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カリペロニア・大総統の館ガーディアンオーディションの巻

リアクション公開中!

カリペロニア・大総統の館ガーディアンオーディションの巻

リアクション


 3階への階段をのぼりながら、戦闘での勝敗や、勝負そのものの盛り上がりなど、項目ごとにメモを取っていくダイソウ。

「ふむ。もっと楽かと思っていたが、審査員とは大変だな」

 しかしそのしんどい裏方をわざわざ買って出ている者もいる。
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)はやれやれと言った顔で、

「ま、予想はしてたけど、どーも締まらないわね。本気度は伝わってくるけど。こんなんで館守れるのかしら……」

 と、ダイソウと同じチェックシートを抱える。
 しかしダイソウに不安はない。

「大丈夫だ。普通なら2階ガーディアンはすぐやられるためのかませ犬。それなのに引き分けまで持ち込んだではないか」
「あのね。流ればっかり気にしてないで、あなたは勝つための布陣を考えなさいよ」

 メニエスは呆れてダイソウを見た後に、ふと思い出し、

「そうだ。ところであたしの部屋はどこになるのかしら?」

 と、大総統の館内に自分の部屋を要求する。
 ダイソウは不思議そうな顔をする。

「お前はネネの家の隣に小屋を作ったではないか」
「何言ってんの。あれは別荘。地下の温泉だってちょくちょく使いたいし、やっぱあたしの存在感は外せないと思うわ」

 メニエスは部屋の要求を押す。
 ダイソウは少し考え、

「ふむ。縄縛り部屋か……」

 と、メニエスの幹部名を考慮し始める。
 しかし幹部名が気に入らないメニエス。

「ちょっと! 幹部名に相応しい部屋なんて作んないでよ! ていうかそれいい加減やめてよ! せっかく忘れかけてたのに」

 と、いつものように自分の幹部名にクレームをつける。続けて、

「言っとくけどあなたの部屋の隣とかごめんだからね」

 と、要求に補足を加える。

「ほう、流行りのツンデレか」
「全っ然違うわ」
「まったく。お前は私とネネと、どっちが好きなのだ」

 ダイソウは、メニエスが二股を狙っているかのようないいがかりをつける。
 メニエスもイラッとして、

「何、気持ち悪いこと言ってんの」
「言っておくが、私は組織内にそういう感情は持ち込まないタイプだ」
「知らないわよ! どうでもいいわよ!」

 護衛と称して二人の会話を聞いていたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)
 彼女のディスティン商会は、最近すっかりダークサイズが上客となってしまった。商売上、当分の間ダイソウが倒されるのは困る。
 したがって、彼女は和泉 真奈(いずみ・まな)イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)を連れ、ダイソウの護衛と称して、ついでに彼の趣味趣向のリサーチという目的で参加している。

「なるほど、仕事場に恋愛は持ち込まない……っと」

 ミルディアは早速ダイソウの人柄をノートに記録している。

「まったくミルディ。悪の組織に近づくのは危険だと何度言ったら分かるのですか! ……と、言いたいところですが、この組織はどうも勝手が違うようですわね……」

 本来ダークサイズに関わることには反対の立場を取る真奈。しかし、オーディションでの勝負内容や敵対者がいるのに、どこか和気あいあいとした雰囲気に、考え方を変えつつある。
 しかも3階へと向かうのに、ダークサイズもその敵対者たちも一緒くたになって階段を上る。

