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S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

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S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

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08:オーディション セッション式だと 知ってたら(その4)


「ふー。なかなか要注意人物ってのもいないねえ……」
 祠堂 朱音(しどう・あかね)がイコンのコクピットでモニタを見ながらそう言う。
 それに応えて曰く、須藤 香住(すどう・かすみ)
「なかなかそうは現れないでしょ。まあ、お祭りが無事に進んでていいんじゃない? ところで朱音、せっかくいい声しているんだから出てみればよかったのに」
「やーよ。パフォーマンスするのが面倒だもん」
「たしかに、美しい歌だけじゃアイドルとは言えないものね……ま、お祭りがお祭りであるために、しっかり縁の下で支えましょうね」
「そのつもりよ。ふふ……うかつなことをする奴がいたら地面ごとどっかーんだもんね……」
「ちょ、ちょっと過激じゃないかな?」
「まーまー、ジョークジョーク。それにしてもレオ君と和葉ちゃん優勝できるといいね」
「そうね。天学生には頑張って欲しいわね」
 朱音の言葉に香住が頷く。
「ま、敵がなにかヤルにしてももうちょっと盛り上がってる時でしょ。それまでは必死で待機よ」
「わかったわ」
 そうして二人は会場の中をイーグリットで見張りながら待機をすることにした。

「さて、それでは次は、アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)さんです」
 とアレックスが登場する。
「って、完璧に男性じゃないですか。募集してるのは女性ヴォーカルですよ。せめて女装するとかなにか……」
「ええ〜っ!! 師匠は大丈夫って……」
 師匠とはリカインのことである。
「もう、兄貴、私が出るよ!」
 そう言ってやってきたのは双子のサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)である。
「姉貴!」
 ちなみに二人はお互いを兄貴姉貴と呼び合うのでどっちが上かわからない。
「でもアイドルになって師匠を追い抜きたいのは僕っスよ!」
「だったら楽器でエントリーしておけばよかったじゃない」
「う……それは……」
 笑い。
「あー、漫才でしたら別の機会にお願いします。で、えーっとサンドラさんですか、出場なさいますか?」
「うーん。あくまでアイドルやりたいのは兄貴だし、今回は遠慮しておきます」
「残念っス。師匠を越えるチャンスだと思ったのに……。ということで、失礼するっス」
 残念そうにアレックスがそう言うと、二人は退場して行った。
「さて、なにやらモヤモヤしますが、続いていきましょう。次はグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)さんです」
 黒色の先がとがった帽子、そして黒系の服に白いエプロンに金髪ロングの魔法使いのコスプレをしたグリムゲーテが登場する。
「こんにちは! 蒼学から参加のグリムゲーテです! まず皆に言っておきたいことがあるの!
 皆も知っての通り、ここで選ばれた人は皆を支える重要な役割を持つわ。これはただ歌うだけじゃダメ。戦場で恐れず注目を集めて、命をかける皆の勇気の象徴になって初めて成功する。
 ジャンヌ・ダルクみたいに前線で、ましてや戦いながら歌うのは簡単なことじゃない。とても覚悟が必要なの。半端に前に出て落とされちゃってたら意味が無いもの。だから私は、半端じゃない、皆の前に立つ覚悟と責任を持ってこのオーディションに参加するわ!
 当然歌にも自信があるわよ! 皆の期待する『勝利の歌』をイヤってほど聞かせてあげるわ!
 私への応援、よろしくね!!!」
 それを舞台袖から眺めながらパートナーの四谷 大助(しや・だいすけ)曰く。
「グリムのやつ、あれじゃ政治演説だろ……」
 グリムゲーテのコスプレ衣装を徹夜で作らされたときのことを思い返しながら大助はそう呟いた。【魔人】と称される彼にでさえも敵わない者はいるものなのだ。
「はわー、グリムさん、とってもかっこいいですー!」
 四谷 七乃(しや・ななの)がそうつぶやく。
「そうか?」
 大助には大いなる疑問があるようだ。だが、七乃は
「はい。かっこいいですー」
 と答える。
 そこで演奏が始まったためにふたりとも黙った。
 アップテンポで勇壮な歌。『勝利の歌』というだけ有ってテーマ性もしっかりしている。
 未来をこの手に! 勝利をこの手に! と言うような内容だった。
 観客もオーバーヒートしている。フレイもノリノリで熱唱しているようだった。
 そして演奏終了。
 観客の興奮覚めやらぬ中の退場。アポロンも
「いやー、魂が揺さぶられますね」
 とコメントしている。
「さて、次でいよいよ最後となります。月島 悠(つきしま・ゆう)さんです!」
 と呼び出される数十分前……
 藤 千夏(とう・ちか)はパートナーの悠のために己のトーチカ型の肉体を提供した(着替えるために)。
 悠はノースリーブのブレザータイプで胴は黒ベースに金の縁取り、胸元は白のセーラー仕様で二本の青ライン、青ネクタイ。
 青チェックのプリーツスカート(ミニ)。
 黒のニーソで太腿辺りは白地に金のラインが二本。
 胴と同色の帽子。
 リボンはオレンジに白の縁取りで帽子(左)、腰(左)、脚(左右)。
 と言う衣装に着替えると千夏から外に出た。
 ちなみにのぞき部の何人かがのぞきをしようとして接近し、千夏の犠牲になっている。

