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モンスターの婚活!?

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モンスターの婚活!?
モンスターの婚活!? モンスターの婚活!?

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第3章 襲う者

 イルミンスールの森の一画に全身をスパイクなどで包み、血煙爪(ちぇーんそー)にトマホーク、アーミーショットガン等を手に、頭をモヒカンにした男たち――いわゆる「パラ実生」が10人ほど集まっていた。
 なぜ彼らが森にいるのか。その理由はハルピュイアの存在にある。ハルピュイアが半鳥半人で魅了の歌を使える、というのはすでに説明した通りだ。ではそんなハルピュイアをなぜパラ実生が狙っているのか。
 実はハルピュイアは人語を解せるが故に、主に貴族に代表されるような一部の好事家によって、愛玩動物として連れ去られてしまうことがしばしばあるのだ。今回集まったパラ実生たちは、そんな物好きな好事家に捕まえたハルピュイアを高値で売りつけようと考えていたのである。
「いくらほどになるかは知らんが、売ったらかなりの値段になること間違い無しだぜ……」
「なんせ服も着ない、おっぱい丸出しの美女ばっかりだしな」
「く〜! 高値で売るよりもむしろ俺が楽しみたいぜぇ!」
「おいこら抜け駆けするな! そいつは俺の役目だぞ!」
 金よりも下半身に欲望が集中しているような気もするが、それはさておき。
 パラ実生達のリーダーは、集まった者の中では最も頭が良く、ハルピュイアの生態についても多少は知っていた。つまり「魅了の歌は蜜蝋の耳栓でどうにかできる」という部分についてだ。
「地球、特に日本だとよぉ〜、使われてるロウソクは『パラフィン』でできている。神話なんかで出てくるロウソクは、大体が『蜜蝋』だ。相手が神話のモンスターなら、同じ神話で対抗するのが筋ってもんだ……」
 パラ実生のリーダーが淡々と語る。
「そしてここはパラミタ。ハルピュイアもパラミタにいるモンスター。だったらよぉ〜、ハルピュイアに対抗する方法もパラミタにあるってことよ!」
 おおっ、というどよめきがパラ実生たちの間で広まる。
「そしてこの俺は考えた。ハルピュイアの魅了の歌に対抗するための蜜蝋のロウソク。日本じゃ手に入らないなら、パラミタにはあるんじゃないか、ってなぁ〜」
 言いながら右手を突き出し、掌を上にして広げる。果たしてそこにはロウソクがあった。
「見つけたんだよぉ〜。蜜蝋製のロウソクをなぁ〜! パラミタのロウソクはほとんどが蜜蝋製だったんだぜぇ!」
「さっすがリーダー! もう天才じゃね!?」
「蜜蝋製のロウソク来た! これで勝つる!」
「わはははは! いいぞ、もっとほめてくれ!」
 パラ実生たちの賞賛の声にリーダーは胸を張る。
「だが、これだけじゃあまだ不安だ……」
 再び声を低くし、リーダーは淡々と説いていく。
「ハルピュイアはその筋にゃ有名だ。何しろ綺麗な歌声してやがるからなぁ。それにここはイルミンスールの森。イルミンスール魔法学校の生徒が『ハルピュイアを守る』とかぬかして、俺たちの邪魔をするかもしれねぇ……。もちろんイルミン生だけじゃあないだろうが」
 その言葉に全員が殺気立つ。俺たちの邪魔をするようなら、全員バラしてやるぜ……!
「奴らは強い。悔しいが、これは認めざるを得ない……。だがそこで俺はまた考えた。強い奴を相手にするなら弱い俺たちが戦う必要は無いんじゃないかってなぁ〜」
 今度は疑問がどよめきとなって現れた。確かに弱い者が戦ったら負けるのは当たり前だ。
「強い奴には、同じく強い奴をぶつけてやればいい! そして俺は苦心の末、なんと用心棒を雇うことに成功したのだ!」
「な、なんだってー!?」
「用心棒!? ボディーガードってやつか!?」
「その通りよ! というわけで先生! 今日はよろしくお願いいたしやす!!」
 そこで「先生」と呼ばれた者が姿を現した。報酬次第で敵にも味方にもなる、物心ついた頃から裏家業に手を染めた少女、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)である。
「うむ、任されよ。……ところで何で『先生』なんじゃ?」
「だって、時代劇で用心棒つったら、『先生』って呼ぶのが定番じゃあないっすか」
 世紀末に生きるモヒカンがどうして時代劇なんだ。そう刹那はツッコミを入れたくなったが、ここはひとまず我慢することにした。
「ち、ちょっと待ってくださいよリーダー。用心棒って言ったって、どう見ても子供なんです――が!?」
 刹那の年齢はわずか6歳。もちろん外見も実年齢相当だ。だが修羅場をくぐってきたその経験はおそらくこの中の誰よりも多いだろう。彼女の見た目を馬鹿にしたパラ実生は、一瞬の内に懐に飛び込まれ、その喉元にダガーを突きつけられていた。
「……これでどうじゃ?」
「お、オミソレシマシタ……」
 その早業にパラ実生の意気が上がった。
「す、すげえ! 一瞬、残像が見えたぜ!」
「こんな強い人が用心棒やってくれるなんて!」
「そしてそんな強い人を用心棒に雇えたリーダーってホントにすげえぜ!」
「うおおおお! リーダー! 俺、一生あんたについて行くぜぇ!」
「おお、お前たち! 一生面倒見てやるぞぉ!!」
 一体どこの根性モノのマンガだろうか。そんな光景を横目に刹那は表情を変えないままリーダーに宣言した。
「まあ受けた依頼は果たさせてもらおう。お前たちがハルピュイアなどというものをどうこうしようと、わらわには関係のないことじゃ。だが、報酬のことは忘れるなよ? もし忘れたら、その時はお前たちの命の方が無いと思え」
「わかってますって、先生!」
「うむ。ではわらわは、このまま単独行動をさせてもらおうかの」
「へ? 一緒に行かないんですかい?」
「わらわは軽業の方が得意なのでな。まあ隠れながらついて行かせてもらおう。見捨てたりはせんから安心せい」
 そういって刹那は早々と木の枝にその身を飛ばした。そのまま姿が見えなくなる。
「耳栓がある。用心棒もいる。さあこれで怖いものなしだ! ハルピュイア狩りの始まりだぜ!」
「すみません、少々お待ちいただけませんこと?」
 草を掻き分けて1人の少女がその場に姿を現した。明らかに品の良さそうな女だ。
「何だお前は?」
「わたくしはリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)と申します。なにやらハルピュイア退治のご相談をなさっているようにお見受けいたしましたが……」
「……それが何だってんだよ?」
 目の前に現れたこの女、まさか自分たちを邪魔しに来たのではないか。警戒の色を隠さずに、パラ実生たちはそれぞれの得物を構える。
「ああ、申し訳ございません。わたくしはあなた方と戦いに来たわけではありませんの。むしろお味方しに参ったのですわ」
「み、味方!?」
 この発言にはパラ実生たちもびっくりである。まるで百合園女学院に通っていそうな――実はリリィはパラ実生だ――この女が、一体何を理由に自分たちの味方をするというのか。
「ハルピュイアを退治しに行くのでしょう? 実はわたくしもハルピュイアには恨みがありまして。わたくしのパートナーと連絡がつかなくて、どうやらハルピュイアに捕まったらしく、それで懲らしめに行きたいのですわ。ああ、分け前とかはいりません。金銭目的ではないので」
「そ、そうなのか……」
 確かに味方は欲しいと思っているが、まさかこんな形で同行者が現れるとは思わなかった。パラ実生たちの間で動揺が広がる。味方につければそれなりに戦力は上がるが、もし罠だったとしたら……?
「リーダー、どうします、この女?」
 パラ実生の言葉にリーダーは決心を固めた。
「……連れて行こう」
「え、いいんですか!?」
「どうも話は嘘じゃないらしい。戦力が増えるのはありがたいことだ。それに、仮にこれが罠だったとしても、俺たちには『先生』がいるからな」
「そんな判断で大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
 きっぱりと言い切ったリーダーにより、全員の心は定まった。
「よし、そんじゃあ行くぜ! ハルピュイアどもを全員生け捕りだ!」
「ヒャッハー!」
 こうして彼らは、事前に調べておいたハルピュイアが集まる広場を目指し、今動き始めた。

