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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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「さあてとお。ちょいと暇だなあ。そんじゃ、役得、役得っと」
 アルディミアク・ミトゥナのそばで、国頭武尊が突然地面に身を伏せた。
 内湾に設置された光条エネルギー吸収装置は、アルディミアク・ミトゥナをその中に取り込んだまま、未だにメインコンデンサーとの切り離し作業中である。トライブ・ロックスターの操るクレーンのフックにシリンダーを引っ掛けるまでは便宜上したものの、機械本体との接続は猫井又吉がわざとらしくマニュアルを見ながらたらたらとやっている。技術的には海賊たちも似たような物なので、不満はぶつけられても疑念はもたれないでいた。
 ソフトウエア的な接続を切り離さなければ、物理的な切り離しはできない。中にいるアルディミアク・ミトゥナにどんなフィードバックが来るか分からないからだ。一応、ボタン一つで切り離せるようにしてはあるが、まだまだ手間がかかっているふりを続けている。
 コンソールを操作しながら、猫井又吉は装置自体の停止と、アルディミアク・ミトゥナをつつんでいる光条の解除を探していた。どうも、その部分にはロックがかけられているらしく、肝心の解除ができないでいる。
「くそう、あとちょっとなんだが、角度が」
 地べたを這いずりながら、国頭武尊がシリンダーの端からアルディミアク・ミトゥナを見あげて言った。
 液体を思わせる青白い光条につつまれたアルディミアク・ミトゥナは、シリンダーの中で浮かぶようにして囚われていた。豊かな胸を軽く上に逸らせ、意識がないのか、その瞳は固く閉じられている。力なく下にのばされた両手の左の甲には、星拳ジュエル・ブレーカーがその姿を顕わにしていた。
「だいたい、こういうシチュエーションの時は、全裸って相場が決まってるじゃねえか。なんでお約束を破りやがる」
 ぶつぶつと文句をいいながらも、国頭武尊は無駄な努力を続けていた。
「何をしているんだもん」
「むぎゅっ」
 ノア・セイブレムが、いきなり小さな足で国頭武尊の頭を踏みつけた。
「アーちゃんに、変なことすると許さないんだから」
 ぐりぐりと足を動かしながら、ノア・セイブレムが国頭武尊に言った。
「俺の崇高なるお楽しみの邪魔を……でへっ、へへへへへ」
 文句を言おうとした国頭武尊が、視線を動かしてにやけた。彼の力なら、頭を動かすだけでノア・セイブレムの足など跳ね返せるはずなのだが、そうはしない。そのまま、ジーッとノア・セイブレムのブレスドローブの中を堪能し続ける。
「あー、いけないんだ、パンツ番長。のぞいてるぞぉ」
 ちぎのたくらみで幼児化した七尾 蒼也(ななお・そうや)が、国頭武尊を指さして叫んだ。
 さすがに気づいて、ノア・セイブレムがきゃっと小さな悲鳴をあげて飛び退った。やれやれという感じで、やっと国頭武尊が立ちあがる。
「やっぱり、早急に新しいカメラを手に入れないとだめだな」
 あらためてなめるようにしてアルディミアク・ミトゥナの全身を見ながら国頭武尊が言った。
「そんなことはさせないんだから。私がアーちゃんの目を覚まさせて、ここから出してあげるんだ」
 そう言うと、ノア・セイブレムが驚きの歌を口ずさみ始めた。気を失っているらしいアルディミアク・ミトゥナの意識さえ戻れば、彼女なら自力で外に出てこれるかもしれない。
「あーん、無駄無駄。そういうことは、俺に任せておけって」
 国頭武尊は一笑にふしたが、ノア・セイブレムはやめようとはしなかった。
「これがある限り、彼女を外に出すのは難しいですね」
 慎重に言葉を選びながら、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)がシリンダーに手をあててつぶやいた。
「なんだ、お前は?」
 国頭武尊が誰何する。
「あまり遅いので、手伝ってこいと言われまして」
「うるせいな、任せておけって言ってんだろ」
 適当にごまかす浅葱翡翠に、国頭武尊が言い返した。
