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【金の怒り、銀の祈り】うまれたひ。

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【金の怒り、銀の祈り】うまれたひ。

リアクション


*届けられた想い*






「む、なんですか? この人形は」

 ラグナ ツヴァイが足元によってきた二体の人形を眺め、首をかしげる。ニーフェ・アレエはしゃがみこんで「こんにちは!」と挨拶を投げかける。2体の人形を糸で操っていたのは、茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)だった。ショートウェーブの髪が上品に揺れ、茶色の瞳が細められる。

「お招き戴き、ありがとう、ニーフェ。さぁ、二人とも、ルーノさんにご挨拶なさい」

 名を呼ばれて、ルーノ・アレエはそちらへと視線を向ける。二体のかわいらしい人形は、二体がかりで抱えているプレゼントをルーノ・アレエに渡した。そして、丁寧にお辞儀をする。

「ありがとうございます。あの、お名前を伺っても……?」
「ああ、ごめんなさい。茅野瀬 衿栖というの。この子達は、リーズとブリストルです」
「茅野瀬 衿栖、リーズ、ブリストル……今日は来て下さってありがとうございます。プレゼントまで……これは」
「人形師なの。それは、手作りのビスクドールなんだけど、気に入ってもらえたらうれしいわ」

 金色の髪に、赤いドレスを纏ったフランス人形は、とても優しい表情をしており造り手の気持ちが伝わってくるようだった。

「ありがとうございます。大事にしますね」
「あなた達は、他の機晶姫と違うと聞いたのだけれど、お話を聞いてもいいかしら?」

 茅野瀬 衿栖がそう問いかけると、ルーノ・アレエは頷いて椅子に座るよう促した。その横には、鬼崎 朔も腰掛ける。スカサハ・オイフェウスはニーフェ・アレエに連れられて、ほかの機晶姫たちに声をかけて、早速友人を作っているようだった。

「機晶姫といっても、私たちはこの機晶石をもとに……生きている、そう考えていただいて構わないと思います」
「生きてる……そっかぁ、その、ゴメンナサイね。私、あなたたちのこと、ある程度は聴いていたから、その……もっと怖いかなって勝手に思っちゃった」
「ええ……確かに、私の身体は、兵器となるために鏖殺寺院に作られました」

 鬼崎 朔は視線だけ、二人に向けた。

「だから、たくさんの人に迷惑をかけました。心配もかけました。そんなとき、いつもみんな優しく助けてくれました。私を、友達だといってくれました。大事だと……」
「うん」
「私の胸の機晶石は、破滅の光を齎すのかもしれません。でも、私は……今は違うと思っています。この胸には、私を思ってくれる人たちの想いが、輝いているのだと。そう、信じています」

 にっこりと笑う彼女の表情は、今はかげりが見えなかった。鬼崎 朔は、ルーノ・アレエの前に立ち、改めて手を差し出した。

「……先ほどの薔薇は、温かな心……そういう花言葉の組み合わせだ」
「え……」
「今のお前には、相応しいようだ。改めて、スカサハと仲良くして欲しい」
「鬼崎 朔……はい。貴方とも、仲良くさせてください」

 ルーノ・アレエは、にっこりと微笑んだ。そのとき、わずかに頭痛が走った。一瞬顔をしかめると、二人が心配そうに顔をのぞきこんでくる。

「大丈夫?」

 そこへ、髪と首元をリボンで飾った牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が颯爽と駆け込んできた。かと思うと、椅子を倒す勢いでルーノ・アレエに飛びついた。イヤ、実際に椅子は倒れてしまった。むぎゅーッとしがみついたまま、にっこりと微笑んだ。

「ルーノさんおめでとうございますー! 誕生日プレゼントは私ですよ! さぁ! 何をしましょう! 絵本の朗読、料理、裁縫でも何でもしますよー!」
「あ、アルコリア?」
「プレゼントの定番、私がプレゼント! ですよー! ほら、ラッピングのリボンもばっちりですよ!」
「え、えっと、あの。一緒にいてくれるだけで私は凄くうれしい」
「やーん、ルーノさんったら、お持ち帰りですね! 大胆です!」
「い、牛皮消さん!?」

