んじゃうよ?十分に戦えるように潰してあげるよ。きゃっははは♪」
 クリーチャーは透乃を見てクスリと笑い、陽子へ視線を移し殴りかかる。
「いまどきハンデなんて流行らないと思うけど?私は庇う気まったくないし!」
「ぅっ、く・・・。陽子ちゃんはハンデなんかじゃないよ」
「ふぅん・・・じゃあさっさと、くたばっちゃえばぁあ〜」
 陽子を庇い拳を受け止めた透乃を、等活地獄の体術で顔面や腹部、両腕を狙い動けなくしてやろうとする。
「(立てなくしようと嫌な箇所を的確に狙ってくるなんて。軽身功で避けるのがせいっぱいだよ・・・)」
「互いに殺気看破で分かっちゃうから隠れるなんて無意味だからね。殴り殺した方が早く片付くんだよね。でも、もうちょっと早く片付けられるようにしようかな」
 陽子の姿にそっくりのクリーチャーに、目配せで指示を送る。
「何をする気?」
「さぁ〜ね、透乃ちゃんは私と戦っていれば・・・それでいいんだよ!」
 偽者の透乃は天井の蔓を掴み、カカトで脳天を蹴り潰そうと狙う。
「そう何度も通じると思わないでよね。今度はこっちの番だよっ」
 彼女はとっさに両腕でガードし、爆炎波の炎を纏わせた拳で反撃する。
「あうっ、ぁああー!」
 殴り飛ばされたクリーチャーの身体が地面へ転がる。
「もう少しで片付くから待っててね、陽子ちゃん」
「クスクス・・・そう簡単に出来るでしょうか?」
「―・・・えっ。よっ、陽子ちゃん!?」
 声が聞こえた方へ振り向くと、陽子がクリーチャーの陽子に背後から捕まってしまっている。
 偽者の透乃が目配せして、彼女に命じてやらせたのだ。
 気配を感じた陽子だったが逃れるのが遅れ、声を上げようとした瞬間、手で口を塞がれ透乃の名を呼べなかった。
「そうやって・・・汚い手段で私の気を引き付けて倒そうとするんだね!」
 禍々しい殺気を感じ、殴りかかろうとする化け物の片腕を掴む。
「1つだけ正解」
「―・・・1つ?まだ何か仕掛けるっていうの?―・・・うぐっ!?」
 脇腹に激痛が走り、ゆっくりとそこへ視線を移すと、毒の爪が深々と刺さっている。
「ぁあぁぁああ゛ーーーっ!!」
 爪を抜かれ傷口から真っ赤な血が吹き出る。
「まずは1人っと。そっちも始末しないとね」
 地面へ崩れ落ちた透乃をクリーチャーは勝ち誇ったように見下ろし、拘束されて動けない陽子の方へゆっくりと近づく。
「そっ、そんな透乃ちゃんが負けるなんて・・・」
「弱っているやつを庇った結果だよ。さぁてと、死ぬ準備はもう出来ているよね?ばいばぁ〜い♪」
「―・・・・・・っ!」
 もうこれまでだと目を閉じて涙を流しそうになった瞬間、“守るから安心して、私を信じて”と聞き慣れた優しい声音が聞こえた。
 陽子は目を閉じたままこくりと頷く。
「よくも陽子ちゃんを泣かせようとしたね。2人とも・・・ただの雑草になっちゃいなよ!」
「あ・・・ぐぅ・・・っ、や・・・やだ、死にたくないよぉ・・・やめてぇえ」
 勝ったと思い殺気看破で警戒するのを忘れ、彼女の殺気に気づかなかったクリーチャーが透乃に首を掴れる。
「お断りっ」
 逃れようと暴れる彼女の首をグシャァアッと握り潰し、爆炎波の炎で焼き尽くす。
「こうなったらこいつだけでも始末してやります!」
「させないよ」
 陽子を拘束したまま煙幕ファンデーションで逃げようとする化け物の腕をへし折り、抵抗しようとする相手を等活地獄の体術で急所を狙い殺す。
「怪我はない?陽子ちゃん」
「えぇ、ありません・・・」
 差し出された片手を握り草の上から立ち上がると、鏡にヒビが入り消える。
「私たちはクリーチャーを倒したから解放されたみたいだね」
 透乃と陽子がいるエリアを囲む壁も消え去った。
