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【借金返済への道】秋の味覚を堪能せよ!

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【借金返済への道】秋の味覚を堪能せよ!

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第3章


 黒い木々の密集する場所。
 黒く艶っぽい葉、まるで誘惑されてるかの様な錯覚に陥りそうな黒い幹。
 匂い立つような色香……いや、匂っているのはギンナンだが。


 脚立持参でやって来ているのは音井 博季(おとい・ひろき)コード・エクイテス(こーど・えくいてす)だ。
「目に入ったら大変ですからね。気をつけて採らないとですよね」
 博季は脚立に乗りながら、1個ずつ丁寧に実を採っていく。
 採った実は背負った籠の中へと入れる。
「おい博季。こんなつまらんことはさっさと終わらせて帰るぞ」
 脚立の下にいるコードは1つ1つ採っていく博季を眺めながら言う。
「そうですね。でも木だって生きているんですから傷まないように――」
 ぶちっと、何かが切れる音がした……ような気がした。
「だぁっ!! このガキャア! いつまでちんたら採ってる!」
「……ってわぁ!? 義兄さんがキレた!?」
「こういうのはな! ちまちま1粒ずつ採ってもしょうがないんだ! こう、ガサーっと採らんかガサーっと!」
 コードは脚立を上ると、博季の目の前で籠を枝に近付け、枝と並行に籠を一気に動かしてギンナンをガサーッと採っていく。
「ちょっと義兄さん落ち着いて……」
「手際よくやっていかないと終わらんだろうが!」
 コードはさらにごっそり採っていく。
 それを落ちないように必死にバランスを取りながら見ていた博季の方へとギンナンの汁がはねた。
「うわぁ!! ギンナンの汁がぁぁぁぁー!! くっさっ! めちゃめちゃくっさいですよ!!」
 おもわず目をこするが、強烈になったギンナンの匂いはそうそう取れない。
 涙目になりながら、目を開けると、そこには――。
「あ、義兄さん……今日は浅葱色の下着なんですね」
「はぁっ!?」
 思わず自分が今日穿いてきたものを思い出し、合っていると顔面蒼白になった。
「まさか……!?」
「あっちでは淡い紫の下着を付けたリリィさんと純白の下着を付けたウィキチェリカさん……それとオレンジのパンツを穿いたカセイノさんが…………下着……女性の下着姿…………」
 たまたま近くでギンナンを採っていたリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)ナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)の3人が目の中へと飛び込んできたのだ。
 このうちカセイノだけが男性だ。
「しっかりしろ! 博季!」
「女性の下着姿ーーー!? はうぁっ!!」
「博季ーー!」
 彼女がいたこともある20代後半男“博季”は目を回し脚立から落ちてしまった。
 コードが手を伸ばしたが、届かず、博季は地面に背中を打ってしまった。
 まあ、それほど高くはない脚立だったので大事には至っていないが……打ってもいない鼻から鼻血が出ていたのは言うまでもない。
「おい、大丈夫か!? 博季!? しっかりしろ!」
 急いで降りてきたコードが博季を抱きかかえるが、心ここにあらず。
「女性のくびれ……女性の下着……女性の胸…………はうっ」
 まだギンナンを食べてもいないのに、女性に免疫のなさすぎる博季の鼻からはとめどなく紅い液体が流れたのだった。


