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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


・エミカの心境


 瑠樹からの通信を受けた後、PASDの本隊はいくつかのグループに分かれて内部を当たることになった。
「よっし、それじゃー行くよ!」
 案の定、エミカが紫電槍・改を構えたと思うと、施設内を駆け出そうとしていた。
「エミカちゃん、落ち着いて」
 アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)がエミカを止めようとする。
「ここまで来たんだから、早くあのバカを見つけないと」
「心配なのは分かるけど、あまり焦っちゃダメよ」
 エミカが一人で突っ走って危険な目に遭うのは、友人として見ていられない。ただでさえヒラニプラの遺跡でもヒヤッとする場面はあったのだ。
「もしリヴァルトちゃんに何かあったら、パートナーのエミカちゃんにも影響があるはずだもの。エミカちゃんが元気なうちはリヴァルトちゃんも大丈夫よ」
 契約している以上、何か兆候が現れるものだ。それがない以上、リヴァルトが命の危機に瀕しているとは考えにくい。
「……あたしが気にしてるのは、無事かどうかって事じゃないよ」
 いつも元気なエミカには似つかわしくない、細い声だった。
「アイツが実は強いって事は知ってる、普段はあんなダメそうな感じだけどね。だけど、黙って行くことないじゃん。行方不明になった先生の事が心配なのはあたしも一緒なんだよ」
 リヴァルトは司城の正体を知った事をエミカに話してはいない。ただ、司城が戻らない事に対しては、
「先生はそう簡単に死んだりはしませんよ。あの遺跡は完全に調査が出来ませんでしたから、きっとまだ一人で調べてるはずです」
 と言っていた。ただ、それならなぜ連絡してこないのかと尋ねると、
「先生にも考えがあったのでしょう。私なら大丈夫ですよ」
 と答えた。
 その矢先の失踪である。書置きの内容も考えれば、リヴァルトは何かを知っているはずだ。
 ただ、イルミンスール側の調査をした人からは、まだ何も聞き出せていない。だから彼女はただ二人の身を案じるしかないのである。
「十年間、あたしだって一緒に過ごしてきたんだから、何も思わないわけ……ないよ」
 司城に加えて、リヴァルトまでもが姿を消してしまった。家族同然の二人が目の前からいなくなったのだから、そのショックはさぞかし大きいものだろう。
「なーんて、こんなのあたしらしくないよね。よし、ちゃっちゃとアイツ見つけてお仕置きしてやんなきゃね」
 いつもの元気な姿を演じようとするエミカ。
「エミカ、無理しちゃダメだよ」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)がエミカの心中を察する。それが空元気であることは、容易に見て取れた。
「エミカまで一人で抱え込まないでね。話はいくらでも聞くから」
 友達が無理をしているのは見ていられるものではない。ならば少しでも気持ちを落ち着かせてもらいたいとう思いは、沙幸にもあるのだろう。
「昔はね――」
 エミカが静かに喋り始める。
「リヴァルトは今と違って荒れてたんだよ。出会ってから一年ぐらいは三日に一度くらいは喧嘩してたっけ。全部あたしの勝ちだったけど。だけど、パラミタに行くってなった時に『これが最後、どっちが勝つかはっきりさせよう』なんて言うもんだから、それに乗ったの」
 遠くを見つめ、エミカが続ける。
「それで、あたしは初めてアイツに負けた。あの時のリヴァルト、ほんとに強かったんだよ。荒れてた頃よりもずっと。だけど、パラミタに来てからは大人しくなっちゃってね。今のアイツはアイツでいいんだけど、どうしても昔のが頭に残ってて。パラミタに来てからのリヴァルトは、人当たりは良くなったんだけど、本心を一切見せなくなったんだよ――あたしにさえも」
 その目には淋しさが浮かんでいた。
 もしかしたら、パーティの打ち上げの時、彼女が一方的にリヴァルトを振り回しているように見えたあれは……
「って、あたしとアイツの昔話はもういっかー。ごめんね、こんな事話して」
 今度は無理に元気な姿に戻ろうという感じではなかった。どこかすっきりしたような、そんな色さえ窺える。
「でも、ありがと」
 エミカが落ち着いたところで、彼女達はリヴァルト探しに乗り出した。

