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リアクション
第十二章 明かされる過去
その二人の記憶に残っている、一番古い光景は、
外で怒号を張り上げている、民衆達の姿だった。
兄弟の両親も、二人と同じようにバルジュ領の領主をしていた。
天災や飢饉によって国は疲弊していたため、仕方が無く増税や厳しい規制を行った。
だが、民衆はそんな両親のことを理解などしてくれなかった。
民の反乱など日常茶飯事だった。
政治がうまく行かないことで半ば狂っていた両親は、まだ幼いグストとソレントにも辛く当たり、毎日毎日暴力を受けていた。
ある日、ソレントは両親から殴られた後遺症で、幼い喋り方しか出来なくなってしまった。
“――ああ、きっとこれが普通なんだ。生き物なんて、傷つけられて当然の存在なんだ”
歪んだ環境は、兄弟に歪んだ思想を植えつけてしまう。
「こら! 花にそんなことをしてはいけません!!」
生き物を傷つけることが当たり前になっていた兄弟にとって、花を千切り、枝を折るなどということは普通のことだった。
だが、ある時――
ある時、出会った女中はそう言って、兄弟を叱り付けた。
緩やかな赤いウェーブが美しい、優しそうな女中だった。
彼女は、命の尊さと大切さを教えた。
温かくて笑顔の眩しい彼女に、二人はすぐになついた。
このまま二人は真っ当な心を持つ――はずだった。
数日後、その女中が突然姿を消した。
不思議に思っていた二人は、広い領主邸内を隈なく探した。
それでも見つからなかった。
諦めかけた二人だったが、それでも最後に行っていない場所に気がついた。
――地下牢
以前、好奇心で行って両親に見つかったときは、とても怒られた。
行くのは止めようと思ったのだが、もしかしたらという思いが二人にはあった。
少しの逡巡の後、入ることに決めた。
そこには、あの例の女中――と、複数の兵士、貴族がいた。
パーティでもやっているのかと楽しみになった二人。
その解釈は間違ってはいない。
確かにパーティは開かれていた。
――凌辱パーティという名の。
女中は領主の不興を買ったせいで――ただそれだけの理由で、貴族や兵士からさんざんな辱めを受けていた。
幼い二人には、何が行われているのかわからなかった。
優しかったあの女中が、裸にされて男達からいじめられている。ただそれだけだった。
やがて、飽きてしまったのか、一人の男が剣を抜いてその女中の首を切り落とした。
飛び散る血を見ながら、兄弟が感じたのは、怒りでも悲しみでも、恐怖でもない。
目の前の光景が、今自分がいる世界の本当の姿なんだという、悟りにも似た現実感のみ。
故に――いや、だからこそ。
彼らの心は、壊れてしまったのかもしれない――
“壊して、殺して、蹂躙する――理由なんて特に無くてもいい。
――なんだ、やっぱりこんな事実が、普通で、当たり前で、当然のことなんだ”
彼女と過ごした、温かかった日々の記憶が、消えていく――
そんなもの、まるで最初から無かったかのように。
その後の兄弟の行動は、積極的かつ、凄惨なものだった。
兄弟で協力し、両親を殺し、その味方をも殺し、政権を奪取した。
殺すことに、嫌悪や躊躇はほとんどなかった。それほどまでに兄弟の心の崩壊が進んでいた。
政権が変わって喜ぶ民衆。しかしそれもつかの間だった。
兄弟は、両親以上の残酷さを民衆に見せつけるようになる。
逆らう者は殺した。
躊躇わず殺した。
割と粘る連中には、家族を目の前に連れてこさせて、見せしめのように殺した。
逆らう者が女だった時には、魔物に凌辱させてから殺した。
――それからどれくらいの時間が経ったのか。
今度は、ゴースト技術に目を付けはじめた。死が自分たちに来ることが恐ろしかった彼らは、ゴーストを使った不老不死の技術を身につけた。
反乱が起こり、グスト・ソレントの檻に閉じ込められたときも、部下を使って脱出した。
ちょっと危なかったが、何とかなった。
ちなみに助けてくれたその部下も、自分たちを裏切ろうとしたので殺害した。
兄弟の技術の入手は、やがて恐ろしい計画へとつながる。
ゴーストの力を使って、破壊と死と恐怖を全世界に与えようと考えたのだ。
この世界は――それが当然で、当たり前で、普通のことなのだから。
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