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【相方たずねて三千里】懇親会でお勉強(第1歩/全3歩)

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【相方たずねて三千里】懇親会でお勉強(第1歩/全3歩)

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 ワンショルダーの真っ赤なロングドレスは、林田樹(はやしだ・いつき)によく似合っていた。
「最高です、樹様ー」
 と、フリフリのドレスを着たジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)は言い、樹の腕に抱かれた林田コタロー(はやしだ・こたろう)にも目を向ける。
「こたちゃんのリボンは樹様とお揃いの色なのです」
「ねーたんとおそろいらおー」
 と、コタローも嬉しそうだ。そこへ黒の紋付き袴を着た緒方章(おがた・あきら)が割って入る。
「略礼装にしなくて正解だったね、樹ちゃん。和服でなかったのが、僕的には残念だけど」
 するとジーナがすぐに章へ言う。
「あんころ餅はおまけなのです。むしろ要りません、ぺっぺっ」
 章は嫌そうな顔をしながらも、構わずに場内を見渡す。
 美味しそうなごちそうが並んでおり、ひとまず食事にすることに決める。
「あ! ばにああいうに、ちょこしおっぷついてるお! こた、ちょこもすきー」
 と、はしゃぐコタローの分も皿にとる樹。
「ふむ、食事はもちろん座って食べるんだよね。椅子が無いから……ここにこう、かな?」
 と、章は床に正座をして食べ始めた。すぐに気付いた樹が叫ぶ。
「洪庵、立食パーティーなんだぞ、ここは! 地べたに正座してどうする! 立ったまま食すんだ!!」
「え、ああ、立ち食いか」
 と、立ち上がる章。
 すると、飲み物をとりに行っていたジーナが戻って来て言う。
「樹様、この飲み物綺麗だったので、貰ってきてみました」
 手渡されたそれはアルコール臭漂う立派な酒だった。
「ジーナ、これは酒だ。間違って飲んだら厄介だぞ」
「あら、そうでしたの? でも気になるのですー」
 と、ジーナはグラスを見つめる。
 ふとコタローの方を見た樹は、すぐにハンドバッグからハンカチを取り出す。
「コタロー、口にほおばりすぎだ。チョコが付いてるぞ」
「う?」
 コタローの頬を拭ってやりながら、樹は先が思いやられた。今日も平和に、何事もなく過ぎてくれればいいのだけれど。

 その様子を離れた所から見ている者があった。アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)だ。
「さすが金持ちの立ち喰いパーティーは、料理の質が違うぎゃ!」
 と、アルテッツァにも構わずにはしゃぐ親不孝通夜鷹(おやふこうどおり・よたか)。そこへ六連すばる(むづら・すばる)が口を開く。
「夜鷹、うるさいです。しかも『たちぐい』ではなく『りっしょく』パーティーです。さすが夜の繁華街の地祇、育ちが良く分かるというものですね」
 ふいにアルテッツァが歩き出し、夜鷹とすばるも後を追って行く。

「やぁ、イツキ。久しぶりですね。覚えていますか? ボクのこと」
 近づいてきたアルテッツァを見て、樹が目を丸くする。
「お前は……『アルト』か? 確か、あの時、私がお前を打ち抜いて……」
 信じられないといった様子の樹に、ジーナたちはアルテッツァへ敵意の視線を向けた。
「樹様、下がって下さい。危険な、人物だと思われます」
「樹ちゃん、ここは僕に任せて」
 と、章は刀の柄に手をかけながら前へと出る。
「申し訳ありませんが、所属と氏名を明らかにしていただけませんか? 良ければIDも」
「怪しいものではありませんよ。天御柱学院高等部教諭、アルテッツァ・ゾディアックです。生物を担当しております。どうぞ、よろしく」
 と、アルテッツァは笑う。
 コタローはふと、彼の後ろにも人がいることに気付いた。
「うしろにも、ひといるれす。かたっぽ、ちぎしゃん? もーひとりは……ねーたんによくにたおねーしゃんらお。だあれ?」
 それは何も知らないすばるも同じで、樹を見ては自分とどことなく似ていることに気が付く。――黒い髪を切りそろえたところは、特に……でも、胸が違います。足りません!
 そして、当の樹は未だに状況を理解できないでいた。
 彼は、『アルト』はあの時、自分の手で打ち抜いたはずの人。それが、どうしてここに? 分からない、幽霊? まさか。
 ずっと樹を見ているアルテッツァへ、すばるが咳払いをしてみせる。
「マスター、もうよろしいかと」
 アルテッツァは彼女を振り返り、「ああ」と、頷く。
「それではまた会いましょう、イツキ」
 と、アルテッツァは背を向けて歩き出す……。
 ほんの数分間の出来事なのに、何時間もの時を過ぎたようだった。自分のいる場所が、自分のしたことが、今目の前で起きたことが、ぐちゃぐちゃに混ざって複雑な気持ちになる。
「……樹様」
 心配げにこちらを見るジーナへ、樹は笑えない顔のまま笑った。