 スーツにネクタイ姿で訪れたのは、新任非常勤講師のオルレアーヌ・ジゼル・オンズロー(おるれあーぬじぜる・おんずろー)と、そのパートナーで英霊の久坂 玄瑞(くさか・げんずい)だった。

「あらら、邪魔が入っちゃったですね」
「え、邪魔!?」
「冗談ですよー先生♪」

 牛皮消 アルコリアはにっこり笑うと、ルーノ・アレエもにっこり笑った。「じゃ、プレゼント何がいいか考えてくださいね♪」と言い残して、その場を後にした。どうやら、今度はニーフェ・アレエを探しにいったようだ。

「改めて、お誕生日おめでとうルーノさん。それとこれ、預かっていた携帯電話」

 といって、ラッピングされた箱を差し出す。携帯電話の調子が悪く、調べて欲しいと頼んだところに修理に名乗りを上げたのが彼女だったのだ。だが、ラッピングされているところを見て、ルーノ・アレエは小首をかしげる。

「え、あの」
「あけてみて。気に入ってもらえるかわからないけど……」

 箱を開けると、二つの携帯電話が出てくる。それも、シールやライトストーンで可愛らしくアレンジされたものに生まれ変わっていた。

「これは」
「ささやかだけど、修理ついでにプレゼントよ。もちろん、中の調子もばっちりですよ」
「ありがとうございます。オルレアーヌ・ジゼル・オンズロー」
「あら? ルーノさんは物覚えが悪いのね」
「失礼……オーリャ先生」

 少し照れたのか、白い頬がほんのり赤らんだ。そして、牛皮消 アルコリアが来る前に襲ってきていた痛みが復活し、わずかに眉をひそめた。

「顔色が優れませんな」
「いえ、あの。何でもありません」
「……久坂は医師の家系です。顔色でわかってしまうのですよ」

 それを聞いて、観念したように吐息を漏らした。

「少し、頭痛が……なかなか、収まらなくて」
「ふむ。機晶姫殿に薬が聞くとは思えませんし……見ていただいたほうがいいのでは?」
「あ、いえ。皆さんと話して気を紛らわせていれば痛みも和らぐので……」
「それならばいいのですが、無理はされないことですよ。今日はあなたのための、めでたい日なのですから」

 久坂 玄瑞の言葉に、ルーノ・アレエはゆっくりと頷いた。

「ルーノさん!」

 気持ちのいい声が聞こえて、顔を上げるとそこにはお菓子らしきものが入った、甘い香りのすする包みを抱えた、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)がにっこりと笑顔で経っていた。その後ろには蒼空学園に転校したエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)と、先日の夏合宿でぶっ倒れたのを反省し、日傘を差したメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)の姿もある。クマラ カールッティケーヤは手にしていた包みを差し出す。
 お手製の焼き菓子のようだった。

「ありがとうございます。クマラ カールッティケーヤ、エース・ラグランツ、メシエ・ヒューヴェリアルも……来て下さったんですね」
「これは俺たちから。あと……」

 こそ、とエース・ラグランツは耳打ちする。赤、黄、オレンジ色でまとめたパラのアレンジメントは、ルーノ・アレエのことを示しているのだろう。カスミソウがアクセントとなってまるで薔薇そのものが光り輝いているようだった。 
 花束の中には、細長いケースが入っていた。

「これは、メシエから。本人は認めたがらないけど、あいつも君の事をお祝いしてるみたいだよ」
「あ……ありがとうございます……」
「大人びた感じのデザインだから、きっと似合うと思うよ。俺一人じゃ、思いつかない組み合わせだけどね」

 にやりと笑いながら、メシエ・ヒューヴェリアルに視線を送るが、本人はふい、と視線をはずしたままだった。ルーノ・アレエは立ち上がって、吸血鬼の、日傘を握っていないほうの手をとる。

「ありがとうございます」
「……ふん、私は兵器などに贈り物はしませんよ」
「はい。分かっています」

 くす、とルーノ・アレエが微笑むと、エース・ラグランツは別のところから感じる視線に気がついた。白いタキシードの紳士が、仲間と談笑しながらも、コチラを常に気にかけている様子が伺えた。
 視線が交わると、とっさにはずされてしまったので、どうやら向こうは無意識であるというのがわかった。赤毛をかきあげながら、エース・ラグランツはため息を漏らした。

