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第二章:叩け! 地上の救助隊!!


 
洞窟内に潜入している強化人間でサイオニックの七科 六花(ななしな・りつか)は、精神感応で地上のサイオニックのオルフェ・キルシュ(おるふぇ・きるしゅ)と連携を取りつつ、救助者の捜索を行っていた。

「(おい! さっきから度々地鳴りがしてるぜ? これ、ヤベェんじゃないのか?)」

 地上のオルフェが六花の連絡を受けて、少し語気を強める。

「(時間がない、が洞窟は脆そうだし、暗くて狭そうなので下手に暴れるとパニックになったり崩れる可能性もあるな)」

「(冗談じゃないぜ! さっきもヘビと勇敢に肉弾戦の格闘してるバカがいたんだ! ウチの新しい校長はどんな指示で潜らせてんだよ!?)」

「(知り合いが亡くなったばかりの新校長も不安なのだろう。オルフェも気をつけろよ!)」

「(ち、了解ー。また何かあったら連絡するぜ)」

 精神感応を解き地面に腰を下ろす六花の横では、強化人間でサイオニックのアルエット・ルーンスフィア(あるえっと・るーんすふぃあ)がテレパシーで、地下に潜ったナイトのマクフェイル・ネイビー(まくふぇいる・ねいびー)と連絡を取っているのが見える。

 アルエットの顔色がサッと青ざめる。

「(え!? 校長達が!?)」

 地下ではマクフェイルが崩落し土砂で埋まった道を眺めている。

「(ええ、先程進んでいくのを見たから間違いないでしょう。上手くかわしてどこか別の道に繋がっていればよいのですが)」

「(やはり私もマクフェイルさんと潜入すれば良かったのかも……)」

「(失礼だが、アルエット殿は暗所恐怖症なので、あまり結果は変わらない、いえ、寧ろもっと悪くなっていたかもしれません)」

「(そっかぁ、そうだよねぇ……)」

「(それより先程から地鳴りが凄い。地上で地震等は起こっていましたか?)」

 アルエットが周囲を見渡すが、晴天の中を農作業や収穫に精を出している地上の生徒達が見えるだけである。

「(私は感じないけど……)」

「(そうですか。では私は救出後のパーティを楽しみにもう少し捜索を続けます)」

「(うん、気をつけてね。無理しちゃ駄目だよ!?)」

「(勿論です。敵に遭遇したら、戦闘回避または戦い慣れた方々に任せて、主に後方で活動しますから)」

 テレパシーを解いたアルエットは、彼女をじっと見ているオルフェに気がつく。

「アルエットも、パートナーを地下に?」

「オルフェさんも?」

「ああ、どうも嫌な予感がする。内部にパラミタオオヘビが出るなんて聞いてないぜ」

「ヘビ?」

 アルエットがムンクの叫びのように両手を頬に当てる。

「どうも戦闘に突入している生徒がいるみたいなんだ。俺の情報はこれぐらいかな? アルエットの方は?」

「あ……地下のマクフェイルさんが、校長達の進んだ道が崩落した、と」

「何ィーっ!?」
ーードオオォォーン!!

 地上に軽い揺れが走り、オルフェが咄嗟にバランスを取る。

「チィ、よりによってこんな日に地震かよ!!」

 アルエットが、クイクイとオルフェの衣服を引っ張る。

「何だ?」

「オルフェさん、もしかしてアレが原因じゃ……」

 アルエットが指差す方角を訝しげに見つめるオルフェ。

「……ああ、犯人が少しわかった気がするぜ」

と、神妙な顔で頷くのであった。




 農作物の収穫作業を続ける生徒達の間を、自身の身の丈程あるパワーブレスをかけた巨大なハンマーを持って駆けているのはプリーストのリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)である。

 先程まで休憩していたリリィであるが、再びパラミタオオモグラが地上に出たため、大慌てで地上に出来た穴と穴の間をかけめぐっていた。

「そこっ!!」

ーーズズーーンッ!!

