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リアクション
第二章
「さーって、大物釣りますよぅ!」
そう言って意気揚々と釣り糸をその身に括りつけるレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)を、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は唖然として見やった。
「……レティ……何をする気なの?」
「もちろん、釣りですよぅ。クモサンマがおいしい季節ですからねぇ」
「はぁ……」
「というわけでミスティは釣り人ですよぅ。しっかり釣ってくださいねぇ」
「なるほどね、わかったわ。やるからには手は抜かないわよ」
「望むところですよぅ! では、いざクモサンマ!」
竿を手にしたミスティに笑顔で頷くと、レティシアは雲海へと飛び込んだ。
「……カイン、カイン起きて。私たちも釣りましょう」
その横ではクロス・クロノス(くろす・くろのす)が自らも釣りをするべくカイン・セフィト(かいん・せふぃと)を叩き起こしていた。
「……ん、釣り?」
「そう、クモサンマのおいしい季節だから。新鮮なものを食べたくて」
「あー……それで釣りか……」
「そう、それでカインにエサになってほしいの。お願い」
「エサ? なってもいいが道具はどうするんだ?」
「大丈夫。持ってきてるから問題ないよ」
「わかった。で、どうすればいいんだ?」
「ちょっと待ってね」
クロスはカインの了承をとると、ぐるぐると糸を巻きつける。
そしてしっかりと結ぶと、おもむろにカインをつき落とした。
「行ってらっしゃい」
「うわああああぁぁぁぁ」
「できるだけ美味しいクモサンマが釣れるといいな」
遠のいていくカインの悲鳴を聞きながら、クロスは一人ごちるのだった。
「あー……何でこんなことに」
嘆きながら竿を垂らしているのは白砂 司(しらすな・つかさ)だ。
司……もといパートナーのサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)の目的は釣りではない。
踊り食いだ。いや、『釣りあげる前に』食べてしまいたいというのだから踊り食いではないのかもしれない。
とにかくサクラコは、司に竿を持たせて自らに糸を括りつけるなり、雲海に飛びこんで手当たり次第に魚を捕まえている。
「魚ごときがこの猫様を栄養にしよーだなんて、まったくもって言語道断って奴ですよねっ!」
そう言いながら嬉々としてその辺を泳ぎ回っている魚に食らいつこうとするサクラコ。
縦横無尽に動き回るせいで竿が揺れ、アタリなのかサクラコが動き回ったのか司にはさっぱりわからない。
「うわぁっ!」
そしてサクラコが縦横無尽すぎたのか、気付けば傍にいた清泉 北都(いずみ・ほくと)が巻き込まれていた。
二人をそれぞれ吊るしていた釣り糸が絡まり、お祭り状態に。
それどころか腕までも絡め取られ、北都は身動きが取れない状態に苦笑した。
けれど、苦笑では済まなかったのがパートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)だ。
すぐさま引き上げ、北都に大事がないかと確かめる。
「北都! 大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫」
「腕に怪我など……」
「してないってば。大丈夫だよ」
過度な心配を寄せるクナイに苦笑まじりに応える。
と、隣にいた司が頭を下げた。
「すみません、迷惑かけて……」
「ああ、いや。大丈夫ですよ」
「……見たところ司様には非はありませんので、お気になさらず」
「ほら、お前も謝れサクラコっ」
「気にしないでいいってば。それよりも釣りを楽しまないとね!」
「あ、北都!」
また行ってくるよ、と言うが早いかクナイが止める間もなく北都はまた雲海に身を投げた。
「はあ……」
海中でため息をついたセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)は、釣り糸の先を恨めしげに見上げた。