「いったた・・・安心したら急に痛くなってきたよ・・・」
 気力だけで戦っていた透乃の傷口が急に痛み出してしまう。
「今、ナーシングで治してあげます」
 陽子に猛毒を取り除いてもらい、傷口の応急処置をしてもらった。
「あまり派手に動くと傷が開きますから、しばらく安静にしていてくださいね」
「うん、ありがとう陽子ちゃん。信じてくれて・・・」
「はい・・・」
 微笑みかける透乃に笑顔を返す。
「ぁっ・・・」
「陽子ちゃんだって感染しちゃってまともに動けないんだから、少しは安静にしていないとね」
 転んでしまいそうになる陽子の身体を支える。
 毒草クリーチャーを倒し、この階の鏡は後4枚となった。



「また同じ姿のやつか・・・」
 真は自分と同じ姿をした毒草クリーチャーを倒そうと、ナラカの蜘蛛糸の先端を指で掴み待ち構える。
「残念な執事が、残念な感じで葬られるなんて・・・笑えるな」
 毒草クリーチャーは彼を見るなり、小ばかにしたように言う。
「自分になら何を言われても平気だ、常に自問自答はしてるから」
「ちっ、つまらない野郎だな」
「(同じスピードで動く相手だと、狙うのが難しいな)」
 蜘蛛糸を偽者の手足に巻きつけようとするが避けられてしまう。
「クッククク・・・死ねっ死ねっ・・・、死ねぇえ!」
 相手はいっきに間合いを詰め、猛毒の爪で襲いかかる。
「そっちから近づいてくれてありがとう」
「何だと?」
「この瞬間を待っていたのさっ」
「ヒロイックアサルトか!?させるかぁあっ」
 喉元を狙ってきた彼を見て、真はニッと笑う。
「想像の通り、気合の・・・・・・なんてねっ!」
 バック転で爪を避け顎を蹴り飛ばす。
 ドシャァアッ。
 蹴り飛ばされたクリーチャーが砂利の上へ滑り転ぶ。
「気合いの・・・一撃ーーっ!!」
 頭部を殴り潰し、火術で相手の身体を燃やし尽くす。
「1人だったからかもしれないけど、なんとか倒せたな・・・」
 鏡が消え隔離エリアから開放される。
 その頃、リズリットが月実に向かって喚いている。
「ちょっと!皆まじめに戦ってるのに・・・、月実もちゃんと戦って!」
「自分との戦いね・・・。私は・・・私の偽者なんかに負けるわけにはいかないのよ」
「カッコイイ言葉を並べても、トランプゲームしているようにしか見えないんだけど!?」
 リズリットは毒草クリーチャーに神経衰弱か7並べを選択させ、勝負しようとしている月実の袖を掴み、真面目に戦わせようとしている。
「感染のせいだけじゃなくて、なんかもう別の意味で眩暈が・・・。大声だしたら余計に体力を消耗したわ」
「カードゲーム?私をバカにしているわけ・・・?」
「何でそんな方法ばっかりで勝負しようとするの!?相手は私たちを倒すことしか考えてないのよ・・・」
 叫ぶ気力もなくなってきたリズリットは深いため息をつく。
「分かったわ・・・だったらこれで勝負を・・・。―・・・ぁあっ、いきなり弾かないで!」
「スプーン?それでどうするの・・・。だいたい予想がつくけど」
「何をするつもりだったの?」
 バカにされているのかと思った彼女はライトブレードの切っ先でスプーンを弾く。
 怒りのあまり月実を睨みつけ、今にも殴りかかりそうな雰囲気だ。
「スプーン曲げで勝負しようと思ったのに。他に何かいい方法がないかしら・・・」
「(そんのクリーチャーが受けるわけないじゃないのバカァアア!)」
 戦おうとしない月実を見てリズリットは、ぐったりと地面に座り込み心の中で叫ぶ。
「そんな顔をしないで、私に任せておけば大丈夫だから。―・・・せーの、じゃんけん・・・ぽんっ」
 相手はうんざりした表情で、しかたなく受けてやる。
「あっち向いて・・・・・・・・・どりゃぁぁぁぁぁ!!!」