「まったく……素直じゃない奴らばっかりだな」 
「ルーノさんっ!」

 五月葉 終夏(さつきば・おりが)ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)が、相変わらず仲良くかけっこを楽しんで(いるように見える)ルーノ・アレエの元へ訪れた。その後ろには、薄茶の髪を束ねたコウ オウロ(こう・おうろ)がのんびりと食事を皿に盛りつけたまま就いてきた。

「おったんじょうび!」
「おめでとう!」

 二人からこんぺいとうが入った瓶を差し出され、両手で受け取る。片方は金色のこんぺいとう、もう片方は銀色だった。

「お、お二人とも」
「えへへ、キレイなこんぺいとうでしょ?」
「また一つ歳を重ね、思い出を積み重ねていく輝かしいこの日! 友として祝わずにはいられまい!! はっはっは!」

 騒がしくも気持ちのいい仲間を見て、ルーノ・アレエの顔色は少しよくなったのを、久坂 玄瑞は見逃さなかった。パートナーにそれを耳打ちすると、オルレアーヌ・ジゼル・オンズローは少し頬をほころばせた。
 そこへ、全く同じように駆け込んできたのはガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)と、シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)だった。

「ルーノ、お久しぶりです」
「ガートルード・ハーレック! それにウィッカーの兄貴!」
「舎弟の誕生日じゃあ! 思いっきり盛り上げるんじゃあっ!」

 そういって、華奢そうに見える女性の姿とは裏腹に、ドデカイバズーカ砲を空に向かって放つ。爆音と共に大空で爆発すると、それはまだ青い空に鮮やかな色合いの花吹雪を散らした。
 鮮やかな花びらが、青い空から向日葵庭園に降り注いだ。

「兄貴! 素敵です!」
「おうよ! 喜んでもらえて何よりじゃ。ニー嬢はおらんのか?」
「まだいろんな方に挨拶に回っています。あの子のおかげで、またこうしてたくさんの方と語らうことが出来ます」
「おめでとう。ルーノ」

 ガートルード・ハーレックは、少し大きめの箱を手渡した。中を開けると、硝子細工の花瓶だった。

「花瓶です。きっと沢山の花をもらうことになると思ったので」
「ありがとうございます」
「よっしゃ、つぎはここにある花もどーんと飛ばすかの!」
「そ、それはやめてくださいっ」

 いつもの冷静な表情ではなく、少しあわてた表情を見て、ガートルード・ハーレックとシルヴェスター・ウィッカーも思わず笑みを零していた。

「だっはっはっは! 冗談じゃ、ルー嬢への大事なプレゼントを、そんな風に使う分けなかろう」

 大笑いをする兄貴分の姿を見て、一瞬ぽかんとしてしまったが、ルーノ・アレエは次第に意味を理解して自身も笑い始めた。
 ララ ザーズデイと談笑していたニーフェ・アレエはその笑い声を聞いて笑みを零した。

「……姉さんが、あんなに楽しそうにしてる」
「ああ。君の心配していることが、杞憂であるという証だ」
「はい。ごめんなさい、ララさんに頼ってばかりで」
「謝るのはなしだよ。忘れたのかい?」

 あ、と口元に手を当て、にっこりと笑うと、「ありがとうございます!」といいなおした。

「そう。それでいい。素直な淑女は愛されるよ」
「おおお! アンタがルーノさんか?」

 そこへ割って入ってきたのは月夜見 望(つきよみ・のぞむ)だ。赤い瞳をらんらんと輝かせている。打って変わって、白髪の機晶姫須佐之 櫛名田姫(すさの・くしなだひめ)は、退屈そうな目をして覗き込んでくる。だがその両手には料理とお菓子を抱えていた。

「あ、いや。ルーノはあちらで笑っている赤い髪の機晶姫だ。私はララ ザーズデイ、コチラがルーノの妹で、ニーフェ・アレエという」
「初めまして……あ、櫛名田姫さんのパートナーさんですか?」
「ああ、クシナダがチラシと招待状をもらったみたいで、ついてこさせてもらったんだ。俺、天御柱学院に通ってる、月夜見 望だ。こっちは、紹介いらないかな?」
「須佐之 櫛名田姫じゃ。なかなか楽しめておるぞ」
「良かった。機晶姫のお友達が多いから、きっと楽しんでいただけると思ったんです」

