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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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           10

 カーテンを使ってエッツェルを縛り、一行は外に出た。
 ノーンが、一生懸命にこれまでの事を携帯電話にメモとして打ち込んでいる。この情報を陽太に後で教えるためだ。彼女は、これからの事も全て打ち込むつもりだった。それがどんなことであっても。
 アクアは、地面に激突した格好のまま、仰向けになって動いていなかった。動けないのかもしれない。しかし、意識はあるようだ。
「アクアさん……」
 ファーシーは、もう1度苦労して地面に立ち、胸に手を当ててアクアに言う。
「話して……どうして、パークスを……? どうして、わたし達を……?」
「……お人好しですね、貴女は。何ですかその顔。まだ、私を友人だとでも?」
「……友達よ。わたし達は、友達……」
「馬鹿馬鹿しい」
 アクアは吐き捨てるようにそう言った。それ以上は口を開かず、ただ空を見詰める。
「ねえ……知ってる? 友達ってね、相手がどう思ってようと、自分がそうだと信じれば友達なのよ。もし、アクアさんが迷惑だと思っても……わたしは友達でいたいから……」
「…………」
 どれだけ黙っていただろうか。彼女達の周囲に人気は無い。これだけの騒ぎだ。ガートルードの子分達が駆けつけてきてもいいようなものだが、空気を読んだように誰も来ない。もしかしたら、どこかで隠れて見ているのかもしれない。
「……鏖殺寺院、だったの? あの時から……?」
 白水色の機晶姫は、空に視線を据えたまま、無感情な声で言った。
「……違います。さっきの発言は……貴女をからかっただけですよ。反応を見てみたかったんです。私が、寺院に自分から入るわけないじゃありませんか」
「じゃあ……」
「でも、私が寺院に入らされたのは、あれからすぐの事です。私は……あの日、寺院の襲撃を受けた時……寺院に拘束され、拉致されたんですよ。非武装機晶姫サイズM――試作モデル3号として、ね」
「え……?」
「貴女は知らないかもしれませんが、貴女は非武装機晶姫サイズS……」
「5号、よね……」
「……知っていましたか」
 ファーシーは頷き、かつて、機晶姫製造所の地下で知った事、見た事を説明した。その地下に存在する、巨大機晶姫についてまで。
「……そうですか。巨大機晶姫は壊れましたか……」
 今度は、ファーシーが聞く番だった。
「知ってた、の?」
「ええ。寺院の狙いは……あの巨大機晶姫、そして、あの機晶姫のプロトタイプであった私達でした。ただ、私は巨大機晶姫の在処を知りませんでしたから……喋りようがありませんでした。私が、自分が試作品だと知っているのは、寺院の連中がそう言っていたから。
 それから、私は連中に散々実験台にされました……。ずっとずっと……。研究者は、寿命が尽きる度に新しく変わりました。攻撃手段を持たぬ私は、抵抗する事も出来ずに、そのうち、感情も磨耗していったのです。寺院の研究者達は、5000年前当時の技術を、確実に後に残していきました。機晶石のデータの移植技術も身につけていたので、私は壊れることも出来ずに……言ったでしょう? 5000年間、私はずっと生き続けてきたのですよ。寺院に拘束され、ひたすら、実験をされながら。この身体も、石も、パーツも……見た目は同じでも、全てあの頃とは別物です。同じなのは、この精神だけ」
「そんな……」
 アクアへの実験は、永い時の間に趣旨を次々と変えていった。当初の目的はどこかへ消え、純粋な実験用機晶姫として、これまで――
「連中は、実験体を感情のある個体だとはみなしません。彼等には罪悪感という物が無い……山田太郎もそうだったでしょう?」
 自嘲気味にアクアは言う。乾いた風が、皆の間を通過していく。
「私がそんな生活を送っていたというのに……ろくりんピックで見た貴女は……幸せそうでした。聞けば、5000年間悠長に眠り続け、復活し……製造者と気持ちを確認しあった、と。これが、恨まずにいられますか? あの場で、拉致されるか壊れたか、たったそれだけの違いで、ここまで人生が変わってしまった……」
「では、そのベリルという名字は、一体……誰に名付けられたものなのです? 契約者の方がいたのではないのですか?」
 望の問いに、彼女は小さく首を振った。
「ロストを繰り返した機体など、実験には使えませんよ。純粋に、研究者と実験体という間柄です。この名字は、数ヶ月前に死んだ、最後の研究者が付けたものです。『3』という記号を持つ私が、アクアという名前を持っている……。3月の誕生石はアクアマリン、ベリル鉱石の一つ。この偶然に気付き、戯れに付けたのですよ。お前は記号だ、と。3番目という意味しかないのだと、強調したかったのでしょう」
「……そうでしょうか? その研究者の方が、そう仰られたのですか?」
「言わなくても、そんなものは日頃の言動で判りますよ。でも、彼は……もう死にました。シャンバラが東西に分かれた頃、混乱に乗じて私が殺しました。幸いなことに、彼は戦闘に特化した機晶姫を作ろうとしていたのです。
 何度傷ついても動くことが出来る、どれだけエネルギーを使い切ってもまだ戦える、戦闘用機晶姫を。
 幸いな事に、それから新たな研究者はやってきませんでした。寺院も、それどころではなくなったのでしょう。1人になった部署で……代わりに与えられたのが、お払い箱となった山田太郎達でした。
 ファーシー……私は、もう非武装型機晶姫ではありません。ただの戦争の道具の――中途半端なプロトタイプです」
「アクアさん……」
 ファーシーは辛そうな表情で、全身に力を込め、1歩、ずるっ、と足を動かした。
「わたしは……わたしに出来ることなら……なんでもするわ。ねえ、何をすればいい?」
 アクアは乾いた瞳をファーシーに向けた。そして――
「あははははははははっっ!」
 笑い始めた。
 長く長く、笑った。
「あはは……私は、貴女が憎くて憎くて堪りません。貴女を絶望の底にまで落とさないと気が済まないんですよっ。そう、貴女と親しい人間……その全てを殺し、不幸にしないと、私の気は晴れません。だから……バズーカでピノ・リージュンを攻撃しろと山田太郎に命令しました。2人が壊れる姿が、見たかったから!」
 笑いを収め、静かに言う。
「私はもう、狂っているんです。それで構わないと、思っています。私達が元の関係に戻れることなど、ありません」
「そんな……そんな事、無い……! わたし達は……」
「私はまた、貴女の大切な人達を殺したのですよ?」
 アクアは、首だけを持ち上げて、ファーシーに言う。
「チェリーに、ライナスとモーナを殺すように命令しました。もう何時間も前の話です」
「え……?」
 また、1歩歩こうとしていたファーシーの動きが、止まった。信じられない、というようにアクアを――そして、ガーマル・モフタンを見た。
「あなた、が……?」
「これから行っても間に合いませんよ……。あの2人は、死にます」