 クリーチャーの視線を指先に気を引きつけ、鞘からライトブレードを抜き逆袈裟に斬りつける。
「私の剣を止めるなんてやるわね・・・」
「真顔で何言ってるのよ、こうなったら普通に戦うしかないじゃないの」
 刃を片手で止められ、真顔で言う月実に戦うように言う。
「いや・・・ここはやっぱり、・・・・・・逃げるわっ」
「は・・・?え、ちょっと、待ってよ。どうして戦わないの!?」
 逃げ出す月実の後をリズリットが慌てて追いかける。
「バカいわないで、あんな化物に勝てるわけないじゃない!」
「逃げ回ってどうなるのよ、この臆病者〜・・・」
「ちゃんとアナウンスの内容を理解しておくべきだったわ。こうなったら最終手段よ」
「どうするの?」
「腹を括って昼寝するしかないわ。もう私は眠ったわ、このまま起こさないで」
 バタンと草の中へ倒れて月実は眠ってしまう。
「とんでもない死亡フラグッ!もう・・・・・・これで終わりね、人生の終わり決定。私の短い人生・・・さようなら、こんにちは死の絶望・・・」
「そう・・・、あっさり死んでしまったほうがまだ楽よ」
 草むらに隠れていたリズリットと同じ姿をしたクリーチャーが、星のメイスでリズリットの腹を殴りつける。
 ドゴスッ。
「ぁぐっ・・・、げほっ・・・がふ・・・」
 土の上に叩きつけられ、口から血を吐く。
「案外簡単に仕留められそうね。一撃で殺してしまってもつまらない気がするけど」
「やっ、やだ・・・死にたくない。クリーチャーに殺されるなんて・・・いやよ」
 月実の偽者に刃を向けられ、リズリットは恐怖のあまりガタガタと震える。
「死ぬ恐怖をじっくり味わってもらうのもいいじゃない?1度しか味わえない貴重な体験よ」
 傍らからリズリットの偽者が言う。
「―・・・やめて・・・・・・いや・・・」
 倒すことしか考えていない相手の会話を聞き、どんな残酷な殺し方をしてくるのか想像しただけで恐ろしかった。
「来ないでぇええーっ!!」
 近づこうとする化け物に向かって叫ぶ。
「おやおや、戦意喪失のようですね。代わりに戦っている方がいれば、助かるかもしれませんよ」
 突然、張天君のアナウンスが流れ、なんと戦う代理の相手を出すように言った。
「ただしペナルティとしてその子たちを守りながら、自分と同じ姿のクリーチャーとも戦ってもらいます。もちろん彼女たちと同じ姿のクリーチャーもいますよぉ〜」
「だったら俺がやるよ」
 真が代わりに戦うと言い、彼女たちがいるエリアの中へ入れてもらう。
「また自分と同じ姿のやつと戦うことになるなんてな」
「よくも俺を殺したな・・・八つ裂きにしてやるっ!」
「倒した記憶を与えたやつを出したのか。どうでいい細かいことやるくらいだったらもっとマシなことを考えることだな」
 ナラカの蜘蛛糸を相手の腕に巻きつかせ、引き千切ろうとする。
「使い慣れてないのか?へたくそが。所詮は残念なお子様執事か、ごっこ遊びならナラカでやりな!」
「浅かったか・・・」
 糸を避けられてしまい掠った程度だった。
「俺と遊んでる間にあいつが死ぬぞ?」
「くっ、させるかっ」
 殺させるものかと真は偽者の月実に向かって氷術を放ち、リズリットを抱えて離れる。
「がら空きだぞ、そんなので守るとか笑えるな!」
「―・・・うぁああーーっ!!」
 背を狙われ猛毒の爪の餌食になってしまう。
「パワーブレスで強化してもらったから、だいぶ深く引き裂いたと思うんだけどな・・・?さっきの傷もこの通り・・・」
 リズリットと同じ姿をしたクリーチャーにパワーブレスをかけてもらっただけでなく、真が傷をつけた部分までヒールによって治されている。
「キュアポイズンで毒の治療をしてあげる」
