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第1章 再び闇世界ゴーストタウンへ

1Day

 ミニミニは表情を失ったオメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)の傍から離れずケースへ入ろうとしない。
「うえぇーんっ、何でオメガちゃんばっかりこんな目に遭うのー」
「魔女さんがいる部屋ってもしかしてここ?」
 彼の鳴き声を聞きウェリスがドアをノックする。
「オメガちゃんのお友達の人たちと助けに行ってくれた人・・・かな?」
 寝室に入ってきた彼女を見上げて言う。
「そうよ、魔女さんは元気かしら。部屋の中で泣いていたのあなた?」
「うん・・・オメガちゃんの魂が身体にまだ全部戻ってなくてね、感情が表に出せなくなっちゃんだぁ」
「十天君って魔女さんの魂を探して、ドッペルゲンガーに取り込ませようとしているのよね。あいつらよりも先に、闇の中に消えた魂を連れ戻さなきゃ!―・・・なっ、何?突然霧が・・・きゃぁあーっ!?」
 ベッドの上で眠っているオメガの頭をウェリスがそっと撫でると突然、魔女の周辺に闇の霧が現れそこへ飲まれてしまう。
「―・・・助けに来て欲しいっていうことでやしょうか?だとするとこの先に、魂が逃げ込んでいるんでやんすかねぇ・・・」
 霧に飲まれたウェリスの後を追って礼海は霧の中へ入っていった。
「日早田村が闇世界に変わった時と同じような空ね」
 ゴーストタウンへ送られてしまったウェリスは光のない漆黒の空を見上げる。
「あっしの兄貴が前に言っていた悪夢が実体化した闇世界でやしょうな」
「もしかして・・・あの方の弟さん?どうしてこんなところにいらっしゃるんですの」
 ランタンを片手に町の中を彷徨う死者の魂を探しているケレスが通りかかり礼海の姿を見つけて声をかける。
 背丈は異なるが見慣れた相手と同じような雰囲気の彼をすぐ弟だということが分かった。
「魔女の魂を探しているんでやんすが、どこを探したらいいのやら・・・」
「あなた方が来る前に少女の姿をした魂がマンションの中へ入っていきましたから、その方が探している魂だと思いますわ・・・」
「きっと魔女さんよ!」
「最近、少しずつこのマンションに悪霊が入り込んでいるようですから、憑かれないように気をつけて・・・」
「そんなのがいるのね。分かった、気をつける。教えてくれてありがとうね」
 ケレスの忠告に頷き、ウェリスたちはマンションの中へ入っていく。
「あ・・・死者ではない女が少女とマンションの近くにいることをいい忘れてしまいましたが、大丈夫でしょうか・・・」
 建物の周囲を見回したケレスは何事もなければと心配そうに呟いた。

-PM14:00-

「あれから少し日が経ったけど、オメガさんどうしてるかな?感情を表したくっても表すことが出来なくなっちゃうなんて・・・」
 表情を失ったオメガを心配し、清泉 北都(いずみ・ほくと)は寝室のドアをノックし中へ入る。
「お、おい!ちょっと待てっ」
「えっ・・・な、何!?」
 白銀 昶(しろがね・あきら)の方へ振り返る間もなく、部屋の中に発生している霧に包まれてしまう。
「北都、オレの手に掴まれ」
「―・・・昶っ」
 彼の声に北都は必死に手を掴もうとする。
「よし、いま廊下の方へ引っ張ってやるからな。―・・・って、うわぁあーっ!?」
 昶も霧に包まれてしまい、彼と共に姿を消してしまった。
「オメガさんこんにちは・・・って、部屋の中になんで霧が!?」
 魔女が眠っている寝室に入るなり突然、神和 綺人(かんなぎ・あやと)がすっとんきょな声を上げる。
「あやとん〜っ!オメガちゃんの様子を見に来てくれた人たちが霧の中に消えちゃったよぉ〜」
「この中に・・・ですか?」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は首を傾げて擦り寄るミニミニを見下ろす。
