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【ろくりんぴっく】貫け! 君の想い!

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【ろくりんぴっく】貫け! 君の想い!

リアクション


第1章


 よく晴れ渡った空。
 真っ白な綿あめみたいな雲がところどころ浮かんでいる。
 目の前に広がるヴァイシャリー湖から来る風は湿気を含んでちょっとだけ重く、まとわりつく。
 太陽がじりじりと肌を焼いていく。
 今日も暑くなりそうだ。
 湖はいつもより色が濃いように見える。
 湖の周りに造られた観客席は、今日の競技を楽しみにしている人達で埋まりつつあった。
 観客席の周りには屋台が並び、活気がある。
 競技に参加する者は登録を済ませてあり、だいぶ早い時間から湖の中へと入っている者もいるようだ。


 観客席へと入るアーチでホワイト・カラー(ほわいと・からー)は時計を気にしながら誰かを待っていた。
 約束の時間の10分前、カラーの前に現れたのはグラン・リージュだ。
「お待たせしてしまいましたか?」
「いえ、大丈夫です。けっこう早くに着いてしまっただけですから」
 2人は湖の戦況が良く見える位置を確保し、腰を下ろす。
「グラン様がホイップ姉様を好きだということを聞きました」
「えっ……」
 カラーがグランの方を見ずに告げた。
「いつ頃から……なのですか? グラン様は5000年前にホイップ姉様と出会っていますが……その頃からですか?」
 持ってきたペットボトルを両手で挟み、コロコロと回しながら聞く。
 まだ冷たい為、ペットボトルからは水滴が付いているが気にしていないようだ。
「…………好きだと感じたのは宿屋にホイップちゃんが来てからですよ。5000年前の初めて会った時は好きな人がいましたから……台風の影響で失ってしまいましたが」
 その言葉を聞き、カラーがグランの方へと向くと、グランの表情は少し泣きそうな笑顔だった。
「す、すみません」
「いえいえ、大丈夫です……もう5000年も前の話ですから」
「……今はホイップ姉様が好き……なんですよね? ホイップ姉様を好きだというのなら決着をつけるべきです!」
 力強い、その瞳に吸い込まれるように、グランは、そうですねと頷いたのだった。


 競技参加者用のアーチの所では人づてにグランがホイップを好きだと聞いてしまったエル・ウィンド(える・うぃんど)が、どよんと暗い顔をして、とぼとぼ歩いていた。
 溜息まで聞こえてきそうだ。
「何しけた顔してるんだよっ!」
 そんなエルの背中を叩いたのは、今日のエルの相棒となる七尾 蒼也(ななお・そうや)だ。
「そんなんで生き残れるのか? ああ、分かった! 今日のホイップちゃんの衣装が気になるんだろ?」
「おやおや、そうなんですか?」
 背後からぬっと現れたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)と、その横に一緒にいる童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)がエルを見る。
「ち、ちがっ……いや、ありがとう」
 にやりと笑う蒼也達に励まされている事に気がついたエルは少し気を引き締めた。
「それじゃ、頑張りますよ!」
「おうっ!」
 クロセルが言うと、3人は声を揃えた。


「それじゃあ、僕は観客席の方に行くけど……無理しちゃダメだよ?」
「大丈夫だって!」
 天海 護(あまみ・まもる)は心配そうに天海 北斗(あまみ・ほくと)を見つめる。
「ほら、早くしないと良い席取れないぜ?」
「う、うん……落ちないようにね!」
 護は何度も振り向きながら、観客席の方へと向かって行った。
「さって、相方を探さなきゃなぁ――おおっと!」
「わっと!」
 北斗と危うくぶつかりそうになったのはクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)だ。
「大丈夫ですか? クド、ぼんやりし過ぎですよ」
 ルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)は北斗に声を掛けてから、自分のパートナーであるクドへと言葉を発した。
「ふらふらしてたみたいだな、すまない」
「いやぁ、こっちも良く見てなかったからねぇ。怪我はない?」
 お互いに相手の無事を確かめる。
「ところで……一緒に競技に参加する人を探してたみたいだけど――」
「ああ、そうなんだよ! 誰かいないかと思って……」
「なら、俺と組まない? ちょうど俺も探してたんだよねぇ、相棒」
「良いのか?」
「後方をやらせてもらえると有り難いかなぁ」
 ちょっとやる気がなさそうにクドが言うと、北斗の目が輝いた。
 どうやら、相棒が決まったようだ。
「私は客席に行きますね。これも真人間になるための修行と思って、真面目にやってくださいね」
 ルルーゼはそれだけ言うと、客席の方へと歩いていった。
 それを確認してから、北斗とクドも準備を始める為に、歩きだしたのだった。


 相方を待っている緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、一緒にいたはずのパートナー悠久ノ カナタ(とわの・かなた)がいないのを気にして、キョロキョロしていた。
「どこいったんだ?」
 そう呟くと、腕組みをした。
「誰を探しておる?」
「わっ!」
 ケイは突然の声に驚き、前のめりになり、心臓を押さえた。
 カナタの姿を確認しても、まだ心臓がバクバクいっている。
「もしかして、わらわを探しておったのか? それはすまない。ああ、そうそう。ピンチになったら押すがよい」
 カナタはそう言うと、大き目のボタンだけが付いた四角い箱を渡した。
 箱の側面は黄色と黒の斜め縞になっていて、いかにも怪しい。
「これは――」
「では、もう行くが、しっかりやるのだぞ?」
 ケイの質問には答えず、カナタは去って行ってしまった。
 その後、しばらくしてからカナタは待ち人と合流し、ボートへと向かっていったのだった。


 公式メディアの実況中継の席に座って、準備をしているのは『ろくりんぴっく』公式マスコットキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)だ。
「この選手の名前は確か……ああ、そうネ。やっぱり合ってる」
 今回参加する選手の名前と顔を一所懸命に覚えようと努力しているようだ。
 正装もして、気合いもばっちりだ。
「清音も参加すれば良かったのヨ」
 百合園の方を向いて、キャンディスはちょっと呟くと、また紙へと視線を落とした。

「!?」
 百合園の自分の部屋にいる茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)は悪寒がして手が止まった。
 アールグレイを飲みながら、手に入れたばかりの恋愛小説を読んでいたのだが……きょろきょろと辺りを見回した。
「何か……思い出して欲しくない人に、私の事を思い出されたような……」
 しばらく落ち着かない様子を見せていたが、誰も傍にいない事を確認すると、小説へと集中していった。


 なんだかんだありながら、参加者の準備は完了し、観客席は全て埋まった。
 あとは……開始の合図を待つばかり。