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リアクション
第14章 最後の特攻
いまや、強化人間Pの機体は、頭部は大破、胸部と腹部をビームサーベルによる居合いで切り裂かれ、さらに巨大ランスで貫かれるなど、次々に深手を負って、炎に包まれ、いつ爆発してもおかしくない状態となっていた。
だが、依然として、かたちを維持したまま、空中に浮かんでいるのも事実である。
「どういうことなの? シミュレーションとはいえ、ここまでやられたら爆発するか、墜落するかじゃないかしら?」
天貴彩羽(あまむち・あやは)が、イーグリット【イロドリ】のコクピットから敵機の様子を見守りながら、驚愕の声をあげる。
「超能力だよぉ。Pくんの超能力が、機体が爆発して四散しそうなのをぎりぎりのところで抑えて、動力はもうないけど、墜落しないように機体を浮かせているんだよ」
妹とともにイコンに乗り込む天貴彩華(あまむち・あやか)がいった。
「それって、やっぱり物理攻撃だけじゃなく、こっちも超能力を使ってコクピットのP自身を潰さないと、勝利できないってこと?」
彩羽が尋ねる。
「そうだねぇ。で、完全勝利しない限り、彩華たちはここから出られないし、撃墜されていった人たちの意識も、永遠に仮想空間にとらわれたままになるってことだね!」
彩華は、どこか楽しそうにいう。
「なるほどな。だが、さっき、あれだけ攻撃をくらって、コクピットのPはなぜ無事なんだ?」
今度は、別の機体から、天空寺鬼羅(てんくうじ・きら)が尋ねた。
「そのわけはー。Pはみえない力場を自分の身体の周囲にも展開させているし、さっき特攻をかけていた機体の中で、たとえば綺雲くんは、コクピットをあえて傷つけなかったんだね。同様に、コクピットの破壊をためらった人がいるんだよね。みんな、甘いよねー」
彩華は笑っていった。
「やはり、P自身を潰すしかないのか!? いま、何機残っている? さっき特攻をかけた奴以外にも、次々に落とされているな。もう、俺たちぐらいしかいないって!? パニクってる場合じゃないな。最後の特攻、仕掛けようぜ」
鬼羅は、緊張した面持ちでいった。
ふと、鬼羅は、少し離れたところに浮かんでいる機体に気がついた。
坂上来栖たちのイーグリットだが、パイロットたちは気を失っているようだ。
坂上は、Pのプレッシャーを見事打ち破って特攻をかけたが、力を使い果たして燃え尽き、失神したのだった。
このように、撃墜はされないが、疲弊しきって失神した生徒も何人かいるのである。
いまや、味方の戦力は僅少となりつつあった。
「やるしかないわね。姉さん、覚悟を決めて!」
彩羽はいった。
「ふふーん。覚悟って、何? 彩羽がいうなら、彩華もがんばるよぉ」
彩華は、のんびりした口調で答える。
最後の特攻が始まろうとしていた。
「うん? あれは?」
鬼羅は、声をあげた。
巨大なワームの大群が空中を移動してやってきたかと思うと、炎をあげた状態で空中で静止している敵機の身体に群がり始めたのだ。
「ウイルスが? まさか!」
鬼羅は、戦慄を覚えた。
KAORIの攻撃から逃れてきたワームたちは、壊滅させられるのを防ぐため、Pの機体と融合し、武力を得ようとしていた。
ワームたちは、Pの機体の炎を鎮めたかと思うと、その破壊された部分に自分たちの身体を当てはめ、次々に塞いでいった。