「かあ〜っ! クソッ、マジにムカつく! クソッ、クソッ、クソッ!!」
 森の中で1人、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は大声で周囲の木に当たり散らしていた。
 なぜ彼がこのような行動をとっているのか。その理由は数分前にさかのぼる。
 ゲドーとパートナーのジェンド・レイノート(じぇんど・れいのーと)とイルミンスールの森を散歩していたところ、ジェンドがふと何かを見つけたことが発端である。
 ジェンドの見つけた「何か」とは、ハルピュイアの少女であった。年恰好はジェンドと同程度――つまり外見13歳程度で、その少女は1人で遊んでいるようだ。相手はモンスターだが、年が近ければ仲良くなれるかもしれない。そう考えたジェンドはゲドーから離れ、ハルピュイアの少女に近づいた。
「ねえねえ、君1人?」
「……ソウダケド?」
「ここで1人で遊んでても面白くないでしょ? よかったらボクと一緒に遊ばない?」
 ハルピュイアは目の前のヴァルキリーをまじまじと見つめる。見た感じ、自分とほぼ同い年のようだし、悪い人ではなさそうだ。そう判断した少女は、ヴァルキリーの提案を受け入れた。
「ウン、一緒ニ遊ブ」
「ボクはジェンド。よろしくね」
「コッチ、ツイテ来テ」
 言いながらハルピュイアはジェンドと共にどこかへ行こうとする。と、そこに当のジェンドを探していたゲドーが姿を見せた。
「おいおいジェンドちゃん、こんなところにいたのかよ。って、それ、ナニ?」
「今仲良くなったハルピュイアですよ、ゲドーさん。まあそんなわけなので、ちょっと遊びに行ってきますね〜」
「へ? あの、ちょっと? ジェンドちゃん?」
 探しに来たパートナーを放っておいて、ジェンドはハルピュイアとどこかに行ってしまった。そしてそのハルピュイアはゲドーの――そのいかにもバカな悪人であるとアピールしているかのような顔を見て、なんと鼻で笑い、そのまま去っていったのである。
「ジェンドちゃんがハルピュイアのガキとどっか行っちまったのもかなり腹が立つが、だが、それにしてもッ、許せねえのはその後だッ! あの鳥女、俺様の顔を見て鼻で笑いやがったッ! チクショウッ、許せねえッ!」
 そんなわけで彼は非常に怒り心頭なのである。
「あんの、鳥のガキ……。気に入らねえな。一辺とっちめてやるか……」
 そして彼も行動を開始した。ハルピュイアとジェンドが向かった先、同族が集まる広場へと足を進めたのである。