「うん・・・。尖がった帽子被った女の子が飲まれちゃってね、傍にいた銀髪の子が追いかけていったの。その向こうにオメガちゃんの魂がいるかもしないことを言ってたかな」
「もしかしてウェリスさんと礼海さんかな?ていうことはこの向こうにオメガさんの魂がいるのかもね」
「来てくれた黒色の髪の毛をした男の子たちも霧に飲まれちゃったの」
「きっと北都さんたちのことだね、僕たちよりも先に来てたんだ。この霧の向こうに彼らがいるってことだよね?」
「ここで論議していても仕方ありません、行きましょう」
 神和 瀬織(かんなぎ・せお)は綺人の袖を引いて急かすように言う。
「そうだね瀬織。十天君の人たちはまだ諦めてないだろうからね、皆で早く見つけてあげなきゃ」
「(やれやれ、また首を突っ込んで・・・。これが綺人の趣味のように思えるな)」
 危険なことに首を突っ込む瀬織にユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)はため息をつきながらも3人の後をついていく。
「お見舞いに来たですよオメガちゃん。―・・・こ・・・、これはどういうことです!?」
 不気味な黒い霧を目にしたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は驚きのあまり床にペタンと尻餅をついてしまう。
「今ねぇ、あやとんたちがオメガちゃんの魂を探しにこの中に入っていったの」
「そうなんですか!?ボクも探しに行くですっ。―・・・その前に髪の毛を1本もらいますね」
 枕についている魔女の髪を1本取り、フェルトで作った手のひらサイズのオメガの人形に結ぶ。
「なるほどね。そこへ行けばドッペルゲンガーから逃げるために、闇に消えたオメガちゃんの魂がいるのね?もちろん行くわよね淵」
 部屋の中へやってきたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、パートナーと霧の中へ入ろうとする。
「言わずもがなだ」
 彼女の言葉に夏侯 淵(かこう・えん)はこくりと頷く。
「こんなこと知っちゃ、俺たちも行かないわけいかないよな?」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は傍にいるクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)にニッと笑いかける。
「うん、皆で協力すればきっと見つけてあげられるはずだよ!」
 親指をにゅっと見せてクマラがポーズをとる。
「え〜と、確かオメガの魂の3分の1がドッペルゲンガーに取られて、3分の1が闇世界にいて・・・3分の1がこの体に残ってるんだったよな?なら敵がこの体の魂を狙いに来る可能性も十分にある訳だな」
 ルカルカに聞いた話を整理するように朝霧 垂(あさぎり・しづり)が呟く。
「それにしても、リヴァイアサンの時にも思ったことだけど、このオメガって子は本当に不幸体質だよなぁ・・・この世界には魔力の強い奴なんてごろごろいるだろうに、しつこい奴らに狙われちまって・・・でも安心して良いぜ、皆がお前の力になって絶対に助けてみせるからな!」
 ベッドの傍にしゃがみ、オメガに笑いかける。
「―・・・ありがとう。・・・垂・・・・・・さん」
 表情を失った魔女は言葉させえもたどたどしくなってしまった。
「タレちゃんお願いね」
 ルカルカは垂の方へ振り返り、戦友に少女を託した。
「あぁ、任せな」
「にゃははは〜、俺たちにどーんと任せろっ。安心して行ってこい!」
 朝霧 栞(あさぎり・しおり)は笑いながらトンッとルカルカの背を叩いて気合いを入れてやる。
「(皆・・・無事に戻ってきてよ)」
 闇世界へ向かう生徒たちを見送り、椎名 真(しいな・まこと)は心の中でそう祈り呟いた。
「暖かい紅茶をどうぞ」