 アクアは首を戻し、空を見る。

「さて、この話を聞いた貴女は……貴方達は、どうしますか? 私の希望を叶えたいというのなら……
 素直に、死に……絶望に落ちてくれますか?」

 ――その頃。
「来ないのう、ファーシー……」
「そうですね……」
 シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は、キマクの入口の1つでファーシー達の到着を待っていた。一口にキマクと言っても、出入口は幾つもある。ファーシー一行が別の入口から町に入った為、彼女達は待ちぼうけを食らっていた。
 カラスが寂しく、あーほー、と鳴いて通り過ぎていく中――
 茶ニッカポッカが走ってきた。
「お頭、こんな所にいたんですかい。大変です! ファーシーさん達の入ったビルで激しい戦闘があって……今、何か話をしてるんすけど……どうにも雲行きが怪しいっす! 早く来てください!」
「何じゃとお!?」

 ――遅ればせながら、2人はテナントビルに走り出した。
 
 
 
 
 
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担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

この度も大幅に遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

そして! いつもこのマスターコメント欄に色々書いているのですがっ!
いらんことまで書いているのですがっ!

あああああああ、脳みそが昇天してしまっていてちょっと混乱中です。

後日マスターページに詳しい感想、次回への展望、アクションでここがこう変わった、等を記載したいと思います。(いつもは更新毎に削除してしまうのですが、こちらは次章ガイド公開まで、もしかしたら最終章あたりまで残しておきます)

また、個別コメントですが、大変申し訳ありませんが、今回、招待させていただいた方のみ、コメントをつけさせていただきました。本当に純粋に、招待の方のみです。
余裕ゼロパーセントでごめんなさい! 毎回、私信、メッセージ、ご意見等、ありがとうございます。また、ご機会があればまとめてお返事させていただきます。奇しくも今日はオフイベなので、お会いできた方には直接お伝えさせていただくかもしれません。……どうでした?(多分、これ公開されるのオフイベ後ですよね……)

それでは、ここまでお読みいただき、ありがとうございました!