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酷薄たる陥穽―蒼空学園編―(第1回/全2回)

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酷薄たる陥穽―蒼空学園編―(第1回/全2回)

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第12章 対赤龍戦3

「このままじゃ全然らちがあかないと思うのよ」
 両腕を組み、少し離れた所で全体を眺めながら、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)がつぶやいた。
「何か手を思いついたんですか?」
「えっ……いや、それは――」
 ごにょごにょと。
 だと思った、と言わんばかりの目で見る御凪 真人(みなぎ・まこと)
「きみはただ突っ込みたいんでしょう?」
「たっ、ただじゃないわよ! だけど、魔法で攻撃しても、ポッドや戦輪や銃で撃っても壊れない物を、同じように攻撃したってどうにかなるわけないじゃない」
 ふむ、と頬杖をつく。
 セルファの言い分はたしかに筋が通っている。
「ランスバレストの突きですか。たしかにやった人はいませんでしたね」
「でしょ!」
 真人の同意を得られたことに、パッと表情が輝いた。
「ですが、どうやってあの火炎弾をかいくぐるつもりですか? ランスバレストには直線の助走が必要です。火炎弾を避けながらでは威力は半分も出ませんよ?」
「ううっ…」
 それがあったか、と頭を抱えるセルファに、真人はやれやれと肩をすくめて見せると正門の方に向きを変えた。そのまま、何かを推し量ろうとするかのように赤龍と正門を交互に見る。
「真人?」
「俺がおとりになります」
「ええっ!?」
「白はセルファのサポートを頼みます」
「うむ、それはよいが……必ずしも赤龍がのってくれるとは限らんのではないか? 特に弱点を攻められるときは」
 名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)の質問に、真人はにっこり笑って答えた。
「大丈夫。絶対あの龍はのらずにいられない方法があるんです」



(真人のバカッ)
 スタート位置につきながら、セルファは離れた位置でスタンバイする真人をにらんだ。
『いいですか? 赤龍は必ず俺を攻撃してきます。できる限り長引かせますが、もしものときは白が氷術で進路を確保してあげてください』
 真人は淡々と、まるで何の危険もない方法のように話した。
(危険は山盛りじゃないの! あんな火の弾、いくら防御魔法かかってたって、一発でも受けたら即死よ!)
 むかむか、むかむか。
 胃がこむら返りを起こしそうな気分が消えない。
『大丈夫ですよ。ほら』
 心配をありありと顔に出したセルファに、襟からシルバーチェーンを引っ張り出して見せた。
『帰神祭でセルファから貰ったお守りもありますからね』
 互いの力で光る石。
 もちろんセルファも、服の下にちゃんとつけてある。
「そう心配せずともよい。真人には真人なりの勝算があってこその作戦なのじゃ」
 脇についた白までが平然と言った。
「ほら、深呼吸しろ。でなくば真人の行いが無駄になる」
「……分かってる」
 心配するのも、文句を言うのも、何もかも全部あいつを倒したあと!
 大きく深呼吸をし、呼気を整える。
 彼女の決意を待っていたかのように、真人は合図を送った。



 前回の死龍は探索しか命じられておらず、迎撃しかしてこなかった。
 とすれば、今度の死龍に対する命令は何か?
 もちろんそれには歯向かう者たちへの攻撃も含まれているだろう。
(だけど最優先で命じられているのは、学園からの脱出阻止のはず!)
 真人は、最初は歩きだった速度を早足に、そして走りに変えて、正門へ走った。
 思った通り、赤龍の唯一の左目が真人の動きを捉えた。
 それまで、まるで体にたかるノミだかハエだかを追い払うようにくねらせていた動きを止め、頭を巡らせる。
 四方にいっせいに放たれていた火炎弾が、真人1人に集中した。
 轟音をたてて、直径2〜3メートルはあるかと思われる火炎弾が、セルファと白の前を通り過ぎていく。熱風だけでその場に倒れ伏してしまいそうになった。
「真人!!」
「行け! 真人を助けたくば一刻も早く龍珠を叩くのじゃ!」
「分かった!」
 バーストダッシュで走り出すセルファ。
(とはいえ、あんなものを真人とてそうそうかわしきれるものではない。やはりわらわがサポートするべきはこちらであろう)
 白は、真人に向かって飛んでいく火炎弾に向かって氷術を放った。



「大変! 早く助けなきゃ!」
 赤龍の攻撃がただ1人に向けられたのを見て、ルカルカが声を上げた。
「うむ。
 カルキノス! こちらの準備は整った! 他の者たちはどうだ」
「いいみたいだぜ」
 淵に返事を返しながら、駄目押しとばかりに命のうねりを放出する。
「ではやれ! おまえの手で鬨の声を上げろ!」
 おおとばかりに、カルキノスは龍の咆哮、叫びを高らかに空に向け、放った。

「きた! 合図だ!」
 ライゼの勝ち誇ったような言葉に、夜霧 朔(よぎり・さく)がシャープシューター、スナイプ、とどめの一撃、氷術を纏った六連ミサイルポッドを龍珠に向かって撃ち込む。
(この一撃で……活路を開きます!!)


「みんな! 彼に向かって火炎弾を吐かせないで!!」
 蓮が、自身も赤龍の背中から碧血のカーマインを撃ちながら大声で叫ぶ。
 その言葉に応じるように、全員が赤龍の頭部に向かって氷術、ブリザード、銃撃を開始する。


(悪いのはおまえじゃないんだ。おまえじゃない…)
「だが……すまん…!!」
 鬼神力を発動させた垂が、反対側から攻撃を仕掛けた淵、ルカルカとタイミングを合わせて同時に疾風突きを繰り出す。
 しかしそれは龍珠でなく。

 龍珠を持つ右腕の関節部に。

 彼ら3人の攻撃と、ランスバレストの鋭い輝きに包まれたセルファが龍珠にヴァーチャースピアを突き込むのとが同時に起きた。



 そうして、全員が一丸となった最大の攻撃が終わったとき――――――――――



 そこには、それまでとなんら変わらない、赤龍の姿があった。



「相手が大きすぎる…」
 二丁拳銃をだらりと下げ、呆然と、クドがつぶやいた。