そして、いつしか、ワームたちはPの機体全体を包みこむようになっていく。
ワームたちと、Pの機体が融合を果たしたとき。
「ぐおおおおおお!」
巨大で、いびつな球のかたちをとった恐るべき物体が、異様な吠え声をあげていた。
「うわ、モンスターになっちまった! これじゃ、まともな攻撃は通じないか!?」
鬼羅が戸惑ったとき。
「いいわ。それなら、私たちが超能力で攻撃を仕掛ける! 姉さん!」
天貴姉妹のイロドリが、巨大な球状モンスターに接近をかける。
ピピピピピ
姉妹に通信が入った。
「あれはラスボスでしょうか? もう残り少なくなってきた追加武装を送りますね」
ルシェン・グライシスからだ。
「追加武装? まだあるの?」
彩羽がいったとき、天空から走りきたった物体が、イロドリの左腕に装着された。
「説明。多重積層型防御盾【ていく・いっと・いーじす】。エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)が作成した。左腕にマウントしている基部より複数のビームシールド発生機構搭載の子機を射出し、子機よりビームシールドを多数形成。それぞれを乱数制御し本体を半自律的に防御する」
アイビス・エメラルドの説明は、最終決戦でも淡々としている。
「装備するとコックピット内にイーグルスの『Take it Easy』のメロディーが流れます。何か意味があるかって? まぁ、ただの駄洒落ですよ。でも道具なんて使う人間次第だと思いますからね。こんなものでも、お役にたつでしょうか?」
エルフリーデも、姉妹に通信を入れる。
「ありがとう、エルフリーデ。是非使わせてもらうわ」
彩羽は礼をいった。
「さあ、突撃よ!」
イロドリは、【ていく・いっと・いーじす】を展開。
同時に、コクピット内にメロディーが流れる。
「わぁ、おもしろーい」
彩華は大喜びだ。
「このおかげで、あの意味不明のモンスターの攻撃も防げるというもの! いくわよ! サイブースト!」
イロドリは、ビームサーベルを構えた状態で、パイロット姉妹のサイコキネシスによって猛スピードで突撃を始める。
姉妹それぞれの超能力があわさり、恐るべき威力
「きゃははははは! やっちゃうんだから! だめ! ダメ! だメ! ダめ! こここわれちゃぇえええ!!!」
超能力を全開させ、暴走に近い状態にさせた彩華が錯乱して叫ぶ。
「姉さん、やりすぎよ! そんなことして、Pと同じになったら!」
彩羽は少し怖くなったが、もはや突撃は止まらない。
「このまま、世界を征服してヤロウか? 何とかして、他の端末に侵入できれば可能ダナ!」
Pの意識は、ウイルスの意識と混ざりあって、不気味な叫び声をあげる。
巨大な球状のモンスターから、異様なビーム攻撃が放たれる。
その攻撃をくらえば、全身がウイルスに侵され、制御不能になることは確実だった。
だが、イロドリは【ていく・いっと・いーじす】の半自律的防御機構で、複雑奇妙な攻撃をくらいながらも、ウイルスの侵入は防ぎ、見事に持ちこたえる。
「あはははははは! ボールみたいになって、ぶっ壊れるのはお前らの方だよ! さあ、砕けて散って、いけにえになって、星になって!」
錯乱した彩華の叫びが続く中、イロドリは猛スピードで球状モンスターに激突。
ビームサーベルの一撃が、そのぶよぶよとした身体を切り裂く。
ちゅどーん!