 ニーフェ・アレエがにっこりと笑うと、黒猫のリンが駆け寄ってくる。榊 花梨が飲み物を持って現れた。

「二人とも、こんなところにいたの? あら、初めまして」
「この人も機晶姫!?」
「いや、友達全部が機晶姫というわけではないよ。落ち着きたまえ」

 ララ ザーズデイが月夜見 望を押さえると、榊 花梨は苦笑しながらニーフェ・アレエに手渡す。日が高くなってきて、少し暑くなってきたからアイスコーヒーを持ってきたようだった。

「ええ!? 機晶姫ってコーヒーも飲むのか!?」
「我もジュースくらいは飲むのだが?」

 メモ帳片手に、なにやら熱狂的にペンを動かしているのを、須佐之 櫛名田姫は呆れながら眺めていた。そこへ、スカサハ・オイフェウスも訪れた。

「あ、貴女も機晶姫でありますか!? お友達になってください!」
「なんじゃ? ここはほんに騒がしいのぅ」
「スカサハさんです。スカサハさん、コチラは櫛名田姫さんです」
「よろしくおねがいするであります!!」

 機晶姫たちで盛り上がっているところを眺めながら、樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、出されているご馳走に舌鼓を打っていた。

「不思議だな」
「ん?」

 クリームをたっぷり使ったシフォンケーキをほおばりながら、漆髪 月夜は呟いた樹月 刀真に顔を向ける。

「……大昔に機晶姫を作った人たちは、こうして笑い合う彼女たちを願っていたんだろうか……もしそうだとするなら、どうして兵器なんかにしたんだろうか」
「私は……私もそうだから、わからない。でも、人間が生まれてきた理由ってなんだろう。神様は、なんて思って作ったのかな。どうして欲しかったのかな」

 口元をぬぐいながら、漆髪 月夜は遠い目で語った。その言葉を聞いて、樹月 刀真ははっと目を丸くした。

「ああ、そうだな。今生きてる彼女たちには、関係ないよな」
「生まれや、いきさつがどうだって……私、普通の女の子として……」

「さぁって! ファンタスティック☆ショータイムよ!!!」

 ピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)の声が、マイクによって庭園に響き渡る。二人は驚いて飛び上がりそうになった。視線を向けると、手品師のように豪奢な衣装を身に纏う、ピクシコラ・ドロセラの姿と、アシスタントをするピンクのバニーガール姿の霧島 春美(きりしま・はるみ)と、ジャッカロープの獣人ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)の姿があった。

「月夜、何を言いかけたんだ?」
「う、ううん。なんでもない」
「楽しんでいますか?」

 驚いた二人の元に訪れたのは、ルーノ・アレエだった。

「主賓がこんなところにいていいの?」
「皆さんに挨拶したいですし、お話もしたいんです」

 にっこりと微笑んだルーノ・アレエに、漆髪 月夜は胸の中にあった思いをぶつけてみようと口を開いた。

「ねぇ、ルーノさんは……今、みんなから普通の女の子として扱われてるけど……兵器としての自分を、どう思う?」

 真剣な眼差しに、ルーノ・アレエは少し考え込んだ。長い睫が伏せられるが、すぐに表情が明るくなる。

「私は、この力を……大事な人たちのために使えたら……そう思っています。私は、人ではありませんが、この命は、傷つけるためではなく、大事な人を護るために戦う刃だと思っています」
「人も同じですよ。あまり深く考え込まないほうがいいと思います」

 振り向くと、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)、狐の獣人クコ・赤嶺(くこ・あかみね)、赤い瞳の機晶姫、アイリス・零式(あいりす・ぜろしき)が仲良くならんでいた。
 クコ・赤嶺と、アイリス・零式はそれぞれかわいらしい包みを差し出した。

「お誕生日おめでとう」
「おめでとうであります!」

 差し出された包みの中には、ピンクゼラニウムの花束と、ピンク・コーラルだった。色合いをあわせてのプレゼントに、ルーノ・アレエはにっこりと微笑む。

「ありがとうございます。アイリス・零式、クコ・赤嶺」
「自分は、自分にも、戦う力があります。戦う力のない普通の人からすれば、自分もまた兵器。兵器に心があってはいけないなら、自分は、家族を持つことができない。でも、家族がいるからこそ、自分の力はもっと強くなる。強くあろうと出来る。だったら、心があってもいいと思います」