 コポポとカップに紅茶を注いだ真はティータイムでもしながら心穏やかに待とうと、オメガに入れたてのお茶を勧める。
「まこまこがお茶を入れてくれたよオメガちゃん。飲もうよ、あったかぁいうちに♪」
 ミニミニはふよふよとオメガの傍へ寄り、冷めないうちに飲むように言う。
 静かにゆっくりと頷くと彼女はカップに口をつける。
「美味しい・・・ですわ」
「そう?よかった」
 真は持って来たコスモスを長持ちするように食塩などをつりつけ、寝室に飾りながら笑いかける。
「スコーンを作るためにキッチンを借りたいんだけどいいかな?」
「えぇ・・・どうぞ」
「ありがとう、ちょっと待っててね」
 そう言い材料を抱えて寝室から出ると真はドアを静かに閉めた。



「ここってゴーストタウンだよね?」
 見慣れた風景の町並みを北都がキョロキョロと見回す。
「おい北都。マンションの前に誰かいるぞ」
「ケレスさんだ。成仏出来ない魂を探しているのかな?」
 昶につんつんと肩を突かれ、彼の視線の先へ目を移した北都が首を傾げる。
「―・・・北都さん・・・・・・ですの?」
 彼らの声に気づいたケレスが振り返る。
「やっぱりケレスさんなんだね。この建物をずっと見ていた気がするんだけど、死者の魂を探しているの?」
「いえ・・・このマンションの中に、死者ではない魔女の魂が入って行ったんのでちょっと気になりまして・・・」
「それって青色の髪の毛をした女の子かな?」
「えぇそうですわ・・・」
「きっとオメガさんだよ!昶、マンションの中へ入ろう」
「その中にいるんだな?んじゃ行ってみるかっ!」
「ありがとうケレスさん」
「―・・・この中にいることしかお伝え出来ませんでしたけど、お気をつけて・・・」
 ケレスはマンションの中へ入っていく北都たちを見送った。
「静かだね・・・。僕たち以外、まだ誰も来ていないみたい」
 ダークビジョンのおかげで灯りがなくても、北都にはロビーの周囲が鮮明に見える。
「そうだな。霧に飲まれてくるやつがいるかもしれないから、入り口辺りで少し待ってみようぜ」
「待っている間にマンション内の地図を見ておこうっと。地下はないんだね、階段は2箇所かな。1号室の近くにある内階段と、8号室の傍の外階段があるみたい」
 マンション内の構造を把握しておこうと、ロビーの壁に貼ってある地図を見る。
「探すにしても場所を分担した方がいいと思うから・・・」
 生徒たちがここへ来るかもしれないと、2人はしばらく待つことにした。
 その一方、綺人たちは自ら霧の中へ入りゴーストタウンへやってきた。
「この雰囲気・・・久々だね。やっぱりゴーストタウン・・・だよね?ここって」
「確認しなくてもその場所しか考えられませんよアヤ」
「ゴーストがいっぱいいるってことだよね?とりあえず日早田村の鬼みたいに手加減しなくていいかな」
「建物の入り口の向こうに誰かいますよ」
 クリスの声に視線を移すと、オメガの魂を探しに来る生徒を待っている北都たちの姿を見つけた。
「あ、北都さんたちだ。よかった、合流出来て」
 2人に気づいた綺人は片手を振って走り寄る。
「待っていれば皆来るかなと思ってね」
「僕みたいにオメガさんの様子を見に来て、霧の中に入って来た人がいるかもね」
「もう何人か集まっているのね。探し始めてないってことはルカルカたちを待っててくれたの?」
 マンションの扉を開けてルカルカたちも彼らが待機しているところへ集まる。
「うん、別々の階を探した方が見つけやすいからね。同じフロアに集中しちゃうと探すのが大変だし、僕たちよりも先に敵がオメガさんを見つけたら厄介だからね」
「そうよね、ルカルカたちもそうするつもりよ。あっ、皆来たみたいだから場所を割り振りろう」
 北都の提案に頷いた彼女は生徒たちの担当場所を聞いて書いておこうとメモ用紙を千切る。
「まず上の階と下の階中心に探す2グループに分けて、ロビーと7階を何かあった時の一応の集合場所としませんか。階数だけでも結構ありますし、どうでしょうか?」