 リリィ達の方はというと、普通のギンナン拾いだけでは終わらなかったようだ。
「ああ、なんだかとってもこの木に惹かれます……」
 リリィはうっとりとした表情で1本のイチョウの木に吸い寄せられるように近づいていった。
「おい、あれ大丈夫なのかよ?」
「あー、1人引っ掛かっちゃったか。気にする必要は無いよ、そんなに沢山は必要ないんだから」
 カセイノはギンナンを拾う手を止めて、ギンナンの色気にやられてしまったリリィを心配したが、ウィキチェリカの言葉を聞いて、そうかとギンナン拾いを再開した。
「リチャード、貴方をお慕い申しておりますわ。まるで永遠を生きたかのようなその貫禄、色艶、その芳しい香り。すべてが夢のよう」
 リリィは紅く染めた頬を幹に当て、愛を囁く。
「愛しています愛しています……ねぇ子供は何人欲しいですか?」
 手に持った透明ビニール袋を見遣って、木に語りかける。
 ビニール袋の中には当然、拾ったギンナンが入っていた。
「そうですわね、子供たちはみんな茶碗蒸しに沈めて……うふふ……」
 木の幹に人差し指でのの字を描く。
「おい、本当に大丈夫なんだろうな!? 狂ってるようにしか見えない!」
「えー?」
 必死にカセイノに言われて、ウィキチェリカがリリィの方を見る。
「ま、大丈夫なんじゃない? 実害はなさそうだし」
 ちょっと納得いかない顔でカセイノはギンナン拾いへと戻った。
 しばらくして、目的の量が集まると、カセイノとナカヤノフが放置していたリリィを見る。
「あぁ、リチャード……。貴方は何故リチャードなの?」
 まだまだリリィの愛の囁きは止まらない。
 ついに木に名前まで付けてしまったらしい。
「んー……あたしもちょっと木の色気を甘くみてたかなぁ〜?」
「のんきに言ってる場合じゃないだろ!? なんだよ! リチャードって!!」
 カセイノが飛び出して行こうとするのをウィキチェリカが止め、リリィから少し離れた今の場所から話しかけた。
「わかってるの〜? その木は雌株だからねー? リリィちゃんとは結ばれないし、女の子にリチャードさんって名前もかわいそーだと思うよ〜?」
「雌株? 女性だったのですか? ……女性ですか………………」
 ふむ、と顎に手をあて、少し考える。
「おお! 考えてる! そうだ! 超えられない壁があり過ぎておまえとは絶対に結ばれない相手なんだ!」
 カセイノが追い打ちを掛ける。
「大丈夫ですわ! 性別の壁くらい! 空京でどうにかして超え――」
「超えられるか馬鹿!」
「ふべっ!」
 カセイノはリリィに駆け寄ると、手にしたパラミタバゲットで頭を殴り……気絶させた。
「しょーがねぇなぁ。これは俺が運ぶから銀杏は任せるぜ」
 木に抱きついたまま気絶しているリリィを引き剥がし、背負う。
 ウィキチェリカの側まで来ると、自分の持っていたギンナンとリリィの持っていたギンナンを全てウィキチェリカに渡す。
「うん〜。宜しくね〜。さっ、ここから離れようねぇ〜」
 ウィキチェリカはリリィの背中をあやすように優しく叩いた。


「やっちゃん、そっちはどうー?」
 木に登ってギンナンを採っている霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が少し離れた場所でギンナンを拾っている霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)に声を掛けた。
「まずまずだな! 木に近付けないから透乃ちゃんと陽子さんには敵わないけど」
 泰宏は2人にビニール袋を見せながら言う。
「これでなんとか……やっちゃん、けっこう採れてるじゃないですか」
 潰してしまった実を氷術で凍らせて匂いを抑えようと悪戦苦闘している緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が言った。
 陽子は透乃と同じ木からギンナンを採っている。
「透乃ちゃん、氷漬けにすれば匂いはすこしマシになるみたいです。味の保障は出来かねますが……」
「そうなの?」
「調理してみないとなんともですね」
「そっかぁ……でも潰しちゃっても匂いがマシになるんならそれでいっか! って、わけだから! やっちゃん、潰しちゃったら陽子ちゃんのところにねー」
 透乃が叫ぶと、泰宏は了解と手を振って応えた。
 それから暫くは黙々とギンナン拾いを楽しむ。
(見ない手はないよね!)
 しかし、それだけでは終わらない。
 透乃の目がキラリと光る。
 ギンナンの果肉を少し潰して、自らの両目に汁を入れた。
 強烈な匂いで思わず目を閉じてしまったが、臭いよりも欲望が勝ち、目をカッと見開いた。
(まずは……陽子ちゃん!)
 木の反対側でギンナンを拾っている陽子の方を見ると、見事に服だけが透けている。
(陽子ちゃんの今日の下着は黒にワインレッドのレース! え、えろい!)
 視線を感じて、陽子が振りかえると、そこには凝視してにやにやしている透乃の顔があった。
(見られてる……あっ! ギンナンの効果を試したんですね……こんな公衆の面前で……でも透乃ちゃんに見られてる……しかも、あんなにがっつりと……注意すべきなのでしょうが、嬉しいと感じてる私が注意するなんて……でもでも! ああー! この皆のいるところで見られているという……快・感!)
 多少葛藤はあったようだが、結局見られるのを快楽としてしまったようだ。
 無意識に自分の体が綺麗に見えるような体勢を作ったりしているのだから。
(じゅるり……はっ! あんまり見てるとこっちの理性が飛びそうだよ! せっかくだし、他の人のも見よっと!)
 陽子を堪能したあと、透乃はもう一度汁を目に入れてから、泰宏の方へと視線を向けた。
 透乃から視線を外されても、陽子は気づかず、それどころか脳内では色々な妄想が展開されているようだ。
(やっちゃん……やっぱり良い体してるよね〜)
 ギンナンを拾っている泰宏の股間へと視線が一点集中している。
 その泰宏も時折、透乃と陽子へと視線を向けていた。
(ん? なんでこっちをチラチラ見て……ああ、やっちゃんも入れたんだね)
 見られている事に気がついても、体に自信のある透乃は全く、気にしていない。
 ただ、陽子の体を見られるのは流石に頂けないと感じたのか、ちょっと移動して、陽子と泰宏の直線上に移動し、陽子の盾になるように動いたのだった。
(透乃ちゃんに気づかれた! でも……咎められてはいないし、向こうもこっちを見てたみたいだから、おあいこだよな! さーて、他に巨乳の人はいないかなーっと!)
 泰宏は辺りを見回し、巨乳を求めてどこかへと歩いていったのだった。