「キャー、ユウチャーン!」
 麻上 翼(まがみ・つばさ)を始めとした教導団の観客等が歓声を上げている。
 千代と人気を分ける教導団のアイドルであった。

 演奏が始まるとダンスを加えながら歌は進んでいく。
 サビの部分で左手でマイクを持った状態で、右手を下から前に回し右手は銃の形を作る。
 そして、バーンッ! と前に持ってきた右手を肘から上に曲げて、首は左に少し傾げるようにして、ウィンク。
 ハートを狙い撃ち。であった。
 そして演奏が終了して退場すると、アポロンが
「それでは、これより投票と審査に入ります。投票がお済みでない方は投票箱に投票願います。なお、その間特別ゲスト出演として我ら天御柱学院のアイドルでありますKAORIによるデモ演奏が行われます。存分にお楽しみください!」
 と言って退場する。
 そして投票が開始されるやいなや、会場に設置されたプロジェクターから、レオナルドによって設定されたKAORIの外観が映る。
 茉莉がベース。櫛名田姫がドラム。KAORIがヴォーカル&ギターの3ピースバンドだった。
 楽器の具体的な会社名の描写はここでは避けさせてもらう。
 ダミアンが作詞作曲したテクノポップ系の歌『AITAI』が披露される。

あなたにAITAI AITAI
今ここでAITAI AITAI
お願い気づいてね
私ここにいるの

プログラムされた表情
データにはない情報
0と1じゃ解くことできない
私に生まれたこの気持ち

あなたにAITAI AITAI
今すぐにAITAI AITAI
今すぐ逢いに来て
私待っているの

うまく選べない回答
加熱していく感情
0と1じゃ伝えられない
あなたに出逢えたこの奇跡

あなたにAITAI AITAI
今ここでAITAI AITAI
お願い気づいてね
私ここにいるの

あなたにAITAI AITAI
今すぐにAITAI AITAI
今すぐ逢いに来て
私待っているの

 大歓声。
 ダヴィンチの設定したKAORIの容姿と彼と望が作成した音楽データは生の演奏以上に観客を魅了した。DTM技術が未だ枯れていないことの証であろう。そのせいでKAORIと言う無効票が投票されたくらいである。
 そして、審査と集計が終わった。
 オルレアーヌ・ジゼル・オンズロー(おるれあーぬじぜる・おんずろー)は百合園の教師として百合園の生徒を観察し
(ミューレリアさんはいつも元気一杯ですね。彼女の自然体は、多くの人間を惹き付けるだけの素養を秘めている気がします。
 アルコリアさんは――少し、個性的でしょうか?ですがしかし、今の時代ただ歌えれば善いというものでもありません。彼女の様な異才こそ、こうした場で頭角を現すと言えましょう)
 と思考し、ヴォーカル部門以外は殆ど演奏やアピールを聞いて直感で投票するもヴォーカル部門は時間ギリギリまでミューレリアかアルコリアか散々迷った挙句にミューレリアを選択して投票した。
「ヴォーカル部門は百合園生が二人、ですか。困りましたね……どちらも歌い手としては光る物を感じたのですが――此処は、ミューレリアさんに投票するとしましょう」

 美羽のパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は投票の集計として活躍するとともに無効投票を弾きだす敏腕秘書としての手腕も顕にしていた。

 そして天学整備科3年生の長谷川 真琴(はせがわ・まこと)は、オーディション後に行われるイコンによるデモ演奏のための整備に取り掛かりであった。
 すでに合格者の資料は整備科に回ってきているのでその資料にあわせてシミュレーションの結果に基づいて細部の調整を行った。
 真琴のパートナークリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)も回ってきたデータに基づいて一生懸命にソニックスピーカーの調整を行なっている。
(腕の立つ整備士は早く確実に仕事をこなせる。今後、うちの学校以外にもイコンが配備されれば、当然合同作戦のときにはうちの学校の整備士が整備を担当することになる。そうなったときに腕の立つ整備士は一人でも多いほうがいい。なら、今日はその予行演習じゃないけど腕を磨かせてもらうよ)
 と言う気概で整備に望んでいた。当然その調整も並大抵のバランスではない。

「こんなイベント、何の意味があるというの……」
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)はイコンを戦闘兵器として認識しているため、歌による活動には否定的な概念を多く持っていた。
 ただ、機晶姫としての機能は高く、役割は役割として割りきって会場の警備をしていた。
 それでも、『心』を持たない彼女には『歌』の持つ役割が理解出来ないらしく、常に疑問の言葉をつぶやいていた。



合格の 発表告げて 悲喜こもごも(字余り)



 アポロンとコリマ校長、それにフレイと美羽が登壇する。
「さて、それでは合格発表に行きたいと思います。が、その前に候補者の発表を行います」
 アポロンがそう告げると口囃子が鳴る。

「まず、ドラム部門! 騎沙良 詩穂!」
 拍手、歓声。
「次は、ベース部門! 富永 佐那!」
 ロシアンマフィアの落胆する声。
「そして、ギター部門! 緋桜 遙遠&北郷 鬱姫!!!」
 歓声!
「女性ヴォーカル部門! 志方 綾乃!」
 歓声。
「それでは、合格者の発表をしたいと思います。ドラム部門! 鷹村 真一郎!」
 意外な結果にどよめき。
「ベース部門、ルース・メルヴィン!」
 順当な結果だという声……
「ギター部門、穂波 妙子&姫宮 和希。なお、姫宮さんにはコンサートマスター(コンマス)を担当していただきたいと思います」
 コンマスとは演奏全体を取り仕切る指揮者の次に重要なポジションだ。その結果にいろいろなざわめきが出る。
「最後に、女性ヴォーカル部門、グリムゲーテ・ブラックワンス!」
 歓声。あれだけの演説を決めてみせたのだから当然だとも言えた。
「それでは、合格者によるイコンのデモ演奏を行います。合格者はイコン格納庫に集まってください!」
 その言葉に合わせて人波が揺れる。
 そのころ、【パープル小隊】は異分子を発見していた。