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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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「なんだか、にぎやかですね……」
 その頃。翡翠とルイ、リア・リム(りあ・りむ)クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)の話もアクアの事へと発展しようとしていた。
「ファーシー様達とも、もう結構長い付き合いになるんですよね……」
 彼女達を前方に見る位置で、翡翠は半ばひとりごちる。
「僕達と一緒に、銅板に移った時に居合わせていたからな。もう、随分経ったような気がするのだ」
 リアが昔を思い返すように言う。
「そうですね、銅板時代からずっと見てきましたから」
 今まで、友達だと口にした事はないし、これからもきっと口に出して伝える事なんてしないのだろうけど。
「ファーシー様の足が動くかもしれないなら、是非見届けたい所ですよね。……これでも、結構ファーシー様やラス様の事を心配してるんですよ?」
「これでも、ですか?」
「いえ、よく枯れてるとか言われるので……」
 実年齢13歳、浅葱翡翠は苦笑した。
「私は、精々愚痴とか、他愛ない話を聞き届ける程度の間柄でいられれば、と思います。
 入れ込みすぎて盲目にならない様に、離れすぎて咄嗟に手を伸ばせなくならない様に、と」
 だから、今回の事も黒子の如く、静かにそっと最後まで見届けられればいいと思う。
「こんな友情の形も、1つ位は有りでしょう?」
「……有りだとは思うが、達観してるというか……何だか年寄りくさいのだ」
「…………」
 リアがそう感想を漏らすと、翡翠は少し肩を落とした。
「ああ、やっぱり……しくしく……」
 落ち込んでしまった。何気に凄く良いこと言ってるのに……。
「ところで、翡翠はアクアという者についてどう思うのだ?」
「アクア様、ですか……。ファーシー様が何を思ってキマクに行くのかは知りませんけれど……、流石に5000年前とか言われると胡散臭さ爆発ですよね」
「おや? 翡翠さんもそう思うのですか? 私としては、5000年前の友人が今の世になり生きていた事実にロマンを感じるのですが、リアも同じことを言っていました。ですから、少しばかり警戒もしているのですが……」
 ルイの言葉を受け、リアは言う。
「む……。どうにも都合が良すぎる。何にせよ、何か腑に落ちないのだ。アクアについてはファーシーが友人だと言っていただけで後は知らないが……」
 5000年の間、どう過ごしたか。封印等はされていたのか……、それによっては……、隠れ家というのも――
「思考にストップがかかって素直に頷けないのだ」
 そうして、リアも前方のファーシーに自然と目を向ける。
「ファーシー自身も、突然な友人の手紙に驚いていたらしいが、さて、アクアという同族の意図が知りたいな」
「そうですねえ……」
 そこで、クロセルが自身の考えを自信たっぷりに言った。
「直接診断せずに、いきなり『足が動くようになる機械がある』というのは、まったくのウソでなければ、相当な自信がある証拠でしょう」
「? 『機械がある』とはっきりとは書いてなかったぞ?」
「あれ? はて、そうでしたか? ま、まあ、直すというのだから機械を使うのでしょう。つまりは、そういうことです」
「うむ……。そうかもしれないが……」
 考え込むリアに、クロセルは単純明快な答えを出す。
「細かく考えても、結局のところは分かりませんよ。何、罠なら蹴散らせば良いのです!」
「…………」
 ぐぐっ、と拳を作って言う彼に3人は束の間ぽかんとし――やがて、それぞれに方針を決めたようだ。
「私は、ファーシー様が自身で選んだ決定を尊重しますが……相手が何を考えてるのか何も知らない以上、ある程度警戒しても損にはなりませんよね?」
「判りました、最後まで気を引き締めて望みましょう!」
 翡翠に続き、ルイも気合を入れなおす。
(ただ、いつもの陽気な自分を表に出して、裏で警戒をするというのは、言うは易しですが実行するとなると難しいですね……。本当に友人との感動の再会と足の復帰のみで済めば良いのですが)
 そして、ルイはいつも通りに明るいスマイルを浮かべて言った。
「アクアさんどんな方でしょうかね〜、私少し緊張します!」
