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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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「くそう、デクステラはどこだ!」
 幻槍モノケロスで触手を払いのけながら鬼崎朔が叫んだ。
「これでは、簡単に見つけられぬではないか」
 手当たり次第に触手を凍りつかせて砕きながらアンドラス・アルス・ゴエティアが言う。
 海中から現れる触手はまさに無数で、まるで触手の林が海上に現れたかのようであった。その上空では数隻の海賊船が上に逃げられないように弾幕を張って押さえ込みを図っている。
 鬼崎朔は、アンドラス・アルス・ゴエティアの空飛ぶ箒の後ろに乗り、それら触手の間を飛び回りながらデクステラ・サリクスを探していた。これが地上であれば、海岸に残してきたユニコーンで颯爽と駆け抜けながら根元から次々と切り倒していくのだが、いかんせん海上では無理な話であった。ユニコーンで泳いできていたら、今ごろはあっけなく海中に引き込まれていたことだろう。
 鬼崎朔たちは、以前キマクのアジトでデクステラ・サリクスに捕まったという恨みがある。今回は、そのときの借りを返す絶好の機会だ。
「ドリルでルンであります!」
 追いついたスカサハ・オイフェウスが、戦闘ドリルを前に突き出して触手の一本を切り裂いた。
 その先に、デクステラ・サリクスの姿が現れる。
「見つけたのだよ」
 アンドラス・アルス・ゴエティアがティセラフレーバーを投げつけるが、間にある触手があっけなくそれを海中に叩き落とした。うねる触手にこれだけ水も大気もかき回されていては、よほど大量の物を用意しなければ嗅覚麻痺を狙った薬品はほとんど役にたたない。
「障害は、潰す! 接近戦に持ち込むぞ!」(V)
 鬼崎朔が叫んだ。武器の間合いに入り込まなければ攻撃もできない。魔法だって、際限なく届くものではないし、あっけなくレジストされてしまうこともある。
 だが、巨大クラゲの触手は敵の動きには合わせては道を開くが、こちらに対しては容赦なく襲いかかってくる。
 めまぐるしい戦いの中、鬼崎朔たちは再びデクステラ・サリクスの姿を見失っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「つっきるわよ!」
 騎沙良詩穂が、海賊島をさして叫んだ。
「邪魔だ!」
 月島悠と麻上翼が、パワードアームで巨大クラゲを押しのけながら氷のボートを進めていく。 
「本体を叩くんですか。やんなきゃだめ? ……ですよね」(V)
 氷のボートを飛び出したサクラコ・カーディが、巨大クラゲの上に移動した。則天去私で強力な突きを叩き込むが、敵の巨大さゆえか打撃を吸収されたのか致命傷とならない。逆に、クラゲの傘に拳がめり込んで身動きがとれなくなる。そんなサクラコ・カーディの身体に、触手が巻きついてきた。無数の刺胞が一気に毒を放出した。
「食材のくせに!」
 助けに入った白砂司が、槍の一閃で触手を切り裂き、返す穂先を巨大クラゲに突き立てた。白砂司の食材という言葉に怯んだのかどうか、一瞬巨大クラゲの動きが止まる。
「あまり使いたい技じゃないが……。さっさと終わらせるぞ」(V)
 サクラコ・カーディを飛空艇に引き上げると、白砂司が槍を抜いた。その傷口に、甲虫型の毒虫がわらわらと群がって巨大クラゲの体内に喰い進んでいく。異なる毒に侵されて、巨大クラゲが海中に沈んでいった。
 だが、すぐに他の巨大クラゲの触手が現れて、仲間の抜けた穴を埋める。
「邪魔だ!」
 咆哮とともに、渦巻く火炎流が幾本もの触手を薙ぎ払った。
