天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

灰色の涙

リアクション公開中!

灰色の涙

リアクション


・狂戦士 藤堂


(しかし、なかなか試作型兵器が見つかりませんね)
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、魔力融合型デバイスを探し、アーク内を駆け回っていた。しかし、武器庫はなかなか見つからない。
 とはいえ、一番の規模を持つ場所はもう破壊されている。自力で探すのは難しい状況だった。
 そこへ、試作型兵器を抱え持った人物が現れる。最上層へ向かう、ファレナだ。
「これを!」
 彼女が遙遠にそれを手渡す。
「すいません。そちらの槍、もう一本いいですか? 仲間が必要としているんです」
 幸いにも、彼女は槍の試作型兵器を二本持っていた。それらを受け取り、遙遠は仲間の所へと疾走する。

「歌菜さん!」
 合流直後、遠野 歌菜(とおの・かな)は遙遠の運んできた槍型魔力融合型デバイスを譲り受けた。
 そして――

            * * *

「藤堂さん……貴方、心を捨ててしまったの……!?」
 歌菜は今の平助の姿にショックを受けた。前に対峙した青年は、そこにはいない。いるのはただ禍々しいまでの殺意を纏った狂戦士だ。
 一目見ただけで、説得が出来る状態でない事が分かる。
 二本の試作型兵器の槍を構え、彼女は平助に勝負を挑む。
「私、貴方には絶対に負けたくない! いや、負けない!」
 その声は平助には届かない。だが、彼女は自らを奮い立たせ、平助の懐へと飛び込んでいく。
 刀と槍では、間合いは槍に分がある。しかも、彼女は二本持っているのだ。
「やぁああ!!」
 勢いよく槍を振るう。魔力融合型デバイスの特性は、風と光だった。その二つが平助に向かって襲い掛かる。
 だが、平助は刀の一振りでそれを打ち消した。とはいえ、防ぐのが精一杯のようだ。
「この音は……来ます!」
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)が超感覚で、物音を感じ取る。同時に、禁猟区にも反応があった。
「機甲化兵がこっちに向かってるみたいだね」
 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)もまた、同様に敵の気配を感じ取った。だが、彼らが気付くと同時に、別ルートを行っていた者達もまた合流した。
「さすがに、一騎打ちの邪魔をさせるわけにはいかないよねぇ」
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)が呟く。どうやら、ここにいる者達は平助と歌菜の勝負の邪魔をさせたくないという事で一致していた。
「オレ達が引き付けておきます。今のうちに魔力炉へ!」
 リュースが叫ぶ。それを汲み取ったのか、他の面々はそのまま扉を破り、魔力炉へと足を踏み入れる。
「じゃ、俺達で無粋な機械を始末しないとね」
 ヴィナがブラックコートと光学迷彩で気配を消したまま、煙幕ファンデーションを機甲化兵・改に向けて使用する。
 煙幕はあくまで、敵のセンサーを欺くためだ。
 その隙をついて、轟雷閃を放つ。それに合わせ、リュースも轟雷閃で応戦する。狙いは敵の関節部だ。
 敵の数は四体。一騎打ちしている場所までは距離があるが、せめてここで足止めをしておきたい。
「しばらくはここでおとなしくしてくんねぇか」
 カガチも二人と同じく、轟雷閃を叩き込む。さらに、彼のパートナーの柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が雷術を繰り出し、敵の動きを少しでも抑えようとする。
「さすがに、まだうまく狙うのは難しいですね」
 エヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)が二人の後方からトミーガンでスプレーショットを行い、援護する。実戦で銃を使いなれていないため、敵を直接狙うのには苦戦しているようだが、それでも牽制にはなっている。
「少し、大人しくして……といっても機械じゃ無理ですか」
 遙遠がサンダーブラストで応戦する。
 これまでの量産型とは違うとはいえ、彼らはもう機甲化兵とは戦い慣れている。ならば、いっそここで足止めがてら完全に葬り去る事だって出来るはずだ。
「悪いが、誰も傷つけさせへんぞ!」