「よろしければ、お手伝いしますわ」
 白乃 自由帳(しろの・じゆうちょう)が、猫井又吉の持つマニュアルをのぞき込みながら言った。マニュアルに書いてある文字は古代語のようでもあり、外国語のようでもあり、所々に誰かの書き込みで訳が記してあった。それを頼りに、海賊たちは機械を動かしていたらしい。部分的には白乃自由帳でも解読できるが、さすがに専門用語の意味までは分からなかった。
「機械なら、俺に任せておけって」
 うざそうに、猫井又吉が突っぱねる。
「でも、多少なら読めますよ。ここは、管理者権限と書いてありますね。横の文字は意味不明な文字の羅列ですけれど……」
 白乃自由帳が、マニュアルの一部をさして言った。
「えっ、どれどれ……」
 気がつかなかったと、猫井又吉が該当部分をのぞき込んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「奴を吹き飛ばしたいのであろう。セーフティ解除、行動開始」(V)
 リア・リム(りあ・りむ)が、確実に狙撃できるように六連ミサイルポッド二つとレールガンの照準をピタリと国頭武尊に定めながら言った。
「いいえ、アルさんにあたったら大変です。神聖なアルさんのパンツをのぞこうとするなど、万死に値します。ここは、ワタシの鉄拳制裁でパンツ番長を排除してアルさんを救出してきます。リアはここにいて、ワタシを援護してください」
「了解したのだ」
 リア・リムは、目立たぬように身を隠しながら答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「海賊の頭領がいるとしたら、ここね」
 内湾に出た九弓・フゥ・リュィソーたちは、船渠に停泊しているヴァッサーフォーゲルに空飛ぶ箒などで近づいていった。
 内湾に停泊したヴァッサーフォーゲルは、両側に足場が組まれて、大規模な改修がなされていた。
 ガレオン船と同規模の船体には、搭載された浮遊用の機晶エンジンにともない、直下への攻撃も可能にするために、いくつかのバルコンが両舷に作られている。甲板中央には、船首楼を突き抜ける形で大型光条砲が設置されていた。その後ろ、船倉部分はアルディミアク・ミトゥナの入った光条エネルギー抽出装置を設置するためにハッチが開けられている。飛行時の安定性を増すためか、マストは短めに切り詰められ、両舷には展開式の安定翼も作られていた。砲台は旧式の物が大半だが、パラミタにおいては船員自体が生きた砲台となり得るため、ほとんど飾りのような物であるとも言える。船の大きさ的には島の周囲で戦闘を行っている海賊船の二倍近い大きさがあり、海賊たちにとって、まさに旗艦と呼べる物であった。
「光条砲みたいですけれど、あれ、多分役にたちませんね。マ・メール・ロアだって、対魔法防御ぐらいはしているでしょう」
 九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)が、甲板に半ばむきだしとなっている光条砲を見て言った。彼女の言うとおり、外側から要塞その物を破壊するにはこれ一門ではあまりに不十分だろう。
「だとしたら、やっぱり戦いを回避させないとね。どこで手に入れたのかは分からないけれど、海賊の持つアーティファクトと組織は、なくしてしまうのはもったいないもの。できれば、私たちが……」
 言いかけて、九弓・フゥ・リュィソーは甲板にゾブラク・ザーディアその人の姿を認めて口を噤んだ。
 キメラを搭載する作業にむかったヴァイスハイト・シュトラントがまだ戻ってこない、さらに、アルディミアク・ミトゥナの搭載も遅れていた。さすがに、焦りを感じて船内から外に出てきたというわけだ。
「あなたが、海賊のリーダー?」
 ゆっくりと近づいていきながら、九弓・フゥ・リュィソーがゾブラク・ザーディアに訊ねた。
「何者だい?」
 油断なく、ゾブラク・ザーディアが聞き返す。
「あなたに提案があってやってきたのよ」
 臆することなく、九弓・フゥ・リュィソーが話し始めた。
「提案? どれ、言ってごらんよ。面白ければいいけれど、あたいを楽しませられない物だったら、分かってるよね」
