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今日は、雨日和。

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今日は、雨日和。
今日は、雨日和。 今日は、雨日和。

リアクション

 
 
 雨が似合う生き物を探しに行こう! 
 
 
 まだ子供のララ・シュピリ(らら・しゅぴり)に雨が似合いそうな生き物を見せてあげたいからと、クラーク 波音(くらーく・はのん)は福神社にやってきた。ここならば自然がたくさん残っているし、雨の日の神社の佇まいも良さそうだ。
「まずは蛙さんを探そうか。蛙さんはぴょんぴょんって飛ぶんだよ♪ しかも泳げちゃうんだぞ〜!」
「蛙さん、すごいんだねぇ」
「くりくりしたおめめも可愛いんだよっ。雨が大好きだから、雨に濡れた蛙さん、気持ち良さそうにしてるんじゃないかな♪」
 波音が説明すると、ララは目を輝かせて蛙を探し始めた。葉の陰を覗き込むのに傘が邪魔になるからと、アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)は持ってきた合羽を2人に着せる。
「え〜と、波音ちゃんの合羽は薄いピンク色のうさぎ柄。ララちゃんの合羽は薄い黄色の音符柄、でしたね? 私が傘を差していますから、その下で着てくださいね」
 アンナがさしかける傘の下で波音とララは合羽を着た。
 観察をする時には近くで見たいものだし、触ってみたいもの。傘だと片手が自由にならないけれど、合羽なら元気いっぱいに動いても大丈夫。
「蛙さん、蛙さん、どこかなぁ」
 さっそく木の陰に潜り込んで探し始めたララに、波音は注意する。
「もし蛙さん触るなら優しくねっ」
 そんな波音を見て、アンナはくすっと笑った。ララに生き物のことを教えたいなんて、波音も少しお姉ちゃんになったのかも知れない。
「あ、蛙さん見つけたぁ〜!」
 見つけた蛙をそっと手に乗せて、ララが得意そうに見せる。
「よく見つけたね。蛙さんはね、水に住むおたまじゃくしさんから変身しちゃうんだぞ〜! 水から陸に上がるから、両生類っていうんだよっ。今度、足が出てるおたまじゃくしさんも探してみようね♪」
「うんっ。蛙さんはけろけろ〜って鳴くんだよねぇ? ララもけろけろ〜ってお話してみるよぉ♪」
 けろけろ、けろけろ、とララが蛙の鳴き真似をするのを、波音もアンナもにこにこしながら見守った。
「蛙さんが探せたのなら、今度はカタツムリさんを探してみようかっ」
「カタツムリさん?」
「そう。カタツムリさんはゆ〜っくりの〜んびり移動するんだよっ♪ 背中にはお家も持ってるんだぞ〜。それでね、暑い時とかは乾燥しないように、お家の中でじ〜っとしてるんだよ〜」
 指を立ててカタツムリの角の真似をしながら波音は説明する。
「背中にお家があるのぉ? すごいよねぇ〜♪ 波音おねぇちゃんが寒い日にコタツで横になってる時に似てるのかなぁ?」
「えっ、あたし?」
「どれくらいゆっくり動くんだろぉ〜♪」
 楽しみに探すララを横目に、波音は脳裏に冬の自分の姿を思い浮かべ……。
「……似てるのかなぁ?」
 ちょっと唸ってしまうのだった。
 
 
 
 雨の日の神社参り 
 
 
 図書館で園芸の本が読みたいという茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)を百合園女学院に残し、キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)は福神社に参拝に来ていた。
 願うのはもちろん、空京オリンピックの成功。
 さてお賽銭は……。
「うーん……」
 どうしよう?
 たくさん入れた方がご利益があるのだろうか。それなら将来の左うちわの為にも、ここは奮発して……。
「ま、こういうのは金額じゃないよネ」
 ちゃりーん。
 軽い音を立ててお賽銭を入れると、キャンディスは手を合わせた。
 しっかりと空京オリンピックの成功を祈願する。パラミタで心機一転やり直しが出来るかどうかがこの成功にかかっているのだと思えば、合わせた手にもぐぐぐと力が入った。
 そこに、雨から逃れて比賀 一(ひが・はじめ)ハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)が社前に走り込んでくる。
「ふぅ、たまには雨に打たれるってのもいいもんだなぁ。何て言うか、こう、自然を身体で感じる、みたいな?」
 あはははは、と笑う一に、ハーヴェインが苦虫を噛み潰したような顔になる。
「単に傘を持ってくるのを忘れただけだろうが。風邪でも引いて頭がおかしくなったか?」
 だから外に出るのはよせと言ったのに、と言うハーヴェインに一は逆に食ってかかる。
「うっせ。あんただって何で傘持ってねぇんだよ」
「はっ、守護天使をナメんなよ」
 ハーヴェインは肩をそびやかす。
「この程度の雨に降られて風邪なんか引くかってんだ。鍛えが違うんだよ鍛えが……ぶえぇっくしょおぉい! ……うーちくしょい」
「風邪引いてんじゃねぇかよ」
 すかさず一につっこまれたが、ハーヴェインも負けずに言い返す。
「あ? 何言ってんだよ、風邪じゃねーよ、親父の威厳て奴だよ」
「意味わかんねぇし」
 ぽんぽんと言い合っている処に、キャンディスはてけてけと近づいて行った。
「喧嘩はやめようヨ。これ、ろくりんくん携帯ストラップとろくりんパイネ。これで仲直りスルネ」
「おっ、悪いな」
「ああこれはどうも……」
 一とハーヴェインは何となくそれを受け取り、そう言えばここは神社だったと思い出す。
「ま、ここで雨宿りしたのも何かの縁。ついでに幸運でもお祈りしておくか」
 小銭しか持ってないけど、と一はポケットを探ってお賽銭を入れた。
「ついでに空京オリンピックの成功も祈るイイネ」
 キャンディスがちゃっかり願い事の追加をさせていると、社の扉が開いて布紅がひょっこりと顔を覗かせる。
「雨宿りですか? そこは雨が入りますから、良かったら中にどうぞ」
「布紅さん、ちょうど良かった。お願いしたいことがあるネ」
 これお土産、とストラップを渡しながらキャンディスは社の中に入って行く。
 一とハーヴェインは顔を見合わせたが。
「へぶしっ! ……俺たちも邪魔させてもらうか」
「ああ、お前が風邪引きそうだからな」
「誰がだ!」
 漫才のように言い交わしながらひとときの雨宿りにと、社の中に入って行ったのだった。
 
