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エリザベート的(仮想)宇宙の旅

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エリザベート的(仮想)宇宙の旅

リアクション


終章

 数日後。イルミンスールの一隅――
 本日の授業を終えたミッション参加者は、学生用屋外カフェの一隅に集まって、空を見上げていた。
「何だかモヤモヤしますねぇ?」
 志方綾乃は口を開いた。
「私達、確かに宇宙に行ったんですよねぇ?」
「もちろんよ。私達は宇宙に行って、地球に帰ってきた」
 四方天唯乃が答えた。
「それは私達にとって確かな経験で、確かな現実。それでいいじゃない?」
「唯乃は本当にそう思ってますか?」
 美央の問いに、唯乃は答えなかった。
「俺たちが仮想じゃない宇宙に行ける日は来るのかな?」
 イチルの問いかけに答えたのはパートナーのルツ・ヴィオレッタだ。
「ゼレンに合流して『OvAz』を作るのだな」
「あれは、まだ存在しちゃいけないものだよ」
 ルツの答えを切り捨てるイチル。
「〈契約者〉が数人集まれば宇宙に行き帰りができる乗り物なんて、確かにロマンがあるけどさ……兵器として運用したら、ものすごい事になる。
 いや、「火術」「雷術」「氷術」「光術」のスターターと推力の「サイコキネシス」を使えるなら、ひとりでだって動かせるんだ。射程40キロの力を持って、ね」
「怖いか、イチル?」
「当たり前だろう?」
「安心したぞ、わらわもだ」
「〈素子〉も〈機晶コンデンサ〉も凄い発想だけど……強すぎるよ。俺だったら、怖くて手が出せない」

「――あ」
 不意に、志方綾乃が声を上げた。
「宇宙に行く方法、思いつきました」
 その台詞に、周囲の人間が注目した。
「これから宇宙飛行士にでもなりますかぁ?」
 神代明日香が訊ねてくるが、綾乃は首を振る。
「私達で打ち上げロケットを作りますか?」
 師王アスカの問いには、「近いですね」と頷いて見せた。
「作るのは宇宙船ですが、打ち上げロケットはいりません。
 リニアレールの原理を応用して、莫大な加速をつけてやれば、大気圏突破も可能ではありませんか?」
「……銀河鉄道?」
「言い得て妙ですね、唯乃さん」
 綾乃は身を乗り出した。
「そうですね。例えば、ヒラニプラ鉄道の端を延長して空へ伸ばして、レールをリニアレールにして、空京から加速させれば……スゴい! 前人未踏のパラミタの宇宙にさえ飛べるかも!?」
「知らなかったな。おまえはホラ吹き属性だったのか」
「失礼ですね、蒼也さん。ロマンチストと言って下さい」
「ふむ、実現可能かどうかは別として、思考実験としては面白そうですな」
 『サイレントスノー』は頷いて見せた。
「ゼロからロケットや打ち上げ台、燃料を準備するよりも、今あるものを活用しよう、という発想が素晴らしい。
 ヒラニプラ鉄道の軌線がリニアレールになるのかとか、そもそも莫大な加速を得る為の電力をどうするのか、という問題はありますが、その解決も含めて興味ある命題かも知れません」
 『サイレントスノー』から微妙に辛辣な事を言われたが、綾乃は気にせず再び空を見上げた。
 鉄道を使って加速して、宇宙に飛び出す――その思いつきが、妙な熱を持って頭の中で駆けめぐりはじめている。
(なるほど――ゼレン・タビアノスという人は、こんな気持ちだったのか)
 綾乃は、「宇宙飛行」の仕掛け人の事が、ほんの少しだけ分かった気がした。

 みんなが空を見上げている中、ザイエンデは俯いていた。
「? どうしたんだい?」
 顔を覗き込んでくる永太に、彼女は答えた。
「ずっと気になっている事があるんです」
「何だい?」
「あの〈迷子ちゃん〉の中には、何があったんでしょう?」
 ザイエンデの問いに、永太は答えられなかった。
「それだけじゃありません。あの子――『BSK』は、地球に連れ帰った後、どうなったんでしょう? そもそも、『BSK』やあれだけの衛星が打ち上げられたのはどうしてなんでしょう?
 打ち上げた人達は、あんなにたくさんの武器を自分達に向けるなんて、なにがあったんでしょう?
 ――答えなんかない、無意味な事だって分かってるんですけどね……」
「ザイエンデ」
「はい?」
「それは意味のある事なんだよ。上手く言えないけど、とても大事で、大切な事なんだ。だから、無意味なんかじゃないんだよ」