「正義の戦士にしてみれば、この狭い通路は攻撃のチャンスだと思うのですが」

 と真奈は首をひねるが、これは受付でトマス達が「ルールルール」とうるさかったのが効いているらしい。
 そこにイシュタンが、

「そりゃーまー、ダイソウトウさんの威厳とか油断ならない雰囲気とかあるよねー。みんな隙を見つけられないんだよ」

 と、自分のことのように胸を張る。

「イシュタンもイシュタンですわ。ダークサイズはあくまで商売上のお客様。個人的に肩入れしてどうするのです」

 真奈はダイソウを気に入りつつあるイシュタンを叱る。
 ミルディアは真奈を押さえて、

「まあまあ。最上階でダイソウトウと直接対決狙ってる人が多いだろうから、きっとその時わかるよ。今はダイソウトウのニーズを掴むのが先決だよ!」

 と、念のため禁猟区を発動させながら、ダイソウの一挙手一投足を観察するのであった。


☆★☆★☆


 ようやく一同は3階に到着する。
 ダイソウは挑戦者たちに向き直り、

「ここは総帥のフロアだ。正義の戦士たちよ、ダークサイズのナンバー2を見事退けて見せよ! いでよ総帥、そして3階ガーディアン候補者達よ!」

 窓からの漏れ明かりから、フロアの明かりがパッとつけられる。
 そこにはダークサイズ総帥のハッチャンが、

「あ、どうもー」

 と立っている。
 しかし全員キョトンとした顔。それもそのはず、立っているのはハッチャン一人。

「あれハッチャン。ガーディアンたちはどうしたの?」
「……いません」
「え?」
「3階ガーディアンの応募者は、0です」
「……ええええー!!」

 何ということであろうか。大幹部クマチャンの2階でさえ、あれだけ応募者がいたのに、3階ガーディアンの応募者は一人もいなかったのである。
 ダイソウは慌ててトマスから受け取った資料を見返す。

「た、確かに……」
「あのー閣下。僕ちょっと泣いてきていいっすか……」

 と言いつつ、すでにひとしきり孤独を味わったようで、メガネの奥のハッチャンの目は少し赤い。

(か、かわいそうー!)

 ダークサイズも正義の戦士たちも、これにはさすがに同情を禁じ得ない。

「やれやれ。こういうこともあろうかと、やっぱりわらわがいて正解だったようね」

 3階フロアの奥からティナ・ホフマン(てぃな・ほふまん)がやってくる。
 何故か彼女はボロボロのジーンズを、ジッパーをギリギリまで下ろしてはき、上半身は裸に白衣を纏っている。

(また何かエロキャラ出てきた……)

 ティナはハッチャンの隣に来ると、何の前フリもなくいきなりハッチャンの腕に注射器を打つ。

「いてっ、ちょっと!」
「総帥。そなたは一人でこの3階を守らなきゃいけないわ。わらわがその手助けをしてあげる」
「だからって、これ何の……」

どくんっ……

 ハッチャンが口をつぐんだ直後、彼の鼓動が強く鳴り、瞳孔が開く。

「うぐっ、うぐおおおおおっ!!」

 直後、雄叫びを上げたかと思うと、彼の体が3倍ほどに膨れ、筋骨隆々の緑色のモンスターに姿を変えた。

「な、な、なんだとおー!!」

 驚愕する皆とは反対に、冷静に納得した顔のティナ。
 ダイソウは驚き半分喜び半分に、

「おお総帥。まるで超人ハル……超人ハッチャンではないか!」

 などと言ってる間に、モンスターと化したハッチャンは、突然一般見学者に向かって走り出す。

「きゃああっ!」
「まずい! 奴を止めろ!」

 その場にいた全員がはじかれたように飛び出す。
 見学者の引率をしていたニコが氷術で氷の壁を出現させ、超人ハッチャンがそれにぶつかる。

「うがああ!」

 しかし足止めもつかの間、太い両腕で氷壁を砕く。
 それでもその一瞬の隙に、クライスが飛び出して、

「ライトニングランス!」

 と、飛竜の槍を突き立てる。が、

「か、固い! 皮膚も強化されています!」

 驚いたクライスの油断を見逃さず、超人ハッチャンが彼をなぎ倒す。

「ぐわっ!」

 跳ね返されたクライスを飛び越えて、さらに小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が向かう。

「じゃあ私の打撃の出番だねっ! 君が泣くまで! 殴るのをやめなぁーいっ!!」

 美羽の連打が炸裂。超人ハッチャンがよろめく。
 その隙をついて巽も攻撃。

「どうせどうでもいい勝負ばっかりだと思ったら、あるじゃないですか、ガチバトル! おおおおおっ!」

 さらに永谷はスピアが効かないと知り、軍用バイクで体当たり。
 続いてエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、危機感と高揚感を同居させた目つきで、

「おのれダークサイズ。まさか本当に怪人を製造するとは! いいだろう! 4階攻略が目的だが、ウォーミングアップだ! パラテッカァァァ!!」

 と、必殺技を繰り出す。
 一方クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、

「ほおう! なるほど、近接戦闘も悪くありません。しかし俺の出番は満を持してでなければ。さあみなさん、がんばるのです!」

 と、何もしない。
 彼らのたたみかけで、ようやく超人ハッチャンは後ろに倒れこむ。そこに向日葵も便乗して、手持ちのブーメランで一発殴っとこうとすると、

がきんっ!