「それよりもパワーブレスを頼む。このままだと力負けしてしまいそうなんだ」
 治療してくれようとするリズリットに、真は力で押し負けないように術をかけてくれと頼んだ。
「分かったわ・・・」
 リズリットは小さな声音で言い、軽く頷き真にパワーブレスをかけてやる。
「偽者め・・・燃えて灰となれ!」
 昼寝をしている月実を狙う、偽者の月実の両手首を糸で縛り爆炎波を放ち焼き払う。
「もう1匹もだっ」
 メイスで殴りかかろうとする化け物の両足に、糸をからみつかせ紅の炎で灰にする。
「残るはお前だ、塵になれぇえっ」
 実力行使の体術で四肢を殴り、跡形もなく引き千切り爆炎波の炎で炭にする。
「つまらない会話に付き合う暇もないし、出し惜しみして無駄な傷も負いたくないからな。さっさと片付けさせてもらったよ」
「終わった?あ〜・・・動いたらお腹がすいたわ。自然ヘルシーメイトで補給といきましょう。ダンジョンで食べるバランス栄養食は格別ね」
 2人の苦労も知らず月実はそう暢気に言い、もぐもぐと食べる。
「相変わらずそれトなのね、まぁいいけど。で、今日は何味なの?」
「毒草クリーチャー味、数種類の味が楽しめる逸品なのよ」
 いつの間にか作ったやつをリズリットに見せる。
「こっちの苦労も知らないで・・・月実ーーっ。―・・・あぁ、なんかもう・・・ありえなさすぎて気絶しそう」
「あの様子なら大丈夫そうだな」
 殺されそうになった恐怖がまだ残っているかと思ったが、彼女たちを見て真はほっと息をつく。
 真が鏡を2つ消し、残ったのは後2枚となった。



「自分と同じ姿の相手か・・・。ドッペルゲンガーの森でそんなことがあったね、本物になりかわろうとする存在・・・」
「えぇ、今度のは倒そうとしてくるだけのようです。倒そうと狙ってくること事態は変わりませんけど」
 綺人とクリスは得物を構え、バーストダッシュでターゲットとの間合いを詰める。
 爆炎破の炎で焼き払おうとするが、こちらの行動を読まれてしまったのか避けられてしまう。
「そんな方法で僕たちを倒せると思ったのかな?甘く見られたものだね!」
 彼と同じ姿の毒草クリーチャーが殺気の篭った瞳で2人を睨む。
「さっさと始末してしまいましょう」
 クリスと同じ姿の化け物が現れ、偽者の綺人の傍へ寄る。
「(あまり卑怯な手は使いたくないんですけど・・・状況的に仕方ないですよね)」
 化け物の顔面に向かってクリスが光術を放つ。
「きゃぁあっ、アヤ。眩しくて目を開けられません!」
「よくもやったね、罰を受けてもらうよっ」
 クリスの姿をしたクリーチャーを傷つけられまいと、もう1匹が守るように彼女の前へ出る。
 片腕で光を遮り妖刀の切っ先をクリスに向け、彼女の両足を貫こうとする。
 カンッカキィンッ。
 迫りくる刃を綺人が受け止め弾く。
「―・・・死刑の邪魔をしないでよ」
「そっちこそ・・・クリスを傷つけるなんて許さないよ」
「じゃあこういうのはどうかな・・・ねぇクリス」
「フフフッ、そうですねアヤ」
 2匹の毒草が視線を合わせてニヤッと笑う。
「(何をしようとしているのかな)」
 自分たちに何を仕掛けてくるのか、綺人は眉を潜めて警戒する。
「来るよ・・・気をつけてクリス」
 バーストダッシュのスピードで迫る化け物を見据え、迎え撃とうと刀を構える。
「くっ・・・。(一撃が重い・・・これが殺意しかない者の刃なのか・・・。僕も本気で殺しにかからないとまずいね)」
 ぎゅっと刀の柄を握り、相手の領域に1歩踏み込み得物を持つ手を狙う。
「暢気に僕と戦ってていいのかな?」
「どういうこと・・・?まさか・・・」
 傷を負いながらも表情を崩さない彼に、作戦のトラップにまんまとはまってしまったと気づいた。