Pの超能力と、天貴姉妹の超能力とが激突し、激しい爆発がまきおこる。
「うわああああああ!」
爆発にモロに巻き込まれたイロドリが、炎に包まれて落ちていく。
さすがに【ていく・いっと・いーじす】でも防ぎきれないダメージだったが、それでも盾自体は無傷なようだ。
「お、おい、天貴! 返事をしろ、おい!」
鬼羅は呼びかけるが、姉妹からの通信は途絶えたままだ。
天貴姉妹の特攻を受け、炎に包まれた、巨大な球状モンスター。
そこに現れた、巨大な女子高生。
というと意味不明だが、ウイルスを追っていたKAORIが、モンスターの近くに現れたのである。
「なに、あれ!? 目立ちまくりだわね」
KAORIを操作していた葛葉杏が目を丸くする。
「ウイルスと、強化人間Pの機体が融合してますね。早く融合を解除しないと、Pの機体をみなさんが撃墜するのは非常に難しくなりますわ」
オリガ・カラーシュニコフが冷静な分析をみせる。
「そ、そうね、でも、どうすれば!?」
葛葉はややパニクっている。
だが、オリガには、既に勝ち筋がみえていた。
「いま、攻撃を受けて、炎を上げている状態がチャンスです。KAORIさん、追加武装を送りますわ!」
オリガは、用意していた追加武装のデータをKAORIに送信する。
榊たちのチェックは受けていないが、オリガはデータに自信を持っていた。
がしっ
送信された巨大な注射器を、KAORIは構えた。
「KAORIさん、ちょっと危険かもしれませんが、プリンセスを特攻させましょう。早くウイルスを駆除しないと、仮想空間内のみなさんが、大変なことになります。わたくしを信じて頂けますか?」
オリガが問うたとき、仮想空間内のKAORIは、かすかにうなずいたかにみえた。
あるいは、錯覚だったかもしれない。
だが、その瞬間、オリガの前のディスプレイに次のような文字が浮かび上がって、すぐに消えたのだ。
(生まれ変わったこの身体で、やってみせるわ。みんなを助けるために!)
ぐいーん
KAORIの身体が、優雅に滑空し、炎を上げる球状モンスターに接近した。
ぶちゅっ
相手に抵抗する間を与えず、KAORIは注射器の針をモンスターに突き刺した。
ちゅー
そのまま、注射器の中の液体をモンスターに注入するKAORI。
「オ、オリガさん、あの液体って、まさか!?」
葛葉は、息をのんだ。
「そうですわ。KAORIさんは、ウイルスのデータを解析して、ついにワクチンをつくりあげたんです! 短時間でここまでやれるなんて、快挙ですわ! あとは、プリンセスが現実に開発されたとして、特殊なイコンを運用できるような戦艦を上層部が考えているかどうかですね」
オリガのいったとおりだった。
ワクチンを注入されたウイルスが、次々に分解されていく。
みるみるうちに、ウイルスと、Pの機体との融合はとけていった。
「こ、これが優等生にして、『いくさ1』勝利者のオリガさん!? 負けてられない! わ、私は、必ず学院のアイドルになってみせるわ!」
葛葉は、オリガとKAORIの素晴らしい連携を目の当たりにしながら、それでも対抗を誓うのだった。
「ぎー! まだダ。殺す! 全てヲ殺し、楽にしてやるノダ! 全ては、クズだから! 殺戮は当然!」
ほとんどが消滅したウイルスとの融合がとけた後も、強化人間Pの機体は、空中を漂い、天空寺鬼羅の機体に襲いかかろうとしていた。
機体の本来の動力は既に失われており、Pの超能力だけで動いている状態だ。
ここは、超能力でP自身を封じるのが正道かと思われた。
「くっ、たとえウイルスが消滅しても、まだ仮想空間からは出られないか。どうやら、本当にPを倒さなきゃいけないようだな。いいだろう! かかってこい! せめて、お互い、本気の勝負の中で果てるとしようぜ!」
鬼羅は叫ぶ。
実は、鬼羅もまた、できればP自身を潰すようなことはしたくなかったのだ。
シミュレーションとはいえ、Pを救う道をできるだけ模索したかったのだ。
だが、相手を撃墜するつもりで攻撃を仕掛けなければ、勝利することは難しい。
既に撃墜されていった仲間の意識も、最終的に勝利を収めれば救われるはずだ。
鬼羅は、修羅となる覚悟を決めた。
「気を抜けば、オレがやられる! 面白い。やってやらあ! リョシカ! 例の物をオレによこせ!」
鬼羅の声にこたえるかのように、通信が入る。
ピピピピピ
「では、リクエストにこたえまして! 最後の追加武装です!」
ルシェン・グライシスは、祈るような気持ちで送信の操作を行う。
ごごごごごごご
すさまじい唸りをあげて、空の彼方から鉄(くろがね)の塊がやってきた。
ガシーン!
