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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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           10−2

 リーン達のやりとりが聞こえてくる。
「こ、個人的に事件が気になって、調べていただけですっ! 私は、蒼空学園の生徒です。ほら、学生証もあります。何なら、山葉校長に問い合わせても……」
「そんな事は調べ済だ。隠れ寺院というのもいるだろう。信用できんな」
「国民証……」
「以下同文だ」
「えぇえ〜〜っ!」
「それに、気になったからといって皆が調べていてはカオスな事になる。だから我々警察がいるんだ。で、何が気になったんだ?」
「だって! 死者が出る事件に思えないのに容疑者死亡って引っかかるじゃないですか。パートナーの子がいるっていうから、ロストも気になったし……会って話がしてみたかったんです。ねえ、政敏……あれ、政敏?」
「難航してるみたいだな……」
「面倒くさいことになったな、お互い」
 ラス達の所に、政敏が歩いてくる。
「そっちは、無実を証明できそうかな。俺達は正直、決め手がなくて困ってる。獣人の子に手を貸したいだけだったんだけど……」
「手を貸したい?」
 今、その発言はまずいのではないだろうか。ほら、誰かの目がきらりと光ったぞ。
「……今、何て言った? 油断して白状したか! 取調べだ、こってりと絞ってやる! おい」
「は、はい……えっと、手錠は……あれ、どこやったっけ」
「え……! 政敏、状況見て、もうちょっと言葉選びなさいよ……!」
「……待てよ。こいつらが無関係なんて、見れば判るだろ? どう見たって普通の奴らじゃねーか! ……ああそうだ思い出した、この男の方、ろくりんピックの競技に出てるぞ。しかもMVPを……」
「MVP?」
 警部が怪訝な顔をする。だからといって無罪とは言い切れないが……。そして、はたと気付いてラスを睨む。
「何を、自分は部外者的な顔してるんだ? お前も参考人の1人だぞ? あの子供と同じく、報酬を受け取る契約でもしてたか」
「ま、待ってください〜」
 そこで、明日香が慌てて割って入った。
「この人は事件の第一の被害者です〜。だから、チェリーさんに確認したい事があっただけなんですよ〜」
「明日香……お前、夜になってから熱でも出たか?」
「違います〜。私だって、弄っていい時とダメな時の分別くらいついてます」
「…………」
 これは喜ぶべき所なのだろうか。
「お昼に、各学園にデパートからのSOSが入ってます〜。その文面と、ラスさんとピノちゃんの特徴を比べてみてください〜、あ、そうです、カフェの人に直接証言してもらえれば〜……」
「……被害者、だって?」
 疑わしそうな目を向ける警部に、ラスは渋々頷いた。
「……被害者を連呼されるってのは気分良いもんじゃねーけど……調べれば、判る事だ。これで納得したか? 俺は寺院なんかじゃない。当面の金もある」
 そうして、持ったままだった札束を見せる。
「テロなんかに加担したって、俺には何の得もねーだろ?」
「む……。しかし全て、決定的な保証にはならないな。金銭というのはいくら有っても困るということはないし……」
 そこで、エイムが警部に近寄った。服の下が妙に盛り上がっているがそれはともかく。
「ラス様はがめつそうでひょろひょろしてるけど妹思いの優しい人ですの」
「っ……い、いきなり、何言って……!」
 最後の部分に、評された本人がびっくりした。何の悪気もない、純粋な心からだと分かるだけに狼狽も一入だ。
「悪い事なんか絶対しません」
 はっきりと良い人宣言され、彼はますます慌てる。
「……分かったから、そういう事を言うのは勘弁してくれ、恥ずかしい……!」
 その時、エイムの服の下、おへそ側から毒蛇が出てきた。そのままにょろーーーと、ラスの袖口に入っていく。瞬間、鳥肌がぶわあっ、と立った。
「…………! わっ、どこに入って……や、やめろって……!」
 袖をめくるも毒蛇は上がってくるばかりだ。何となく、服の中から「♪♪♪」というオーラが漂ってくる。やがて蛇は、襟ぐりから頭を出して、ラスの頬をぺろりと舐める。ついに、彼は悲鳴を上げた。
「お、おい飼い主! 何とかしろよコレ! というか何で動物連れ込んでんだよ!」