 2階で凹んでいたはずの悠が、それを大剣「フラガラッハ」で受け止める。

「あ、あれっ?」

 なぜか超人ハッチャンをかばった悠。向日葵が彼の顔を見ると、その目は怪しげな輝きを秘めている。

「アクハ……リョウダンスルッ!」

 向日葵をはじき返し、悠が向日葵に襲いかかり、それをクライスが受け止め、その隙に明日香と詩穂が向日葵を救いだす。

「ど、どうなってんだ!」
「なるほど。このような相乗効果が出るのだのう」

 ティナと一緒に様子を観察する、夜薙 綾香(やなぎ・あやか)アポクリファ・ヴェンディダード(あぽくりふぁ・う゛ぇんでぃだーど)
 綾香はダイソウに向かい、

「どうだダイソウトウ。私の魔術研究所の試作品だ」
「どういうことだ、マジカル★ナハト」

 ダイソウは綾香に幹部名で尋ねる。
 代わってアポクリファが説明を始める。

「これはぁ、マスターが作った『祝いの壁紙』ですよぅ」

 と、アポクリファが壁を指さす。今まで気づかなかったが、3階の壁には隙間なく赤い小さな文字で、「祝ってやる」とびっしり書き込まれている。

「ほんとはぁ、お祝いの言葉を無意識に刷りこんでぇ、精神と体調に影響を与える魔術的サブリミナルなんですけどぉ、ホフマン博士の怪人エキスとの合わせ技で、こぉゆぅ効果になってますぅ」

 ティナがハッチャンに打った注射は、彼女が地下で開発した怪人エキス。哀れハッチャンと隙を突いて捕えられた悠は、ティナの実験台にされてしまった。

「しかしエキスの効果の出方がまちまちだわ。特に大剣の彼の方は、正義にかける熱い気持ちが強烈に出てるみたい」

 超人ハッチャンと悠。誰かれ構わず攻撃を仕掛けるが、怪人同士の連帯感があるらしく、二人の連携攻撃に、正義の味方もダークサイズも手を焼く。

「リョウダンスルッ!」

 悠はダイソウに目を付け、切りかかる。

「いけない、上客が!」

 悠の一刀をミルディアがシールドで防ぎ、その隙に真奈のサンダーブラストが炸裂。悠がたじろぐ。

「よいしょぉー!」

 イシュタンが追い打ちに等活地獄を打ちこむが、このダメージを超人ハッチャンが受け止める。

「ひ、ひえー、すごいー」

 超人ハッチャンのタフさに驚くイシュタン。
 それを軽身功を利用して頭越しに飛び越え、超人ハッチャンのみぞおちに頭突きをくらわす一頭の山羊。
 密かにダイソウにずっと付いてまわっていたエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)は超人ハッチャンを退けると、すぐさま高峰 結和(たかみね・ゆうわ)とダイソウを背中に乗せ、悠もはねのけて4階への階段へダッシュする。

「お、やるねー山羊さん! お得意様を頼んだよ!」

 ミルディアが後ろから声をかける。
 悠は本能からか、悪の首領を追おうとするが、階段の前に桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が、ペンギン部隊を従えて立ちふさがる。

