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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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           未来に繋がる終

「あれ? 君は……?」
 研究所に着いて、最初に一行を出迎えたのは1人の機晶姫だった。薄茶色の、肩程まであるストレートヘアーに優しげな同色の瞳。下腹の部分が大きく膨らんでいる。
「まさか…………でも、そっか」
 驚きの後にモーナが柔らかく微笑むと、彼女は嬉しそうに笑って皆に場所を譲る。
「モーナ様ご一行ですね、ライナスさんがお待ちです」
 案内されて中に入ると、ライナスはスパナを手に、何かの部品をいじっていた。
「……来たか」
 彼は特に嫌そうな顔も見せなかった。むしろ、少し期待の篭った目をしている。脚の動かない機晶姫、そして彼女の助けになるかもしれないバズーカの存在は彼にとっても興味深いものなのかもしれない。
 ライナスの他に、同じ室内に、天然パーマの純朴そうな青年がいた。。出迎えてくれた機晶姫と同じような髪色だ。青年は一同に会釈した。
「ごぶさたしています、ライナス先生。あたしの事、覚えてますか?」
「ああ。随分と大人になったな」
「大人……」
 モーナは一瞬こめかみをぴくっとさせたが、すぐに表情を取り繕う。ここまで彼女を護衛してきた生徒達も、それぞれ挨拶をする。セシリアは早速、持ってきた食料を運びにかかった。
「ライナスさん、久しぶりだね。ごはん、ちゃんと食べてる?」
 メイベルとフィリッパに手伝ってもらい、両腕いっぱい、顔が少し埋まるくらいの食料を抱えて厨房に入る。以前にも使った厨房で、大体のことは分かる。
「あれ?」
 中に入って、セシリアは驚いた。埃が舞うような惨憺たる有様を想像していたのだが、存外に綺麗だったのである。冷蔵庫を開けてみても、食材がそれなりに入っている。
「なんだろう、明日あたり天気でも変わるかな……? って、そっか……多分、あの人が使ってるんだ」
 彼女は厨房から顔を出し、ライナス達を見る。
「本当に、遠い所を良く来たな」
 皆を見まわし、ライナスは言う。再会から自己紹介までが一通り済むと、アリヤが不思議そうな様子で彼に聞いた。
「えっと、このお2方は……?」
「この2人は、うちで暮らしているんだ。今、臨月で様子を見ている所でな」
 その答えに、皆がざわめく。
「機晶姫も、子供を作れるんですか?」
 一哉が尋ねると、ライナスは淡々とそれに答えた。
「全てではない。個体にもよるのだが、子を設けられる機晶姫もいるんだ。彼女は、それが可能だった。彼女の名はポーリア、彼はスバルだ」
「初めまして、スバルです」
「よろしくお願いします」
 2人は改めて挨拶をする。そこで、ライナスは言った。
「それで、件の機晶姫のデータと例のバズーカというのは?」
「あ、ファーシーさんのカルテはこちらになります」
 未沙は、持ってきたカルテを取り出した。そこには、ファーシーの機体を修復した時の状況からその時に気が付いた事までが事細かに書き込まれている。
「ファーシーさんが研究所に着いた時に、すぐに作業が始められるんじゃないかなと思ったんです。で、えと……」
 カルテを渡しながら、本格的に議論が始まる前に、と未沙は世間話ついでという感じで昼の食事時に出た話を彼に切り出した。
「ライナスさん、今度、また皆で強化パーツとか作ってみませんか? やっぱり皆で作ると楽しいし。新しい発見とかもあると思うんです」
「ん? ああ、あの時のような、か……」
「あたしからもお願いしたいな。ライナスさんが監督すれば、失敗した時にも対処できるだろうし、彼女達にとっても貴重な経験になりますよ」
 モーナと、そして真奈も、ライナスを見上げて言う。
「是非、お願いします。ライナス様。あの時は製作からテストまで、本当にお世話になりました。今も大切に使っています。よろしければ、メンテナンスをお願いしたいのですが」
 真奈がハウンドドックを出すと、彼はそれを受け取って矯めつ眇めつ確認した。
「……良く手入れされてるな。分かった。メンテナンスを請け負おう」
「ありがとうございます」
 ライナスは、改めてカルテをチェックし始める。難しい顔をして紙をめくっていき、1枚目に戻した所で未沙は言った。ファーシーの現状を彼に伝えるのは、自分の役目だ。