 水平にファイヤーストームで薙ぎ払われた跡に、道ができる。ココ・カンパーニュを乗せた、ジャワ・ディンブラがそこに突っ込んでいった。
 だが、その進路を妨害し、あまつさえ押し潰して海面に叩き落とそうと、シニストラ・ラウルスの操る海賊船が急降下してきた。
「まずい!」
 ココ・カンパーニュが、ジャワ・ディンブラの手綱を引いた。突風を起こしてジャワ・ディンブラが翼を羽ばたかせながら身をくねらせ、海賊船の衝角(ラム)を回避しようとする。
「逃がすな!」
 シニストラ・ラウルスが、加速を命じた。
 衝角の切っ先がジャワ・ディンブラに迫る。
「うおおお!!」
 その間に飛び込んできたガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)の渾身の一撃が、船首近くの舷側に叩き込まれた。さらに、ドラゴンアーツによる追撃で海賊船の進路を傾けさせる。
 ガイアス・ミスファーンの身体をなめるようにして、ジャワ・ディンブラの身体がすれ違っていった。
「バランスを戻せ! アップトリム三十!」
 マストにつかまったシニストラ・ラウルスが、ななめに傾きながら海に突っ込む進路に変えられた海賊船を必死に立てなおそうとする。
「させるものか、落ちよ!」
 ジャワ・ディンブラのそばについてきていた悠久ノカナタが、サンダーブラストを海賊船の機関部があるだろう船尾にむかって放った。
「ミファ!!」
 タイミングを合わせて同じサンダーブラストを放った緋桜ケイが、禁忌の書を携えて叫んだ。
「閃きを一つに……」
 緋桜ケイの後ろで、『地底迷宮』ミファが静かに手を組んで唱えた。
 同時に放たれた二つのサンダーブラストが、『地底迷宮』ミファの雷術の導きで一つに集約して海賊船の動力部に突き刺さる。轟音とともに、船尾楼の大半が吹き飛んだ。推力を失った海賊船がさらに降下する。
「ガイアスさん、死なないでください!」(V)
 必死に海賊船にしがみついていたガイアス・ミスファーンの許に、彼が乗り捨てた空飛ぶ箒を持ったジーナ・ユキノシタが飛んできた。
「逃がすか」
 不安定に傾く舷側を走りながら、シニストラ・ラウルスがやってきた。
「危ない」
 投げられるナイフを、ジーナ・ユキノシタが槍で弾こうとしたが果たせず。それを避けて手を放したガイアス・ミスファーンが落下する。
「ガイアスさん!」
 すぐさまその後を追ったジーナ・ユキノシタが、シニストラ・ラウルスに背をむけた。
「迂闊な……むっ」
 いい的となったジーナ・ユキノシタを攻撃しようとして、シニストラ・ラウルスは本能的に飛び退った。直前まで彼がいた場所に、カカカッと数本の手裏剣が突き刺さる。
「気づかれた!?」
 完全にふいをついたと思っていた久世沙幸が、あわてて距離を取る。
 ななめになった甲板を転げるようにして移動していったシニストラ・ラウルスは、ディッシュをつかみ取って空中に躍り出た。
「野郎ども、船を捨てろ。楽しい白兵戦の時間だ!」
 命令された手下たちが、一斉にディッシュに飛び乗って宙に舞う。
「シニストラ様、手合わせお願いいたします」
 ボートの上から奪魂のカーマインを構えた騎沙良詩穂がシニストラ・ラウルスにむかって叫んだ。
「なんだ? 以前裏切った雇われ者か。下がっていろ!」
 戦いを避けるように、シニストラ・ラウルスが叫んだ。
「いえ、引きません。アルちゃんを助けるために海賊を裏切る形になりましたが、あなたのためにコーヒーを注いでいただける立場にまで信頼されていた、このことだけで充分です。給仕の家系である詩穂には幸せな日々でした………。ここは、そちらが引いてください」
 奪魂のカーマインの影響か、少し楽しそうに騎沙良詩穂が言った。
「できない相談もある」
 騎沙良詩穂の放つ銃弾を避けて、シニストラ・ラウルスは上空へと移動した。