「騒いだら、他の患者さんに迷惑ですの……。この子、ラス様の事が気に入ったみたいですの」
「気に入ったって……!」
 涙目の彼を、毒気の抜かれた顔でぽかんと眺める警部。部下が言う。
「なんだか微笑ましい光景ですね。違うんじゃないですか? 彼」
「い、いや……、うむ……」
 その時、ガラス扉がゆっくりと開いた。押し開けるようにして入ってきたのは、大型の犬。
「……チェリー……?」
「チェリー!? この犬が……!?」
 リーンが驚いて犬を見直した。確かに、後ろ足の両方に包帯を巻いている。チェリーは 、苦しそうに荒い呼吸をしながら一同を見回した。そして、ラスの方を見てびくりと震える。そして、低い唸り声を上げて飛び掛ってきた。
「わっ……!」
 思わず蛇を守るように身を捩る。しかし、その白く太い牙を受け止めたのは――
 牙の突き立った箇所を中心に、腕が赤く染まっていく。政敏は犬を振り解こうとはせず、逆にチェリーに話しかけた。混乱し、恐怖にかられた彼女が落ち着くのなら、腕1本くらいはくれてやる。
「……大丈夫だよ。落ち着いて。外で何があったか知らないけど、もう安全だ」
「うう……」
 チェリーは今、パートナーを失い、その多大な影響を受け、喪失感で傷ついている。それを心配して探していたが、実際に会った彼女は、予想していた以上に滅茶苦茶だった。この様子だと、外で誰かに襲われたのだろう。政敏は警部に目を移し、言う。
「この子は今、心も身体もボロボロじゃないかな? そっとしておいてほしい……。回路だってさ。電気の流れやタイミングが狂えば停止するだろ? 人間なら『気』が通らない状態だ。つまりは『動かない』んだよ。そんな状態で、責め立てちゃだめだと思うんだ」
「し、しかし……」
「これ、途中で摘んできたんだ。ささやかだけど、受け取ってくれるかな」
 政敏は無事な方の手に持っていた小さな花を、彼女の眼前に差し出した。
「手を貸したいんだ。何とかしたい。ちゃんと向き合ってさ」
「…………」
 その上で覚悟があるなら。その想いを込め、彼は言う。
「君はどうしたい?」
「…………」
 戸惑ったように、しかし牙を抜こうとしないチェリーに、明日香が安心させるように付け加えた。
「ラスさんも、もう危ないことはしませんよ〜? 何か、チェリーさんに惚れちゃったみたいですから〜」
「は!? 何言ってんだよ突然!」
 そのとんでもない台詞に、ラスは慌てた。宥めるにも、他にもっと方法があるだろう!
「チェリーさん、可愛くないですか〜?」
「い、いや……可愛いとは思うけど……」
「お兄ちゃん、おねえちゃんに惚れちゃったの?」
 そこに、素晴らしくタイミング良くピノが戻ってくる。彼女は涙の痕を残しつつ、泣き止んでいた。
「だ、だから違うって……!」
 そんな遣り取りをしているうちに、徐々に、チェリーの身体から力が抜けていった。頤を外して床に落ちそうになる彼女を支え、床に横たえた。その姿が、犬のものから少女のものへと変わっていく。それは勿論、裸で――
「あらあら、シーツを持って来ないと」
 そのあられもない躯を隠そうと、看護師が慌ててシーツを取りに行く。
「政敏!」
 リーンが政敏の腕にヒールをかけ始める。エースとエオリアは、チェリーの方に回ってヒールを使う。治癒効果が上がるように、エオリアはエースにパワーブレスをかけた。
 警部は、目の前で繰り広げられた壮絶な光景に絶句していた。その彼に、部下がはっきりと、やれやれといった調子で言う。
「これで、緋山君の疑いは晴れましたね」
 仲間であれば、襲われるわけがない。
「む、むぅ……、しかし、こいつは鏖……」
「チェリー!? どこに……あっ!」
 そこに、チェリーの不在に気付いた菫達が廊下を走ってきた。倒れたチェリーを見て、菫は慌てて駆け寄る。
「どうしたの!? 大丈夫!?」
 そこで、チェリーの耳がぴくっと反応した。何かに怯えるような表情で菫の後ろに隠れようともがき、動く。
「え? 何? チェリー、震えて……」
 彼女の視線を追う。門の方から、薄茶色の髪を後ろで束ねた少女が鬼気迫った顔で走ってきていた。その後ろからは抜刀の用意をしたクルードの姿が。
 ガラス戸など存在しないような勢いで、リリアはチェリーに迫ってくる。それを、寸での所で正悟が止めた。コピスを横にして彼女を押し返し、柄の部分で鳩尾を突く。
「…………!」
 リリアは、驚愕に目を見開き、倒れた。その一方で、クルードが刀を手に一気に足を――