「そっちが試作品なら、こっちも実験だー。ダークサイズ主力部隊の座は渡さないよ!」

 円は調教したペンギンたちを悠にけしかける。なかなかすばしこく、悠の大剣をかいくぐりながら、何故かちくわでぺちぺち叩く。
 円は両手を腰に当て、

「どうだー! 操られてても正義の味方だよね? 丸腰のかわいーペンギンを斬り捨てるなんて、できるかなー? へいへーい。やれるもんならやってみなー♪」

 円の思惑通り、かよわいペンギンのちくわ攻撃を受け、悠は

「う……ぬうぅっ」

 と、頭を押さえる。が、執拗なぺちぺちに耐えきれず大剣を振り上げる。
 すると今度はオリヴィアが、

「おーっとぉ、弱者に暴力を振るうのかなぁー? 攻撃と暴力は別物だよねぇ? 法的にも傷害罪が適用できるよ? 正義の味方が前科持ちになるのかぁーい?」

 と、またしても正義のジレンマを攻撃する。円とオリヴィアは、

「へいへーい、びびってんよー」

 と、悠の苦悩を茶化したりして、見事にいやーな悪キャラであおりたてる。

「ぐ、ぐおおおおおっ!」

 限界に達した悠が、叫び声をあげて倒れる。
 一方、超人ハッチャン対正義の戦士とダークサイズ連合軍は一進一退。
 何故か超人ハッチャンが無駄に強い。

「よぉし、ここはやるしかないですぅ、向日葵さん!」

 明日香が向日葵の肩を叩く。

「え、何が?」
「詩穂も手伝う!」
「え?」

 明日香と詩穂は顔を見合わせ、向日葵に向かう。

「魔女っ子サンフラワーちゃんに変身よ!」
「だから、できないってばー!」
「大丈夫です! 私の予備があるのですぅ!」

 と、明日香と詩穂の二人がかりで、向日葵を魔法少女コスチュームに着替えさせる。

「魔法少女、メイドル☆きしゃら詩穂ちゃん!」
「同じく魔法少女、げーときーぱー明日香!」
「そして!」
「ま……魔女っ子サンフラワーちゃん……」

 この逼迫した状況に、完全に遊ばれている向日葵。しかし明日香と詩穂は本気だ。

「ここは三人の力を合わせるしかないのですぅ! さあ、私のマジカルステッキに手を当てて!」

 明日香が差し出したマジカルステッキに、詩穂と向日葵が手を添える。
 三人はステッキを超人ハッチャンに向け、

「いっけぇ〜! トライアングルぅ〜、シューティングスター☆彡!」

ゴゴゴゴッ!

 館の壁を突き破り、星のようなものが超人ハッチャンにぶつかる。トライアングルシューティングスター☆彡(普通のシューティングスター☆彡)が炸裂した。

「ぐわああああ……」

 ついに超人ハッチャンが倒れ、気を失った。

「やったぁ〜!」

 手をパチンと合わせる明日香と詩穂。それに付き合わされた向日葵は、

「あの、今のあたし要った……?」

 と、恥ずかしさを通り越してげんなりする。

「やっつけたのはいいけど……」
「あいつらの引き立て役になってないか……?」

 永谷や巽をはじめ、近接戦闘組は息をあげて微妙な顔をする。

「こらーーーーーっ!」

 と、また未沙が走ってくる。
 館の3階に大きな穴をあけてしまった明日香達はヒヤリとするが、モニターで監視していた未沙は、原因を作ったティナと綾香とアポクリファを叱りはじめる。
 とにかく結果として3階ガーディアンの超人ハッチャンを撃退し、

「御苦労さま♪」

 と、全然戦わなかった代わりに、サフィは全員にヒールをかけて回り、悠の救出にも成功した。


☆★☆★☆


「う〜ん……」

 ハッチャンが目を覚ますと、すでに皆4階に向かったらしく、人気はない。

「ええと、何がどうなったんでしょうか……」

 と、そこに美羽が歩み寄り、

「スタンプちょうだい」

 と、ゲストカードの裏面を差し出す。
 美羽は大総統の館を、ガーディアンを倒すよりスタンプを集めて攻略したい人。すでに2階のスタンプは押されてある。

「あ、スタンプね。ええと、わ! 服ぼろぼろ! あれ、何か体が変!!」

 倒されることによって暴走状態は解消されたが、ティナの怪人エキスの不完全さから、ハッチャンの体は完全には元に戻らず、2メートル強の大男サイズに落ち着いてしまった。
 美羽はさすがに何と言ってあげればいいか分からず、

「あの、きっといいことあるよ……」
「うわーん! ひでーよー!」

 3階に超人ハッチャンの嘆きがこだました。