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はじめてのひと

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●親愛なる悠月由真へ

「Hi.元気してる? 十年後の貴方は、何処で何をしているのかしら。
 願わくば、この蒼い空の下で、吹く風に菫色の髪をたなびかせ何でもない一日を平穏に過ごす――私は、そんな日々を送っている貴方の未来を信じ、また祈って止まない。

 私は、十年後も貴方と同じ空を見上げていたい。
 この美しい蒼穹も、情熱的な夕暮れの茜空も、瞬く星々が刹那の輝きを見せる宵の空も、見上げた其拠に全て、そして常に貴方と共にあるものよ。
 だから――生きていてくれて本当にありがとう。本当に――親愛なる悠月由真(ゆうづき・ゆま)へ」


 この文面は、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)クランジΥ(ユプシロン)に当てたメールだ。10年後に届くタイムカプセル設定、それは必ず、共に10年後まで生き延びるという決意であり約束だった。悠月由真というのは当て字だが、『ユマ・ユウヅキ』という偽名を名乗ったユプシロンにぴったりの漢字だと思った。
 送信を済ませると、夕食を作るべくローザはキッチンへと向かう。
 リビングの机の上には、買ったばかりの『cinema』が置きっぱなしだった。

 数分後。
 ローザが置いたままにした携帯を、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)上杉 菊(うえすぎ・きく)が物珍しそうに見ている。
「んー? これは何かの? おお、もしやこれはローザが買ってきたという新しい携帯ではないかの?」
「ライザ様、その携帯は御方様の物ですよ。勝手に弄ったりしてはなりませぬ」
 菊の言葉を聞いているのかいないのか、グロリアーナは置いてあった取扱説明書と本機を比べ、なにやら操作していたが、
「なに、アカウントなるものを変更すれば、ローザ以外の我らそれぞれのものへと切り替えることができるようだぞ」
「……? つまり?」
「つまり、アカウントを切り替えつつ使えば、ローザの個人情報は守られるということだよ。それなら、ローザのものを勝手に使っていることにはならないだろう」
「そういうものなのですか?」
 英霊二人、それで納得したものだろうか、悪戦苦闘しながらも二人して自分のアカウントを作成し、それぞれ自分のアカウントからの『はじめて』のタイムカプセルメールをローザマリアに出すことにしたのだった。
「ふふ、タイムカプセル機能だと? 面白いではないか。どれ妾も何かメッセージをば」
 と、したためたグロリアーナのメールは以下の通り。

「ローザよ。妾と契約してくれた事、その、なんだ……感謝しているぞ。同じ顔、同じ姿の者が現れさぞ驚いた事であろ。だが、それは今思えば必然だったのやも知れぬ」

 一方で、
「自分の『あかうんと』なれば御方様に迷惑はかけない――ならば感謝の気持ちを送らせていただきとうございます」
 と、書き上げた菊のメールはこれだ。

「御方様へ――十年後の未来も、壮健でいらっしゃいますでしょうか?
 わたくしは、願わくば御方様が人生の供に恵まれ、子を為しているであろう事を望みます。その上で、わたくしは御方様とは距離を置き、暫しお暇を頂きとう存じます。
 ですが、わたくしはいつも御方様の傍に居りますれば――」


 菊とグロリアーナが満足げな顔をして立ち去った後……。
「はわ……」
 リビングにエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が姿を見せていた。彼女は難なく初見の機械を操って、やはり自身のアカウントを作成していた。
「エリーも、送りたいんだもん……」
 彼女もローザに、タイムカプセルメールを送るつもりなのだ。
 さてさて、何を記したものやら……?