 
 
 他愛ないお喋りの時間 
 
 
 雨が音を立てる参道を、淡い色の紬を着た水神 樹(みなかみ・いつき)がゆったりと歩いてくる。
 片手で和傘を支え、もう片手で濡れないように布紅への差し入れを包んだ風呂敷を抱え持ち。
 福神社まで来ると、参拝をするのではなく社の中を覗いた。
「布紅さん?」
 声を掛けると、すぐに返事があって、何もない日に着ている短い着物姿で布紅が扉の処までやってくる。
「こんにちは。今日はどうされたんですか?」
「久しぶりに布紅さんとゆっくりお話がしたくなったんです」
 樹がそう言うと、布紅はどうぞどうぞと社の中に招き入れた。
「あ、でも……せっかくのお休みの日ですから、どなたか親しい人と会ったりされないんですか?」
 ここに来ていていいのかと言う布紅に、樹はちょっと微笑む。
「今日は都合がつかないようでしたので。私の恋人は他校生なんです。だから頻繁には逢えなくて……」
「それは残念ですね〜」
「ええ、でもその分、逢える時はとっても嬉しくて心が躍るんです」
 相手が神様だと思うと、そんな気持ちも素直に言える。布紅は目を見開いて、
「素敵ですね、そういうの」
 大切な人との時間を貴重に思えることが、とにこりと笑った。
 そこに、
「布紅ちゃん、遊びに来たわよー」
 アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)がひょっこりと顔を覗かせた。
「あ、こんにちはです〜」
 ぶんぶんと手を振る布紅が元気そうなのに安心しつつ、アルメリアは社に上がった。
「もう体調はいいのかしら? あれから体調崩れたりしてない?」
「はいお陰様で。偽物のお守りを皆さんが回収してくれましたし、新しいまっすぐな願い事もたくさん届くようになりました」
 そう答える布紅は、少し前、社で寝込んでいたのが嘘のように生き生きとして見える。
「良かったわ。あの時は本当に心配したのよ」
 アルメリアは布紅の頭を抱え込んで、よしよしと撫でた。
「心配かけてしまってすみません」
「いいのいいの。布紅ちゃんがかける心配なら」
 思う存分布紅の頭を撫でくり回していたアルメリアだったが、ああそうそう、と持ってきた包みを出した。
「今日はお土産持ってきたのよ。ほら、この時季だけにしか開かれない茶店で売ってるあじさいまんじゅう。いっしょに食べましょう」
「はい。お茶を淹れてきますね〜」
 布紅はいそいそと裏に入って行き、お茶の用意をして出て来た。戻ってきた処に、樹も手みやげを出す。
「私も、お茶請けにと思って羊羹とお煎餅を持ってきました。お口に合うといいのですけれど」
「わあ、ありがとうございます」
 お土産のお菓子を、布紅はさっそくつまんだ。
 まんじゅうを食べ、ぱりんと音を立ててお煎餅を囓っているのが神様だと思うと、なんだか可笑しい。
「布紅さんは神様なのに、お菓子を食べられるのですね」
「はい。何も食べなくても平気なんですけど、おいしいものを食べるのは好きです〜」
 食べなくても平気、と聞いて樹は留守番をしているはずのパートナーたちのことを思った。
「食べなくても大丈夫なのは良いですね。うちの子たちは個性的で、毎日賑やかで楽しいのですけれど……食費が増えて大変なんです」
「そうなんですか。でも毎日賑やかなのは良いことです〜。1人でいるのは寂しいときもありますから」
 布紅が樹にそう答えた瞬間。
「布紅ちゃん!」
 がばっ、とアルメリアが布紅に抱きついた。
「なななな、何でしょう〜?」
「寂しいんだったらワタシのお家に来るといいわ。幸い、今日は琴ちゃんの姿もないし……」
 チャンス、とばかりにアルメリアは誘う。
「善は急げよ。このままいっしょに行っちゃいましょう」
「だめです〜。私はここにいて神様するように、って言われますから」
「あら残念。でも気が変わったらいつでも言ってちょうだいね」
 その時は飛んでくるから、と念を押すアルメリアに布紅は笑う。
「はい。でも皆さんが社にこうして来て下さいますから、最近はここにいてもあまり寂しくないんです」
 しとしとと雨に閉ざされる日でさえ、こうして遊びに来てくれる人がいる。
 お茶とお菓子をはさんでの他愛ない語らい。
 そんな時間こそ、きっと……かけがえのないひとときになるのだろう。