「同じことを仕返しにやってあげますね」
「しまった・・・クリス、逃げてーっ!」
「もう遅いです!」
「あぁあっ」
 光術でクリスに目晦ましの仕返しをしたのだ。
「真っ二つにしてあげますっ」
 三日月型の刃をクリスの脳天目掛けて振り下ろす。
「クリスーーっ!」
 綺人は彼女の身体を抱え砂利の上へ転び刃から逃れる。
「うっ・・・・・・」
 地面から起き上がろうとした瞬間、頭部を狙われ斧の刃を刀で受け止める。
「よく受けられましたね」
「く・・・うぅっ!」
「―・・・フッフフフ、逝ってしまいなさい」
 化け物は冷酷な表情で綺人を見下ろし、力任せに斧で押し潰そうとする。
「だいぶがら空きのようですね」
 隙を見つけたクリスが相手の胴体を、偽者の綺人が駆けつけるよりも早く斧の刃で真っ二つに斬り払う。
「いやぁあ熱いっ、助けてアヤーっ!」
「逝くのはあなたの方だったようですね」
 爆炎波で毒草を焼き尽くす。
「よくもクリスを!2人まとめて殺してやるっ!!」
 大切な存在を殺されたことに怒り、クリーチャーがアルティマ・トゥーレの冷気を纏わせた刃の剣風を放つ。
「うぁああっ!」
「きゃぁあーっ」
 まともに受けてしまった綺人とクリスが壁際へ叩きつけられる。
「死ねぇええーっ」
 地面を蹴り最愛の存在を奪われた仕返しをしようと、クリスを突き殺そうとする。
 ガキィインッ。
 禁猟区の陣内に踏み込んだ気配を感じ、気絶しかかった綺人が刃を受け止め、刀を弾き落とす。
 ヒュッ、ドスンッ。
 弾き飛ばした刃が地面に突き刺さる。
「さっきやられたから仕返ししたと、もう1匹が言ったよね?だったら僕も同じことをしてあげるよ!」
 相手の身体をアルティマ・トゥーレの冷気で凍てつかせ、刀の餌食にし粉々に破壊する。
「ふぅ・・・・・・なんとか片付いたね。立てる?」
「えぇ・・・」
 クリスは差し出された手を握り、地面から立ち上がる。
「鏡が消えていく・・・。ここはクリア出来たみたいですね」
 ひび割れ消える鏡を見る。
 4階の鏡は後1枚となった。



「ソニア、ナタク・・・元が毒草クリーチャーだからって油断するな・・・。毒で攻撃してくるかもしれないからな・・・」
「私やグレンの同じ姿をするなんて・・・不愉快です!」
 機晶姫用レールガンの銃口をクリーチャーに向け、ソニアは偽者の存在たちを睨む。
「へぇ〜俺たちと同じ姿か・・・。おもしれぇ・・・、打っ飛ばしてやらぁ!」
 自分と同じ姿をした者と刃をぶつけ合い、ナタクは戦いを楽しむ。
「どわわっ、危ねぇじゃねぇかソニア!」
 ミサイルが足元に着弾し、怒鳴り散らす。
「私じゃありません。よく見てください、毒草クリーチャーがやったんですっ」
「あっ、悪い。そっちの方からきたからてっきり。と、仕切りなおしだ。さぁ来い!」
 槍を手にクリーチャーに挑みかかる。
 ザシュッ、ビシュッ。
 相手は刃に傷つきながらも平気で向かってくる。
「全然臆さないか、それでこそやりがいがあるってもんだぜっ」
 それを見てナタクは嬉々としてニッと笑う。
「いくら同じ姿でも元はあの毒草野郎だろ!なら炎と冷気には弱いよな!だったらこいつの餌食にしてやらあぁあ!」
 刃に火術の炎を纏わせ、ヒロイックアサルトのパワーで火力を増す。
「そんな弱火、消してやるっ」
 アルティマ・トゥーレの冷気を放ち相殺させる。
 煙幕ファンデーションを投げつけて視界を封じ、槍の柄で腹を突き砂利の上へ叩きつける。
「くたばりやがれーっ」
「まったく何を遊んでいるんだ」
 駆けつけたグレンが処刑人の剣で刃を受け止め、ナタクを叱りつける。
 その身を蝕む妄執でナタクと同じ姿をした相手に、全身が炎に包まれる幻覚を見せる。