「何にせよ、足が一時的にでも動いた事実は嬉しいのだ。でも、何がきっかけだろうか」
 話しながらファーシー達の方へと近付いていくと、ちょうどそこでは、衿栖がファーシーにその当時の事について質問していた。
「脚が動いた時のこと、詳しく聞いてみたいです。私はモーナからの依頼文で読んだだけなので」
「うん、あのね……」
 ファーシーは、街中で銃声を聞いて脚が反応した時の様子を衿栖達に説明した。
「……それはやはり、本来然るべきな反応が起こったと考えるべきだろうな。技術的に説明も出来るだろう」
「技術的、というと?」
 ダリルが興味を持ってレオンに訊く。施術は、無事に終わっていた。
「元々ファーシーの脚部には、動く為のエネルギーが溜まりつつあった。そこに、瞬間的な極度の緊張が発生し、脚は神経回路からの緊急警告を受け取った。自己防衛の為に、溜まりかけていたエネルギーを突発的に1箇所に集中させ、破壊阻止しようとした――とかな」
「つまり、機械的な部分が勝手に反応して動いたという事か?」
「人形師から見ての意見だ。神経回路というのは人形の糸、警告は私達の指というところか」
「そうかなあ……?」
 衿栖は首を傾げ、彼らに言う。
「人形に魂が宿ることだってあるんです。回路とか機械とかいう部分じゃなくて、もっと根元的な……感情に反応したのでは? 機晶姫にも感情はありますが、それよりも、私達に近い部分の感情……っていうのでしょうか。ファーシーが、ただの機晶姫からそうでない何かへ変わりかけているのかもしれません」
「ただの機晶姫からの変化、か……」
 ルカルカが考え込むような表情で言う。静麻も飛空艇を運転しながら、見解を述べる。
「機体から一度切り離されているし、そういう事も有り得るのかもしれないな。ファーシーは本当に感情が豊かだ」
(だとすれば……)
 衿栖は考える。
(彼女が望む望まないに関わらず、トラブルに巻き込まれていく可能性が高いかもしれないわ……)
「そろそろキマクも近いな……」
 静麻が言った。周囲の風景が変わり始めている。土ばかりの荒野から、所々に木々が見えるようになった。今通っている所は、岩山沿いだ。キマクまで、あと数キロという所だろう。とりあえず、道中は何事も無く済んだかと思ったが――
「お頭あ、その鳥、1人で食うんですかい? 俺達にも分けてくださいよう」
「ふん、こんな小さい鳥、分けたら食った気がしないだろうが。てめえらは鼠でも食ってろ」
「そんなあ〜、捕まえたのは俺達ですぜ!」
「それにしてもラッキーだったな。空京の近くを通りかかった途端に、こんな上物の鳥をゲットできるなんてよう! 毛もつやつやして、育ちが良さそうだ!」
 岩山の影からそんな会話が聞こえてくる。何だ、と思う間も無く――
「あっ!」
「「「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」」
 ファーシー達と彼らは鉢合わせた。お互いに間抜けな――ぽかんとした空気を共有し――
 蛮族達は一気に目を輝かせた。
「主様、こやつら、わらわ達から追い剥ぐつもりじゃ!」
 彼らの害意を敏感に感じ取り、アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)が叫ぶ。
「みたいだな。でも……」
 別の方向からものすごい殺気を感じ、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)は振り返った。赤羽 美央(あかばね・みお)が蛮族達に向け、静かで激しい怒りを燃え上がらせていた。彼等の中の1人がぶらさげている木製の小さな籠に、キバタンが入っている。
「あのキバタンは間違いないです。あの時のキバタンです……」
 何故判る……。まあ、エイムの時と同様に言っても詮無いことなのだろう。判るったら判るのだ。
「キバタンマニアなら大目に見るところでしたが……食べるなんて許せません! しかも、そんなに小さな籠に入れて! そのキバタ……モフタンを放すのです!」
 モフタン!?
 ファーシー達だけではなく、蛮族達もガーマルも一斉に内心でびっくりしてつっこんだ。
 しかしつっこんでいる場合では無い。
 魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)を纏った美央が襲い掛かってきた!
 て……どこのきゃらくえ?
 蛮族達、どうする!?
 じゃなくて……ファーシー達、どうする!?