 少し小振りのイチョウの木の周りでギンナンを集めているのはオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)夕夜 御影(ゆうや・みかげ)だ。
「……臭いにゃー。秋刀魚じゃダメだったのかにゃー? はぁ……」
 御影は自分の鼻をつまんで、出来るだけ臭くないようにと配慮しているが、あまり効果はないようだ。
 眉間に皺が寄ってしまっている。
「でも、秋刀魚の方にはこの色っぽいイチョウさんはいませんよ? 面白いじゃないですか。色気があるイチョウの木なんて♪」
「そうにゃんだけど……にゃー……んにゃ? この木……登ったら楽しいかにゃ?」
 オルフェリアが楽しそうにギンナン拾いをしているのを横目に小振りのイチョウに近づき、猫の身軽さでひょいっと登ってしまった。
 けっこう高い位置の良い感じに枝が分かれている部分に腰を下ろすと、枝に寄り添い、うっとりしている。
「にゃ〜♪ もう離れたくないにゃ〜。匂いは気になるけど、素敵な居心地にゃ〜」
 まるでマタタビを与えられた猫だ。
 でれんでれんの状態になってしまっている。
「御影ー? ギンナンを採るんじゃないんですかー?」
 オルフェリアが呼びかけるが、反応がない。
「困りました……んー……」
 御影の様子をしっかりと確認しようと、イチョウの木から後ずさりで離れる。
「ひゃっ!」
 足元をよく見ていなかったので、柔らかなギンナンの果肉を踏んでしまい、足を掬われ、尻餅をついてしまった。
 手にしていたビニール袋が宙を舞い……オルフェリアの顔に落ちた。
「げほっ! ごほっ!!」
 顔中がギンナンの汁まみれになってしまい、その匂いはかなり強烈になっている。
 その匂いを直接嗅いでしまったので、むせてしまっているようだ。
 息が出来ないほど苦しい時間がちょっとだけ続き、涙がちょちょぎれてしまっている。
 ようやく、治まり、オルフェリアが目にしたのは……黒いボクサーパンツ一丁の泰宏がこちらをじっと見つめている様子だった。
「!!??」
 何が起きているのかわからず、声が出ない。
「小さい胸に用はないな!」
「小さい胸の何が悪いですか!?」
 オルフェリアは泰宏の呟きに思わず反応してしまった。
 泰宏は気づかれたとわかるや、他の場所へと巨乳を求めて走り去ってしまった。
「おと……男の人に見られたですか……?」
 思わず自分が今日付けてきた下着を胸元をちょっと開けて確認した。
 白地に水色の小花柄というお気に入りの下着だったので胸をなでおろした。
「それに…………男の人の裸を………………きゃーーーーーっ!!」
 男性の裸に免疫のないオルフェリアは恥ずかしさのあまり、赤くした顔を手で隠しながらどこかへと走り去ってしまった。
「にゃ? ご主人の声が聞こえたようにゃ……って、高いにゃーーーっ!!」
 今さら自分がどれだけ高い場所の枝に腰を落ち着けていたのかを認識したらしい。
 あまりの恐さにイチョウの色気が無効になってしまったようだ。
「あー……大丈夫? とりあえず、ゆっくり降りて来たらどうかな? ね!」
 通りすがりの(自分の力ではなく、他人からの故意によるギンナンの汁を入れる方法を模索していただけなのだが)占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)が声を掛け、ついでにウィンクをプレゼントした。
「が、頑張るにゃ……」
 占卜大全に見守られながら、ゆっくりと慎重に降りてくる。
 時間は少しかかったが、無事に降りる事が出来た。
「ありがとう!」
「へぶっ!」
 占卜大全に勢いよく抱きついた――のは良いのだが、握っていたビニール袋が占卜大全の首の後ろを軸にぐるりと回り、顔面に直撃してしまった。
 しかも、ビニールは枝に引っ掛けたりしていたのであちこち穴が開いたりしてしまっていた。
 言わずもがな、占卜大全の顔にはギンナンの果肉のぐにゅりとした感触と、強烈な匂い、それから汁がべっとりとついてしまった。
「ああー! ごめんなさいー!」
「い、いや、大丈夫だよ、これくらい」
「……なんで顔がにやけてるにゃ?」
「別にそんなことはないさ! さ、君はご主人とやらを探しに行かなくて良いのかい?」
「そうだったにゃ! ご主人ー! どこー?」
 御影は占卜大全に言われると走って、オルフェリアを探しに行ってしまった。
 占卜大全の目には、勿論サラシと褌姿の御影が走っていく姿が見えていた。
「これは……しょうがないよな、うん。だって事故だし? これなら結和ちゃんにも怒られないよね」
 ギンナンの汁をたっぷりつけたまま、占卜大全は高峰 結和(たかみね・ゆうわ)のもとへいそいそと戻って行った。