 しばらく進むと、第二ブロックと書かれた地図を発見した。
「四層構造になってるみたいよ」
 アルメリアが地図を分析する。第二ブロックは全部で四層になっており、現在地は第二層だということだった。
「この一番下の広い空間、ここに何かありそうね」
 そこだけ、入るためのルートが限られていた。第三層までは複数の道筋を辿れるが、第四層に下りたらその場所まで一本道になっている。
「ただ、そう簡単には辿り着けなさそうだな」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)が雅刀にライトニングウェポンで電磁加工を施す。PASDのデータによれば、重要な場所の近くにはこれまで確実に機甲化兵が現れている。しかも、雛型も一体は存在していた。
「倒されていたとはいえ、機甲化兵はいた。この先にいないとは思えない」
 それを倒した者も、と言外に含ませる。
 第二ブロックは地図からするとかなり広いらしいので、その第三者が離れたところにいても不思議ではない。
「まずは階段を探さないとね」
 沙幸が扉や通路の罠を警戒しながら、階段を探す。他の者達も見落としがないよう慎重に見回る。
「特に気配はありませんわね。ただ、機甲化兵は敵意も害意も持っていないので感じ取れないだけかもしれませんわ」
 藍玉 美海(あいだま・みうみ)はディテクトエビルを使用したが、感じ取れなかった。あくまでプログラムに従い、射程範囲の者を攻撃するだけの機甲化兵相手では、ディテクトエビルは満足な効果は挙げない。近づかない限り、危険はないからだ。
「……いるね、手強いのが」
「近いわね」
 しかし、エミカ、アルメリアの二人が女王の加護によって危険を感知する。その気配が強い方へ向かえば、おそらく突破口は開かれるはずだ。
 二人は機甲化兵が危険だと知っている。その存在を、彼女達が直感的に感じているのだ。
 そして、下層への階段を発見する。
「どれだけの数がいるのかは分からない。だけど、確実に『ヤバイ』のがいるのは確かだよ」
 エミカが紫電槍・改を握り締める。
 慎重に、階段を下りる一行。そこを抜けると目に留まったのは、二体の機甲化兵だった。
「通路を進もうとしたら、絶対に見つかるよね」
 階段から沙幸が轟雷閃を纏わせ、機甲化兵の関節めがけて投げつける。
「今ですわ!」
 それが当たるや否や、美海がサンダーブラストで機甲化兵を一時的に機能停止に追い込む。
 その隙に、先へ進もうとする。ただ、その前に、
「とどめは刺しておかないとな」
 恭司が関節部から刀を突き刺し、中の人工機晶石を破壊する。
「確実に、よ」
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)がもう一体に近づき、直接雷術を流し込んで内部を破壊する。
 機甲化兵を完全に破壊し、通路を行く。だが、次の小部屋のような空間で再び道を阻まれる事になる。
 赤銅の甲冑に身を包んだ騎士、というのが外見のイメージを表すのに相応しい。両腕には刀が握られている。
 それがエミカ達を認識した瞬間、距離を詰めてきた。
「――ッ!」
 一瞬で一行の間合いに入った早さは、さながら縮地法を使ったかのようだった。その太刀筋を、エミカが受け流さそうとする。
 しかし、一本を流そうとした瞬間に、二本目による斬撃が来る。
 宙を舞い、遠心力を利用して紫電槍・改を刃にぶつける。それでも、敵の機体に触れない以上、弱点の雷電属性を帯びている意味がない。
「これが、雛型……」
 紫電槍・改を使いこなしているエミカでさえ、一撃も与えられる様子がない。
 次の攻撃が来る。
 それを受け止めたのは、アリアだ。
「ここは任せて、エミカさん達は先へ!」
 次いで二撃目が即座にアリアを襲う。
 キン、と刃がぶつかる音が響いた。
「さすがに一人でどうにかなる相手じゃない。ここは俺らで抑える」
 恭司とアリアの二人が、二刀流の赤銅の騎士と向き合う。
「倒したら合流する――早く!」
 その声に応じ、エミカ達は先へと進んでいった。
「少しでも、弱められれば……」
 一瞬通路を振り返り、にゃん丸が雷術を、美海がサンダーブラストを放つ。
 だが、雛型は二本の刃を巧みに使い、雷を弾こうとする。だが、完全には防ぎきれなかったらしく、僅かに動きが鈍る。
 通路の先にいる人間を静かに見据え、そちらを攻撃対象にしようとする。だが、背後から迫る二者の存在を決して見落としてはいない。
 回転しながら攻撃を弾く。
「させないっ! あなたの相手は私達よ!!」
 あくまでも自分達だけに注意を引きつける。

 かくして刀型機甲化兵雛型・トレとの戦いの火蓋は切って落とされた。