 七枷 陣(ななかせ・じん)もまた、サンダーブラストを放つ。さらに、前方で応戦するリュース、ヴィナ、カガチらにパワーブレスを施す。
「動きが鈍っている今なら、完全に止められるかもしれません」
 敵の一体に向け、リュースが轟雷閃を放つ。ただ、頑丈な装甲を崩すには労力を要する。そこで、彼らは狙いを脚部関節と武器の破壊に絞る。
 一体の脚部を完全に破壊するため、リュース、カガチ、ヴィナの三人が同時に轟雷閃を叩き込む。一体ずつ、確実にである。
 彼らが足止めをしている間、歌菜と平助の勝負も佳境に差し掛かっていた。
「私が勝負したいのは『藤堂 平助』であって……今の貴方じゃない!」
 平助の繰り出すかまいたちにも似た斬撃を空蝉の術で避けながら、相手の死角に潜り込みブラインドナイブスの一撃を浴びせようとする。
 これは陽動だ。
 かわされた直後、平助の視界から歌菜の姿が消える。そして、彼女は二本の試作型兵器に持てる全力を注ぎ込む。
「藤堂さん、正気に戻って……!!」
 フル出力のデバイスは、光と風の奔流を生み出す。
「グ、グググ……!」
 歯を食いしばり、それを受け止める平助。
「ァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
 叫びとともに、歌菜の二本の槍を、彼女ごと吹き飛ばす。
「ぐ……そんな……」
 渾身の一撃が敗れた。しかも、相手は激しくぶつかりあったにも関わらず無傷で、しかも疲弊した様子がない。
 いや、疲弊していないように見えるのは、その感覚さえ今の平助は麻痺してしまっているからかもしれないが。
「歌菜さん!」
 咄嗟に、遙遠が平助に向かってブリザードを放つ。とはいえ、今の平助は刀の一振りだけでそれを消し飛ばせる。
 ほんの気休めだが、その間に歌菜にヒールを施す。
「みんな!」
 続いて、陣がこの場の者達にリカバリを行う。機甲化兵・改の足止めをしている者達も疲弊はしているからだ。
「さすがに技を使い過ぎたね」
 ヴィナが、SPリチャージを行う。完全に元通りになるわけではないが、ある程度戦えるまでに全員を回復させていく。
「あの武器を壊せれば……」
 陣のパートナー、小尾田 真奈(おびた・まな)がハウンドドッグを構え、平助の持つ魔力融合型デバイスに向けて撃つ。
 だが、彼の威力の前にはほとんど意味をなさない。
 一騎打ちには手出しはしないようにしていたが、仲間の命がかかっているとなれば別だ。歌菜が持ち直すまで、全力で支援をする。
 そこに、新たな人影が加わった。
「少し出遅れちまったが……平助の様子がおかしいな」
 原田が口を開く。来たのは、新撰組の面々だ。
「完全に我を見失っているな。まずは、何とか目を覚まさせてやらねば」
 近藤が、虎徹を抜刀する。
「やれやれ、今度ばかしは斬って終わらせるわけにはいかんか」
 土方もまた、平助を正気に戻すために戦闘態勢に入る。
「平助……」
 静かに、原田も槍を構える。
「兄さん」
 椎名 真(しいな・まこと)が彼を見遣る。
「繰り返したくねぇ、ただそれだけだ。勝手な言い分だけどな。だけどよ……因縁は、ここで終わらせる!」
「だったら、俺もその助けになれればと思うよ。パートナーとしてね」
 準備は整った。
「待って、まだ私は……戦える」
 だが、まだ勝負がついていない歌菜は、試作型兵器を手に立ち上がる。時間的にも、そろそろ武器のエネルギーが切れる頃だ。せめて最後に、との事だろう。
「なあ、嬢ちゃん」
 彼女に対し、口を開いたのは芹沢だった。
「鴨ちゃん、ここまで来ちったのか。その身体じゃ無理だ、帰りなさい!」
 彼の姿を認めた事で、条件反射のようにカガチが口を挟んでしまう。
「なに、俺は戦うわけじゃねぇ。それに、昔馴染みを放って帰れるわきゃねぇだろ? まあ、帰り方なんて分からねぇけどな」
 鉄扇で仰ぎみる、芹沢。
 気を取り直して、歌菜の方を見遣る。
「ここはあいつらに譲ってやろうや。それに、嬢ちゃんが本当に戦いてぇのは、あんな修羅道に堕ちちまった哀れな男じゃねぇだろ?」
 彼女を諭すように、歌菜の方に視線を送る。目の前にいるのは、もはや前に接戦を繰り広げた人物ではない。彼女自身、今の平助との決着は望んではいないのだ。
「今のヤツに殺されたところで、死んでも死に切れねぇはずだ。平助が正気に戻ったら、ケリつけりゃいい。今は、この戦いの行く末を見届けてやろうや」
 芹沢も、カガチに言ったように、戦いに加勢する気はないようだ。だが、平助の視界には彼の姿も入っている。
「ち……ヤツは俺も殺す気満々じゃねぇか」
 身を守るため、彼も抜刀して備える。
 いよいよ、新撰組の因縁を巡る最後の戦いが始まる。