「―・・・うっ、うあぁあ!」
「今だ、さっさと始末してしまえ」
 パニックになっている化け物を、今のうちに倒してしまえとナタクに言う。
「燃えろ雑草!」
 火術であっとゆいう間に、毒草を灰にしてしまう。
「くっ、1人倒されてしまいましたか」
「そのようですね。あなたも私の前から消えてください!」
 ソニアはミサイルポッドを撃ち、不愉快な存在を消そうとする。
「どこを見ているんですか、ちゃんと見ないと当たりませんよ?―・・・この私を・・・」
「―・・・ぅっ」
 同じ姿した者を直視出来ないソニアはミサイルを命中させることが出来ず外してしまう。
「見なさい・・・、私を」
 そのことに気づいた相手は、ニヤリと笑いわざと姿を見せようと近づく。
「来ないでーっ!」
 たまらず目を閉じ、機晶姫用レールガンを乱射させる。
「現実を見ろ・・・ソニア」
「―・・・・・・グレン・・・さん?―・・・違う、・・・クリーチャー!」
 聞き慣れた声を聞き恐る恐る目を開けると、目の前にグレンと同じ姿のクリーチャーがいる。
 自分とグレンと異なる存在、その身を蝕む妄執の幻覚で、“機械”だという現実を突きつけられてしまう。
「私が・・・そんな・・・。違う私は・・・私は・・・。やっ・・・いや・・・いやぁああっ!!」
 悲鳴を上げトスンッと地面に膝をつく。
「なんてまねを・・・」
 戦意を喪失してしまったソニアから自分の偽者に視線を移して睨む。
「こいうことからいつまでも目を背けるのはいけないだろ?」
 よかれと思ってやったと言い、相手は可笑しそうにクスクスと笑う。
「分からせてやったんだ。礼の1つくらい言ってもらいたいものだな」
「身体がどんな構造か、幻覚を見てくれたらもっと分かるかもしれませんね?」
 偽者のソニアは毒草の彼の傍へ行きソニアを見下ろす。
「お前らには恐怖というものがないのか?」
「恐怖ですか?さぁ、どうでしょうね。フフフッ」
 問いかけるグレンに対し、彼女は表情を崩さずに言う。
「どんな恐怖の幻覚見るのか、試させてもらうか」
 ナタクの姿をした毒草に見せたように、その身を蝕む妄執の幻覚を2匹の化け物に見せる。
「なんだ・・・突然、身体が・・・焼かれる・・・うぁあっ!」
「熱い・・・熱い・・・・・・いやぁああっ」
 幻覚を見せられた彼らが、ぎゃあぎゃあと叫ぶ。
「そしてこれが現実だ。灰になれ・・・!」
 紅の魔眼の能力で増した火術の炎で灰にする。
「おっ、鏡が消えたぜ」
「エリアを遮断していた壁もなくなったな。ソニア・・・終わったぞ」
 グレンは怯えているソニアの両肩を優しく揺すり声をかける。
「―・・・グレンさん・・・・・・?―・・・さっきのはただの幻ですよね?」
「そうだ・・・全てただの幻だ」
「よかった・・・・・・」
 偽者ではなく本物の彼の姿を見て安心したのか、ソニアは目を閉じて気を失った。
「(かなりショックを受けてしまったようだな。しばらく休ませておくか)」
 ソニアを抱え待っている生徒たちの元へ行く。
 鏡が消えたことで待っていた彼らを囲んでいた壁も消え、ワープ装置が起動された。
「気を失っているようですけど大丈夫ですか?」
 影野 陽太(かげの・ようた)が心配そうに声をかける。
「あぁ、大丈夫だ。少し休ませる必要はあるが」
「そうですか、よかったです」
「次の階は私たちがやるわね。時間をかけるつもりもないけど、それまでゆっくりと休ませておくといいわ」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はワープ装置の前へ行き、ソニアを安心して休ませるように言う。
 生徒たちは装置の上に乗り5階へ向かう。