「うおーーーーーーーー!!!!!」
「きゃああっ!」
 石で作った武器や刃物を振り上げて向かってくる蛮族に、ファーシーは悲鳴を上げる。紫音は彼女の前に立ち、魔銃モービッド・エンジェルと魔銃カルネイジを彼等に向け、攻撃の姿勢を取る。そして、蛮族達に宣言した。
「ファーシーには傷一つつけさせはしない!」
 途端、銃口から漆黒の弾丸が飛び出した。
 ルカルカも、飛空艇から飛び降りて蛮族達と対峙した。キバタンを持っている奴以外を則天去私で攻撃する。そして、神速で個人個人に近付き、足技を炸裂させた。
「……!」
 攻撃を食らった蛮族は悲鳴を上げる隙も無い。膝蹴りから踵落とし、後ろ回し蹴りなど多岐に渡る技を披露した。
 そう、まさにそれは、披露。
 観たファーシーが"歩きたいと強く願ってくれる"のが彼女の狙いだ。
 意思力は、治癒速度を上げるのだから。
「うわあ……」
 ファーシーは、目を丸くしてそれを見ていた。感嘆の声。
 魔道銃を両手に構えていたダリルは、ファーシーをちらりと見て、そして苦笑して腕を下げた。護衛としていればいい。下に降りて参戦するのは、流石に蛮族が気の毒だ。
(言葉ではなく、行動で魅せ刺激するのがルカらしいな。その足は凶器……だが、美しく機能的だ)

「やっぱり、戦力過多だと思ったんですよねえ……」
 蛮族達をけちょんけちょんにのした後、大地がやれやれという調子で言う。蛮族は這々の体で逃げていった。キバタンは美央が助け、森の中再びという感じでがしっとしてもふもふしていた。
「もふもふキバタン可愛いです……モフタンです……」
 キバタ……ガーマルは困っているようだ。助けてくれたことは嬉しいし、愛情も感じるのだが、背中もふもふはやめてください、という心境らしい。あの、僕、オスなんで……あの、ちょっと……という感じだろうか。
「ファーシーさんもぜひもふもふしてください。可愛いです。気持ちいいです」
 美央はガーマルをファーシーに差し出した。
「え? いいの?」
 気持ち良さそうだなあ……ともっふもふの様子を見ていたファーシーは嬉しそうにした。しかし、今の「いいの?」は我ながらキバタンに言ったのか美央に言ったのか謎であった。
「はい、どうぞ」
 美央はキバタンをファーシーの腕に止まらせる。両手を離してみても、意外なことに逃げなかった。その背中を、ファーシーは撫でてみる。キバタンはもうどこか諦め顔だ。
「うわあ……やわらかいわね……すべすべで、確かにもふもふだわ。特に首のあたりとか後頭部がふわふわ……」
「イマダケダカラネ」
「「「?」」」
 ファーシーと美央、装備されたままのサイレントスノー、そして皆がきょとんとする。
「今、誰か何か言った?」
「この子から聞こえたような気が……」
「チェリー、タスカッタ、タスカッタ、ゴメン、ゴメン」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
 皆が目を丸くしてキバタンに注目する。この鳥は、明らかに意味のある事を言っている。しかも、今、何気に重要な事を言ったような。運転席から静麻が問いかける。
「チェリーというのは……あのデパートの事件で、山田太郎の相方をやっていた実行犯か? 助かった、のか?」
「タスカッタ、ゴメン、ゴメン」
 キバタンは繰り返す。何故か信憑性がある。
「……そうか、助かったのか……」
 何かを考えるようにする静麻。キバタンは、ファーシーの腕から美央の肩に移動した。
「ガーマル、ガーマル、モフタン? モフタン!」
「? 何でしょう……この子はガーマルという名前なんでしょうか。でも、モフタンとも言いましたね……」
「ガーマル・モフタン、ナマエ、ナマエ」
「ガーマルが名前で、モフタンを名字にするということじゃないかと思いますわ〜」
「セイカイ、セイカイ」
 シーラが試しに言ってみると、ガーマル・モフタンはばさばさと羽ばたいた。そして、尤も重要な事を、言う。ちなみに、行空けしてからここまでに1062文字かかっているらしい。
「ライナス、モーナ、ネラワレル。ライナス、モーナ、ネラワレル」
「狙われる……?」
 その言葉に、ほのぼのとした雰囲気が引き締まる。ファーシーが訊いた。
「それって……機晶技師のライナスさんとモーナさんが誰かに狙われてるってこと?」
「ダイコウヤニイッテ、ツタエル」
「1人で、行けるの?」
「イケル、イケル、ツカマラナイ」
 捕まらなければ、行けるという事か。しかし、事実さっき捕まっていた。しかも蛮族に。
「ひとりで行かせるというのは危ないのではないか? しかし、急を要するようなら飛ばせるしかないが……」
「うーん……」
 考え込んでいる皆に、翡翠が言う。
「それなら、キマクに行ってからラス様に連絡してみればいいんじゃないですか? 電話が繋がった場合は、蒼空学園から大荒野に何とかして伝えてもらう。繋がらないようなら、この子を飛ばせましょう」