「ファーシーさんの身体自体はきちんと修復して、問題ない状態なのはこの目で確かめたし、エネルギーがきちんと通ってるっていうのは確認が取れています」
 未沙は、ファーシーの修理をする際にモーナの助手を務めていた。自分以上にファーシーの状態を正確に把握出来ているのはモーナくらいのものだろう。
「……面白いプログラムが組まれているな。誰かに攻撃意思を持った時に、行動にセーフティが掛かるようになっている」
「それは、俺が作ったプログラムだ」
 隼人も彼女達の輪に加わり、ライナスに言う。
「何か問題があるかな。彼女の脚が不自由なのは、このプログラムに原因があったりする可能性も捨てられないんじゃないかと思うんだが」
 ライナスは、暫く黙ってカルテを眺めていた。やがて、首を振る。
「いや、このプログラムに問題は見られない。そうだな、やはり……一定時間内に回路上を流れるエネルギーの絶対量が少ない。特に、脚の部分はそれが顕著だ」
「私はやっぱり、心……魂の問題なんだと思うんですけど」
 未沙は言う。
「魂に関わることだと、また何か特殊な機材が必要だったりしますか? もしそういったものがあるのなら、その所在地の調査はあたし達でやります」
 機材の他にも必要な部品とか工具とかその他諸々もあるだろう。準備期間は長くて悪い事はない。
「ああ……そうだな」
 ライナスはカルテから目を離して、彼女を見返した。
「心辺りが無いでもない。知り合いに、機晶姫について研究している者がいる。彼は、何らかの損傷やエネルギー不足が起きた時に対処する方法の開発に熱心だった。私も協力を請われ、何度か手伝ったことがある」
「ライナスさん以外に、機晶姫研究をしている方が?」
 まさかの3人目の登場か、とステラが少し驚いて聞いた。彼女は、先輩から直接知識を得られるこのなかなかに無い機会に、きっちり記録を取り学ぼうと会話内容を書き取っていた。
「機晶技師は数多く居るんだ。何も不思議ではないだろう」
 それはそうだが、技師から友人を紹介され、また友人――。これではどこかのともだちの輪のようにきりが無いような気がしないでもない。
「ただし、彼とはこの数ヶ月連絡がつかない。彼が任されていた研究施設も、今は無人でモンスターの棲家となっている。そうだな、ここから5キロくらい離れた所だ」
 ――ともだちの輪は切れたようだ。
「任されていた、というのは……」
 何かひっかかりを覚えたのか、モーナが聞く。
「ああ、彼は仕事の一環として機晶姫を研究していたんだ。私のような趣味ではなくな。そこで、親会社の方から中規模の施設を任されていた。だが、彼にヘルプを請われ、私も機晶姫の心とは何なのか、情報とエネルギー供給の関係について独自に調べていた。その時の記録なら、彼が話していたことも合わせて書きとめてある。……このノートだ」
 ライナスは本棚から1冊のノートを持ってきた。
「それ、見せてもらえますか?」
「勿論だ。皆で回して見ればいい」
 未沙はノートを受け取り、隼人と中身を確認していく。
「では、件のバズーカを見せてもらいたいのだが」
「ああ、はいはい」
「『はい』は1回」
「はい……」
「これを解析して、全てはそれからだろうな。……ふむ、これはポータラカ製だな」
「分かるの?」
「……分からないのか? 素材もフォルムも違うだろう。シャンバラでこういった形のものは使用していない」
「…………」
 バズーカの構成部分を指して言われ、モーナは黙り込んだ。ライナスの前では形無しのようだ。ライナスはバズーカの各部を熱心に確認していく。終いには1人で作業机に移動し、工具を手にかちゃかちゃといじりだした。研究者としての魂に火がついたようだ。
「……誰かそこのドライバーを取ってくれないか。規格外の……」
「あ、はいっ! これですか?」
 ステラがぶっといドライバーを持って、ライナスに渡す。それを受け取り、作業をしながら彼は言う。
「カルテから大体の事は判るから使えるかどうかの一応の判断も出来るが……やはりファーシー本人に会いたい。というか、何故本人を連れて来なかった?」
「何か、昔の友人に妙な手紙を貰ったらしくて……。話をしたいって、今日はキマクに向かったんです。その友人も、脚を直す方法に心当たりがあるということらしくて……」
「……それは、上手く出来すぎてないか?」
「やっぱり、そう思います? でも、その手紙にファーシーが触発されたからなんですよね、あたし達がこうして動いてるのも。それを考えると、大した偶然じゃないような気がするけど……。彼女を護衛するように依頼も出しましたし、大丈夫だと思います。今頃はもう、着いてるかな?」