巨大な鋼鉄の拳が、鬼羅のイーグリットの腕を包み込むように装着される。
「説明。ロケットパンチ。リョーシカ・マト(りょーしか・まと)が作成した。物理打撃に特化した拳をジェット噴射で飛ばして敵にぶつけ、ダメージを与える」
アイビス・エメラルドの最後の説明が入った。
「鬼羅ちゃんも男の子やねぇ。武装の希望がロケットパンチやて。かわええなぁー。な、なんちゃって☆ みんながんばったんやからなんとかな、なるはずや! がんばれ鬼羅ちゃん! ははは、な、なんちゃって☆」
リョーシカが、心慰められる口調で鬼羅を励ます通信を送った。
「ロケットパンチ、この機体との相性は抜群です。でも、あえて物理攻撃で仕掛けるんですね。確かに、攻撃力はかなり高いですが」
鬼羅とともにイコンを動かす天空寺サキ(てんくうじ・さき)が、いった。
「もちろんだ。状況は理解したが、オレの鋼の魂に不可能はない! なぜ物理攻撃で倒せるかって? 決まってるだろ、この拳の一撃に魂をこめるからだよ! 何か文句あるか?」
「文句ですか? 別に。確かに、鬼羅ちゃんらしく、ちょっと無謀でガキくさいですが、サキも、こういうやり方は嫌いではないですから」
鬼羅とサキ。
2人の想いは、心の奥底で一致していた。
「よし、いくぜ! ゴー!」
鬼羅の機体が、迫りくるPの機体に向けて、特攻をかける。
「最後の攻撃だ! この一撃で倒せないなら、死んでも構わねえ! いくぜ! 散っていった仲間たちのためにも! うなれ拳よ、炎をまきおこせ!」
鬼羅の機体が突き出した両の腕から、ロケットパンチが放たれる。
しゅううううううう!
「愚かな攻撃ダナ! サイコキネシスでそらしてヤル! なに、コントロールがきかないダト!? まさか、この機体以上の重量の拳なのカ!? そんなものをつけて飛んでいたとは、狂ってイル! 計算外ダ、うわー!」
Pは悲鳴をあげた。
どご、どごーん!
ありえない重量のロケットパンチが、猛スピードでPの機体に激突し、そのボディを切り裂き、コクピットをえぐりだしていた。
コクピットが裂け、Pと思われる人物の頭部がさらけだされたのを、鬼羅はみた。
爆発が起き、Pのヘルメットが吹き飛ばされる。
「な、なに!?」
鬼羅は、絶句した。
ヘルメットが吹き飛ばされ、Pの身体が炎に包まれる直前に、鬼羅はその素顔を、確かにみたのだ。
その顔は、設楽カノンにうりふたつのものだった。
ちゅどどどどどどーん!
大爆発が起きる。
「鬼羅ちゃん、こっちも炎に包まれる前に、急いで撤退しますよ。鬼羅ちゃん、鬼羅ちゃん! 大丈夫?」
サキがそう呼びかけながら、イコンを操縦して、爆炎からの回避行動を必死にとる。
「サキ。いいか、オレたちがいまみたもののことは、絶対に他の人に話すな。いいな」
沈黙の後、鬼羅は、重い口調でいった。
「鬼羅ちゃん、何をいってるんですか。そんなの、当り前でしょ」
サキは、冷静に答えた。
「終わったか。なかなかの激戦だった。彼らの心意気やよし、だ」
戦艦サイバードの艦長は、精神感応のメッセージをコリマ・ユカギールに送る。
(コリマ校長。問題の解決を確認しました。あなたが介入する必要はありませんでした。帰投します)
返事を待たず、艦長は操作を行い、戦艦を仮想空間から消滅させた。
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