 しかし、モグラも「あんなので叩かれたらタダじゃ済むまい!」と本能的に警戒したのか、未だクリーンヒットはしていない。

「敵は任せた!」

 そう言って素早く芋掘りに逃げたパートナーのメイドのカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)のムチャぶりにも、持ち前の脳天気さが災いし、威勢よくこう返事してしまっていた。
「はい! モグラについては任されましたわ!」

 迂闊な返事は命取りであるという事に薄々気が付きながらも、「農作業従事者を守り切りましょう!」という決心がリリィに驚異的な粘り強さを生んでいた。だが「これでも槌の扱いには慣れていますのよ」と考えていたリリィも、さすがに実際の巨大ハンマーの重さに辟易してきていた。

「(……って、本当はかなり重いのです……)」

 決して口には出さないリリィの頑張りを芋掘りしながら眺めているカセイノは、時折傍を通るリリィのハンマーが落ちてこないかと、女王の加護による第六感で絶えず警戒していた。

「(あっぶねぇなー)」

 勿論カセイノ以外の生徒達も、作業は継続しつつもリリィのハンマーの行末を疑心暗鬼な瞳でやり過ごしていた。

 先程、あまりモグラが現れなくなった時に、カセイノは休むリリィにそこはかとなく、こう助言をしていた。

「なぁ、リリィ。なんか大変そうなのは見てわかるから、せめて疲れたフリ位してろや。サボってるみたいだろが」

「……サボリではありませんわよ!!」

 彼なりの思いやりを込めたつもりの言葉であったのだが、この言葉がリリィの何かに火をつけてしまい、逆効果の結果となったのだ。

ーーズズーーンッ!!

 振り返ったカセイノが眺めると、再びリリィのハンマーが大地に向かって火を吹いていた。

「うーん、俺も手伝った方がいいのか? でも芋もどうせ誰かが収穫しなきゃなんねーんだしぃ……」

 悩むカセイノを尻目に、奇妙な形状をした金属製のデッキブラシを持った獣人でメイドのエレン・バスカヴィル(えれん・ばすかう゛ぃる)が、肩で息をするリリィに近づいていく。

「あなた、随分お疲れのようですね?」

「え? ううん! わたくしは大丈夫ですわ!」

 元気一杯とポーズを取るリリィをエレンが見つめる。

「それにあなたのデッキブラシじゃあ、モグラは倒せません」

 フッと口の端を上に釣り上げたエレンがデッキブラシを振り上げる。

「ブラシ部が若干大きいためハンマーのような使い方が出来る、このデッキブラシの使い心地を試したいの……」

「それ、何か仕込んでいません?」

「ええ、仕込み杭が仕込んであるけど、その機巧は今回使わないわ。危ないでしょう?」

 怪しい笑みを浮かべるエレンを見ているのは、火術を使ってこっそり芋を焼いてるネクロマンサーの月谷 要(つきたに・かなめ)である。

 先程から要のツマミ食いを幾人かの生徒が注意しようとしたのであるが、アボミネーションを使ってちょぉぉっと「静かに」して貰ったり、口元に指を持っていき「シーッ」とやっていたため、難を逃れている。

「(なんでエレンがあんなにやる気を出してるか知らないけど、さっさと終わらせて美味しいお芋を皆で食べたいなぁ……)」
当初はそう考えていた要であるが、食事前のツマミ食いの魅力が彼の誓いを破るのにそう時間はかからなかったらしい。

「(まぁ、オレも時々黒の猫耳が生える超感覚でモグラが出てきそうな位置をなんとなく把握して予測地点を教えて、もし出てきたらサイコキネシスで拘束してやるから、これくらいのご褒美はあってもいいよねぇ〜)」

 そうやってエレンを見つめる要に気がついたのか、カセイノが彼の傍に腰を下ろす。

「おまえもなかなか大変そうじゃん?」

「ん〜? キミもな〜?」

「……ところで、それ、芋?」

「おう、もうすぐ焼けるよ、食べる〜?」

「リリィに何か悪い気がするんだが……」

「大丈夫だってぇ〜」

 要は口元に指を持っていき「シーッ」とやろうとした時、背後に高速移動してきたエレンのデッキブラシが唸りを上げて振り下ろされた。

ーーガァァーンッ!!

「……少しは仕事しろ」

 大きなタンコブを作って地面に大の字にめり込んだ要を一瞥したエレンが穴へと転身する。

 倒れても焼けた芋を放さない要を見て、カセイノが声をかける。

「おまえも大変だな」

「……まぁねぇ〜」


 そんな目に見えぬ気苦労を語り合う要とカセイノの横を後ろで束ねた黒髪を揺らしながら走るのは、ドルイドの朝霧 垂(あさぎり・しづり)であった。

「ちょ〜っと待った!! お前達、そのハンマーで何をする気なんだ?」

「は?」

「え?」

 それぞれ手にもった巨大ハンマーとデッキブラシを掲げて立ち止まるリリィとエレンに近づいていく垂。

「少し冷静になって考えてみろよ、今この畑の下には花音や救出に向かったメンバー達が居るんだぞ? それなのに地上でそんなハンマーを使って地面を叩いたら、下手したら洞窟が崩れて皆埋まっちまうぞ!?」

「あ……」

「う……」

 絶句する二人を前に追いついた垂が腰に両手を当てて語り始める。

「モグラを捕獲するんだったら、縄や網で縛るとかそういった方法に切り替えないか?」

 垂の直球すぎる正論に沈黙するリリィとエレン。

 傍で農作業をしつつ、二次被害の心配をしていた生徒達もこっそりと頷く。

「ですが……」

 伏し目がちに垂を見るリリィ、その瞬間!

