天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【学校紹介】新校長、赴任

リアクション公開中!

【学校紹介】新校長、赴任

リアクション


第四章


・分析


「来ましたか……!」
 天御柱学院のイコン部隊から送られたきた敵機襲来の報せは、すぐに艦内に広まった。
「中尉、映像出せるかな?」
 研究者の一人の指示を受け、中尉がモニターを操作する。小型の無人偵察機がタンカーを周回しているようであり、そのカメラから映像が送られてくる。
「ふむ、あれが鏖殺寺院のイコンか。性能はそれほど高くはなさそうだ」
「瞬間最高速度がマッハ1.4、航行速度がマッハ1ってところだね。回避性能、火力も含めて総合的に見たら、天御柱学院の方が上かな。敵の機体は特に特化性能のないオールラウンダータイプってところだね」
 研究者が口々にイコンについて分析をしている。自分達の艦が狙われているというのに、誰一人取り乱した様子はない。
「どっちの方が優勢か分かるかしら?」
 真里亜・ドレイク(まりあ・どれいく)が質問する。研究者視点で、どちらの方に分があるのかは、学院の生徒としても気になるところだ。
「敵の方が優位だな。明らかに、動きがいい。単にパイロットの技能の問題だが、おそらく実戦経験の違いだろう」
 その時、敵機のうちの一機が撃墜された。
「少なくとも、君達のイコンが勝つには、敵一機に対して三機は必要だよ。近距離タイプ二体で挟み込みながら誘導し、そこを長距離型の砲撃で仕留める。もしくは、砲撃を避けたところを挟み込む。二対一じゃ、よほど運がよくないと無理だね」
 そこはさすがにイコンの研究チームといったところだろうか。モニター越しに見える機体の動きだけで、戦力分析まで行ってしまう。
「これは、いいデータが取れそうですね。想定された数値と、実測値にはどれほどの開きがあるのか……」
 モニターとコンピューターを接続し、中尉がプログラムを打ち込む。それによって、戦闘データを偵察機から収集するつもりらしい。
「敵の機体から、相手側の技術者とかって分からない?」
 真里亜がさらに尋ねる。
「すぐれたサッカー選手は、相手のリフティングを見ただけで、その選手を指導した人物を当てられるらしいわよ」
「うーん、さすがにそれを分析するにはデータが足りませんよ」
 中尉が苦い顔をする。
「いや、予測は出来る」
 そこに入ってきたのは、大佐だった。
「まず、ここまで酷似した兵器が双方にあるのか。サロゲート・エイコーンは古代のパラミタで造られたものだ。天御柱学院はそれを量産して、部隊を整えたのだろう。ならば、敵も同じだ。オリジナルはあるのかもしれんが、それをこの時代に一から造ったわけではないはずだ」
「じゃあ、機体が違うのは?」
「単に発掘された雛型の違いだろう。なぜ敵が機関銃がありながら、近接武器を持たないのか。なぜ日本側も特定の武装以外を装備出来ないのか。それは、デフォルトの状態を解くと、正常に機能しなくなるからだ。機体のプログラムの問題だということまでは分かっている。それを書き換えれば、武装の追加や変更は可能になるはずだ」
「じゃあ、敵の技術者もまだイコンを完全に解析したわけじゃないのね」
 大佐の推測通りなら、そういうことになる。
「大佐ですら半年がかりで基礎理論構築なんですから。それに、今の科学者で大佐に匹敵する人なんて限られてますから、敵のイコンに携わってる人なんてすぐに特定出来ますよ――ですよね、大佐」
「地球人、ならな。だが、パラミタ人だったら別だ」
 大佐があくまで冷静に答える。
「戦い方を見る限り、敵の多くは空軍の戦闘機乗りか、その人物から手ほどきを受けた者だろう。動きが、人型兵器ではなく、戦闘機のそれを明らかに意識している。そうでない者も数人はいるようだが」
 真里亜の問いに対する結果はある程度出たが、敵を完全に特定するには至らなかった。
「大佐、現在の実測データが取れました。双方とも、機体構造から概算されたものを上回っています。予測値と比べて、130%となっております」
 どうやら、機体は敵味方ともに持ちうる限りの性能を発揮しているようである。
「中尉、そのまま測定を続けろ」
 それだけ言い残し、大佐は部屋を出ていった。

            * * *

「外は戦ってるってのに、この艦内は随分平和なもんだな」
 艦内を見張っている海兵が口を開く。
「なに、ガキと学者先生達のお守りをしてるだけで済むんだ。簡単な仕事でいいじゃねえか」
 通路を歩きながら、そんな会話をしている。
「ん、今何か音がしなかったか?」
 ガタ、っと天井が揺れた気がした。
「気のせいだろ」
 そのまま歩こうとすると、二人のうちの片方が足を止めた。
「おい、どうし……うわあああああ!!」
 突然、首筋から血を噴出させ、足を止めた方が倒れた。
 次の瞬間、天井が抜ける。だが、誰の姿も見えない。
「……ッ!!」
 その事実を認識した時には手遅れだった。頚動脈を切り裂かれた彼は、同僚とともにあの世へと旅立った。

(行動を、開始します)