 すっと腰の鞭を外したゾブラク・ザーディアが、両手で折りたたまれた鞭を引っぱって威嚇するように大きな音をたてた。さすがに、マネット・エェル( ・ )たちが少し首をすくめて縮こまる。
「提案は、新天地での新国家建設よ」
 単刀直入に九弓・フゥ・リュィソーは切り出した。
 現時点で、クイーン・ヴァンガードのミルザム・ツァンダたちと、マ・メール・ロアのティセラ・リーブラは全面対決を予定している。さらには、全学校と鏖殺寺院も、闇龍と女王の復活に関して対立の最終局面を迎えようとしていた。いずれにしろ、シャンバラ地方は他国から見れば内乱に近い状態だ。どの勢力についたとしても、消耗戦を強いられるのは自明の理である。たとえ漁夫の利を狙ったとしても、戦いのただ中に飛び込んでいっては消耗はまぬがれないだろう。
「だから、消耗を避けるために、ここはいったん引くべきなのよ」
 九弓・フゥ・リュィソーが力説した。
 シャンバラ地方にとっては辺境とされる場所にいったん下がって、そこで独立して勢力を集めるのである。その間には、今ある勢力は互いに争って消耗するだろう。その段階まで充分に力を温存することができれば、疲弊した現勢力を簡単に捻り潰せるだろう。
「つまり、あたいに、こそこそと逃げ隠れしろと? はーはははは、こりゃあいい。傑作だ」
 九弓・フゥ・リュィソーの言葉に、ゾブラク・ザーディアは高笑いをした後、手にした鞭をピシリと鳴らして彼女たちを睨みつけた。
「確かに、これだけ邪魔された後じゃ、かなりしんどくはなったねえ。でも、これをしかけてきたのは、クイーン・ヴァンガードだけじゃあるまい? ドラゴンライダーのお嬢ちゃんがいたって言うじゃないか。なら、ありがたく星剣をいただこうじゃないか。勝負って言うのは、見極められたときにかけるものさ。それすらできずに逃げ隠れするなんて、かつてのジャタの獣人たちと同じじゃないか。いいかい、戦いってのは、頭を潰せばなんとかなるもんなんだ。逆に言えば、頭があれば可能性は生まれる。蛮族と呼ばれているシャンバラ人、獣人、ドラゴニュート、ゆる族、そんな者たちがこの世界に何人いると思ってるんだい。世界は、あんたが思っているほど狭くもなければ、あんたが夢見ているほど不確かでもない。それをつかむことに、なんで躊躇がいるものかい!」
「それは無謀というものよ。愚かだわ。敵は目の前にいる者だけではないのよ。時間は貴重だわ。あたしは、あんたたちの持つ技術が、今後の戦いの鍵となると思っている」
「それは、あんたにとってだろう。あたいにとってじゃない」
 九弓・フゥ・リュィソーの思惑を見通してか、ゾブラク・ザーディアが言った。仮に、九弓・フゥ・リュィソーの言うことがもっともだと認めて、この場はいったん撤退するとしたところで、なぜ、この小娘の力を借りなければならないというのだ。それこそどれだけの使い手だろうと、後ろ盾のない個人や小集団が協力を申し出てきたとしても、単なる手駒として配下に収まるのでなければ、それはただの寄生虫だ。バックボーンがなければ、どんな魅力的なことを言おうと、ただの絵空事なのである。だが、今のゾブラク・ザーディアには、ここまでまとめあげた組織がある。絵空事を絵空事で終わらせるつもりは毛頭もなかった。だいいち、それでは面白くないではないか。
「なら、あたしの力を見せて……」
 何かしかけようとした九弓・フゥ・リュィソーたちが、突然奈落の鉄鎖を受けてヴァッサーフォーゲルの甲板に叩きつけられた。
 船尾楼の上に、ゾブラク・ザーディアの手下の姿がいくつも見える。話に霧中になりすぎたのが失敗だった。
「そうそう物事、思い通りになんかならないんだよ、世の中は!」
 ゾブラク・ザーディアが、波打たせた鞭を九弓・フゥ・リュィソーたちにむけて振った。とっさに九鳥・メモワールがガードラインを敷こうとするが、間にあわず、鞭に弾き飛ばされて三人とも甲板から外へと飛ばされてしまった。
「誰がこのまま……」
 落ちるものかと、九弓・フゥ・リュィソーが空飛ぶ箒にしがみついたまま、なんとか空中でマネット・エェルと九鳥・メモワールを捕まえて自分の方に引き寄せる。そのまま空飛ぶ箒で体勢を立てなおそうとするが、そうはさせじとする船上の海賊から奈落の鉄鎖の追い打ちを受けて、きりもみしながらななめに墜落していった。