地上では和原 樹(なぎはら・いつき)とフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が楽しげに話す声が聞こえてくる。
それにもう一度はあああああ、と大きなため息をついて、セーフェルは辺りを見回した。
「いつまでも腐っていてもしょうがありませんね……。こうなったら少しでも大物が釣れるように頑張りましょう……」
どうしようかと首を傾げたあと、セーフェルはぶんぶんと頭を振った。
『みつあみが疑似餌っぽいから大丈夫だ!』と樹に言われたので、みつあみを揺らしてみることにしたのだ。
「いたっ!」
と、そうしているうちに、魚を追ってきたサクラコにみつあみが当たってしまう。
「痛いですよ!」
「ああああすみません!」
「天罰だ、天罰」
ぺこぺこと頭を下げるセーフェルをよそに、上から司が呆れたように声を上げる。
その隣では覗きこんだ樹が心配そうに苦笑した。
「あーあ、みつあみ振り回してあたってる……」
「頑張り方がずれている気もするがな」
「うーん、それにしてもセーフェル大丈夫かなー?」
「そう心配するな。ロープも丈夫なものを使っているし、結び目も完璧だからな。なんなら身を持って確かめてみるか? お前にはもっと優しくしてやるが」
「お断りだっ!」
「……下が心配なら俺が見てこよう」
「あ、ヨルムさん。うん、お願いできるかな」
フォルクスを押しのけた樹は、ヨルム・モリオン(よるむ・もりおん)の提案に頷いた。
ヨルムはそれに了承の意を返し、セーフェルと同じように糸を括ると海中へと降りていった。
「さぁ、ショウ! フェル達も大物を釣るにゃ!」
「はいはい」
「セレスとディアはここで待ってるのにゃ。絶対に大物を捕ってくるにゃ。そして三人で食べるにゃ」
エサとして万全の準備を整えた葉月 フェル(はづき・ふぇる)は、愛猫を葉月 ショウ(はづき・しょう)に預けると、きらきらとした目で言った。
「……三人?」
「……にゃ?」
「ふーん、三人ね。俺は仲間外れですかそうですか……」
「ワスレテナイニャ。ショウノコトヲワスレルワケナイニャ。サテ、イッテクルニャ」
冷や汗まじりでくるりと雲海に向き直ったフェルに苦笑して、ひらひらと手を振る。
「はいはい。冗談だって。とにかく頑張れよ」
「にゃっ!」
いってくるにゃ! ともう一度高らかに言ったフェルは、両手と片足を上げ、しゅばっと雲海へ飛び込んだ。
「…………さて、のんびり釣りますかねー」
残されたショウと二匹の猫は、ぼんやりと青空を仰ぐのだった。
「そーれっ」
そんなのんびりとした空気を打ち壊したのは、明るい掛け声。
視線を向けると佐々良 縁(ささら・よすが)がエサ役の蚕養 縹(こがい・はなだ)を海中に降ろしているところだった。
「ふー、あとはかかるのを待つだけだねぇ。大きいのがかかるといいんだけど。あ、こんにちはー」
「どーも……」
「いい釣り日和だねぇ」
「だなぁ」
縁とショウは竿を垂らしながらのんびりとした会話を交わす。と、そうしているうちに縁の竿が揺れた。
釣れたのか? と、思いきや縹が目を覚ましたらしい。
「あねさん!?」
「あ、おはよー」
「おはようじゃぁありゃしませんぜ! なんでこんなことになってるんでさぁ!?」
「何って魚釣り。はなちゃんはエサね。猫なんだからちゃちゃっと捕まえちゃってねぇ」
「えぇ!?」
「うまく釣れたら今夜はごちそうだよ。食費も浮くしね!」
何だかんだと言葉を交わすうちに丸めこまれてしまったらしい縹から「わかりやしたよ……」とため息まじりの返事を聞いて、縁は満足そうにまた腰を下ろした。
「しかし……」
そのやりとりをぼんやり見ていたショウは、改めて雲海を見下ろしてぽつりと呟いた。
「魚釣りのネコが猫ばっかりっていうのも、なかなかシュールだよな……」
釣れなくなるんじゃねぇの、とショウがこぼした台詞に、どうだろうねぇとのんびりとした縁の声が返された。
「でも、魚が来なくてもエサが魚をとってくるよ」
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