 ラビットホール前。
 ゼレン・タビアノスはエリザベート校長に丁重に頭を下げた。
「私のわがままを聞いて貰いまして、ありがとうございました」
「気にしなくてもいいですぅ。お前の思いつきは、私も面白かったですぅ」
「嬉しいですね。できれば校長も、宇宙に興味を持って下さればいいのですが」
「前に比べて、身近になった気はするですぅ」
 ゼレンは満足げな笑顔を浮かべた。
「それでは、私は行きます」
「どこに行くつもりですぅ?」
「そうですね。この前のミッション参加者が多かった天御柱にでも行ってみようかと。宇宙に行きたいって、もっと強く思わせてやりますよ」
「宇宙に行きたいのはお前じゃないですかぁ?」
「宇宙は遠いですからね。私ひとりじゃ行けません」
 ゼレンは空を見上げた。
「その為には、私と同じ位に『宇宙に行きたい』って思う人間を、もっともっと増やさなければなりません」
「地球の上の宇宙ですかぁ?」
 いいえ、とゼレンは首を振る。
「前人未踏のパラミタ大陸の宇宙ですよ。
 見ていて下さい、エリザベート校長。私はいつか、必ずそこに辿り着きます。
 その時には、このパラミタだけじゃなく、地球全ての人々を、もちろん校長も連れて行きますよ」
「大ボラもそこまで吹くと大したもんですぅ。せいぜい頑張れですぅ。見届けてやるですぅ」
「お願いします。では、また会いましょう」
 ゼレンはエリザベートに一礼した。
 そして彼女に背を向けると、歩き出した。

(終わり)

担当マスターより

▼担当マスター

瑞山 真茂

▼マスターコメント

 瑞山真茂です。
 本リアクションお読みいただきありがとうございます。
 また、本シナリオに参加いただいた方には一層の感謝を申し上げます。

 発想の元は、今年の夏の「はやぶさ帰還」でありました。
 が、生粋の文系人間で、SFにあまり通じていない人間にとって、「宇宙飛行」という題材はなかなか扱いが大変でした。
「ある程度は勉強しなきゃダメかなぁ」
と思って何冊かの本を眺めたりしてはみたものの、シナリオやリアクションにどれだけ反映されているかは自分でも分かりません。

 参考にした資料やウィキペディアを筆頭とするサイトは並べていくと長くなるので割愛しますが、以下の2冊の本に出会わなければ、シナリオガイドを書こうという気にさえならなかったでしょう。
  ・『スペースシャトルの落日』松浦晋也(エクスナレッジ)
  ・『スペースシャトルの科学』新田慶治(講談社ブルーバックス)
 また、素人の頓珍漢な質問に対し、分かりやすく答えてくれた友人のN.TとK.Mがいなければ、このリアクションは書けませんでした。この場を借りてお礼を申し上げます。

 何より、「宇宙を舞台」という突飛なコンセプトのシナリオに許可を与えて下さった運営様の度量のでかさにはどんなに頭を下げても足りません。
 次の機会があれば、もっと穏便なシナリオを提出したいと考えています。


※なお、ガイドで「生身で宇宙に出たら体爆発」と書きましたが、こちらは当方の勘違いだったようです。
※その後調べたら、「宇宙空間に出ても30秒程度なら生きていられる」という話を見ましたが、
※何にせよ無事では済みそうにありません。
※宇宙という環境が過酷であると同時に、地球とは何と恵まれた環境なのか、という事を
※少し思い知りました。

 それでは、ネタの仕込みに入ります。
 ユーザーの皆様とは、次のシナリオでまたお会いできまることを願いつつ、筆を置かせていただきます。

 では、失礼いたします。