「いました!」

「え?」

 走りだしたリリィの巨大なハンマーが、今まさに穴から顔をのぞかせたパラミタオオモグラに振り下ろされる。

ーーガンッ!!!

「やった! 命中しましたですわ!!」

 喜ぶリリィ、しかし地面をよく見ると目を回すモグラと、涼司がいる。

「え? え? 校長ーっ!?」

「……てこういう事になるかもしれないんだぜ?」

 やれやれと首を振る垂。
リリィが見ると、先程まであったモグラと涼司の姿はない。

「スキル「その身を蝕む妄執」を用いて幻覚を見せたんだ。おまえ、モグラが一匹で出てくると思わない方がいいぜ?」

 垂の言葉にシュンとうな垂れるリリィ。
カセイノが声をかけに行こうかと戸惑っていると、それより早くズイと一歩踏み出すエレン。

「確かにあなたのご意見は正しい。では、あなたはどういう作戦で事態の収拾をはかるつもりなの?」

「え……俺は……救出隊が無事に花音達を助けだしてきたら、パラミタオオモグラも含めて、皆で焼き芋パーティーを開いて秋の風物詩を満喫したいって考えてるんだが……」

「ですから、どうやって?」

 戸惑う垂をさらに問い詰めるエレン。本来仲裁に入るべき要は未だ地面に倒れたままである。

「大丈夫だ、問題ない」

 突然かけられた声に振り向く垂とエレン。
そこにはテクノクラートの源 鉄心(みなもと・てっしん)が悠然と立っている。

「鉄心?」

「山葉校長不在の間、被害拡大を抑える為に生徒達の様子もそれとなく見ていたんだが、まず、罠が一つという確証も無いしモグラ塚のある近辺は近づけない方が安全だ、それに地面に強い振動や刺激を与えるのも崩落に繋がる恐れがあって危険だ。キミ達もその事はわかるだろう?」

 鉄心の重みのある言葉に頷くエレン。

「俺も、最寄りの救助組織と連絡を取って資機材と人員の派遣を要請しておいた。まぁ、強力なコントラクターたちが救助に向かっているので必要になる可能性はかなり低いが、万が一にでも間違いがあっては困るしな……」

「最寄りの救助組織……?」

「パラミタにそういう職種の人達って居た?」

 垂とエレンが顔を見合わせている。

「涼司の校長としての責任感と言うのもやはり大きいものだな……」

 一人納得の表情を浮かべ腕を組む鉄心の元に、おろおろした素振りでやって来るのはヴァルキリーでサムライのティー・ティー(てぃー・てぃー)である。

「鉄心! 来ました! 救助隊です!」

「何? どこだ?」

「えっと、あの地下からの部隊じゃなくて、先程要請した例の救助隊の方々の方です」

「そうか……そういえばキミ、さっきまでどこに行ってたんだ?」

 鉄心がティーの泥だらけのスカートを疑問符を浮かべて見つめると、ティーは視線を逸らして恥ずかしそうにしたりしながらモジモジと指を動かす。

「………運が良かったかとっさの判断か……まぁ、いいだろう」

「鉄心、私たちも助けに潜らなくて本当に良かったんでしょうか?」

 どこか後ろめたそうな顔で鉄心を見つめるティー。

「落ち着け。待つ事だって大切な仕事だ。地上で資機材と人員の手配をして、地下の救助隊が安心して救助に専念できる環境を作る。それが俺達の今回の仕事なんだ」

 そう言って鉄心はティーの頭を撫でる。

「そうですね……鉄心?」

「何だ?」

「私も帰還を待ってます。お芋の……間違った。救出隊をです!」

 ニコリと笑うティーを見て、満足気に微笑む鉄心。

「おい」

 鉄心が振り向くと、地下のパートナーと連絡を取り合っていたオルフェとアルエットがいる。

「どうした?」

「俺達の情報も、役に立つかもしれないからな……」

「協力させて下さい!」

「……ああ、よろしく頼むぜ!」