 バラバラに行動する前にも少し決めておこうと小林 恵那(こばやし・えな)が案を出す。
「ねぇちょっと言っておきたいことがあるんだけどいいかな?」
「何でしょうか?」
 すぐ探しに向かってしまう前に言っておきたいという北都へ顔を向ける。
「鏡がある場所に魂は近寄らないと思うんだよね。ドッペルゲンガーに見つかって吸収される危険があるから。洗面所とか備え付けの鏡があったりするじゃない?そういうことにはいないと思うんだよね」
「なるほど、そこから現れて魂を狙う可能性がありますからね」
「もう場所を決めていいかしら?私はロビーを担当するわ」
 十六夜 泡(いざよい・うたかた)はまずこのフロアから探すと挙手する。
「んー・・・ボクもここから上の階を探しに行くです」
「俺らは7階から探してみるか」
 ヴァーナーたちが担当する場所を聞き、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)たちは真ん中の階層から探すことにした。
「私は2階から上へ進みますね」
 御堂 緋音(みどう・あかね)はそう言うと生徒たちと別れて階段を上る。
「じゃあ4階を探してみるよ」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)仁科 響(にしな・ひびき)は4階のフロアへ探しに行く。
「ルカルカたちは13階から探して下の階へ行くわ」
「また後で会いましょう」
 皆無事に集まれるようにという風に小林が言い、生徒たちはそれぞれ担当フロアへ向かった。



「このエレベーター動くみたいね」
 空飛ぶ魔法を使えるか確かめた後、高層階へ行こうとルカルカはボタンを押して扉を開く。
「エレベーターで他に上の階に行く人、他にいる?」
「屋上があるか確かめてみたいが・・・遠慮しておこう。あ、それと。密室は集まることがあるから気をつけろ」
 瓜生 コウ(うりゅう・こう)はエレベーターを使わず内階段から上っていく。
「魔法で飛んで外から入れそうだったか?」
「手摺と天井の隙間が狭くて入れないみたいよ。窓なんて錆びているせいで、ピッキングでも開けられそうにないわね」
 外から入れそうだったか聞くエースにルカルカは首を左右に振る。
「13階からだよな」
 エースが行き先の階を押した瞬間、独りでに扉が閉まった。
「まだ閉まるのやつを押してないけど、選んで数秒経つと閉じる仕組みなのか?」
「そういうところもあるわね」
 首を傾げるエースにそういう仕様のエレベーターもあるはずとルカルカが言う。
「ねぇ・・・密室な空間って大丈夫なのかな?」
 逃げ場のない空間にクマラが不安そうに呟く。
「まさか、そんなわけない・・・よな・・・・・・」
 ガタンッとエレベーターが止まり、空気が急に重苦しく肌を刺すようにひんやりと冷たくなる。
「いきなり落ちたりしないよね?」
「そういうこと言うなよっ、本当になりそうで怖いから!」
 不吉なことを呟くクマラにエースが大声で言う。
 ガタッガタタッ。
 ポルターガイストなのかエレベーターが揺れだす。
「うわぁあ!落とされるのか!?」
「落ちたらきっと爆死だよ、爆死!」
「やめろぉお、本当になるかもしれないだろっ」
「あれ・・・おさまったよ・・・。―・・・オイラの足にっ。離して、離してよーっ」
 突然止まったかと思うと、ぬぅっと壁から死者の手が現れクマラの足を掴む。
「クマラを離せぇえっ!」
 バニッシュでベックォンの手首が千切れ飛び消滅し、断面からブシィイイッと赤黒い血が飛び散る。
 その先はシュルリと壁の向こうへ消えていった。
 エレベーターを止めていた死者たちが離れ、再び動き出した。
 目的の階で止まり扉が開いた。
「結構やばかったけどなんとかついたな。さて、1号室から順番にオメガさんの魂を探そうか」
 降りたエースたちは魂の捜索を開始した。