 赤嶺 霜月の言葉に、ルーノ・アレエは小さく頷いた。樹月 刀真も、口元をほころばせる。そこへ、バニー姿の霧島 春美とディオネア・マスキプラが駆け込んでくる。

「ルーノさん! お誕生日おめでとう!」
「霧島 春美、それにディオネア・マスキプラ」
「ピクピクとマジックショーやってたんだよー。見てくれた?」
「はい。とても素敵でした。もう終わってしまったのですか?」
「それよりもプレゼント渡さないと、って!」

 霧島 春美がにっこり笑うと、ディオネア・マスキプラがごそごそと、懐(?)からシロツメクサの花冠を取り出す。ルーノ・アレエは彼女に合わせてしゃがみこむ。

「来年も、一緒にお祝いできますように☆ 幸運をっ」

 背伸びをしながらルーノ・アレエの頭に冠を載せると、にっこりと笑って、その茶色の耳を可愛らしく揺らす。

「ルーノさん、とてもよく似合っているであります!」
「ふふ、貴方達らしいプレゼントね」

 アイリス・零式と、クコ・赤嶺の言葉にルーノ・アレエは少し照れくさそうに微笑む。
 そこへ、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)がケーキを持って現れる。シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)はティーセットをトレイに載せ、ロレッタ・グラフトン(ろれった・ぐらふとん)はシェイド・クレインの服のすそを掴んでいた。

「ルーノさん!」
「ミレイユ・グリシャム! シェイド・クレインにロレッタ・グラフトンまで」
「今日もシェイドお手製のケーキもってきたよ!」
「せっかくなので、紅茶も。皆さんいかがですか?」

 居合わせたメンバーも、快く頷いてはなれたところで紅茶の香りが広がっていく。白桃を薄く切って並べたタルトは思った以上に好評で、誰もが感動のあまりため息を漏らしながら口にしていた。ルーノ・アレエは修理してもらった携帯電話を開いて、そのままロレッタ・グラフトンに見せた。

「ロレッタ・グラフトン、私も携帯の待ち受けに、あなたの絵を入れてみましたよ」
「なんだか恥ずかしいな……あとで、今日の絵もプレゼントする」
「楽しみにしていますね」

 にっこりと笑ったルーノ・アレエに、ロレッタ・グラフトンは素直に口元をほころばせる。
 そこへ、プレゼントを抱えた影野 陽太(かげの・ようた)がよたよたとあらわれる。それを突き飛ばす勢いで駆け込んできたのは、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)だった。ニーフェ・アレエもその後を追って駆け込んできた。

「お誕生日おめでとう! わたしからのプレゼントは、二人によ」

 ノーン・クリスタリアはにっこりと笑って、引っ張ってつれてきたニーフェ・アレエとルーノ・アレエの前に、影野陽太が抱きかかえていたプレゼントをおいた。それをあけると、丁寧に包まれた金の杯と、銀の杯だ。

「金色がルーノので、銀がニーフェのね」
「まぁ……おそろいのプレゼントをいただけるなんて」
「ありがとうございます!」
「わたくしからは、コレクションの中からトパーズですわ。誕生石だそうですから」

 そういって、上品なケースに収められたトパーズを差し出す。それを両手で受け取ると、ルーノ・アレエはにっこりと微笑んだ。その後ろで、ようやく自分からのプレゼントを取り出した影野陽太は、苦笑しながら差し出す。

「ありきたりなもので、申し訳ないんですが……」

 そういって差し出したのは、手のひらサイズのスノードームだった。ただ、その中に作られた場所が、この庭園をモチーフとしていたようだった。

「偶然か、モデルなのかは知りませんが、たまたま見かけて……この場所は、お二人にとっては大事な場所です。だから、きっといい記念品になると思って。ちょっと、季節はずれですが」
「いいえ、いいえ。影野 陽太……とてもうれしいです」

 こぼれ出てくる涙をぬぐいながら、ルーノ・アレエは微笑んだ。