校長室
オペラハウス
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●手紙 合同の合唱と演奏の後、皆はパーティー会場へと向かっていった。 その中を一人、師王 アスカ(しおう・あすか)は走る。観世院校長に会いに行くためだ。今日はわざわざ男装までしてきている。その上からイルミンスールのマントを羽織れば、体型などわかりはしない。 (あの時のお礼をしなくっちゃ…) アスカは焦っていた。 早くしなければ、観世院校長が行ってしまう。 二階の突き出しの部屋から出てくるところを待ち伏せれば間に合うはず。 自分の夢を後押ししてくれた恩人がパラミタにいるとわかり、ずっと会いたいと思っていた。 それは観世院校長だった。 その昔、アスカの描いた絵が気に入らなかった観世院校長はそれを破ってしまった。その時に言われた言葉を聞いてから、アスカにとって絵はかけがえの無いものになったこと、そのことに礼を言いたくて来たのだ。 (覚えてくれてなくてもいい) そんな悲痛な思いが胸に湧く。 いつも元気なアスカが物思いにふけったりしているのに気が付いていたパートナーのルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は、校長を呼び出すのに手紙を用意していた。 しかし、渡す機会がなく、今も手にあった。 「いたっ!」 アスカは声を上げた。 アスカたちは校長に近付いていく。周りにはタシガンの貴族たち。 (あぁ、もう! 退いてっ!) 「ま、待って…」 アスカは声を上げた。 「誰だ?」 一般の生徒にしか見えないアスカが近付いてくることに、貴族たちは怪訝な目を向ける。 「私が様子を見てきます」 校長の側にいたメサイアが言った。 すかさず、メサイアが彼女らに近付いていく。 「こんにちは、イルミンスールの方ですね。御用ならこちらで承ります」 「あのっ…校長先生と話がしたいんです!」 「え?」 「ずっとお話したくて待ってたんです」 「わかりましたから、どうぞ落ち着いて…」 「お願い! ジェイダス校長先生が行っちゃう!」 「なぁ、ちょっとでいいんだ」 そんなアスカを助けようと、ルーツも蒼灯 鴉(そうひ・からす)もメサイアに頼み込んだ。 鴉は正直自分は関係ないと言いたかったが、アスカらしくない姿を見て何故か拒否の言葉が躊躇われた。 ルーツの目を見ても、アスカの手伝いをするのはわかりきっていた。 結局、鴉もルーツもアスカに弱いのだ。 鴉はラドゥに邪魔されると思っていたが、出てきたのはメサイアで、しかも、三人は初対面であった。 どんな相手かわかれば頼むなり、押しのけるなりして前進するのだが、どうも押しのけなくてもいい…こちらの気持ちをわかってくれそうな相手にも見える。しかし、すんなり通してくれる相手でもなさそうだった。 「では…余計に事情を説明してはいただけませんか?」 「会わせてくれるの?」 「場合によりけりです」 「そっか……」 「この手紙を呼んでください!」 ルーツは手紙を差し出して言った。 ダメだと思ったアスカは顔を上げる。 「申し訳ありませんが、渡すにしても内容がわからないとお渡しできません。俺が読んでもいいですか?」 メサイアは訊ねた。 逡巡した後、ルーツは頷いた。 手紙には、アスカの気持ちや今日までの様子。今まで何があったか。ルーツたちにとって、アスカがどんな存在であるのか。 アスカの絵に対する想いや様々なことが書かれていた。 アスカとルーツが書いた手紙だ。 メサイアは微笑みながら読んだ。 一つ一つの言葉が愛おしい。 アスカに向ってメサイアは言った。 「あなたのような方に想われて、ジェイダス様は本当にお幸せな方です、私はつくづく羨ましいと思います」 そして、自分の胸ポケットに挿したブートニアを外し、アスカの胸に飾った。 「ジェイダス校長とお揃いですよ」 そう言って笑った。 アスカを校長の元へと誘う。 かつての礼を述べるため、アスカは彼について行った。 「固く閉じた蕾がそこにあって、太陽はその花に光を投げかけないことがあろうか」 待ち望んだ、あの人の言葉。 ただ、咲かせたかった…との思いを、アスカは聞いた。