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はじめてのひと

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●オイラはとても良い子です

「ふぅん。地上ではこんな物で連絡をねぇ………」
 なにやら携帯電話というツールが気になるらしく、手に入れたばかりの『cinema』を、イアラ・ファルズフ(いあら・ふぁるずふ)はひっくり返したりあれこれいじってみたり、ひたすら気にしている。
「写真や動画も撮れる……しかも立体で、かぁ……地上科学の力、恐るべし。というかこれだけ機能搭載するとは、お前ら欲望にかなり忠実なんだな。むしろ貪欲というべきか?」
 なんだか笑い飛ばしたい気分だ。この世界の人間の面白さの理由が、一つ明らかになった気がする。
「イアラはザナドゥ出身だから、これまでこういう物とは縁がなかったのかな? 欲望、とか言われると答えに窮するけど、電話のない生活とか正直自分には考えられないぜ」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は平然と告げて、まずは電話の使い方をレクチャーする。
「案ずるより産むがやすし、こうやって使うんだ」
 エースは、イアラの『cinema』に電話をかけるのであった。
「着信のアイコンに触れて」
「これか?」
 イアラがタッチすると、エースの声が携帯電話から聞こえてきた。
「遠く離れても、こんな感じで連絡が取れるので便利なんだよ」
「って目の前で話されてもなぁ……。ま、便利そうなのは判ったぜ」
 次にメール機能の説明をすると、イアラは理解不能だという表情をした。
「まどろっこしいことをする割りに情報量が少ないんじゃないか? メールするくらいだったら電話でいいんじゃん?」
「いやいやいや、電話に出れない時もあるし、緊急じゃないけど手の空いた時に見ておいてほしい連絡とかもある。冒険中、静かに連絡取りたい時だってあるんだぜ」
「伝言の様なもの? 通話の留守録でいいじゃん?」
「留守録とは、また違うんだよなあ。メールはメールでコミュニケーションの新たな一形態というか……」
 携帯電話の概念のない相手に、それを理解させる難しさを実感するエースである。携帯電話黎明期にもこういったやりとりがあったのだろうか……?
 さて一方、そんな二人の横で、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は携帯電話を入手して大はしゃぎである。
「わーいわーいっ。新しい携帯電話ー! オイラ、この機会に是非メールを送ってみていんだよネ」
 重要なメールを書きたいのだと断言する。
「重要……?」
 怪訝な目を向けるエースに構わず、クマラはすらすらとメールを入力していた。

「Sub:サンタさんへお願い

 オイラはとても良い子です。サンタさんにお願いメールをすると、良い子はお願いしたプレゼントがもらえると、色々な人から聞きました。
 オイラのお願い、叶えてくれないかなぁ。
 クリスマスのケーキはでっかいのがいいです。たらふく食べたいです。
 プレゼントはお菓子がいいです。お菓子一年分のチケットでも良いよ★
 楽しみに楽しみに待ってます」


「かんせーい♪」
 さっと書き上げて、クマラはこれを……エースに送信する! 無論、エースはこれを直後に読んで、
「……サンタさんに、じゃなくて、ちゃっかり俺におねだりしていないか!?」
 と渋い顔をするのである。
「あ、サンタさんに送るつもりがオイラ宛先間違えちゃったのカナ?」
 などとクマラはうそぶいているが、もちろん、いわゆる『わかっててやりました』的な意味の確信犯である。
「お前、サンタさんのメールアドレス知らないだろ……」
「だったら、知ってるはずのエースが転送しといてよ」
 丸っきり悪びれず言うあたりが、大人物なクマラなのだった。しかもイアラに呼びかける。
「今の見た? イアラ、メールってのはこんな感じで使うといいいヨ」
「よしよし。これで、電話と違うメールの意義がわかったな。それではオレも、エース……ではなくて、サンタさんとかいう輩にリクエストを送っておくか」
「おい、そこっ! メールの意義をはき違えて……うわ」
 エースがイアラから受け取ったメールはこれだ!

「サンタさんとやら。俺のクリスマスプレゼントにはエースを希望。ヨロシク」

「ああ、もうメールのコミュニケーションもなにもあったものじゃない! イアラ……クマラのお子様企画にお前も乗っかるんじゃない!」
「お子さまだと? このメッセージの意味を正確に読み取ると、むしろアダルトな求めになるだろう? まあ、これは本人に言うのが一番てっとり早いだろうと思ってな。いや、本人じゃなくてサンタさんか?」
「サンタ、いやエース、今年のクリスマス楽しみにしてるよー」
「オレも楽しみだ」
「俺は楽しみじゃなーい!」
 悪い意味ですっかりメールを使いこなす二人に、エースは頭を抱えるしかなかった……。